アプリで始めるボードゲーム

  • 記事タイトル
    アプリで始めるボードゲーム
  • 公開日
    2023年02月17日
  • 記事番号
    9190
  • ライター
    健部伸明

第10回 Can’t Stop/キャント・ストップ

~プッシュ・ザ・ラック! 運を味方にゴールへ向かえ~

プッシュ・ザ・ラックと呼ばれるタイプのゲームがある。運試しではあるのだが、単に1回のラッキー/アンラッキーで競うのではなく、どこまで連続して「いい目」を出せるのかが勝負。運のツキにならないギリギリのポイントで、さっと引くのが肝心。頑張りすぎて必要な目が出ないと、その回の得点は0点。その辺の読みと本能的な勘が要求される。

この種のゲームで最も有名なのが、ダイス・ポーカーの王道『ヤッツィー』だろう。
とはいえ個人的には『グリード』のほうが、駆け引きが強くて圧倒的に好みである。
いずれにしてもダイス・ゲームだが、1980年、このジャンルを名匠シド・サクソンが、スマートにボードゲーム化し、パーカー・ブラザーズから出版したものが、今回紹介する『キャント・ストップ』である。

▲タイトルの意味は「止まれない」で、ダイス振りの中毒性を、よく表している。

プレイ人数: 2~4人
対象年齢: 9歳以上
プレイ時間: 30分

ルールブックは、日本語版を出しているニューゲームズオーダーによって公開されている。

▲日本語版のボックスアートはママダユースケで、英語版のグラフィックを参考にしつつも、ダイス振りのてんやわんやや、落とし穴をも表現している。

確率的に美しいボード表現

このゲームは、基本的には、6面体ダイス2個の出目の合計である「2」から「12」の計11コースの各ゴールへ、誰が先に到達するかで勝負が競われる。
各コースの長さ(ゴールまでのマス数)は、各出目の確率の違いに対応している。
  

目の合計  長さ  確率出目の詳細
1/36[1+1]
2/36 (1/18)  [1+2][2+1]
3/36 (1/12)[1+3][2+2][3+1]
4/36 (1/9)[1+4][2+3][3+2][4+1]
115/36[1+5][2+4][3+3][4+2][5+1]
136/36 (1/6)[1+6][2+5][3+4][4+3][5+2][6+1]  
115/36[2+6][3+5][4+4][5+3][6+2]
4/36 (1/9)[3+6][4+5][5+4][6+3]
103/36 (1/12)[4+6][5+5][6+4]
112/36 (1/18)[5+6][6+5]
121/36[6+6]

つまり出にくい目の道のりは短く、出やすい目の道のりは長くなっているのである。

▲きれいに対称的に(正六角形に)並んでいる1~12の各コース。

シンプルなルールにもかかわらず、いくつかのヒネリが

『キャント・ストップ』のゲームデザインには、いくつかの秀逸なヒネリが加えられている。その1つが(上記のように2個のダイスの出目の合計を使用するのにも関わらず)実際に振るダイスが4個である点だ。4個の出目を、好きな2個ずつで組み合わせて適用する(この2個の組み合わせを、説明の都合上「ペア」と称する。またダイス4個を振る行動を「ロールする」と表現する)。

たとえばロールの結果が[1][2][3][4]の場合:

[1+2]=3、[3+4]=7
[1+3]=4、[2+4]=6
[1+4]=5、[2+3]=5

の3通りからいずれかを選び、それぞれのペアの合計値のコマを(仮に)1マス進ませる。
例えば一番上のケースなら「3」と「7」のコースのコマが(仮に)1マス進むことになる。
一番下のケースなら「5」が2回なので、「5」のコースのコマを(仮に)2マス進める。
ただし、まだ自分のコマがコース上にない場合は、そのコース上の一番下のマスに(仮に)配置する(システム的には、盤上にない仮想のマスから最初のマスへ1つ進んだとみなせる)。

これはすべてバラバラな目のロールの場合だが、ゾロ目が出れば出るほど選択肢は少なくなる。
たとえば[1][1][1][4]が出た場合:

[1+1]=2、[1+4]=5

の1通りしかない。

ちなみにこれまで何度も「仮に」と書いたのは、今回の進みがすべて無駄になる可能性があるからである。

さて上記のように、ロールの目を2ペアずつすべて適用した後で、手番プレイヤーは「そこでやめる」か「さらにロールするか」決めなくてはならない。

そこでやめる場合、各コースでの進行状況は確定となり、各コースの仮のコマを、そのコースの実際の自分のコマに置き換え、手番を終える。
上記の最初の例の一番上のケースなら「3」と「7」コースの最初のマスに実際のコマを置いて終了、一番下のケースなら「5」のコースの2番目のマスに実際のコマを置いて終了となる。

やめずに手番を継続してもよい。その場合、さらにロールし(1回目と同じように)再び2つのペアを決め、コース上に適用させる。
ところがここで、さらなるヒネリがある。仮ゴマは3個しか存在しない。同一手番では、最初に適用された3個の仮ゴマのあるコースだけにしか、ペアを適用できないのである。
上記の最初の例の一番上のケースなら、既に「3」と「7」コースに仮ゴマがあるため、それ以外に適用できるコースは1つしか残っていない。ここで2回目のロールのペアで、「3」でも「7」でもない目しか作れなければ、そのうち1つのコースにしか適用できず、残りのペアは無駄になる。

たとえば同じ場合で、2回目のロールが[2][6][6][6]なら「8」か「12」のペアしか作れないため、「8」か「12」のいずれかの最初のマスにしか3個目の仮ゴマを配置できない(「8」を選んだら「12」には配置できず、逆に「12」を選んだら「8」には配置できない)。

とはいえ2回目のロールでは(無駄になるペアがあるかもしれないけれど)3個目の仮ゴマは確実に配置できるため、ロールしない手はない。問題は、それ以降である。

盤上の3コースに、仮ゴマが既にある状態で、その3コースに対応するペアを作れなかった場合、その手番での(仮の)進行はすべて無駄となり、仮ゴマはすべて盤上から取り除かれ、手番は終了する(これを仮に「おジャン」になると称する)。
たとえば「3」「7」「8」のコースに仮ゴマがある状態で、[1][1][1][4]をロールしてしまった場合「2」か「5」のペアしか作れず(追加で置ける仮ゴマがもうないため)、この手番の進行はおジャンとなる(まったく進めなかったことになる)。

いずれにせよ手番終了となったら、左隣のプレイヤーの手番となる。

これを継続しながら、いずれかの仮コマが、そのコースの一番上のマス(ゴール)に到達した状態で、手番をやめることにしたら、あなたはそのコースを「制覇」したことになり、ゴールのマスに実際の自分のコマを置く。そしてそのコースにある他のプレイヤーの全コマを盤上から除去する。以降そのコースには、誰もペアを適用できなくなる。
ここで、聡いあなたはもう気づいたかもしれないが、こうやって「制覇」されるコースが増えるたび、出目を適用できるコースが少なくなり、おジャンの確率が上がる。終盤に向け、さらに展開はエキサイティングとなるのである。

プレイヤーが4人なら、最初に3コース制覇したプレイヤーが勝者となる。3人なら4コース、2人なら5コース制覇としてもよい。

バリエーションの導入とテーマ変更

以上が基本ルールだが、1998年、フラニョス社のドイツ語第2版で、難易度を上下する選択ルールが採用された。他のプレイヤーの実際のコマがあるマスに、自分の仮のコマが到達した場合の処理の違いだ。
基本ルールでは、同じマスに同時に存在してもよい。
難易度を下げるジャンプ・バリエーションでは、仮のコマをさらに1つ上のマスに配置させる。
難易度を上げるブロック・バリエーションでは、同じマスに同時に存在する状態では手番をやめられないことにする。これでおジャンの可能性が増える。実によくできたシステムである。

▲テーマが山登りになり、バリエーションルールも導入されたドイツ語第2版。写真は世界一大きなボードゲーム情報サイトBGGの主催、スコット・オールデンによるもの。

このように『キャント・ストップ』は純粋に抽象的かつ数学的なゲーム(アブストラクト・ゲーム)である。しかし競争の要素があることから、現行の日本語版や英語版では、路上で車を走らせるイメージで、統一されている。
しかし、上記のドイツ語版や韓国語版では岩山登山がテーマとなっており、おジャンが滑落の危険と、制覇が各峰の初到達という偉業とリンクしていて、個人的にはこっちのほうが好みである。

▲雪山に登る勇壮なイメージの韓国語版。

電子ゲームの状況

このように簡単ながらエキサイティングなゲームであるせいか、アプリには無料版と、さらに機能を追加した有料版の両方がある:

PC版(ボードゲームアリ―ナ)は、こちら
iOS無料版は、こちら
iOS有料版は、こちら
Android無料版は、こちら
Android有料版は、こちら

▲無料版アプリの進行画面。4のコースは既に赤プレイヤーによって達成されている。いまは緑プレイヤーの手番で、緑バーの上に伸びる黒いバーは、今回「仮に」進んだ部分をあらわしている。

iOSやAndroidアプリでは、勝利のために制覇しなくてはならないコース数を変えられる。
無料版では1~3(デフォルトはもちろん3)、有料版では最大6列にまで変えられる。
選べるAIの性格は、無料版では「正常」か「注意深い」の二択だが、有料版では「リスキー」「クレイジー」「過激」の3タイプが加わり、さらに思考速度も選べるようになる。

▲アプリ版の設定画面。細かいルールやAIの性格などを調整できる。

原型ゲーム『ザ・グレート・レースズ』との比較

ちなみにこの『キャント・ストップ』には、元になった同作者による、1974年発表の紙ペンゲーム『ザ・グレート・レースズ』がある(紙ペンゲームについては、前回も参照のこと)
『キャント・ストップ』(下表のC)と『ザ・グレート・レースズ』(下表のG)では、次のように各コースのマス数が異なっている。

CG
11
13
11
10
11
12
▲競馬バージョンの『ザ・グレート・レースズ』

各自異なる色のペンを使用し、ペアを適用したらマスに直接チェックマークを記録する。
書いたら消せないので「おジャン」という概念はない(というか、手番では1回しかロールできない)。
各コースにおいて、最後のマスに最初にチェックできたプレイヤーはやはりそのコースを制覇したことになり、既定の点を獲得する。
ところが各コースでは、過半数の進行状態となるマスの境界線に、分割線がある。誰かかがいずれかのコースを制覇した段階で、この分割線を超えていたプレイヤーのなかで最も進んでいた者が2位となり、既定の点を獲得する。2位の候補が複数の場合、より後手番のプレイヤーが優先される。
こうして全11コースでのレースが終了した段階で、得点が多いプレイヤーの勝利。同点ならやはり、より後手番のプレイヤーが優先される。
最初の発表時には自動車レースがテーマになっていたが、後に競馬に差し替えられた。

このように双方を比較してみると、確かに基本コンセプトは似通っているが、プレイ感はまったく違う。手に汗握る展開と、いつ終わるかわからないハラハラさにおいて『キャント・ストップ』は確実に、進歩を遂げているのである。
名匠に脱帽!

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