ジョイスティックとボタンに込めた職人魂、三和電子に聞く・中編

ジョイスティックとボタンに込めた職人魂、三和電子に聞く・中編  IGCC


特別インタビュー「三和電子に聞く」。第1回目の前編はジョイスティックへのこだわりに触れたが、次に気になるものといえば、なんといってもボタンである。単なるスイッチと思うなかれ。快適にゲームがプレイできるようにさまざまな工夫が詰め込まれたノウハウの塊だった!

中編の今回は、ビデオゲーム用の押しボタンをはじめ、大型筐体やクレーンゲームなどで必須の照光式ボタンなど、ボタンにフォーカスを当ててお届けする。

三和電子株式会社
生産部部長:大森 博克氏
生産部技術課:鵜木 智之氏
営業部第一課:佐藤 望氏

【聞き手】
ゲーム文化保存研究所
所長:大堀 康祐
ライター:前田 尋之

 食中毒がきっかけで生まれた新基軸ボタン

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▲抗菌素材ボタンが生まれたエピソードを披露する佐藤氏

大堀 アーケードゲームのボタンといえばかなり乱暴に扱われるという印象があります。昔だったらガチャガチャや100円ライターでこすって、ボタン自体に穴が空いたり溝ができたりするとかありましたが、そのような無茶な操作で壊れたというクレームはありましたか? また、市場から「もっと強度アップしてくれ」などといった具体的な要望はあったのでしょうか。

佐藤 ボタンはどうしても消耗品なので、使っているうちの摩耗は致し方ない部分はあるのですが、珍しいケースでは、食中毒がらみでクレームが来たことがありました

大堀 食中毒ですか!?

佐藤 とあるメーカーのゲームを遊ばれたお子さんが食中毒になったという事例がありました。ボタンを触れた手で、その後に何かを食べて不幸にも食中毒になったのでしょうが、それがきっかけでボタンを抗菌素材にしてほしいという要望があったんです。現行品は抗菌素材というわけではないのですが、クレームが発端で以後の製品開発へのヒントとなった貴重なご意見でした。

鵜木 また、小さな改良点なのですが、現在のボタンでは押し切っても周囲のフチよりも少し高くなるように設計しています。昔のものだと、押し込み過ぎてフチとボタンの間の段差で指をケガする可能性があるんですね。こちらは実際に事故が発生したわけではないのですが、お客様の手が直接触れる部分だけに、より安全に、快適に遊んでいただけるような配慮をつねに心がけています。

直接見えないところにも工夫があります。初期の頃はネジ状になっていてコンパネ(コントロールパネル)に固定していたのですが、ハメ込み式の固定方法を採用したのも弊社が初めてです。取り付けだけではなく取り外しも容易なので、発売以来、大変好評をいただいております。

佐藤 現在でもネジ式のボタンはラインナップしているのですが、出回っている数でいえば、ほぼハメ込み式に置き換わっていますね。ただ、ネジ式にもメリットはありまして、ハメ込み式は「一定の厚さまでの鉄板にしか取り付けられない」という欠点があるんです。木製のキャビネットに付けるならば確実に取り付けができるので、ネジ式がなくなることはないと思います。

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▲押し込んでも周囲のフチよりわずかに飛び出している三和電子製ボタン。ボタンとフチの隙間でケガをする心配がない

メッキではない、特殊塗装のメタリックボタン

佐藤 弊社では通常の押しボタンでも多数のカラーラインナップをそろえていて、最近はクリア(透明)やメタリックといった商品も用意しています。これにも弊社独自の技術が盛り込まれているんですよ。

大堀 (現物を見せてもらいながら)ずいぶんきれいな仕上げですね。

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▲蒸着塗装による光沢が美しい三和電子オリジナルのメタリックボタンシリーズ。メッキがはがれてケガをすることもない、安全性に配慮した一品でもある

佐藤 メタリックシリーズは金、銀、ガンメタの3色展開していますが、これらはメッキではなく、蒸着塗装※1蒸着塗装 : 金属や酸化物を蒸発させて素材の表面に付着させる表面処理技術。ヘルメットのバイザーなど、透過性を持たせた加工が可能な上、はげにくいという特徴がある。で実現しています。過去には弊社製品にもメッキのボタンもあったのですが、傷がつくとその部分からメッキがはがれてしまい、手をケガする危険があったんですね。しかし、このボタンであれば、傷がついた部分のみ塗装が薄くなる程度で、耐久性はもとより、安全性に配慮した製品になっています

アミューズメント業界で蒸着塗装を採用したのは弊社が初めてなのですが、メタリックシリーズを発売したおかげで、それを見て「同じ加工ができないか?」とメーカーさんから問い合わせを頂くこともありますよ。

大森 問い合わせといえば、うちのお客様は国内だけでなく海外にも多数いらっしゃいまして、メタリックは中国系のお客様からの引き合いが多いです。その一方で、クリアはアメリカのお客様が多いですね

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▲「泡の入っていないクリアな素材は難しい」と、技術畑ならではの開発上の苦心を語る鵜木氏

鵜木 海外のお客様はキラキラしたものをお好みになる傾向があります(笑)。クリアは他社さんから泡の入ったものが発売されていますが、実は泡のないもののほうが作るのは格段に難しいんです。どうしても泡が混入しやすくて、不良品が出やすいんですよ。クリアに対してはうちが後発だったのですが、他社が「あわ玉」を作っているので、差別化を図る意味で、技術的には難しいけれど泡のまったくないまっサラに挑戦したというのが正直なところです。

当初、クリアは6色展開だったのですが、アルコールで拭くとクラック(ひび割れ)が発生するという不具合があったんです。一応、ハンマーで叩いても割れないので安全性については問題なかったのですが、お客さんとしてはあまりいい気がしませんよね。

そこで、2年ほど生産中止して、その間に改良したんです。現在発売しているクリアは、そんな紆余曲折の上に生まれた製品なんですよ。ちなみに、再発売にあたって色は6色ではなく、一番人気があった透明のみに絞りました。

佐藤 うちがこれだけレバーボールやボタンを多種多様な展開する理由として、「マイコントローラー」の普及が挙げられます。最近の傾向として自分だけのマイコントローラーを持つ方が多くなりましたので、自分だけのコントローラーということでオリジナル性を出したり、見栄えにこだわったりという楽しみをされていらっしゃいます。

――海外のお客様は個人で購入されるのですか?

鵜木 弊社から直接卸すのは各国にある代理店ですが、そこを通じて個人のお客様がお求めになっているようですね。さすがに業務用にというわけではないと思います。

佐藤 中国あたりでは業務用のパーツとして購入されていたりしますよ。北米、南米はやはり個人の方が中心です。

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▲三和電子のレバーボールやボタン類。個人向けのマイコントローラーへの需要が高い

脚注   [ + ]