見城こうじのアケアカ千夜一夜

  • 記事タイトル
    見城こうじのアケアカ千夜一夜
  • 公開日
    2024年12月25日
  • 記事番号
    12252
  • ライター
    見城 こうじ

第32夜『ドルアーガの塔』(1984年・ナムコ)

全60フロアの塔に挑み、世界の平和を取り戻せ!

『ドルアーガの塔』は、囚われの身となった巫女のカイを救い、平和のシンボルであるブルークリスタルロッドを天上界にもどすため、王子ギルが悪魔ドルアーガに挑むゲームです。

ゲームは全60フロア構成。4方向レバー1ボタンでギルを操作し、鍵を拾って出口へ向かうという一見シンプルなルールですが、高度なアクション性と宝箱の出現方法などの謎解き要素で、当時のゲームファンに大きな衝撃を与えました。

メーカーの公式資料などで補足されていた部分もありますが、ゲーム内でその世界観とストーリー性が見事に表現されていたことも特筆すべき点です。

とくに終盤のフロアになると、物語の終局に向かって必要なアイテムや重要なキャラクターが次々登場し、最終フロアで3本のクリスタルロッドを並べることで結末を迎える展開は圧巻です(ラスボスが最終フロアではないのです)。

『ドルアーガの塔』が史上初のエンディングのあるゲームというわけではないのですが、優れたゲーム性と物語を華麗に融合させた作品として、当時多くのプレイヤーの心を打ったのです。

敵との複雑な攻防を4方向レバー1ボタンで実現

改めてプレイして思うのは、この多彩なアクションを4方向レバー1ボタンで実現していることのすごさです。

剣と盾を使うゲームであれば、それぞれ1つずつボタンを割り当てたくなるところですが、『ドルアーガの塔』ではこれらを1ボタンで扱います。

ボタンを押していない状態では、正面に向けて盾を構えているので、前方からの呪文などの一部の攻撃は自動的にふせぐことができます。そして、ボタンをホールドすると剣を突き出した状態になり、敵と戦うことができます。その際、盾は無効なのかといえばそうではなく、向かって左側面に対しては防御が有効なのです。剣は右手で構え、盾は左手で持っているからです。じつにロジカルな操作システムです。

他にも、壁を壊すことのできるマトックにも専用のボタンはありません。壁に向かって静止した状態でボタンを押すことで使用できるのです。うっかり操作ミスしそうな仕様ですが、慣れればまず誤爆することはありません(絶対にないとはいえませんが、あってもあわてて操作した自分のミスだと納得できます)。

ギルは宝箱を入手することで、新たな能力が付与されるなどして強くなっていきます。こうした目に見えにくいさまざまな能力が変化・上昇していくことは、当時のアーケードゲームにおいて画期的でした。

スピード感のある展開と、それを支えた精密な操作性

アクション性について秀逸な点を挙げていくと本当にたくさんあるのですが、たとえば複数の敵が呪文を放ってきたときに、ギルは迷路のグリッドの中間地点(すき間とでもいうか)に逃げ込んでかわすことができます。ビジュアルでいうと柱と柱の間になります。

ここで感嘆すべきは、この時代にして「出現と同時に高速で放たれるマジシャンの呪文を、数ドットのすき間に素早く逃げ込んでかわすアクション」が成立する操作性の精密さ、レスポンスのよさです。

これはこのゲームのあらゆるアクションにいえることであり、『ドルアーガの塔』のおもしろさは、このデリケートな操作性があって初めて成り立つものです。

『ドルアーガの塔』といえば、謎解きの斬新さに注目が集まることが多く、そこが非凡であったことは事実ですが、当時としては破格の完成度のアクションこそが、ゲームを土台から支えていたのです。

スライム、マジシャン、ナイト等々、際立つ種族ごとの異質さ

敵の個性づけもとても手が込んでいます。スライムは1ブロック単位で移動と停止を繰り返す、マジシャンはテレポート出現のみで徒歩による移動は一切しない、ナイトは等速で歩いている等々、種族ごとに移動や攻撃のリズムがまったく異なっています。こうした独特のリズムも『ドルアーガの塔』の個性であり大きな魅力です。

同種族内のランクの違いもおもしろくて、たとえばマジシャンの攻撃技であるスペルは、最初に登場するメイジの場合、壁に到達すると消滅するのですが、より上位の敵になると、一定時間残るファイヤーエレメントで邪魔をする→壁を壊す→壁をすり抜ける、というように技の性格が大きく変化していき、都度プレイヤー側も対応法を変えることが求められます。

また、スライムやマジシャンは一撃で倒すことができますが、ナイトにはヒットポイントの概念があり、ギルが重なることで斬り合います。

敵のヒットポイントの概念自体は、もちろんそれ以前のアーケードゲームにもありましたが、『ドルアーガの塔』で新鮮だったのは、敵と重なってもプレイヤー側が即死するとは限らず、そこで体力の削り合いが発生する点です。

『ドルアーガの塔』以前にもこのようなアクションゲームが存在したのか、寡聞にしてぼくは知らない(思い出せない)のですが、何か他にもあったでしょうか?

『ドルアーガの塔』の魅力は「謎解き(宝箱)」と「アクション性」の掛け算

ぼくは長い間『ドルアーガの塔』の魅力とは、「謎解き」と「アクション性」の2大要素の足し算で成り立っているものだと思っていました。

しかし、当時から深く遊び込んでいたプレイヤーからすれば、何を今さらと思われてしまうでしょうけれど、今回遊び直して改めて感じたのは、『ドルアーガの塔』はこの2つの要素の掛け算でおもしろくなっているということです。

謎解き自体は1度解いてしまったら原則としてそこで終わるものです(もちろん、そこまでも魅力的な遊びですが)。

でも、『ドルアーガの塔』は、謎が解明されたのちも、決して低難度とはいえないアクションをこなし、できるだけ上手にプレイしていくところに大きな楽しさがあります。極力少ないコンティニュー回数でクリアできればなおよしです。

実際のところ、当時『ドルアーガの塔』を遊んでいたプレイヤーの多くは、自身ですべての謎解きをしたわけではなく、既に他の人たちによって解明された情報を元に楽しんでいたと思います。

これはいわば「課題要素」「条件付きクリア」「実績解除」のようなミッション制の遊びかたです。

フロアごとにまったく異なる宝箱の出現条件があり、それらを満たすにはいろいろ遠回りをしたり、難しいタイミングで操作したりと、多面的に頭を使いながら効率性の高いアクションに挑戦しなければなりません。鍵や扉の位置などのランダム要素もあって、毎ゲーム同じようにうまく行くとも限りません。

元々完成度が高いアクションの魅力を、宝箱の存在がより際立たせてくれているわけです。もしもこのゲームに多彩な宝箱の課題がなければ、ずいぶん単調なゲームになっていたと思います。

これが「謎解き(そして宝箱を出すという行為)」と「アクション性」の2つが、掛け算でおもしろさを生み出しているということの意味です。おかげで『ドルアーガの塔』は何度遊んでも楽しいゲームに仕上がっているのです。

では、また次回。

THE TOWER OF DRUAGA™& ©Bandai Namco Entertainment Inc.
Arcade Archives Series Produced by HAMSTER Corporation

 

『ドルアーガの塔』40周年の記念企画にゲーム文化保存研究所もご協力しております。
以下に、三本のコラムを掲載させていただきました。
https://shop.asobistore.jp/feature/pacman_officialstore/topics/vgc/

・今も忘れることのできない衝撃的なロケテスト(手塚 一郎)
・ドルアーガ攻略に捧げた熱い暑い夏休み(大堀 康祐)
・「ドルアーガの塔」の革新性と歴史的意義(市川 幹人)

ぜひお読みください。

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