超高難易度なのに挑戦者が後を絶えなかった硬派シューティング『バルトリック』

  • 記事タイトル
    超高難易度なのに挑戦者が後を絶えなかった硬派シューティング『バルトリック』
  • 公開日
    2018年08月10日
  • 記事番号
    470
  • ライター
    こうべみせ

バルトリック』は1986年にジャレコ(*01)からリリースされたシューティングゲームだ。同時期のシューティングゲームといえば『ファンタジーゾーン』(1986年/セガ)や『沙羅曼蛇』(1986年/コナミ)など目立つヒット作が多かったせいか、本作はゲームセンターにおいて比較的地味な存在となっていたかもしれない。

しかし、不思議な魅力を持っていて、それに惹きつけられるようにプレイする人たちが多かったことも確かである。もちろん筆者もそんなプレイヤーの一人で、当時出入りしていたゲームセンター「ゲームブティック 高田馬場店」で最低1日1回はプレイする定番ゲームの一つだった。

当時、すご腕スコアラーのACU-EPS(*02)もゲーセン「プレイシティキャロット 巣鴨店」でよくプレイしていたという本作。それを知ったのは後年になってからで、今思えば、一度はACU-EPS氏の本作プレイシーンを見てみたかったと思っている。

そんな本作も、今となっては知らない方が大多数ではなかろうか。ここでは『バルトリック』がどんなゲームだったかを紹介し、その魅力を少しでも多くの人に伝えたい。

決して派手ではないが印象に深く残るグラフィック

▲エリアの最後に待ち受ける要塞のコアを破壊するのが本ゲームの目的

一口で『バルトリック』を説明するならば、要塞攻略シューティングということになるだろう。ひたすら前に進んでいく、後戻りのできない縦スクロールで、エリア1から4までの全4ステージ構成で、エリア5以降は難易度をアップしたループプレイとなる。

スクロールは強制ではなく、自機の前進に合わせて動く任意のもの。四方八方から出現する敵キャラや、マップ上に設置されている砲台と戦いながら各エリアの最終地点にある要塞を目指す。要塞を破壊するとそのエリアはクリアとなり、次のエリアへと進む。

緑地や湿地など自然の地形を思わせるエリアもあるのだが、大半はタイル状の床や石畳、金属製の人工物など無機的なイメージでステージが描かれている。当時稼働していたほかのゲームと比べて、細かな描きこみがされていたとは言えないものの、丁寧で美しさを感じるグラフィックだった。とくに金属の表現に関しては群を抜いていたと言っていいかもしれない。

当時、いや、下手をすれば現在であっても、金属と言えば何でもメタリックカラーでギラギラと光らせてしまうデザイナーは多い。ところが、『バルトリック』での金属表現は黒光りするものだった。まさに鉄の塊を感じさせる表現で、これが実に格好良かった。ゲーム開始時やエリアクリア時に画面全体にかかるモザイクエフェクトも印象的で、鬼のような難易度であっても、当時の筆者が『バルトリック』をプレイしていたのは、これらのビジュアル表現が見たかったからという理由もある。

ゲーム内容と密接に関係する練り込まれた自機のアクション

▲全4エリアのループプレイは難易度を考えたら十分すぎるボリューム

操作は1レバー2ボタン構成の標準的なもの。レバーで8方向に自機を操りながらショットボタンとジャンプボタンを使ってゲームを進めていく。ショットボタンでビーム状の弾と曲射砲を同時に発射。オート連射になっているので基本的に押しっぱなしでよかったのがうれしかった。

ビームは自機の進行方向に発射されるので上下左右に斜め45度を合わせた8方向へ撃つことができる(厳密には進行方向以外に自機の方向転換中に細かく発射することができるので、狙って撃つのは難しいが16方向に発射可能)。

曲射砲は自機の向きに関係なく常に上方向に発射され、発射時点で照準が合っていた位置に着弾する。また、障害物の上にある砲台を破壊できるほか、マップ上の「?」パネルを狙うことで各種アイテムが出現する。中ボスの弱点を攻撃したり、要塞を破壊するためのコアを攻撃できたりするのも曲射砲だけだ。曲射砲は障害物を越えて攻撃できるので、障害物を盾にして敵弾を防ぎながら攻撃するということもできる。

ジャンプボタンは一定時間、自機を空中に浮上させられる。空中に浮いている間は無敵状態で、レバーで移動も可能。敵の攻撃から逃れ、比較的安全な場所へ移動するための緊急回避行動もとれるのだが、ジャンプボタンでの浮上は障害物を越えるときにも使用する。しかし、一般的なシューティングゲームで言うところのボムのような扱いに近く、使用には回数制限がある。この回数制限が曲者で、特にエリア2後半などでは、壁が行く手を塞いでいるような地形を越えることも考慮する必要が出てくる。敵の攻撃回避に使いまくっていると、このような場面で「詰み」となるわけだ。個人的には、この辺のゲームデザインはなかなかよく考えられていたと思う。

出現は運任せだが、それゆえに思わぬところで助けられるアイテム群

▲アイテムの活用が必要となる地形も登場

アイテムは地上の「?」パネルに曲射砲の弾を当てると出現し、自機を重ねて取得する。自機に装着するパワーアップアイテムの「ポッド」を除いて、アイテムはいずれも同じ球形のデザインになっているため、効果の違いは色で覚えなければならなかった。

序盤の敵攻撃がゆるいうちは曲射砲で「?」パネルを狙い撃ちする余裕があるのだが、全編を通して敵の攻撃が激しいゲームなので、すぐにそんな余裕もなくなってしまう。多くのプレイヤーは、敵の攻撃を避けることに集中し、曲射砲が「?」パネルに偶然当たるのを待ってアイテムを取得していくようなプレイパターンだったのではないだろうか。
また、出現するアイテムの種類は基本的にランダムだったようで、そのような意味でもプレイヤーのアドリブ力が要求される硬派なゲームだったと言えるだろう

【アイテムの種類と効果】

ポッド自機の周囲に装着することで、装着した方向にもビームを発射できるようになる。最大2つまで装着可。自機を前進させながら獲得する関係上、多くの場合は斜め前方もしくは真横に装着されることが多いのだが、自機が方向を変える動作を利用することで、後方にも装着しようと思えばできる。敵の攻撃で失われてしまうが、1回だけ防御可能なシールドとしての役割もあると思っていいだろう。
パワーアップ自機とポッドの攻撃力を上げる。ビームの幅が広がることで当たり判定が大きくなり、曲射砲の連射力がアップする。3段階までパワーアップするが、ゲームの難易度レベルもそれに合わせて上昇してしまうので、獲得するか否か悩みどころでもあるアイテム。
バリア10秒間、自機が無敵状態になる。この10秒間があるかないかで展開が大きく変わってくるため、重要アイテムといっていいだろう。
ジャンプジャンプ可能回数が1回分増える。
敵全滅画面上の敵キャラや敵弾を消滅させる。砲台は破壊できないが、一瞬敵の攻撃が途切れるので、追い詰められた状況下で出現するとうれしいアイテムだった。
ワープ30秒間だけ、エリア最終地点の要塞までワープする。この時にできる限り要塞にダメージを与えておけば、要塞戦が多少楽になるかも。

移植版は存在せず!稼働しているレトロゲーセンを探すべし!

『バルトリック』はほかのプラットフォームに移植されたことがなく、このおもしろさを知ってもらいたくても実際に実機で遊んでもらうしか方法がない。中古基盤の相場は7~8万円といったところ。一般の人にはなかなか手を出しにくいとは思うのだが、コレクターにはぜひ手元に置いてもらいたい隠れた名作だ。

そこまではできない一般の人は、稼働しているレトロゲーセンを探し出して一度はプレイしてみてほしい。きっと、記事だけでは伝わらない魅力に気づいていただけるはずだ。

鬼の難易度!しかし初心者だってそこそこ楽しめる敷居の低さ

▲上級者でもたどり着けたのはごく少数であろう最終エリア

正直言って『バルトリック』は難しい。高難易度という点ではトップクラスに入ると言っても異存はないだろう。かといって、序盤からビギナーをフルボッコにするわけでもなく、難しいながらもそこそこ先まで進めるようになっているところが絶妙だなと思っている。任意スクロールであることもその一因なのだろうか、敵を無視してどんどん前に進めば、それほど難しさを感じなかったものだ。
あえてパワーアップせずに難易度上昇を抑えれば、敵の猛攻をくぐり抜けながらエリア1の要塞を陥落させられるし、上級者でなくても十分に本作のおもしろさは堪能できた。

『バルトリック』がいまひとつブレイクできなかったのは、やはりキャラクター性の弱さだったのかなと思っている。冒頭でも述べたように、本作が登場した時期はすでに『ファンタジーゾーン』や『沙羅曼蛇』など、物語を感じさせる作品が主流になっていた。にもかかわらず、本作はあまりにも記号的でストロングスタイル。この頃はもう、システムのおもしろさだけでは厳しい時代に突入していたのだ。

中ボスこそユニークであったものの、全編を通して魅力的なキャラクターが登場していたら、あるいはもっとブレイクしていたかもしれないと思うと、やや残念ではある。

画像提供:株式会社シティコネクション
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こうべみせ

脚注

脚注
01 ジャレコ : 主に1980~1990年代にかけて、業務用や家庭用ゲームで活躍していたゲームメーカー。
02 ACU-EPS : アーケードゲーム全盛期に活躍したスコアラーの一人。またの名を「HTL-久保恵美子」氏。ACU-EPS氏らによる「プレイシティキャロット 新宿店」での『パックランド』(1984年/ナムコ)1億点プレイチャレンジは古参ゲーマーの間では有名。

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