見城こうじのアケアカ千夜一夜
目次
第4夜『ボンジャック』(1984年・テーカン)
個性的な空中制御操作が光るゲーム
『ボンジャック』は独特なジャンプ操作を駆使してフィールド内の爆弾を回収していく固定画面タイプのアクションゲームです。
ボタンを押すと高く飛び上がり、もう一度押すと上昇がストップします。空中で連打すると、ある程度その高さを維持したまま左右に移動することができます。他に類を見ない操作で、最初はこの空中制御にかなり戸惑うのですが、慣れてくるとまさにクセになります。
ディレクター曰く、オリジンはWilliams『ジャウスト』
『ボンジャック』の企画を担当された上田和敏さんは、このアイデアの元となったゲームは米Williams社の『ジャウスト(Joust)』だと語られています。『ジャウスト』は任天堂もオマージュともいうべき『バルーンファイト』(ハル研時代の岩田聡さんも開発に参加)を作られているなど、日本の複数の開発者に強い影響を与えたようです。
おもしろいのが、『ジャウスト』のシステムをかなり近い形で流用している『バルーンファイト』に対し、『ボンジャック』はアイデアのきっかけにしているだけで、遊びとしてはまったく異なったものになっていることです。
ちなみに『ボンジャック』の4年後には、日本の「ゲームスタジオ」社が、同じく米国のゲームである『メジャーハボック(Major Havoc』を一部翻案したともいえる『カイの冒険』という製品を世に送り出しています(販売はナムコ)。
『ジャウスト』と『メジャーハボック』に共通する要素は、慣性と重力を利用した“浮遊感”です。当時の日本のゲームにはあまりない感覚でした。これは日米どちらのゲームが上ということではなく、純粋に発想のセンス・方向性が違っていたのだと思います。
この時期、ゲームセンターへ行くと、設置されているゲームの多くは日本製で、アメリカのゲームもよく輸入されてはいましたが、多く出回る製品は限られてました。そんな中で目ざとい開発者は、テスト的に輸入されたゲームがあると聞くたび店舗に足を運び、自分たちにはないセンスを吸収していました。また、ロケーション(ゲームセンター)の運営とゲーム開発の両方を行なっている会社の場合、いったん社屋に搬入された製品を開発スタッフがいち早くプレイして研究するようなこともありました。
『ボンジャック』にしても『カイの冒険』にしても、そうした視点を持つクリエイターの手によって生まれたわけです。
すべてのフィーチャーは爆弾に通ず
『ボンジャック』の操作感のユニークさについてはここまでに語ったとおりですが、その先の深みを語るとすれば、これはもう「点火済みの爆弾を取ると得をするルール」に尽きます。
これがなければ、コクも何もないゲームになっていたかもしれません。というのも、これがすべてのフィーチャーの起点となるよう、綿密にゲームがデザインされているからです
順に解説すると、まずゲームを長く遊ぶために重要な「エクストラコイン」という1UPアイテムがあるのですが、これは原則として敵を規定の数だけ倒すごとに出現します。敵を倒すには、無敵で体当たり攻撃ができる「パワーボール」を出現させる必要があります。パワーボールは爆弾を取った数で出現するのですが、その際、点火済みの爆弾はカウンターが2倍進みやすくなっています(数が2倍で計算される)。
では、点火とは何かというと、ラウンドが始まった時点ではどの爆弾も点火されておらず、どれでもよいので一つ爆弾を取ると、別の爆弾が一つ点火します。その点火した爆弾を取ると、またどれか一つが点火し、これが繰り返されます。点火してない爆弾を取った場合、新たな点火は発生しません。つまりラウンドスタート時を除き、常に一つだけ点火された状態になっているわけです。また、点火の順番は決まっていて、ある程度連続的に取りやすい配置に設計されています。
この仕組みを踏まえて、パワーボールをできるだけ短い周期で出現させる→敵をたくさん倒す(同時に得点も稼ぐ)→エクストラコインをたくさん出現させる、という効率的なループを作っていくわけです。
また、これとは別に、得点倍率がアップする「ボーナスコイン」があり、これは原則として得点が5,000点行くごとに出現します。前述のとおり、得点を早く伸ばすにはパワーボールを早く出して敵をたくさん倒すことに尽きるので、やはり点火済みの爆弾をしっかり取っていくことが求められます。
さらに、「そのラウンドで獲得した点火済みの爆弾の数」が規定数を超えると、数に応じてラウンドクリアボーナスが入ります。
……このように高得点を出すためのすべての技が、指定順に爆弾を取ることとリンクしているのです。
ターゲットを指定された順番で取ることで得をする、というフィーチャーはこの時期のゲームに散見されます。たとえば『マッピー』が有名ですね。
このルールはうまく作らないと面倒くさい遊びになってしまう危険もあるのですが、『ボンジャック』においてはとてもうまく働いているように思います。それはここまで述べてきたとおり、他のフィーチャーとうまくつながっていて思わず狙いたくなる遊びであることと、自由に空を飛べるゲームで障害物も少なく、フィールドがコンパクトな固定画面型であることに起因すると考えられます。
運がよければ1ゲームサービスも
このゲームにはエクストラコインだけでなく、1ゲームがサービスされる「スペシャルコイン」なるフィーチャーも存在します。あくまで乱数で、運がよければ出るというものです。先のさまざまなフィーチャーが互いに連関する仕様もそうなのですが、これはピンボールゲームによく見られた要素です。企画者の上田氏はピンボールゲームが好きだったそうで、その影響は同氏の他の作品『レディバグ』『Mr.Do!』にも見ることができます。
では、また次回。
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