アーケード横スクロールSTGの始祖『スクランブル』
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『スペースインベーダー』(1978年/タイトー)によって急速に拡大したアーケードゲーム市場では、1970年代末~1980年代初頭にかけて、各メーカーからシューティングゲーム(以下、STG)の発売が相次いだ。この時、大半のゲームは画面上方から迫る敵機を、画面下方から迎え撃つという構図になっていた。
そんな中でKONAMIから『スクランブル』(1981年)が登場。これが初めて遊んだサイドビュー・横スクロールSTGだったというプレイヤーも多いだろう。敵機を撃墜するだけではなく、敵基地を爆撃するという要素も新鮮だった。
それまでのSTGにも、サイドビュー、背景のスクロール、武器の使い分け、爆撃といった本作の構成要素のうち、いずれか一部の要素を持ったタイトルは存在したが、『スクランブル』はそれらをひとつにまとめ上げ、高い完成度のSTGとして仕上がっていた点が画期的だった。
今回はこの『スクランブル』が、ゲーム市場と後のゲーム業界に与えた影響を紹介し、あわせて本作の魅力を掘り下げたい。
2つの攻撃ボタンを使うSTGの始祖的ゲーム
本作の操作方法は、8方向レバーで自機を操作、ショットボタンで前方を攻撃、ミサイルボタンで地上を攻撃…という、STGとしては極めてオーソドックスな操作方法といえるが、『スクランブル』以前に同様のシステムのゲームはあっただろうか? そう考えてみると、本作は2つの攻撃ボタンを使い分けるSTGの始祖的な存在と言ってもいいかもしれない。
背景はシンプルであるものの、スクロールして場面が次々に変わっていき、敵基地の奥深くに侵攻していく緊張感とストーリー性が感じられた。
タイトルの「SCRAMBLE(スクランブル)」は、ここでは「緊急迎撃」の意味だろう。タイトル画面に表示されるメッセージ「HOW FAR CAN YOU INVADE OUR SCRAMBLE SYSTEM ?」を日本語に訳すと、「君は、我々の迎撃システムをかいくぐって、どれだけ奥深くまで侵攻できるか?」となる。プレイヤーを挑発するような一文だ。
それ以外、特にバックストーリーの解説はなく、プレイヤーが敵基地を攻撃する正当性も、画面やインストラクションカードからは読み取れない。しかしこの時代、実質的にストーリーは存在しないゲームが大半だった。プレイヤーは数少ない情報から、画面の向こう側に広がるゲームの世界と、その広がりを想像してプレイしていたのだ。
多彩なステージ構成
「ステージ」と言っても、本作には明確なステージの区切りはなく、画面上のゲージで、プレイヤーが今いるエリアが分かるだけだ。以下、各エリアを紹介していく(※各エリア名は便宜上、筆者がつけたものである)。
エリア1 山岳地帯
地上から発射されるミサイルを避けつつ、敵地を侵攻していく。
エリア2 洞窟
カーブを描きながら飛行する敵機が登場。弾丸を撃ってくるわけではないので、難なく避けられるはずだ。
エリア3 火球
突然、一直線に無数の火球(?)が飛来する。高度を下げて山陰に隠れながら進むか、避けるしかない。当時、ここで全滅するプレイヤーも多かった。
エリア4 ビル
画面の高さを生かした高層ビルに設置されたミサイルが容赦なくプレイヤーを襲う。避ける場所が狭いため、ミサイルでうまく破壊しながら進む。
エリア5 要塞
壁の隙間が狭くなっている部分をすり抜けながら、敵基地中枢を目指す。レバーを斜め左に入れる精密な操作が要求される。
エリア6 基地中枢
「KONAMI」という看板があるビルを超え、最終目標である敵指令基地「BASE」が見える。壁に当たらないよう注意しながら接近、破壊するとクリア。
エリア6をクリアすると「1パターン(インストラクションカード上の表現)」終了となり、次のパターンへ進む。2パターン目以降は、FUELメーターの減る速度が速くなり、FUELタンクを撃ち漏らすとゲームオーバーになりやすくなる。
珍しい「縦画面・横スクロール」のゲーム
2019年現在、ビデオゲームの画面は横画面が一般的で、縦画面のゲームといえば縦スクロールSTG以外、ほとんどない。しかし本作は縦画面・横スクロールSTGとなっている。おそらくは『スペースインベーダー』ブームからこの時代にかけて、ビデオゲームの多くが縦画面であり、筐体に入っているブラウン管も縦配置だったから…というのが、横スクロールSTGでありながら縦画面となった理由ではないだろうか。
また、当時のゲーム基板が持つ表示能力の特性上、画面長辺方向への滑らかなスクロールが困難だった可能性もある。正方形の仮想領域の一部分を切り取って長方形の画面に表示する描画方式を採っている場合、表示されない画面外の部分を描き変えることで滑らかなスクロール表示が行える。メモリが高価だった時代、この画面外の面積が極めて小さかったため、そもそもスクロール機能は画面の短辺方向のみ限定で、長辺方向には行えない仕様だった基板もあった。
『スクランブル』は、この横スクロールSTGで後のSTGに多くの影響を与えている。本作の後にリリースされ、おそらく影響を受けているであろうタイトルを挙げると、『スペースオデッセイ』(1981年/セガ)、『ヴァンガード』(1981年/SNK)、『コスミックアベンジャー』(1981年/ユニバーサル)、『スペースシーカー』(1981年/タイトー)、『ファンキーフィッシュ』(1981年/サン電子)などがある。
その後『ゼビウス』(1983年/ナムコ)が登場すると、またSTGのトレンドは大きく変わるのだが、それまでの約2年間は、横スクロールや縦/横スクロール混在など、STGの表現方法を各社が模索する期間となった。
『スクランブル』のヒット、そして続編『スーパーコブラ』の発売
『スクランブル』は、それまで市場になかったタイプのゲームだったこともあり、日本国内はもちろん海外でもヒットした。このヒットがあったためか、続編『スーパーコブラ』(1981年)がわずか数カ月後に登場する。
敵キャラクターがほとんど攻撃してこない、シンプルな『スクランブル』に対し、続編である『スーパーコブラ』は序盤から敵の攻撃が激しく、難易度が高い。その後の1980年代後半にリリースされた横スクロールSTGに比べれば、『スーパーコブラ』もそれほど難しいゲームではないのだが、当時はプレイヤーの習熟度が不足していたことが原因かもしれない。
後のゲーム業界に大きな影響を与えた名作
1970年代末~1980年代初頭は、アーケードゲーム市場が急速に広がった時代であると同時に、個人向けコンピューター、いわゆるPC(当時はマイコン)が誕生、普及していった時代でもある。アーケードゲームを自宅で遊びたいという理由でPCを購入するユーザーも多く、その中には自分でアーケードゲームをPCに移植するアマチュア・プログラマーもいた。
『スクランブル』はKONAMIが後に『グラディウス』(1985年)を生み出す礎となったタイトルだが、間接的にゲーム開発者を生み出し、後のゲーム業界に大きな影響を与えたターニングポイント的なゲームともいえる。
そんな背景を持つ『スクランブル』は、2019年4月に発売された『アーケードクラシックス アニバーサリーコレクション』をはじめ、さまざまな移植の機会に恵まれ、現在でも最新ゲーム機で遊ぶことができる。まだ遊んだことがない方は、ぜひこの機会にプレイしてみてほしい。
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