見城こうじのアケアカ千夜一夜

  • 記事タイトル
    見城こうじのアケアカ千夜一夜
  • 公開日
    2023年12月22日
  • 記事番号
    10517
  • ライター
    見城 こうじ

第15夜『グラディウス』(1985年・KONAMI)

さまざまな画期的要素を携えた傑作シューティング

1985年にKONAMIから発売された『グラディウス』は、ゲーム史上、時計の針を一気に進めたような画期的な製品でした。この数年前に生まれた『ゼビウス』もそういう印象がありましたが、それと同じぐらい斬新な作品だったかもしれません。

ゲージ型のパワーアップシステム、レーザー攻撃、オプション、それまでのゲームとは大きく異なる各ステージの攻略性、今なおゲームファンの耳に焼き付くそのサウンド――。この4年前に同社からリリースされた『スクランブル』の発展形でありながら、そうしたレベルでは語り切れない神がかり的なゲームでした。

パワーアップの順序を自由に選べるシステム

まず画期的だったのが、ゲージ型のパワーアップシステムです。

さまざまなパワーアップ(装備)メニューが書かれたゲージが画面に表示されていて、カプセルを取るたびに選択ゲージが切り替わっていくので、自分が強化したいメニューのところでボタンを押すと、その箇所が装備なり強化なりされます。パワーアップの順番を自分で自由に選べるのです。同時には装備できない武器もあり、ちょっとしたカスタマイズ感もあります。

このゲームでは、ショット、ミサイル、そしてパワーアップの3ボタンを使います。当時、アーケードでボタンを3つも使うゲームはあまりありませんでした(皆無ということではないです)。

アメリカ製のゲームであれば『ディフェンダー』などが有名でしたが、ボタンを多く使うゲームは複雑という認識が一般的でした。

その上、リアルタイムで進行するゲーム中に、ゲージの状況を見てボタンで選ぶなんて、当時の感覚としてはかなり高度な遊びだったと思います。ところが、これがヒットしたわけです。

ハードルの低いゲームとは言い難いのですが、ついてこられる層がいれば、こんな高度なゲーム性を持つ商品も成り立つのだということを、まざまざと見せつけた作品だったように思います。

レーザー攻撃で敵をなぎ倒していく快感

また当時驚いたのが、あの長いレーザーです。オプションを装備することで、ほぼ画面全域をカバーし、ザコ敵をなぎ倒していく、その圧倒的なビジュアル。この攻撃力の高さでゲームが成り立つことにとても衝撃を受けました。

画面全域をカバーする派手な攻撃といえば、この前年に『ギャプラス』がありました。ただ、『ギャプラス』の場合は、自機に連なる友軍(敵の寝返りですけど)にもやられ判定があって、パワーアップしても割とあっという間に削られてしまいます。

それに対して『グラディウス』のオプションにはやられ判定がない。こちらが一方的に有利なんです。うまくやれば常にこの状態をキープできる。

これだけ自分が強いと、ゲームデザイン的には(敵弾の物量に加え)耐久力の高い敵を出すことでバランスをとることを考えてもよさそうですが、『グラディウス』の場合、必ずしも硬い敵を多く出すわけではなく、地形効果の妙でバランスをとっています。

『グラディウス』のショットは高い攻撃力を持っていますが、障害物は貫通できません。だから、オプションをうまく配置することで、障害物の向こう側に攻撃を飛ばすことが重要なテクニックになります。

スクロールで背景が流れることで、配置しておいたオプションが山(障害物)を越えて、その陰にいる敵に弾を当てることができるなんて、強制スクロールならではの戦術ですよね。

また、敵は前方だけでなく後方からも出現します。それも下からも上からもやってきます。『グラディウス』の高い攻撃力をもってしても、これらを出現と同時に撃破することは簡単ではありません。うまい具合に死角が作られているわけです。

自機が複製されるオプションという概念

オプションと似たような概念、つまり自機が増えたり護衛がつくようなゲームは『グラディウス』以前にいくつも存在します。

その一つが先ほども例に出した『ギャプラス』、そして『ギャラガ』です。ただ、これらは本体がどのように移動しても、その位置関係は固定されています。

これを、自機の移動経路をトレースする形にしたのが、『ツインビー』の「分身」です。ただ、『ツインビー』の分身は本体が動きを止めるとそこへ向かって収束し、最終的に重なってしまいます。フォーメーションを固定することができない。やはり『グラディウス』とは違います。

ぼくが思い出せる範囲で、『グラディウス』以前でこれにもっとも似た使いかたができるのは、セガの『スタージャッカー』かもしれません。ただ、これも厳密なトレース型ではありませんし、オプションに相当する機体との間隔ももっとずっと狭く、プレイの実感としては『ギャラガ』に近いようにも思います。

そう考えていくと、『グラディウス』のオプションは、相当画期的だったのではないでしょうか。とくに戦術面の自由度が高いという点で、大変優れた仕様だったと思います。

『グラディウス』は“様式美”を感じさせるゲーム?

『グラディウス』を改めて見ると、とくにシリーズの1作目ということもあってか、作りがユニークすぎて「え、これでいいの?」と思うような箇所がたくさんあります。

たとえば、ステージ1のボス前の火山で、オプションやレーザーを噴火口付近に配置して、本体はその後方や上方に避けておけばほぼ攻撃をふせげる。アクションゲームなのに、けっこうな時間、何もせずに見ているだけで突破できてしまう。

パワーアップしてないとできない行為ではあるのですが、ここまでにこの装備をそろえておくのは難しいことではなく、技としての難易度は別段高くない。制作側としては当然、想定済みの攻略だとは思うのですが、じつに思い切った作りです。

それから、ボスが弱い(ラスボスではなくビッグコア)。これに関しても、スタッフがテストプレイして簡単だということは明確にわかっていたと思うんです。読みやすい単純な動きで、基本は毎ステージ同じ。それでも毎回出す。

ボスについては続編の『グラディウスII』では一気に豊富になりましたが、当時は1作目をプレイしていて「単調だなあ」なんてまったく思いませんでしたし、それこそ今遊んでも感じません。

ビッグコアの位置づけに関しては、基本が毎回同じということと、ゲームの区切りとして小気味よく進む感じが『スターフォース』のエリアターゲットにもちょっと近いかもしれませんね。

あと、ステージ5がとてもユニークで、終始、多関節の細胞と戦い続けるだけで、ほぼ展開というものがありません。たったこれだけの内容で1つのステージとして定義して、しっかり“もたせている”のが、今見るとじつにおもしろい。

他にも、各ステージの冒頭に、パワーアップさせるためのザコ編隊が次々出現し、カプセルをどんどん放出してくれるシーンがありますが、『グラディウス』にはこうした手続き的なシーンを作業に感じさせない心地よさがあるように思います。様式美を楽しむとでもいうのでしょうか。何度遊んでも飽きない不思議なゲームです。

では、また次回。

©Konami Digital Entertainment
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