シュールな世界観ゆえに世界中で愛された『バーガータイム』

  • 記事タイトル
    シュールな世界観ゆえに世界中で愛された『バーガータイム』
  • 公開日
    2018年10月18日
  • 記事番号
    598
  • ライター
    前田尋之

「敵キャラクターであるソーセージや目玉焼き、ピクルスを避けながら具材を踏みつけて落とし、巨大なハンバーガーを完成させる」

ゲームの内容を言葉で説明すると、なんともシュールな光景が脳裏に浮かびそうだが、本当にこのままなのだから仕方がない。

黎明期のゲームだからという一言だけで片付けてしまうのは簡単だが、このシュールな世界観に、後のデータイースト(*01)が持つ尖ったセンスを感じてしまうのは著者だけであろうか。

本稿ではそんなデコセンスの萌芽を感じさせる初期のヒットタイトル、『バーガータイム』(1982年)について語ってみたい。

基本は固定画面の変形ドットイートゲーム

▲敵は落とした具材に巻き込んで倒せ!(画面写真はPS2版『オレたちゲーセン族 バーガータイム』)

『バーガータイム』は、コックコートとコック帽に身を包んだ料理人、ピーターペッパーを操作して、迷路状の画面内に点在する具材を使ってハンバーガーを完成させることを目的にした、サイドビュー視点による固定画面アクションゲーム。

具材は踏んだ部分がわずかに沈み込み、全部を踏むことによって初めて下に落とすことができる。その際、下に別の具材があれば玉突き状態で連鎖的に落とすことができ、これを利用すれば少ない手間で具材を落とせるのがポイントである。

敵はピーターペッパーの背丈ほどもある巨大なソーセージ(Mr.ホットドッグ)や目玉焼き(Mr.エッグ)、ピクルス(Mr.ピクルス)たち。これといった攻撃をしてくるわけではないが、とにかく多勢な上に、ジャンプなどの回避手段がないため、捕まらないように避けるのは容易ではない。

唯一の回避手段はコショウ攻撃で、ボタンを押すと前方に発射。敵に命中すると一定時間足止めをすることができる(停止中は当たり判定がなく、すれ違うことが可能)。

なお、コショウは使用回数に制限があり、ときどき出現するフードターゲット(アイスクリームやポテトなど)を取って増やすことはできるものの、そう頻繁に使えるアイテムではない。ここぞというときの血路を開くために残しておきたいところだ。

敵は具材と一緒に落とすか、もしくは上から落とした具材で押しつぶして倒すことができる。この際に多数の敵を巻き込むほど、その重みを利用してまとめて具材を最下段まで落とすことも可能で、高得点が得られるだけでなく、ここがこのゲーム最大の爽快ポイントといえる

また、前述のコショウ攻撃は攻撃にも利用でき、コショウを使って敵を具材の上にまとめて足止めしておけば、まさに大逆転のチャンスというわけだ。なお、倒した敵は左右端から復活して出現するので、油断は禁物である。

難易度は高いながらも世界中で愛されたゲーム

▲敵をコショウで足止めして緊急回避!(画面写真はPS2版)

本作は敵キャラの数が多いわりには回避手段が限られているため、かなり難易度が高い。また、『パックマン』(1980年/ナムコ)のようなレバーの先行入力がないため、ハシゴの手前で引っかかりやすく、プレイの敷居も高いゲームといえる。

しかし、それだけの理由でこのゲームを出来の悪いゲームと論じるのは、いささか早計だろう。

『バーガータイム』の魅力は、ドットイートゲームの作法を使って「ハンバーガーを作る」という目的に見事に落とし込んでいる点にあり、ちょっとレバーを左右に入れるだけで「具材を踏んで落とす」というゲームのルールをすぐに理解することができる。

どのキャラクターもユーモラスで愛嬌があるデザインであり、これだけ個性的でありながら、ルールが単純明快で分かりやすいというゲームは珍しいのではないだろうか。

▲迷路をよく把握して敵をフェイントで誘導しよう(画面写真はPS2版)

「ハンバーガーを土足で踏み歩くのは不衛生だ」「変な生物が挟まったハンバーガーを食わせるのか」といった、世界観に対してのツッコミがさんざんされてきたゲームではあるが、そういったツッコミの対象となってきたのも、ほかのデコゲー同様に愛されたがゆえの指摘だと思う。

また、敷居の高さについて苦言を呈したが、上達すれば、敵キャラクターをフェイントや、まとめて誘導させるといった駆け引きプレイが可能なため、必ずしも理不尽な難易度ではないことを付け加えておきたい。

元のタイトルは『ハンバーガー』だった

『バーガータイム』はもともと、デコカセットシステム向け(*02)ソフトの一つとして、1982年に『ハンバーガー』というタイトルでリリースされた。

もっとも、同年の海外販売にあたって商標上の問題から現在のタイトルに改題され、専用のROM基板としてリニューアル発売された。

その後、『バーガータイム』は海外で広まるだけでなく日本にも逆輸入され、後のリメイクや移植タイトルでも『バーガータイム』の名前が使用されることとなった。

なお、例外として電波新聞社から1985年に発売されたパソコン向け移植版のタイトルは『ハンバーガー』である。

▲リリース当時のタイトルは『ハンバーガー』だった(画像は当時のパンフレット)
▲アメリカではバリー・ミッドウェイから『バーガータイム』のタイトルで発売された

余談だが、主人公の名前であるピーターペッパーは、イギリスの童謡「ピーター・パイパー」が元ネタとなっており、英語の早口言葉としても知られている。

特定の文化圏に依存しないワールドワイドな見た目のデザインもさることながら、英語圏の人間に馴染み深い題材を選んだことも海外のヒットにつながった要因の一つだったのかもしれない。

▲イギリス人には馴染みの深い童謡「ピーター・パイパー」。『バーガータイム』の主人公ピーターペッパーのモデルとなった

あらゆるゲーム機、パソコンに移植された名作

世界中でヒットした『バーガータイム』だが、当時人気だったLSIゲームをはじめとして、主要な家庭用ゲーム機、パソコンへ次々と移植された。

一方、初代タイトルが現在でも語り継がれるメジャー作のわりに、シリーズ作品として制作された直系の続編タイトルは決して多くない。せっかくなので紹介しておこう。

『ピーターペッパーズ アイスクリームファクトリー』(1984年/データイースト/アーケード)

『バーガータイム』の主人公、ピーターペッパーがアイスクリーム屋に商売替えした続編で、前作同様にデコカセットシステム用のソフトとしてリリースされた。

固定画面サイドビューのアクションゲームで、アイスクリームを転がしてコーンの上に乗せ、アイスクリームを完成させるのが目的。

『スーパーバーガータイム』(1990年/データイースト/アーケード)

足で踏みつけてハンバーガーを作るという前作の基本はそのままに、巨大なハンバーガー、スクロール画面、2人同時プレイ、各種攻撃アイテム、ボス戦といった大幅なパワーアップを果たした。

ジャンプができるようになった分、ストレスなく楽しめるゲームとなっており、ゲームとしての完成度は高い。

なお、『バーガータイム』自体は多数の機種に移植されているが、現在でも比較的入手しやすいものとして以下の2つを紹介しよう。興味がある方はこれらでぜひ『バーガータイム』の魅力に触れてみてほしい。

①『バーガータイムデラックス』(2011年/ジー・モード)
1991年にゲームボーイ用として発売されたタイトルであるが、2011年にニンテンドー3DSのバーチャルコンソールで再発売された。

②『オレたちゲーセン族 バーガータイム』(2005年/ハムスター)
アーケード版がPS2タイトル。

▲ニンテンドー3DS専用の『バーガータイムデラックス』。白黒だが、かわいらしい動きはそのまま(「Nintendo 公式チャンネル」より)

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前田尋之

脚注

脚注
01 データイースト : 1976年に設立された古参のゲームメーカー。DECO(デコ)の愛称で親しまれたが、2003年に倒産した。
02 デコカセットシステム : 1980年にデータイーストが開発した、おそらく世界初のアーケード向けシステム基板。リリースされた対応ソフトは40タイトル以上。

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