ニチブツ・ゲームミュージック変遷記 前編

ニチブツ・ゲームミュージック変遷記 前編  IGCC

在りし日のニチブツ(日本物産)が世に送り出した数々のアーケードゲームたち。当メディアの読者であれば、アーケードゲーム事情に関して猛者揃いとお見受けするが、比較的なじみ深い作品といえば『ムーンクレスタ』(1980年)、『クレイジー・クライマー』(1980年)、『テラクレスタ』(1985年)あたりになるだろうか。ニチブツのヒット作自体が、脱衣麻雀を除けばおのずとこの3作に絞られてくるという、身も蓋もない事実もあるのだけれど。

今回は、ニチブツならではの魅力あふれる音楽たちをより知っていただきたく、ニチブツ・ゲームミュージックの歴史を前編・後編に分けてご紹介したい。

前編はニチブツ・ゲームの音楽史が始まった1980年から、ゲームヒット連発で隆盛を極めた1985年まで、懐かしいゲームタイトルとともにニチブツ・ゲーム音楽の魅力をひも解いていく。

なお、本項では基本的にアーケード(業務用)作品のみを採り上げており、アクションやシューティングなどの作品を「アミューズ」、麻雀や花札に代表されるアダルト向け作品を「麻雀系」と区別している。

1980年『ムーンクレスタ』『クレイジー・クライマー』の大ヒット

1970年代の終わりには、すでにいくつかのビデオゲームがニチブツからリリースされていたが、それらはいずれも他社のヒット作の模倣やコピー、あるいは、許諾を受けて製造・販売していたものに過ぎなかった。よって、ニチブツのオリジナル作品を語るなら、1980年に発売された『ムーンクレスタ』から始めるのが妥当だろう。

▲『ギャラクシアン』の基板が流用された『ムーンクレスタ』。複数のサウンド回路が組まれ、各効果音に使い分けられている。映像は移植版のPS4用「アーケードアーカイブスシリーズ(海外配信版)」(以下同) ©HAMSTER Co.

『ムーンクレスタ』は、その前年に発売された『ギャラクシアン』(ナムコ/1979年)のハードウェアを元にして作られている。こちらのサウンドについては、2018年11月4日に当研究所から発刊予定の電子書籍『ビデオゲーム・アーカイブス vol.2 ムーンクレスタ』で、hally氏※1hally : ゲーム音楽史・ゲーム史研究家にして作編曲家。個人サイト「VORC」でゲーム音楽のルーツ研究を、ブログ「classic 8-bit/16-bit topics」ではゲームそのもののルーツについて数々の先駆的な発表を行なうほか、ライターとしても活動している。また、世界唯一のゲーム音楽専門配信サイト「EGG MUSIC」をプロデュースし、以降、ゲーム音楽のリミックスなどにも携わっている。が執筆した記事「ムーンクレスタのサウンドデザイン」で詳しい解説があるため、こちらをぜひご覧いただきたい。

1980年には、ニチブツ最大のヒット作と言われる『クレイジー・クライマー』も登場している。音源はPSG(プログラマブル・サウンド・ジェネレーター)チップ(AY-3-8910)1個とサンプリング用のDAC回路で構成されている。本作の看板曲とも言えるゲームスタート時の「小象の行進」をはじめ、「パッヘルベルのカノン」、童謡、アニメソングなど、国内外の有名楽曲から使用したコミカルアレンジしたサウンドが満載だ。

▲スタート曲での装飾音符、ゴリラの曲での“もたり”など、凝った作りだった『クレイジー・クライマー』。海外版のため、クライマーのセリフも英語だ ©HAMSTER Co.

サンプリングを多用した効果音にも印象的なものが多い。ビルをよじ登るときの、左右の腕に連動して発せられる「カカッピョピョ、カカッピョピョ(なんて表現するのが難しい音!)」という音は、ゲームが上達するほどに心地よいリズムとなり気持ちを盛り上げてくれるし、「イテッ!」「ヨイショッ」「アレ~」といったクライマー自身の声や、動きが取れず苦戦しているときの「ガンバレ」というゲームからの無機質な声援もなんとも愉快。

1980年といえば、『バルーンボンバー』(タイトー)、『カーニバル』(セガ/グレムリン)、『ラリーX』(ナムコ)などにおいて、ゲームプレイ中のBGMにオリジナル曲が採用され始めたばかりの年だ。さまざまな音楽や効果音がゲームをカラフルに彩る『クレイジー・クライマー』は、ゲーム内容はもちろん、サウンド面でも時代の先端を走っていたと言えるだろう

1981-1983年 2大ヒットに続き、ゲーム音楽も進化

『ムーンクレスタ』『クレイジー・クライマー』に続くヒットの期待を背負ってリリースされた『フリスキー・トム』(1981年)は、引き続きPSGチップ1個を搭載。ニチブツで初めてオリジナルのBGMが用意された作品だ。『五目ならべ 連珠』(1981年)や『ワイピング』(1983年)ではWSG(波形メモリ音源)が使用され、その音にはPSGとは異なる温もりが感じられた。そして『ダチョラー』(1983年)ではPSGチップが3個搭載となり、うち2個が音楽に、1個が効果音に割り当てられ、ディレイ効果による美しい澄んだ音色を奏でていた

同時期の他社作品に目を向けてみると、セガの『ザクソン』(1982年)やコナミの『プーヤン』(1982年)、『ハイパーオリンピック』(1983年)、『ジャイラス』(1983年)、ナムコの『ディグダグ』(1982年)、『ポールポジション』(1982年)、『ゼビウス』(1983年)、『マッピー』(1983年)など、名作・名曲の誉れ高いタイトルが揃っている。

一方のニチブツは、アミューズ作品においての売れ行きは残念ながら芳しくなかったが、麻雀を中心としたアダルト向けゲームのフィールドでは、『雀豪』(1983年)や初の脱衣麻雀と言われる『ジャンゴウナイト』(1983年)などのヒットを飛ばし、存在感を放ち始めていた。これらの麻雀系作品には、PSGチップが1個載っているもののBGMは存在せず、ジングルや効果音に使われているのみであった。

脚注   [ + ]