「雑誌・攻略本・同人誌 ゲームの本」展スタッフインタビュー(前編)
北海道小樽市の市立小樽文学館にて、ゲーム雑誌や関連書籍の展示イベント「雑誌・攻略本・同人誌 ゲームの本」展が3月5日から開催されています。
本展は、ゲームソフトやハードではなく、ゲーム雑誌や攻略本、同人誌の展示を通じ、ゲーム文化の変遷を紹介するもの。会場内には、史上初とされるビデオゲームの攻略本「インベーダー攻略本」をはじめ、休刊となって久しい懐かしのゲーム雑誌や、今では滅多に見られない同人誌や関連書籍などが多数展示されています。
また、一部の本は自由に閲覧できるコーナーも用意されており、本が発行された当時を知らない世代でも、往時のメディアにはどんなことが書かれていたのかを楽しく学べるのもうれしいところです。
本展の企画者は、同じく昨年に2回に分けて小樽文学館で開催したゲームセンターの企画展「小樽・札幌ゲーセン物語展」に続き、またもやゲームを題材にしたユニークな企画展をなぜ開催しようと思ったのでしょうか?
本展を企画した藤井昌樹氏、北海道大学博物館学研究室に所属し学芸員の資格を持つ寺農織苑氏、展示物の大半を提供したゲーム本コレクターの山本耕平氏の3人にお話を伺いました。
膨大なゲーム本コレクションの数々に衝撃
―― 本日はお時間をいただき、ありがとうございます。まずは本展をなぜ開催しようと思ったのか、その動機から教えてください。
藤井:きっかけは2つあります。最初に、私が山本さんのコレクションを初めて拝見させていただいたときに衝撃を受けて、たくさんのコレクションを展示できないかという発想が出てきたことですね。ゲームの本の企画であれば、小樽文学館の展示にも合うだろうなと。
山本さんとは2年前に知り合い、去年にコレクションを見せていただいたのですが、本だけでなくファミコンソフトなども大量にお持ちだったので、とにかく衝撃でした。コレクションの数がものすごく多いので、以前の「ゲーセン物語展」よりも広いスペースを使って、皆さんにいろいろな本をお見せできたらいいなと思いました。
もうひとつのきっかけは、「ゲーセン物語展」のときにお会いした「札幌南無児村青年団」(*01)のサークル活動をされていたかたからお借りした同人誌を見たことですね。同人誌が発行されていた記録が残っていなかったこともあって、私もその存在を全然知らず、最初に拝見したときは驚きましたね。
ゲームの同人誌といえば、田尻智さんの「ゲームフリーク」などが有名ですが、それとほぼ同じ時期に、地元の北海道にあったサークルでもゲームの同人誌を発行していたのに、 このままではその存在が忘れ去られてしまうのではないか、同人誌も記録をする必要性があるのではと感じました。同人誌も本ですし、ぜひ展示したいなと思いました。
―― では、寺農さんはどのような経緯でスタッフとして参加されたのでしょうか?
藤井:寺農さんとは、「ゲーセン物語展」にご来場いただいたのがきっかけで知り合いまして、「ゲーセン物語2」では岸本好弘さんのトークイベント(*02)にもご参加いただいていました。
寺農:最初の「ゲーセン物語展」のときは別の所に住んでいたのですが、「2」の開催前に札幌に引っ越したんですよ。
藤井:そこで、今回もぜひお手伝いをお願いしようと思ってお声掛けをさせていただきました。
―― 今回の展示物の大半は、山本さんがお持ちのコレクションが中心という理解でよろしいですか?
山本:はい、そうです。
藤井:実は「ゲーセン物語展2」のときにも、展示物の一部を山本さんからご提供いただいていました。
―― ちなみに、今回の展示物は全部でいくつあるのでしょうか?
寺農:959点ですね。ただし、途中で入れ替えがありますので、常時すべての本を展示するわけではありません。
―― 今回の展示用に、山本さんはいくつぐらい本を提供されたのでしょうか?
山本:だいたい900点前後ですね。
―― 900点も! スゴい数のコレクションをお持ちですね……。
藤井:ほかにも、山本さんや私が持っていない同人誌などは、「ゲーセン物語展」のときにご協力をいただいた方々にもお願いして、いくつかお借りしています。
山本:同人誌は、今ではなかなか手に入らないんですよ。私はずっと市販の本ばかりを追い掛けてきて、同人誌を集め始めたのが遅かったこともありますので……。機会があれば同人誌もぜひ欲しいのですが、オークションサイトでもなかなか出てこないんです。今となっては、黎明期の情報は同人誌でないとわからないものがあったりしますので、同人誌の存在も貴重ではないかと思います。
―― 先ほど、私も会場を拝見させていただきましたが、同人誌をはじめ雑誌、攻略本などのジャンルやテーマをきれいに分けた、とても見やすいレイアウトになっていますね。
藤井:はい。すべてのゲームの本を網羅するところまではいかなかったのですが、うまくカテゴライズができてわかりやすい展示になったと思います。
―― 出版社やゲームメーカーから展示の許可を得るにあたり、何かご苦労などはありませんでしたか?
藤井:過去の展示と違って、ゲーム業界内ではアーカイブに対する認識が皆さんそれぞれ違っていたり、メーカーさんの間ではミュージアムでの展示に関する共通認識がなく、それぞれ対応が違っていたりしましたので、調整はかなり大変でしたね。
―― 展示物が古い場合は、特に倒産したメーカーのゲームソフトや関連書籍は、現時点で版権を持つ会社や団体を探すのが本当に大変ですよね……。
寺農:本来でしたら、権利がわからないものは文化庁の裁定制度を利用して展示をするところなのですが、今回は時間が足りなくて実施できませんでした。
藤井:今回は「ゲーセン物語展」よりも規模が大きい展示なのに、準備期間は「ゲーセン物語展」よりも短かったんですよ(苦笑)。我々3人と、もう1人の学芸員のかたにもご協力をいただいて準備を進めましたが、この規模だとさすがにそこまで手が回らなかったですね……。
地元の北海道以外からもさまざまな反応が
―― 本展の開催を最初に発表したときの、周囲の反応はいかがでしたか?
寺農:私は関西出身なので、関西のミュージアム関係者の知人が多いのですが、「会場には行けないけど、通販やってるし図録だけ買っとくわ」とか、「ほかのゲームが好きな学芸員がいるから言っとくわ」といった話をよく聞きますね。ミュージアムの観点からも斬新な展示のように思われていて、ほかの分野の人からも注目されている印象を受けます。ゲームに限った話ではありませんが、本や雑誌の展示をすると文学系、近現代史の人たちがよく興味を持つんですよ。
山本:Twitterで、いろいろなコレクターのかたに紹介していただきました。ほとんどのかたが北海道以外にお住まいなのですが反応がとても良くて、図録や会場内に掲示する解説を書くときにもご協力をいただいたりして、すごく応援してくださいました。コレクターの中で特に大御所のかたにも、「今度、こういう展示をやりますので、この件について教えてください」って図々しく質問させていただいたりもしたのですが「素晴らしい展示ですね」と、すごく好意的だったので本当にありがたかったですね。
藤井:私も個人でTwitterの反応を見ていましたが、出版社よりもゲーム業界関係者の反応が多かったですね。以前に開催した「ゲーセン物語展」にお越しいただいたかたからも、引き続きご期待をいただけています。
※筆者注:本インタビューは、開催初日の3月5日に実施しました。
―― 今、図録のお話がありましたが、こちらはどなたが作成を担当されたのでしょうか?
寺農:図録のデザインやレイアウトは、主に私が担当しました。
藤井:図録は通販もできるようにしましたので、SNS上でも「読みたい!」という反応が結構ありますね。北海道まで来られないかたでも、図録で今回の展示を楽しめますので、今日の時点でもう10件以上も問い合わせがありました。
寺農:通販は昨日の段階で、すでに8件の問い合わせがあったらしいですよ(笑)。
―― 山本さんは、来場者への解説もご担当されるそうですね。
山本:はい。期間中に展示内容を2回変更するのですが、その都度皆さんに1時間程度、展示の解説を行います。
―― 山本さんの解説は、ライブまたはアーカイブ配信する予定はありますか?
藤井:いいえ、配信は行いません。また解説をご希望のかたには、感染対策のため事前に電話での予約をお願いしています。
―― 本展のチラシを見ますと、「第4章:キーワード展示」のコーナーでは、第1期のキーワードが「海外雑誌」と「同人誌」、第2期が「読者投稿」と「裏ワザ」、第3期が「学年別学習雑誌」と「付録」と書いてあります。ところで、第2期の展示リストには「DAMEST(ダーメスト)」(*03)もリストアップされていて、かなりマニアックな印象を受けました。この展示内容を決めたのはどなたですか?
藤井:チラシに載せようと決めたのは寺農さんで、展示の内容そのものは私が考えました。
山本:よりによってコレを出すのかと(笑)。
寺農:私のほうでレイアウトを決めるときに、それぞれ何か目玉になるものが欲しいと思ったので選びました。チラシを作っている最中は、どれを展示するのかがまだ固まっていなかったのですが、図録に掲載する本を20点ほど撮影しながら「どれにしようかな?」と考えていたら、絶対みんな知らないであろう「ダーメスト」を表に出して、「何か「ゲーメスト」と関係があるのかな?」と思わせておこうと思い付きました。ただそれだけのことで、ほかに意図は特にありません(笑)。
―― 第2期のキーワードにもあるように、「第4章」には読者投稿コーナーがあった雑誌を多く展示している印象を受けました。
寺農:はい。仰るとおりですね。
藤井:「ゲーセン物語展」と同様に、特にインターネットがなかった時代の展示を見ていただきたい思いがありました。今だったらSNSを使えばすぐに済むけれど、昔はそれがなかったので、いろいろな雑誌に読者投稿コーナーがあったことを見てほしいなあと。
紙媒体だけの時代は、基本的には一方通行なのですが、投稿コーナーでは読者とメディアとのやり取りがあったことや、投稿から掲載までの間に1か月とか、かなりの時間がかかったことも、今とは全然異なりますよね。「ゲーセン物語展」とは、同じゲームを題材にした展示でも違いがあることを、会場でぜひ見ていただきたいです。
以上、前編はここまでです。
次回の後編ではゲームの本を通じ、ご当地である北海道の地域性や、ナラティブ体験を楽しめるようにどんな工夫をこらしたのか? 本展に込めたお三方の情熱やこだわりをお伝えします。
どうぞお楽しみに!
「雑誌・攻略本・同人誌 ゲームの本」展
・会場:市立小樽文学館
・開催期間:2022年3月5日(土)~4月24日(日)
・入場料:一般300円、高校生・市内在住の70歳以上150円(※中学生以下、障害者は無料)
・参考リンク:小樽文学館 ミニ企画展「雑誌・攻略本・同人誌 ゲームの本」展のページ
http://otarubungakusha.com/yakata/exhibition
脚注
↑01 | 「札幌南無児村青年団」:かつて、札幌そごう内にあったゲームコーナーの常連たちによって結成されたサークルで、「おーるらうんど」など数々の同人誌を発行していた。本展の図録「ゲームの本」に、元代表の荒木聡氏が当時の証言を寄稿している。 |
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↑02 | 岸本好弘さんのトークイベント:2021年8月17日にYouTubeで配信された、元ナムコのプログラマー岸本好弘氏が出演した「いま、ビデオゲームのアーカイブ活動がおもしろい」のこと。現在でも視聴可能。 https://www.youtube.com/watch?v=dxmgCqM-_Zc |
↑03 | 「DAMEST(ダーメスト)」:アーケードゲーム雑誌「GAMEST(ゲーメスト)」の付録(※1997年8.30/9.15合併号の創刊200号記念付録)、および本誌に掲載されたパロディ企画のこと。人気ゲームや、本誌のレギュラーコーナーをネタにしたギャグが満載。 |