見城こうじのアケアカ千夜一夜
目次
第19夜『ダライアス』(1986年・タイトー)
3画面モニターの専用筐体で遊ぶ横スクロール2Dシューティング
『ダライアス』は1986年にタイトーから発表されたシューティングゲームです。1980年代を代表する横スクロールシューティングとして高く評価されており、その後も続編がリリースされています。
深い闇に向かって覗き込むようなハーフミラーによる3画面モニター、低音スピーカー内蔵のシート、重低音のステレオサウンド、まさにその世界にダイブしていくような感覚がありました。大型の専用筐体による2Dの横スクロールシューティング自体がきわめて珍しい存在だったこともあり、その独特の雰囲気は他に類を見ないものでした。
ゲームとしては毎ステージのコース分岐や、水棲生物がモチーフの巨大戦艦ボスなどが大きな特徴となっており、ステージは宇宙洞窟、山岳地帯、海底基地など全部で7種類。エンディングはコースごとに異なるものが用意されています。
プレイヤーのミサイル、ボム、シールドは、各カプセルを取得することで多段階にパワーアップします。とくにミサイルの最終段階はウェーブと呼ばれる状態になり、障害物を貫通できるようになります。
なお、このゲームにはOLD、NEW、EXTRAの3バージョンが存在しますが、アーケードアーカイブス版にはすべて収録されています。
A HUGE BATTLESHIP FATTY GLUTTON-G IS APPROACHING FAST.
ぼくはうまいプレイヤーではありませんでしたが、それでも当時がんばって全ボスを1コイン(1クレジット)クリアしました。
各ステージでボス戦が始まる直前には、WARNING音とともにボスの名前が表示され、プレイヤーの気分を盛り上げてくれます。その演出の抜群のインパクトたるや。
ボスのネーミングも、ピラニアが「ファッティグラトン(=太った大食漢)」、イソギンチャクが「エレクトリックファン(=扇風機 ※形状が似てる)」など、シャレが利いています。
今でもステージ4のボス・ファッティグラトンとの戦いは強く記憶に残っています。最終的にミサイルを最強ウェーブまで強化するために、ここは途中段階のレーザーになるのですが、レーザーは上下のレンジが狭く連射も利かないため、強い武器とはいえず、中盤の山場になるのです。ホントにここが一番胃が痛くなるところかもしれません。負けたらほとんど放心状態です。
そして、最終ボスの中でもとくにグリーンコロナタス戦。当時、自分の実力でよくクリアできたと思います。グリーンコロナタスは、おそらくこのゲーム最強の敵です。通称“三日月避け”なる技が有名で、ぼくもこの技を使ってクリアしたと思います。三日月避けは雑誌『ゲーメスト』で石井ぜんじさんが命名された攻略法で、敵弾をかわす軌道が三日月型だったことがその由来です。
取り戻しの利かないシビアなパワーアップシステム
パワーアップの仕組みが変わっていて、ミサイル、ボム、シールドそれぞれカプセルを1個取るごとに強化されるのですが、8個取った時点で形態や効果が大きく変化するという特徴があります。ミサイルがレーザーそしてウェーブに変化するといった具合です。
変化すればその後はミスをしてもその形態が維持されるのですが、変化前にミスしてしまうと、そこまでに貯めたカプセルがすべて帳消しとなり、その形態の初期段階まで戻されてしまうのです。たとえば、あと一息でミサイルからレーザーに切り替わるところまで進んでいたのが、大きく後退するわけです。
ミスをして装備がパワーダウンするのは当たり前だと思われるかもしれませんが、『ダライアス』はパワーアップの段階がとても多いので、ミスしてエリアが戻されてしまうことや、カプセルをいくつも取り逃すことは致命傷に近く、もう最後までほぼ遅れが取り戻せない。
原則としてノーミスで進むことが前提の、とても厳しいゲームなのです。
横に長い! 3画面モニターから生まれる独自のゲーム性
個人的な印象ですが、『ダライアス』のゲームシステム、および敵やマップギミックに注目した場合、当時そこまでの新規性はないように感じました。
『グラディウス』の斬新なパワーアップシステム、レーザー、オプション、『R-TYPE』のフォース、巨大戦艦、計算され尽くしたマップギミック、『ファンタジーゾーン』のショップシステム、突飛で意外性に満ちたボス群などを見たあとだったので、比較してそう感じたのだと思います。
にもかかわらず、それらの名作シューティングの中でも、ぼくは『ダライアス』のプレイがもっとも心に残っています。血がたぎるような熱い記憶が刻まれています。
理由の1点目は、3画面モニターによるゲーム性のユニークさです。左右の視界が(上下方向に比して)あれほど広いゲームは『ダライアス』をおいて他にありません。
だから敵の左右方向の動きがとても速い。前方からかなりの速度で突っ込んできてもゲームが成り立つ。独特の感覚です。縦方向と横方向のアンバランスさが、他にないプレイ感を生み出しています。
そして、サイズが1画面分近くある巨大ボスが、画面内に全身収まった状態でのド迫力バトル。3画面あるからこそ成り立つレイアウトです。
ここでもう一点重要なのが、3画面あるので自機が取り得るポジションの選択肢が広いということです。状況に応じてグッと前に出たり、後方に下がったり、じつにダイナミックなプレイができるわけです。少なくとも当時において、解像度やアスペクト比の点で、1モニターでこのような遊びを作ることは難しかったと思います。
もちろん家庭用に移植されているとおり、左右を圧縮すれば、理屈としては近似のゲーム性が再現できますし、実際に過去の移植版もとてもよくできた楽しめるゲームになっています。ただ、当然ですが、体感としてまったく同じものではないんですね。
理由の2点目として、これはかなり個人的な話になりますが、『ダライアス』が非ループゲームだったこともあるように思います。
『グラディウス』も『ファンタジーゾーン』もループゲームです。『R-TYPE』にしても全2周型のゲームでした。名だたるプレイヤーが何ループもプレイして、あげく1千万点達成している中で、何とか1周できる程度の腕だと、遊び手としてなかなか“俺のゲーム”という感覚が持てなかった気がします。
『ダライアス』はこの時期主流になり始めていた非ループ型ゲームだったので、エンディングまで行ければ、(スコアアタックを気にすればキリがないにせよ)かなり大きな達成感が得られました。ループ型ゲームだと、下手すると1周してやっと「さあ、ここからが本番だ!」なんて感覚だったりもしますからね。
理由の3点目は、先にも書きましたが、やはりあの大型専用筐体です。横スクロールシューティングをこんな絢爛豪華な環境で遊べるというその一点において、『ダライアス』はほとんど唯一無二のシリーズです。
改めて『ダライアス』を見ると、たとえばボス登場時や、ステージクリア時のコース選択までの流れなど、間の取りかたが贅沢で、かなり尺を取ってしっかり演出されています。
この高級感は、このゲームが汎用筐体に組み込む基板売りのゲームではなく、大型筐体専用の製品であったことから来ているものだったのかもしれません。
……うまく説明できたかわからないのですが、このように『ダライアス』には表層的なゲームシステムを超えて深いところに根差した、比類のないプレイ感・手触り感があると思うんです。
ただ、横スクロールシューティングが、コアなゲーマー層が飛びつきやすいジャンルということもあり、大型筐体ゲームとしては早期に1コイン当たりの平均プレイ時間がかなり長くなり、また2人同時プレイ可能にもかかわらず、多くのプレイヤーが1人で遊んでいました。
このゲームのバージョンが何度も変わったのは、その苦しみと試行錯誤の顕れだったようにも感じます(もちろん純粋にゲームバランスを調整することで、より楽しんでもらおうという意図も大きかったと思いますが)。
ある種、皮肉めいた話ではあるのですが、そのことにより結果的にプレイヤーはさまざまな『ダライアス』をプレイすることになりました。現代ではリリース後のバージョンアップは当たり前のことですが、当時としてはそこまで多いことではありませんでした。プレイヤーは傑作『ダライアス』において、バージョンの変遷をリアルタイムで見ながらゲームを楽しむ貴重な体験ができた、ということも言えるのかもしれません。
最後に、今回この記事を書くにあたって、本ゲームにくわしいライター石井ぜんじさんにいろいろお聞きして参考にさせていただきました。その中でバージョンの違いについて興味深いご回答をいただいたので、ご本人承諾の上で、その部分を掲載させていただきます。
質問 これは純粋に石井さんの感想・見解をお聞きしたいのですが、当時OLD、NEW、EXTRAと3つもバージョンが作られたことで、『ダライアス』はより楽しめた(よいことだった)と思われますか(いろんな『ダライアス』が楽しめ、かつご自身もEXTRAバージョンの調整に参加されて最終版にできたなどの意味で)? それともプレイヤーとして何度もバランスが変わって翻弄されて、あまりよいことではなかったと思われますか?
石井 旧バージョンが新バージョンに変わったのは、本来あるべきではないのですが仕方ないのかなと。旧バージョンをやり込んでいたプレイヤーからすると攻略が変わってしまいますが、新バージョンは単純に難度が下がっているので、一般プレイヤーから見ればウェルカムだったと思います。
エキストラバージョンについては、当時スコアラーやマニアからは不評でした。その最大の理由は、これまでのバージョンができなくなり、ハイスコアを極められなくなるからです。
またエキストラバージョンは残機が得点になるため、ラストボスの残機潰し稼ぎの意味がありません。そのため道中の白玉(得点アイテム)の点数勝負になりますが、この白玉の得点は完全にランダムです。回数をプレイするしかなく、その意味でスコアラーとしては、稼ぎの面白みが大幅に減ったと言えます。(残機潰しはプレイ時間が長いので問題なのですが)
しかし一部のマニアやスコアラー以外の人にとっては、エキストラバージョンはおおむね好評であり、成功したと言えると思います。これまでと違う敵配置、ボスによっては攻撃パターンの違い(わずかですが)があることで、新鮮さを感じてもらえたと思います。
総合してみれば、短期間の(工数が少ない)調整でインカムが戻ったはずで、エキストラバージョンは成功したと言えるのではないかと思っています。
※これは余談ですが、エキストラバージョンの狙いとして、敵配置と難度を変えることで、それまでの定番ルート(最も楽なルート)とは違う地形のルートを選んでもらうというのがありました。これができればより新鮮な、新しいバージョンとして楽しんでもらえると思ったからです。
当時のプレイヤーは、系統図マップの下方向のルートに進むのが一般的でした。そのため上のルートは易しく、下のルートを難しくしたつもりだったのですが、下ルートは自分が思ったほど難しくなく、上ルートは僕の調整後に敵が付け足されたため、結局上ルートの難度が上がってしまっています。結果としてルート選択はあまり変わらなかったです。これは意図通りにいかず、ちょっと残念でしたね。(以上、石井さんのコメントより)
それではまた次回。
協力:石井ぜんじ様
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