高井商会探訪記~代表・高井一美氏に聞く ビデオゲームの歴史と保存~ 後編

世界屈指のアーケードゲーム筐体・基板の保有数を誇る「高井商会」にお邪魔して、代表である高井一美氏へのロングインタビューを行った模様を3回にわたってお届けしている本企画。前編中編では同社の創業からこれまでの経緯と変遷、保有しているゲーム機器についてのお話を伺った。

最終回である後編は、今後のアーケードゲーム筐体・基板の保存についてのお話を中心に、引き続き、数々の名作ビデオゲームの移植・復刻を手掛けるエムツーの堀井直樹社長と当研究所の大堀康祐所長とともに、ゲーム保存の未来について掘り下げていく。

【聞き手】
ゲーム文化保存研究所 所長:大堀 康祐
エムツー代表取締役:堀井 直樹
ライター:外山 雄一

アーケードゲームの保存には公的資金の投入が必要か

▲ゲーム保存にも(個人では)限界があると語る高井氏

――これだけ膨大なコレクションを所有しておられますが、高井さんは、アーケードゲームの保存についてどうお考えですか?

高井 基板を文化として残すのであれば、お金もかかるし、個人がやるのは難しいと思います。

――修理の技術も必要ですしね。

高井 機種を残していくためにも資金が必要ですし、その資金はどうやって用意するのかと。だから、私は何らかの公的な補助が必要だと思います

▲希少な基板の資料に1人のマニアとしてうれし気な大堀所長

大堀 僕も公的なバックアップが必要だと思いますが、ゲームはアニメやマンガと比べても(文化的)地位が低いんですよね。

堀井 国でやれば、コピーゲームも含めてゲーム業界全体の目録が作れると思います。

大堀 ナムコの中村雅哉会長※01中村雅哉 : ナムコ(設立時は中村製作所。現在のバンダイナムコエンターテインメント)創業者。日本アミューズメントマシン協会(JAMMA、現在の日本アミューズメント産業協会〈JAIA〉)会長をはじめ、さまざまな重職を歴任。1925年生まれ、2017年没、享年91歳。が2017年に逝去されました。その時に、基板や付属資料などの物的資料だけでなく、前編でもお聞かせいただいたロケーションの歴史だとか、ゲーム開発者のお話だとか、ゲーム業界を作ってこられた「人」の証言も、文化的史料として遺すべきものだと思いました。今、ゲーム業界の礎を築いた方々が歳を重ねられて、だんだんと「人」の証言もとれなくなってきています。私たちゲーム文化保存研究所も、「人」の証言を遺していこうと活動していますが、なかなか限界があります。国主導だと、広範囲でこういった史料を保存していくことができると思うのですが…。

高井 ゲーム会社を設立した創業メンバーの方は、それなりに資金もあったから、アーケードゲームの資料を文化として保存することもできたと思うんですけど、まぁ、国がやるのが一番でしょうね。最近は、セガさんなんかも、ゲーム文化保存に取り組んでいるようですね。

大堀 セガさんもナムコさんも、(他メーカーと)合併していますよね。合併や統廃合のタイミングで、けっこう大事な資料や基板などが、棚卸しや除却でなくなってしまいます。だから、その辺はぜひ国も(保存を)やってほしいですし、もちろん高井さんをはじめ、今アーケードゲームの保存活動をされている人たちにも、引き続き頑張っていただきたいですよね。

高井 それはやるつもりでおります(笑)

海外に流出する日本製の基板

大堀 アメリカでコンピューターやビデオゲームが生まれましたが、今みたいにゲーム人気が出るようにしたのは、まぎれもなく、日本のゲーム作家やオペレーター、任天堂さんなど家庭用ゲームを生み出した方々のおかげだと思っています。ですので、ゲーム文化はぜひ、日本人がイニシアチブをとって保存していくことが必要だと思いますね

高井 それはそうです。

大堀 日本のレトロゲームは、海外のコレクターさんにかなり流出していますよね

高井 間違いなく(流出)していますね。

大堀 考えられないような値段で、基板が買い上げられています。

堀井 秋葉原の基板屋さんや中古ショップなどで、海外の方は高くても、値段を気にせず買っていかれるので…。

▲レトロゲームの復刻を手掛けている堀井氏も、ゲーム文化保存について憂慮している

――ゲーセン「ミカド」の池田店長ら関係者が、2019年4月にスペインで行われたアーケードゲーム大会「Fightcade Offline Festival※02Fightcade Offline Festival : スペインの実業家が主催するアーケードゲーム大会。個人所有とされる多数の(80台以上とも)日本製アーケードゲーム筐体が展示されるほか、トーナメントも開催された。公式サイトに参加されたのですが、そこでも日本のゲーム基板や筐体が、けっこうな数あったそうです。

堀井 海を渡れば(希少なレトロゲームを)見ることはできるので、それはそれでいいんです。日本は高温多湿という気候から、基板などの保存が難しいというところはありますし。

――ゲーム保存の観点から言うと、高井さんもビジネスをしながら保存していくわけですから、我々マニアやオペレーターさんたちも、高井さんのような業者にお金を払い、レンタルすることで共存共栄の関係を作らないとなりませんね。

堀井 そこはビジネスとしての循環がないといけないですよね

高井 無理してやっても続きませんから。

堀井 継続可能な仕組みを考えないといけない。

――だから、ミカドさんもレトロゲームは1プレイ100円じゃなくて200円にしたりしていますし、我々マニアがお金を使うような環境にしないといけないですね

高井商会における、ゲーム基板修理の秘訣は…?

大堀 これはちょっと失礼な質問かもしれませんが、高井さんクラスの技術力を持った方って、日本でほかにいらっしゃいますか?

高井 なかなか難しいですよね。自分も技術はまだまだだし、ICの理論も難しいし。

大堀 でも、基板を直せる方って、世の中にそんなにいないですよね。

――各メーカーにも修理技術者の部署がありますが、そこも高齢化していますね。

▲それぞれ違った方向からゲーム保存に取り組んでいる高井氏と堀井氏

高井 いや、技術力の高い方はほかにもいらっしゃいますよ。(オシロスコープの)波形を見ただけで、ここが悪いと分かって、さっと修理してしまう。私は、明らかに悪い波形なら(どこが不良か)分かるけども、ぎりぎりのところで動いているものは分からない。でも、人によっては分かって、「ここがちょっとおかしい」と言いますからねえ。

私らは修理の場数を踏んでいるだけで知識がないんで、やっぱりほかの基板と対比しています。サンプルがなかったら、それもできません。部品をひとつ(入れ)替えたら、最新のソケットにしておいて、古い不良部品もサンプルとして残しておきます。

堀井 こういう壊れ方をしがち、という部品サンプルがあるといいですよね。画面の化け方だとか。

高井 どんどんICを(入れ)替えていけばいずれ直る、という考え方で進めたけど、全部換えても直らなかったことがありましたね。結局、(不良の原因は)ICじゃなかったと。でも、全部換えて直らんというのはショックでした(笑)。オシロスコープを見て波形で分かるような修理ばかりじゃないんで、やっぱり難しいですね。

大堀 これまで扱った基板で、高井さんを困らせた基板はありましたか? この基板、二度と見たくない! みたいな。

高井 そりゃ、直ったら(苦労も)全部忘れていますね(笑)。(基板が)直るまでは眠れんほどに考えて、考え抜いて寝ているうちに突然アイデアが湧くんですよね。ここから攻めてみようとか。それでも、修理に3日もかかることもあります。それが直ったときは快感で、しばらくはルンルンしていますけどね。

一同 (笑)

▲基板修理について話す高井氏(左)

大堀 じゃあ、高井さんから見て、ここの会社の基板は優等生だ、壊れない! とか、あります?

高井 基板の出来が良いというのは分かります。よく考えられて設計されているなと思ったのは、任天堂の基板ですね

堀井 修理も含めてですか?

高井 任天堂製のものは、特殊な石(チップ)を使っているから、修理は難しい!

堀井 任天堂の基板の良さは何でしょう?

高井 ちょっとしたところでも念入りに作っていますね。例えば、ここにコンデンサーがなくてもいいじゃないかとか思うような所にも付けて、念入りに作られています。タイトーの基板も、必要がないような所にも、電気が安定するようにバイパスコンデンサー※03バイパスコンデンサー : 電子回路において、電圧を安定させるためのコンデンサーの組み込み方。が入れてあったりね。

堀井 それがゲーム機のほうでも影響しているんですね。

高井 修理しやすいのは、(基板が)何枚かになっているもの。良品と入れ替えると、どの基板が悪いのかを確定しやすいからね。

脚注 +