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第5回:Jaws of Lion/獅子のあぎと
~「野郎ども、出撃だ!」傭兵稼業はクセになる~
皆さんは、この4年以上、ボードゲーマーのあいだで評価首位のゲームをご存じだろうか? その名も『Gloomhaven グルームヘイヴン』。ゲーム名は舞台名称でもあり、何百年も前に9つの種族よって創建された、《逢魔ヶ港》とも訳される異世界の港町。
プレイヤーたちは流れ流れてこの街にやってきた荒くれ者だが、同じ傭兵団に所属して仲間となり、協力しながらシナリオやダンジョンをクリアしていく。
ミッションをこなすたび、ホームともいえる酒場兼宿屋《獅子のあぎと》亭に戻り、どんちゃん騒ぎをしたり装備を整えたり旅の疲れを癒したりして、次なる依頼を待つ。
成長要素もあり、RPGに極めてよく似た没入感の高いボードゲームだ。
http://www.arclight.co.jp/ag/home/home02/pages/seki.html
14歳以上、2~4人、各シナリオ30~120分。
ただこの基本セット、購入時の重量は10kgほどで、定価も3万円。
だが開けて準備を始めると、その重厚さに納得する。
開始時に使用できるキャラクターは6種類。
上の画像、左から人間のならず者スカウンダレル、クワトリルのメカ屋ティンカラー、鉱石人オーキッドの魔術師スペルウィーヴァー、角の野人アイノックスの戦士ブルート、岩石魔人サヴァスのクラグハート、ネズミ人ヴァームリングの念術師マインドシーフ。どれも一筋縄ではいかない、つわものだ。
だが未開封の新キャラが、ボックス内に更に11種も眠っている。
シナリオは基本で95本。キャラ種ごとにソロシナリオ1本ずつで17本。他にもネットで50本もの公式シナリオがダウンロードできる!
解明篇と銘打たれた拡張セット『Forgotten Circles/忘れられし輪』もあり、本編をクリアした猛者に、この世の真実を解明させるための22本のシナリオと、新キャラ1名などがついてくる。
各シナリオのマップは同梱の地形タイルを組み合わせて作成し、そこに障害物や罠や敵や宝を配置して、いざ開始!
1人でも十分楽しめるが、わいわい会話を楽しむなら3~4人をお勧めする。ひとりのときは2キャラ以上を操り、シナリオの難易度を1レベル上げて突入だ。
コンポーネントが多く複雑そうに見えるが(まあ否定しないが)、それでも基本ルールは極めて簡単。毎ラウンド手札から2枚選ぶだけなのである。
「いやいや、また、ご冗談でしょ!」とおっしゃる輩がいかに多いか……。
緑一色さんの『グルームヘイヴン』体験漫画をごらんなさいな。
https://epub-tw.com/45819/
ぼくはこの漫画では、ネズミ人のマインドシーフのネジレンを演じております。
もっとくわしく知りたいというかたのために、本家の公開ルールのリンクも一応貼っておきますぞ(A4で52ページですが大丈夫?)。
https://arclightgames.jp/specialcontents/gloomhaven/CPHGH01JP_Rule_Book.pdf
登場、スタートセット! 虎穴に入らざれば虎子を得ず!!
それでも簡単にできるわけないと疑いの眼差しのあなたのために、満を持して発売されたのが、スタートセットと謳われた表題の『Jaws of Lion/獅子のあぎと』なのである。
拡張だった『忘れられし輪』とは異なり、基本セットなしで、これだけで遊べる独立型という優れものだ。
8,000円の箱の中には、夢と希望とともに、新キャラ4種類、シナリオ25本などが詰まっている。
何よりも素晴らしいのが、そのうち最初の5本がチュートリアルになっていて、遊びながら自然にルールを学べるようになっていること。
そのサポートとして、タイルの組み合わせではなく、付属の本を開くだけでダンジョン・マップができてしまうのである! まあ、何てお手軽なんでしょう。
下の漫画の4人組たる《獅子のあぎと》傭兵団をフィーチャーし、メインシナリオは失踪人を探すという捜査風な味付けであった。
実際ぼく自身、ゲーム文化保存研究所の面々とご一緒し、3シナリオ目まで無事クリアすることができた。ギャラリー含め、大の大人がきゃっきゃと楽しめた午後のひと時であった。
質実剛健でタフな電子版! 舐めたら怪我するぜ
……と、ここまでは、至れり尽くせりの紙版の話であった。
実は去る5月17日、電子版『Jaws of Lion/獅子のあぎと』がリリースされている。
https://store.steampowered.com/app/1809490/Gloomhaven__Jaws_of_the_Lion/
紙版の丸々移植を期待していたのだが、実際触ってみたところ、そうではなかった。新キャラ4名と、シナリオ25本、また『獅子のあぎと』特有の珍しいアイテムが少し加わっている。そこまでは同じだが、だいぶ違うところがある。一番重要なのは「独立型ではなく、チュートリアルでもない」というところ。基本アプリ『Gloomhaven グルームヘイヴン』の完全アドオンである。
試しに導入シナリオ「Roadside Ambush/道端の襲撃」をやってみたが、紙版とは敵の数も行動も異なり、部屋の仕掛けもあり、油断するとあっという間にパーティが崩壊するガチの難易度に引き上げられていた。ひええええっ(後で軽くルール説明とともにレポートしよう)。
というわけで、今購入するなら基本セットとのバンドル一択であろう。
とはいえ、さすがに2年も開発してきた電子ゲーム。
『獅子のあぎと』の移植を待たなくとも、実は基本ゲームに、元々チュートリアルはついているのである。
電子版での流れ
購入してインストールして起動したら、当然のことながらメニュー画面になる。
チュートリアル以外にいろんな設定タブがあるが、プレイの根幹は上から2つの「ギルドマスター」モードと「キャンペーン」である。
どちらもクリックすると「新規」「継続」「ダウンロード」が選べ、また「獅子のあぎと」アドオンを一緒に購入していれば、それを組みこむボタン「DLC」もある。組みこまなければ基本の6キャラ、組み込めばプラス4人で最初から10キャラを使用できる。
下の画像がグルームヘイヴンの拡大図。『獅子のあぎと』のシナリオ用であり「City Quest」とある。
紙版では基本セットと『獅子のあぎと』は別ゲームだったが、電子版では合体した同じ大きなパーティで、どっち側のシナリオでもどの順番でもどのキャラでもプレイ可能となっている。
まずはキャラクターを作ろう。
少なくとも2キャラいないとパーティが組めないため冒険には出られないが、シナリオごとに特性があるので、常に最善の組み合わせを試せるよう、10キャラ全部作ってしまおう。
ゲーム中、個人情報に記載されている条件をすべて満たしたら、そのキャラは満足して足を洗い、引退してしまう(ぼくらは祈りをこめて「卒業」と呼んでいる)。その代わりに街の繁栄度が上がり、新たなキャラ・クラスや見たことのないアイテムが解放される。
各キャラの個人目標は、ノートや表計算ソフトで管理し、いつでも確認できるようにしよう。ちなみに上の画面中央はクワトリル(機械いじり小人)のデモリショニスト(解体屋)。
全員30ゴールド持っているので、忘れずに商人からアイテムを購入しよう。キャラ特性を上手く活かせる買い物はよい。たとえば手札上限はキャラによって違うので、それが奇数なら、このように「Minor Stamina Potion/体力増強薬(小)」を購入すべきである。
そして冒険に出るためのパーティを組もう。作成した10名のうちから、ミッションごとに2~4名でパーティを組める。
あなたひとりでプレイするなら、通常は2名が無難だ。キャラが増えればその分だけ敵もプレイ時間も増える。操作するキャラのシナジーが大事で、2名操るだけでも脳汁だだ洩れでヘトヘトになるので、ひとりで3名も4名も操るのはお勧めしない。
ただし「マルチプレイヤー」モードで、ネットを通じて複数人で遊ぶなら、各人1キャラずつ担当することになる。その場合、ホストの世界に事件の出来事が記録される。
ここではレッドガードのデザートフォックス君と、デモリショニストのボマーガールちゃんで2名パーティを組み、前述のとおりCity Quest(街のシナリオ)の「Roadside Ambush/道端の襲撃」に突入する。
右上にシナリオの簡単な説明、出てくる敵、シナリオ完遂条件(今回は敵の全滅)、報酬などが表示されている。
ちなみに実際に突入する前に、今回使用する能力カードから手札を選ばなくてはならない。元となる能力カードのプールは、どのキャラも1レベルの時点で3枚多い。ただし使いかたが難しい3枚には、レベル表記部分に「1」ではなく「X」とある。デフォルトでは「X」が抜けているので、最初はそのまま行って構わない。慣れてきたら取捨選択しよう(キャラレベルが上がれば、2レベル以降のカードも使えるようになる)。
現場に着くと、戦闘任務カードを2枚ランダムに渡され、1枚を選ばなくてはならない。今回のシナリオを成功裏に完遂し、かつ戦闘任務の条件も満たしていたら、チェックマークを1ないし2個獲得できる。チェックマークを集めると、3個ごとに戦闘などが有利になる特典を獲得できる。
さあ戦闘開始だ! キャラクターの顔をクリックすると、今回持ってきた能力カードが一覧表示される。カードは上と下の2つのボックスに分かれ、中央に速さを意味する行動順位の数字がある。
各ラウンド、各キャラは手札から2枚ずつ選んで、どちらの行動順位を使用するか決める。全員が決まったら一斉に公開する。このとき敵は、必ず8枚ある能力カードからランダムに1枚めくる。
行動順位の数字の小さい順で手番が来る。キャラの手番では必ず、片方のカードは上ボックス(攻撃が多い)、もう片方は下ボックス(移動が多い)のアクションを実行する。モンスターは、単にカードに書かれたことを実行する。
上図では、レッドガードは「38」と「63」のカードを選び、行動順位を「38」のほうに決めている。
ダンジョンを見渡すと「なぁんだ、紙版と同じマップじゃないか、簡単かんたん」
……そのときは、そう思っていた。
まずは下側にある「63」のカードの「上ボックス」を使う。攻撃力3で敵を攻撃だ。攻撃修正の山札(初期では「+0」6枚、「+1」と「-1」5枚ずつ、「+2」と「-2」と「ファンブル:ダメージなし」「クリティカル:2倍」1枚ずつ)から「+1」を引き当て、相手に4ダメージを与えたところ。
この次は、上側にある「38」のカードの「下ボックス」を使わなくてはならない(何もしないこともできる)。
このようにして、手番で攻撃などを繰り返し、敵を倒すと、そこに旧貨幣がドロップされる。旧貨幣は、街へ持って帰れば変換レートに従って、ゴールドとして使用できるようになる(最初は、1旧貨幣=2ゴールド)。
「やったー、敵を全滅させたぞ!」と喜ぶ我らは、右端に、紙版ではなかった「扉」を見つけた。
よく画面右上を見ると、勝利への度合いを表すゲージが、まだ半分ほどしか進んでいない。ということは……。
ちなみにこの時点でデモリショニストは、手札が全て捨て札となってしまったので「大休息」を実行中。すなわち行動順位99で手番は最後。捨て札から1枚喪失させ、残りを手札に戻す。同時に使用済みの全アイテムを再使用可能にし、怪我も2HP治す。
なお、もう少し効率は悪いが、手番を使わずにできる「小休息」というものもある。いずれにせよ休息を繰り返すたびに使用できる手札が減り、手番で2枚選べなくなると脱落である。
むろん他にHPが0になっても脱落する。ただ手札から1枚、もしくは捨て札から2枚喪失させることで、どんなに大きなダメージでもキャンセルできる。起死回生の業だが、シナリオ内での寿命自体は短くなるので、うまく使ってほしい。
何とか勝利すると、今回のシナリオの査定が出てくる。ちなみにパーティで何人も脱落して死屍累々だろうと(註:死んでませんw)、ひとりでも残ってシナリオの目標を達成するなら、パーティ全体で勝利となる。
エンディングのテキストが表示され、報酬が提示されて、いったんグルームへイヴンで羽を休める。
仮に全員が脱落しても、戦略やパーティ構成を組み直して再度挑めばよい。
何にしても、お疲れさま! 戦士にはしばしの休息が必要だ……。
という感じのゲームに仕上がっている。
魅力的かつクセのあるキャラがそろい、その組み合わせには無限に近い可能性がある。
あなただって、少しの勇気(と課金w)があれば、今すぐにでもグルームヘイヴンまで足を延ばすことができる。
傭兵団はいつでもあなたを受け容れることだろう。
ようこそ、光と闇に恵まれし混沌の巷グルームヘイヴンへ!
※スナップ写真撮影:高城葵さま