忍者増田の『ウィザードリィ』オーケストラ・ライブ潜入記
去る2019年12月8日、ファミコン版『ウィザードリィ』と『ウィザードリィⅡ』のすべての楽曲をオーケストラにて演奏するという、前代未聞のコンサートが行われました。
新日本BGMフィルハーモニー管弦楽団(以下、NJBP)により開催された、「NJBP Live!#12“ささやき-えいしょう-いのり-ねんじろ!”」と称するこの公演、タイトルからしても“わかってる”感が強く、これは『ウィザードリィ』(以下、WIZ)大好きライターである拙者忍者増田が行かない手はないべということで、当公演への潜入レポートを試みました!
忍者にとって潜入はお手のものでござる。
NJBPってどんな楽団?
まず、NJBPを知らない人のために説明しておきましょう。この管弦楽団は、2011年に発足した、ゲーム音楽を主体に演奏するプロオーケストラ。メンバー全員がプロとして活動している奏者たちであり、現在1カ月に1回という短いスパンでコンサートを開き、精力的に活動を続けているのです。
首尾よく会場「北とぴあ つつじホール」の楽屋に潜入した拙者は、早速NJBPのWIZ好きメンバーに接触することに成功したので、皆さんのWIZ歴と共に、公演にかける意気込みを伺ってみました。
「WIZを初めて起動したときは、オープニングの音の厚みに驚き、これが本当に3和音でできる表現なのかと圧倒されました。当時は徹夜で耳コピをして楽譜に描き起こし、携帯電話の3和音着メロとして鳴らすことで満足していたのですが、まさかこんなに豪華な編成でWIZを演奏できる日が来るなんて想像もしませんでした。ゲームはクリアできないまま十余年が経ちますが、演奏会では無事にエンディングを迎えたいと思います」(コンサートマスター、ヴァイオリン担当/小林明日香さん)
「中学時代にPCエンジン版や、スーパーファミコン版の『Ⅴ』と出会い、ゲームの超暗い感じや、羽田健太郎氏の音楽、カッコいい敵キャラに強く魅かれました。大技林に載っていた裏技で、パーティーのレベルを200前後まで上げたことも……。その後、40歳でWIZ演奏会が実現し「マジかよ!」という思いです。学生時代にはじめたWIZと職業がつながり、人生に無駄なことは1つもないのだな、と思いつつ今日を迎えています」(コントラバス担当/古庄正典さん)
「小学生の頃にゲームボーイ版『外伝』を遊んだのが最初で、難易度の高さに挫折しました。社会人になってからファミコン版『Ⅰ』を遊びたいという衝動に駆られカセットを入手、ワードナを討伐できたことからのめり込み、その後も『Ⅱ』、『Ⅲ』、『外伝Ⅱ』などを手に入れすべてクリアしました。今回の公演では、羽田健太郎氏の音楽を魅力そのままに拡張して編曲するよう心がけました。ファミコン版の曲をそのまま耳コピするところからはじめ、違和感がないように音を足し、時には3声をそのまま管弦楽に当てはめるだけに留めた部分もあります。リハーサル中に楽譜に強弱を書き加え、「堅牢な建物を頭に思い描いてください」と奏者に要請したりもしました。これはカント寺院の曲を練習していたときの話で、この要請でガラリと音色が変わりました。奏者と共に全力で取り組んだ成果をお客様と共有できるのが公演の醍醐味であり、自分自身大変楽しみにしています」(編曲担当/羽田二十八さん)
なお、最後にコメントをいただいた羽田二十八さんはNJBPで一番のWIZフリークであり、そのペンネームも羽田健太郎さんに由来。NJBPの代表・市原雄亮さんが「羽田二十八の編曲なくしてNJBPは成立しない」と全面的に信頼を置く名アレンジャーなのです。顔出しがNGなのは拙者よりよっぽど忍者っぽいですが、ちゃんと拙者が直接話をしている実在の人物ですからね?
今回のコンサートの聴きどころは?
そして今名前が挙がった、NJBPの代表を努める市原さんにも、今回の公演の聴きどころを伺ってみました。
「聴きどころは、重厚な管弦楽の響きに尽きます。“ゲーム音楽”とひとくくりにされがちですが、古今東西あらゆるジャンルの音楽が包括されているのがゲーム音楽であり、実は区分が非常に難しい。管弦楽には適さない曲も多い中、WIZについては元々、羽田健太郎氏に「クラシカルな曲を」と依頼があったという話ですので、管弦楽に合わないはずがないのです」(NJBP代表/市原雄亮さん)
市原さんとしても、今回の演奏は十分に自信を持っていると捉えていいでしょうか?
「はい。羽田健太郎氏が3和音に託した管弦楽の響きをどう再現するのかがすべてなのですが、そこは羽田二十八であれば何の問題もないと確信していました。完成したものを聴いて、それは間違いでないことがわかりました。そして公演の出来は奏者の熱量に左右されます。いくら良い曲でも、良い編曲でも、奏者から熱が発せられなければ、お客様の心に訴えかけることができません。そこもリハーサルで問題ないことを確信しました。今回の公演、生粋のWIZフリークのお客様は感涙必至かもしれません。それくらい自信を持ってお薦めします」(NJBP代表/市原雄亮さん)
そして、ついに公演の幕が上がる!
ニンとも頼もしいお言葉をいただいたところで、ついにコンサート開演!
ところが演奏前に、代表の市原さんと共に緊張感のないWIZトークをする忍者の姿が……。
はい、何を隠そう、拙者忍者増田であります。実は今回の公演、僭越ながら拙者は、WIZ好きゲストとして前振りトークを依頼されていたのですね。
“潜入”でもなんでもなく、実は関係者であったというオチですが、忍者とは裏をかく者ですからお許しくだされ。
このトークでも話したのですが、実はWIZ未プレイの市原さん、公演までの1カ月弱という短い期間で、なんとWIZをクリアしようとしていたのだから頭が下がります。
NJBPの指揮者でもある市原さんは、室内管弦楽公演である今回は指揮をせず、司会というポジションでした。
ぶっちゃけゲームを実際にプレイしなくても進行は可能なわけです。にもかかわらず、奏者との題材のイメージ共有はもちろん、ゲストとのトークに気持ちが入るように、わざわざそれをやってしまうのが市原雄亮という男……。かっこよくね?
こんな市原さんなので、演奏合間の彼の濃いゲームトークを楽しみにしているNJBPファンも多いのです。
残念ながら今回の公演までにWIZクリアは達成できなかったようですが、それでも序盤をきっちりプレイしてくれたおかげで、拙者はトークが弾みました。
ハリトとバディオスは一生使っちゃダメですよ、市原さん。
トークのあとは拙者は観客席に座り、一般のお客様と同じようにじっくりと公演を堪能させていただきました。
拙者は今までにも、NJBPのレトロゲームを題材とした公演を何度か拝聴しています。ゲーム音楽が最もゲーム音楽らしかった時代の「ピコピコ」なサウンドが、対極とも言えるオーケストラに変換される場合、拙者はそのギャップを楽しんでいたりします。
ただし今回の題材はWIZであり、市原さんも言うように元々がクラシカルで管弦楽チック。羽田健太郎さんの原曲のイメージを崩さず、かつどうアレンジするかという部分に注目が集まっていたと思いますが、結果として拙者は、「見事にNJBP流に昇華されている」という印象を受けました。
ファンも大満足の公演! 音源化も検討中!?
会場では、涙を流しながら聴き入るファンの姿も多く見られたし、市原さん自身も「今までのNJBPライブでも屈指の出来だった」と太鼓判を押す内容で公演は幕を閉じたのでした。
WIZファンの皆さんはご存じのように、残念ながら羽田健太郎さんは2007年に逝去されています。「ぜひ羽田健太郎さんにも聴いていただきたかった……」と、満足感の裏で唇を噛む市原さんの気持ちも、同じ“ものを作る”人間としてよくわかります。出来のいいものを作り上げたからこそ強くわき上がってくる複雑な感情であったと思います。
打ち合わせ・リハーサル・演奏から飲み会まで、拙者が今回NJBPに1日密着させてもらって改めて感じたのは、メンバーの皆さんの仲の良さ、一体感。
これだけ毎回見事なライブが実現できる要因として、奏者の卓抜した技術以外に、「チームワークの良さ」も大きいであろうことを確信しました。
演奏後に、トロンボーン担当の白井友理恵さんが発信していた、「我々は全員がホームランを打つし、全員がそのためのアシストをします。無関係を決め込む人がいません!」というツイートを見て、そういった自分の思いがさらに腑に落ちたのでした。かっこよくね?
今回の公演を開催して「WIZというゲームを知れたことが嬉しかった」と言っていた市原さん。
そんな方が代表を務めるNJBPだから、これからも愛のある素敵なゲームライブをやり続けてくれるに違いないと拙者は強く思うでござるよ。ニンニン。