『NEOGEO mini』を機に振り返る、超ド級ゲームマシンNEOGEOとは

  • 記事タイトル
    『NEOGEO mini』を機に振り返る、超ド級ゲームマシンNEOGEOとは
  • 公開日
    2018年07月20日
  • 記事番号
    444
  • ライター
    前田尋之

本サイトをご覧になっている方であればもはや説明も不要な話かと思うが、2018年7月24日、SNK(*01)から同ブランド設立40周年を記念して『NEOGEO mini(以下、ネオジオ ミニ)』が発売される。収録タイトルは40周年にちなんで40タイトル。いずれもNEOGEO(以下、ネオジオ)を代表とする人気作揃いである。

この発表は国内外からも反響が大きく、ネオジオというハードがいかにファンに愛されてきたかが伺える。そこで本稿では、『ネオジオ ミニ』の紹介と、ベースとなったネオジオの本体について解説していきたい。

「凄いゲームを、連れて帰ろう。」

ネオジオは1990年にエス・エヌ・ケイがリリースしたアーケード用および家庭用ゲームシステムの総称である。アーケード用のMVS(Multi Video System)とともに同性能の家庭用AES(Advanced Entertainment System)がリリースされ、アーケード用と家庭用のスペック差に大きく開きがあった1990年当時において、家庭用ゲームユーザーにとって「アーケードとまったく同じスペックのゲームが家庭で遊べる」という点は大きなメリットであった。ちなみに、家庭用ゲーム機としてのネオジオにAESという名称はほとんど使われず、単に「ネオジオ」と呼ばれることが多かった。一方でMVSは(家庭用ゲーム機としての)ネオジオに対する対義語として機能していた。

MVS(アーケード)は、家庭用とまったく同じスペックであったことから、逆に家庭用と同様のROMカートリッジ(ただし互換性はない)によるソフト供給方式が導入されていた。これは、オペレーター側にとっても家庭用ゲーム機並みの取り扱いやすさを享受できるというメリットをもたらしている。

さらに、MVSは基板がコンパクトな上に、1枚の基板に複数のROMカートリッジを同時に挿すことができ(しかも、個別にインカム集計が可能)、1台あたりの稼働率を上げることができる点も大きな特徴だった。「筐体が小型」「稼働率が高い」「取り扱いが簡単」というメリットは、ゲームセンターよりもショッピングセンターやビデオレンタル店などの小規模ゲームコーナーに歓迎された。しかも、それらの店の多くは、価格が高かったゆえに当初は一般販売がされていなかったAESのレンタルサービスも行っていた(※AESの一般発売は1991年以降)。

このビジネスモデルを、SNKは「凄いゲームを、連れて帰ろう。」というキャッチコピーとともに積極的にアピール。初期のCMキャラクターだった仮面の黒マント男「ゲーマント」を覚えている方もいるのではないだろうか。

▲レンタルを全面に押し出した初期のネオジオ広告(筆者所蔵)

MAX 330 MEGA PRO-GEAR SPEC

ハードウェアは、メインCPUに米モトローラ社の68000(*02)、サウンド用に米ザイログ社のZ80(*03)を搭載するという、当時のセガをはじめとしたアーケード用ゲームではわりとポピュラーな構成だった。家庭用ではセガのメガドライブでも採用されたものなので、耳にしたことのあるユーザーは多いかもしれない。一方で、グラフィック表示能力に関しては、色数6万5,536色中4,096色(16色パレット256本)、BG(背景)はなく、1画面中に380個(横方向に96個)まで表示できる16×512ドットのスプライトのみで表現するというもの。アクションゲームなどに特化した、やや割り切った仕様である

また、スコア表示などを目的とした、スクロール機能のないFIX画面をスプライトの手前に1画面持っている。起動画面のジングルに表示される「MAX 330 MEGA PRO-GEAR SPEC」はROMへのアクセス速度を表しており、「最大毎秒330メガビット」という意味であった。

サウンド機能はヤマハのYM2610(ADPCM7音+FM音源4音+SSG音源3音+ノイズ1音)(*04)を搭載しており、ADPCM用のROMとして4メガビット×2個を使用可能。

家庭用ゲーム機として、ゲームの途中経過を記録するためにメモリーカード(PCMCIA Type1)のスロットが設けられている。もっとも、継続プレイを前提としたゲームがほとんどなかったことから、これに関してはやや企画倒れな仕様であった。もっとも、のちの対戦格闘ゲームが継続プレイによる段位認定などの要素を導入したことを考えると、いささか早すぎた考え方といえるのかもしれない

対戦格闘ゲームブームで大躍進

▲『龍虎の拳』パンフレット(筆者所蔵)

アーケード同様のスペックを家庭用ゲーム機に持ち込み、当時の家庭用ゲーム機としてはあまりにも価格が高額となってしまったため、ネオジオでは、アーケード+レンタルというサービス形態が採用された。なにしろAES本体が5万8.000円、対応ソフト1本が3万円前後というシロモノで、さすがにこれではSNK自身もそれほど売れないのではと考えたのではないだろうか。事実、ネオジオが本格的にブレイクするのは『餓狼伝説』(1991年)をはじめとする対戦格闘ゲームヒット以降の話である。

『ストリートファイターⅡ』(1990年/カプコン)に端を発する1990年代の対戦格闘ゲームブームの勢いはすさまじく、前出の『餓狼伝説』のほか『龍虎の拳』(1992年)、『サムライスピリッツ』(1993年)、『ザ・キング・オブ・ファイターズ’94』(1994年)など、その後のロングランにつながる人気タイトルを続々とリリース。SNKはカプコンと並ぶ2D対戦格闘ゲームメーカーとなった。

これに伴って、文字通り「アーケードゲームがそのまま家庭で遊べる」というメリットが強力なセールスポイントとなり、当初もくろんだレンタル売上額を遥かに上回る成功をおさめた。独自のヒットタイトルに恵まれたからこその成功であり、「ゲーム機ビジネスの成否を決めるのは有力なソフトの存在」という法則に沿ったものといえる。加えて、それらのゲームを生み出せるほどに、ネオジオというハードのポテンシャル自体が高かったことも、勝因の一つにあったのではなかろうか。

家でも外でも遊びやすい配慮

▲左は『ネオジオ ミニ』本体、右はモデルになったMVS筐体

このように「ネオジオ」と一言で言っても、50インチプロジェクターの『NEO 50(*05)から汎用JAMMA筐体『NEO CANDY(*06)、家庭用のAESといった具合にさまざまな形態で展開されていただけに、『ネオジオ ミニ』発売のニュースを聞いてユーザーがイメージしたネオジオ像は、それぞれ異なっていたことだろう。

実際に発表された『ネオジオ ミニ』は、小規模ゲームコーナー向けの『SC19型-4(*07)をベースにしたデザインとなった。数あるネオジオハードのバリエーションの中であえてこれを選んだのは、まるで「小型でカートリッジを複数搭載できるMVSこそネオジオの原点だ!」という強い意志を感じるようなセレクトではないか。そもそも、収録ソフトが40タイトルからセレクトできるというくだりも、本来のMVSのコンセプトと合致しておりおもしろい。

▲『ネオジオ ミニ』コンパネ写真

今回発表された『ネオジオ ミニ』は高さが16センチ程度という小型サイズでありながら、3.5インチのカラー液晶と1レバー+4ボタン(セレクト、スタートボタンを含めると6ボタン)のコンパネを備えており、単体でゲームが遊べる環境となっている。電池ボックスやバッテリーなどは内蔵していないものの、USB Type Cからの給電(ACアダプターは市販品を使用)となるため、Type Cに対応したモバイルバッテリーさえ別途用意すればどこでも遊べるのはうれしい。

▲背面にはHDMI、ヘッドホン、電源用USB Type Cの各コネクターが並ぶ

一方、本格的に遊ぶには画面やコントローラーのサイズが心もとないというユーザーへの配慮として、HDMIでの映像出力1系統と外部コントローラー接続用のUSB Type Cコネクターが2系統設けられ、さらにネオジオCD用コントローラーのデザインを模した「NEOGEO mini PAD」も同時発売されることとなった。このあたりに関しては、2人で遊ぶことが実質的に必要となる対戦プレイにも対応した抜かりなさといえる。

▲ホワイトとブラックの2種類があるNEOGEO mini PAD

さらに、外で遊ぶときに周囲の迷惑にならないよう、ヘッドホン端子まで用意。その分価格は1万1,500円(税別)と、同種の復刻ゲーム機に比べてやや割高な設定となったが、こういった細かい点に妥協のない作りを目指している姿勢には好感が持てる。

SNKブランド40周年という節目の年に発売される『ネオジオ ミニ』。これを通じて、超ド級のゲームに憧れたあの日に思いを馳せてみてはいかがだろうか。

商品概要

・商品名:NEOGEO mini (ネオジオ ミニ)
・収録タイトル数:40タイトル
・液晶サイズ: 3.5インチ
・外形寸法/質量: W108mm×D135mm×H162mm/390g
・付属品:電源ケーブル(USB Type C)※ACアダブターは含まず
・接続端子:HDMI端子(TV出力用)、ヘッドホン端子、外部コントローラー端子×2
公式サイト

脚注

脚注
01 SNK : 2001年に倒産した株式会社エス・エヌ・ケイの知的財産権を譲り受けた現在の継承会社であり、ネオジオのブランドも同社が一元に管理している。
02 68000 : 米モトローラ社が1980年に発売した16ビットCPU。アップルの初代Macintoshのほか、シャープのパソコンX68000にも搭載されていた。
03 Z80 : 米ザイログ社が1976年に発売した8ビットCPU。MSXやPC-8001、PC-8801など、1980年代の8ビットホビーパソコンに搭載されていた。
04 YM2610 : ヤマハが開発した4オペレーター、ステレオ出力のFM音源チップ。ネオジオのほか、タイトーのF2システムにも搭載されていた。
05 NEO50 : 50インチプロジェクターを採用した大型汎用筐体。同クラスの製品にセガのメガロ50、コナミのドーミーシアター50などがある。
06 NEO CANDY : JAMMA規格に準拠した汎用アーケード筐体。25インチと29インチがある。
07 SC19型-4 : ネオジオMVSに対応した19インチの小型アップライト筐体。4本のゲームを可動させることができ、上部には4タイトル分のインストラクションカードを入れることができた。

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