ユニークなアイデアがレベルデザインに活かされた秀作シューティング『ジェミニウイング』
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今回紹介する『ジェミニウイング』(テクモ)がリリースされた1987年ごろは、「画期的なアイデアはないか」「斬新なゲームシステムを作り出せ」という言葉がやたらと使われていたことを記憶している。しかし実際には、もうこの頃になると『R-TYPE』(1987年/アイレム)を最後に、シューティングゲームのアイデアは出尽くした感があった。
アーケードゲーム史的にはこの後数年をかけて弾幕シューティング(*01)が誕生することになるが、筆者的には弾幕シューティングは敵の攻撃演出を過剰にしただけで、ゲームシステム自体はそれまでのシューティングゲームの焼き直しだと思っている。
念のため補足するが、筆者は弾幕シューティングを否定しているわけではない。ほかのシューティングゲーム同様に好物だ。自機の当たり判定を極限にまで小さくして弾除けのおもしろさを追求したシステムは評価している。というか、最近はこの当たり判定に慣れてしまい、昔の大きな当たり判定のシューティングゲームが辛く感じることもある。
少々話が横道にそれたが、無理やり思いついたようなアイデアを実装して華々しく散っていったゲームが多かったのもこの時期だと思う。そんな状況下でリリースされた本作は、「ガンボール」というゲームシステムを見事に昇華させていた名作だ。
見た目は奇抜でもシューティングゲームとしての基本は守られていた
本作は昆虫に支配されてしまった世界が舞台。巨大昆虫から人間の世界を取り戻すために戦闘機で立ち向かうというストーリーになっている。同時期のシューティングゲームには『ドラゴンスピリット』(1987年/ナムコ)、『A-JAX』(1987年/コナミ)、『R-TYPE』などがあった。いずれも印象に残る美しいゲーム画面だったが、テイストの違いを考慮した上で見ても、本作はそれらと比べ群を抜いて美しい画面を表示していたと筆者は思っている。
『ジェミニウイング』はレバー+ボタン2つでプレイする縦スクロールシューティングゲーム。基本的な仕様は、各ラウンド(本作のステージ数表記はラウンド)の最後に待ち構えているボスキャラを倒して次のラウンドに進む、オーソドックスなスタイルになっている(ただしラウンド3のみボスは不在。最終地点にたどり着ければクリアとなっている)。
この頃のシューティングゲームになると、クリアごとにまったくの別ステージに切り替わるのがお約束のようになっていたが、本作は各ステージがシームレスにつながっていた。ボスキャラ戦で背景は一旦停止するが、クリアするとスクロールを再開したり、洞窟に入っていったりしてくことで最終面までつながった世界をプレイヤーに見せてくれる。序盤で美しい自然を眼下に見下ろしながら戦い、滝を越え、洞窟をくぐり抜けながらラスボスの待つ異様な空間へと向かっていく様子は、本作の冒険譚をしっかりと物語っていたといえるだろう。
余談になるが、昔、あるゲーム開発者が「ステージのつながりはストーリーを感じさせるためにも連続性を持たせるべきだ」とどこかの雑誌でコメントしていたのを覚えている。具体的に誰の発言だったのかは失念してしまったが、それを見事に形にしていたのが本作なのだ。
ユニークな「ガンボール」システムが最大の特徴
本作には「ガンボール」と呼ばれるアイテムが登場する。一見するとパワーアップアイテムのように見えるが、実際にパワーアップ効果をもたらすのはスピードアップのみ。攻撃系ガンボールは数種類存在するが、いずれもサブウエポンとして装備されるものであって、メインショットはまったく強化されないのが特徴だ。
一般的なアイテムと異なり、ガンボールを取得しても即効果は得られない。取得したガンボールは自機の後方に尻尾のようにつながった状態でストックされる。ガンボール発動ボタンを押すと、取得履歴の古いものから使われていく。
ガンボール1個につき1回の使い切り攻撃なので、ほかのシューティングゲームで言うところのボムみたいな感覚になってしまうが、敵弾は相殺できない。それは頭で分かっていても、ギリギリの状況になってから緊急回避のつもりで使用して、結局敵弾に当たって自機を失うミスを筆者は何度したことだろうか。
ここで注意したいのが「スピードアップ」「エクステンド」「ボーナス」といった攻撃系以外のガンボール。例えば、自機の移動速度を上げようと「スピードアップ」を取得しても、発動する順番にならなければその効果を得ることができないのだ。
ガンボールの種類
3ウェイショット | 自機の前方3方向に玉を発射。ゲーム開始直後はデフォルトで3つ装備されている。 |
ホーミングミサイル | ホーミング弾を発射。 |
ワイドビーム | 画面左右いっぱいに広がった状態で発射されるビーム。 |
スイングファイアバー | 自機を支点にして自動車のワイパーのように左右に動く火炎攻撃。 |
スパークハリケーン | 渦巻き状に回転しながら広がっていく攻撃。 |
スピードアップ | 自機の移動速度が上がる。 |
1UP | 自機のストックが1機増える。 |
ボーナス | ボーナス点が加算される。2、5、10と書かれた3種類が存在し、書かれている数字✕10,000点が得点となる。 |
ガンボールというシステムがしっかりと活かされたゲームデザインが秀逸
プレイするとよく分かるのが、本作のレベルデザインの秀逸さだ。例えば、ステージの設計はガンボールの特性を考えて作られている。障害物がないステージではスパークハリケーンやワイドビームのような広範囲攻撃できるガンボールが心強い。洞窟内のように移動範囲が限られている上に複雑な地形になると、ホーミングミサイルやスイングファイアバーが有利だ。このように、特定のガンボールだけが極端に高性能で、それだけに頼るゲームデザインになっていないのが心憎い。
また、ラスボスを除いて各ラウンドのボスはガンボールをまったく必要としない難易度に調整されている。つまり「ガンボールは使い惜しみしないで、メインショットの補助としてラウンドの道中どんどん使いなさい」ということなのだ。
実際に、ゲーム全体を通じて常に入手できると言っていいくらい、ガンボールは登場する。しかも「ここでしか登場しない」というようなレアタイプが存在しないので、序盤ステージからいろいろ使ってみて特性の違いを理解できるようになっているのも注目すべき部分。こういったレベルデザインができるのも、制作スタッフがガンボールのアイデアをしっかりと消化できているからだろう。単純に思いつきだけでガンボールシステムを採用しても、こうはならなかったはずだ。
『スターフォース』のDNAを随所に感じる「これぞテクモシューティング」
本作をプレイした人だったらデジャヴを感じるようなことはなかっただろうか? 独特の軌道を描いて移動してくる敵キャラ。前方に発射されるだけのシンプルな自機メインショット。グラフィックのテイストこそ違うものの、このプレイフィールはまさしく『スターフォース』(1984年/テーカン)だ。
コーエーテクモゲームス(後にテクモとなったテーカンの現社名)で当時の様子を知る人物に話を聞いたところ、企画段階では『スターフォース2』として開発が始まったらしいとの証言も得られた。どうりで似たような感覚があるはずだ。おそらくは販売戦略の関係で、最終的にはタイトルを変更し、現在のような形になったのだろう。
スターフォース自体は後年になって『ファイナル・スターフォース』(1992年/テクモ)という正式な続編が制作されているが、こちらは当時人気のあった『雷電』(1990年/テクモ※開発はセイブ開発)をかなり意識した内容になってしまっている。名作スターフォースのDNAが強く感じられるのは『ジェミニウイング』であり、本作の人気が根強いのはそのせいもあるのかもしれない。
よくできたゲームだからこそ気になってしまう点もあった
全体を通して難易度が抑えられており、ガンボールのアイデアがちゃんと消化されている秀作ではあるのだが、それゆえにこれだけはもう少し何とかしてほしかった点があると言ったらワガママだろうか。
それが、ダラダラと長時間続くラスボス戦。ラスボスはガンボールの攻撃で倒すのだが、これがやってみるとなかなか倒すことができない。結果として、クリアするのに長時間のプレイを強いられるのだ。
理由はラスボスの弱点である尻尾がなかなか姿を見せないこと。普段は羽(はね)で隠されており、羽を広げた一瞬を狙わなければいけないためだ。その一瞬に合わせて何度もガンボール攻撃をしなくてはならないため、ラスボス戦は持久力を要求される長期戦となる。ラスボスの攻撃自体は、クライマックスの戦いにしてはそれほど激しいといえるレベルではないのだが、倒すのに時間がかかり、集中力がもたなくなってうっかりミスをしてしまうことも。
オールクリア時に加算される残機ボーナスを気にしないのであれば、何機か犠牲にすることで弱点部分に特攻して重ね撃ちをする強引な倒し方もある。しかし、スコアランキングを競っているプレイヤーにとっては1機も無駄にできないのだから、ひたすら忍耐のラスボス戦であったのだ。
評価ポイントの多い本作であったが、全体の完成度が良いだけにラスボス戦だけはもう少し練り込んでほしかった気がする。
レトロゲームをプレイすることで当時は分からなかった良さに気づくこともある
この原稿を執筆するにあたって久しぶりに本作をプレイしてみたのだが、「あれ? 『ジェミニウイング』ってこんなにおもしろかったっけ?」と思った。もちろん、本作がゲームセンターで現役だった当時も頻繁にプレイしていたので、よく知り得ていたゲームでもあったはずだ。ほかにプレイしたいタイトルもたくさんあったし、本作のおもしろさをしっかり理解できていなかったのかもしれない。本作だけではなく、このように感じるゲームはほかにもあるだろう。
1作1作としっかり向き合えるようになった今だからこそ、再発見できる魅力があるのだと、あらためて感じた。皆さんも、レトロゲーセンで当時のゲームを遊び直してみてはいかがだろうか。
残念ながら本作の他機種への移植は、レトロPCのX68000版だけとなっている。家庭でアーケードと同じものが遊べると言っていい完成度ではあるのだが、現在プレイしようと思っても、多くの人にとっては動作環境を用意するのも難しいだろう。
ちなみに、現場の開発者が自発的に本作のファミコン版を制作して休み時間に遊んでいたらしい。もしもこれが商品化されていればと思うと、実に惜しいところである。
とはいえ、本作のオリジナル版を設置しているレトロゲーセンは多いので、興味を持った人はぜひ、近くの稼働している店舗を探してプレイしてみてほしい。
※記事中のゲームプレイ画像はコーエーテクモゲームスから提供されたものです。
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脚注
↑01 | 弾幕シューティング : 画面上を埋め尽くすほどの敵弾数が特徴的なシューティングゲーム。現在のシューティングゲームの標準形ともいえる。『怒首領蜂(どどんぱち)』(1997年/アトラス)が元祖とされている。 |
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