『平安京エイリアン』の復刻とリメイクを手掛けた市川幹人氏に聞く 後編

  • 記事タイトル
    『平安京エイリアン』の復刻とリメイクを手掛けた市川幹人氏に聞く 後編
  • 公開日
    2018年03月12日
  • 記事番号
    269
  • ライター
    IGCCメディア編集部

市川氏とゲーム文化保存研究所との出会い

編集部 『平安京エイリアン』を復刻するにあたって、当研究所に協力をご依頼になった経緯を教えていただけますか。

市川 これはもう、キバンゲリオン(当研究所メンバー石黒氏)さんのお名前も絶対に出さなければならないぐらいご協力いただきました。

うちは高田馬場にある有名なゲームセンター「ミカド」にピンボールを4台置いていて、その縁もあってオーナーの池田稔さんとは仲良くさせてもらっています。池田さんに、今度うちで『平安京エイリアン』の復刻版を作ることになったという話をし、「やるからには永久保存版にしたいので、当時の資料を探し出せるコネとかツテはないか」と相談したところ、石黒さんをご紹介いただきました。

そうしたらそのボスが、昔、スーパーマーケットの忠実屋府中店の6階にあったナムコランドでスーパープレイを見せていた大堀さん(当研究所所長)であったことが判明しました。当時中学生だった僕は、大堀さんの『ディグダグⅡ』(1985年)のプレイとかを参考にさせてもらっていましたからね。なんかつながったなーと(笑)。

編集部 復刻するにあたり、どのような資料が役に立ったのでしょうか?

▲当研究所が資料提供し、復刻された取扱説明書

市川 やっぱり、マニュアルですよ。それとフライヤーですねー。

編集部 基板も石黒さんが提供されたんですか?

石黒 いやマニュアルとフライヤー、あとは動画ですね。

市川 フライヤーひとつで60MBという解像度で頂いて、(資料として)残すってそういうことなんだなって、本当に助かりましたね。

▲当時のアーケード基板を手に、オリジナル基板について解説する石黒氏

石黒 動画の提供は、音の違いの確認用ですね。当時稼働した多くの基板には、オリジナルの基板に搭載されているサウンドジェネレーターが搭載されていません。

市川 基板はすでに解析していました。そうそう、このアーケード基板にすごいワナがあるんです。
クレジットが増えるところが1カ所だけあるのはいいんだけど、ゲーム中に60フレーム待つというようなサブルーチン(*01)があって、一定フレーム待つということは、待っているときはお金を入れてもクレジット受け付けないのかよ、という話になるじゃないですか。

でも、さらに解析をしていったら、お金を入れるとZ80(*02)にリセットがかかるようになっていて、ゼロ番地スタートになるんですよ。ゼロ番地スタートの部分だけがコインのスイッチに対応していることが判明して、びっくりしました。ゲーム中にお金を入れるとリセットがかかってしまう、それでいいのかってね(笑)。

なので、移植版は、キーボードだと「5」のキーでコインインなんだけども、ゲームパッドの場合、ワンショットでやるとすぐにリセットがかかってしまうので、「L」ボタンと「R」ボタンを同時押ししないとクレジットが入らないように仕様を変えました。これだけで10時間ぐらいかかりました(笑)。

大堀 解析した人にぜひ聞いてみたかったんだけど、『平安京エイリアン』は何点か出すと再ゲームみたいな話があるんですが、それって本当なの?

市川 あります。ちゃんとメッセージも出て、再プレイできます。5万点と10万点だったかな? どちらかに設定できるようになっています。

大堀 5万点なんて出ないよね(笑)。

市川 今、『平安京エイリアン』の世界一が3万点台ですからね。

大堀 そうなんだ。本当に(再プレイが)入ってたんだ。

市川 それは開発するよりテストプレイが大変でした(笑)。

復刻版が発売されたことに対するそれぞれの思い

▲「基板の部品もオリジナルの再現には重要」と語る石黒氏

編集部 こうして『平安京エイリアン』が復刻されたことについて、ここで石黒さんと大堀所長にご感想を伺いたいのですが?

石黒 今はネットが普及したせいで情報が多すぎて、その中から正しい情報が拾えなくなってしまっています。YouTubeやSNSで誰かが「これがオリジナルだ」と言うと、みんな「右にならえ」で記憶が上書きされてしまうような気がします。
レトロゲームを好きな人でも、当時は子供だった場合が多く、その記憶もあいまいになるようなので、昔のゲームを復刻するのであれば、証拠になり得るソースを入れたほうがいいと思います。

エミュレーターという技術は素晴らしいと思いますが、現在その多くはソフトウェアの移植ということになってしまって、ハードウェアを見ながらの解析ではないので、アナログ回路に関しての情報は曲がってしまい、伝わりにくいと思うんですね。基板は部品が変われば色や音とかも変わってしまいます。

『平安京エイリアン』で言えば、ちょっと基板をいじれば色も音も変えることができるので、当時使われていた部品は何だったのかというところまで意識して作らないと、オリジナルの完全再現は難しいと思います。

編集部 大堀所長はいかがですか?

大堀 オリジナルが開発された1970年代後半当時は、容量なども含めていろいろな制限や限界があったゲーム業界の中で、いろいろとアイデアで勝負しているものが多かったと思うんですよ。
さっきも『ロードランナー』の話をしましたけど、ゲームはやはり派生学だと思っています。どのゲームも何かのゲームの影響を受けたり、他のゲームに触発されたりして新しいゲームが誕生していると考えています。

最近のゲームだとグラフィック偏重になりがちなんですけど、今の時代にあえて『平安京エイリアン』を移植することで、ゲームの本質ってどこにあるのかなということを、特に今の人には感じてほしいですし、やっぱりおもしろいアイデアのものって、いつやってもおもしろいんですよね。

さっきの話のように(『平安京エイリアン』は)動きがちょっと遅いということもあるけれど、後進のクリエイターにはぜひ何かを感じ取っていただいて、これからの新しいゲーム作りに生かしていってほしいなと思いますね。

編集部 最後に市川さん、この『平安京エイリアン』についての今後の展開について伺えますか?

市川 はい。まさに先日の「JAEPO 2018(*03)」に出展された「exA-Arcadia」基板 (*04)、それに『平安京エイリアン』を載せて、2月末ぐらいをめどにアーケード版のロケーションテストを開始しようというのが大きな話ですね。それとMOD対応ですね。

編集部 ちなみにMODは、どんなことができるようになるんですか?

市川 もうグラフィックからサウンドまで、全部自分の好きなように改変できるという仕様です。アーケードに絡むゲームとしては初ではないでしょうかね。

編集部 なるほど、これからもまだまだ『平安京エイリアン』の世界が広がりそうですね。本日は貴重なお話をありがとうございました。

※敬称略

LICENSED FROM HYPERWARE / Ⓒ Mindware

市川 幹人 氏

1971年東京都生まれ。有限会社マインドウェア代表取締役。1987年、マインドウェアの前身となるMNM Softwareを高校生にして設立し、X68000用『Star Wars -Attack On The Death Star-』を1991年に、メガドライブ用『スラップファイトMD』を1993年に発表。以来、数多くの作品を手掛ける。現在は往年のPCゲームを復刻させる「VIDEO GAME CLASSICS」シリーズなどを展開中。

『平安京エイリアン』

1979年に東京大学理論科学グループが開発した人気名作ゲーム。当初はマイコン用ゲームとして登場し、1980年1月には電気音響からアーケードゲームとして発売される。プレイヤーは検非違使(けびいし)を操り、平安京に侵入したエイリアンを、穴を掘り、落とし、埋めるというルールと、同時プレイが可能という画期的なゲームデザインが話題となった。

ゲーム情報

タイトル : 平安京エイリアン for Windows
対応OS : Windows 7以降
ジャンル : オフェンス/ディフェンスアクション
価格      : ダウンロード版 1,480円/パッケージ版 5,000円
著作権  : LICENSED FROM HYPERWARE / ⒸMindware
公式サイト

脚注

脚注
01 サブルーチン: プログラミングにおいて特定の機能を果たすために一つのまとまりにしたもの。
02 Z80: 1976年にアメリカのザイログ社が開発した8ビット・マイクロプロセッサー。1980年代頃までパソコンのCPUとして使用された。
03 JAEPO 2018 :ジャパンアミューズメントエキスポ。毎年2月にあるアーケードゲームの展示会で、2018年は2月9~11日に千葉市の幕張メッセで開催された。
04 exA-Arcadia:ShowMeHoldings社から発表された新しいシステム基板。

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