怒涛の攻めからの気絶が楽しかった対戦格闘ゲーム『ファイターズヒストリー』
1993年に『ファイターズヒストリー(FIGHTER’S HISTORY)』(データイースト)は発売されました。
当時中学生だった私は、友達とともに対戦格闘ゲームを片っ端からプレイしていて、発売された格闘ゲームはとりあえずプレイするという状態だったのですが、たくさんあった格闘ゲームの中でこの『ファイターズヒストリー』は、ひときわ異様な存在感を放っていました。
『ファイターズヒストリー』は、その濃いキャラばかりが注目されがちですが、実は操作をしているだけで気持ちがいいという貴重なゲームだったんです。もちろん私たちは夢中になりました。
今回は、そんな操作しているだけで気持ちいい『ファイターズヒストリー』の魅力と、その派生系譜について語ってみようと思います。
※アイキャッチ画像はコンシューマー版のものです。
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『ファイターズヒストリー』が発売された時代背景
『ファイターズヒストリー』が発売された1993年は、映画『ジュラシック・パーク』が公開され、TVドラマでは『あすなろ白書』(フジテレビジョン)がヒットしています。
そんな時代の中、私は『ファイターズヒストリー』と出会うわけですが、どんなゲームかをお伝えする前に、まずはこのゲームがどのような流れで発売されたのかを振り返ってみたいと思います。
当時のゲームセンターは、『ストリートファイターⅡ』(以下『ストⅡ』、1991年/カプコン)の登場によって対戦格闘ゲーム一色となりました。格闘ゲームというジャンルは、決して新しいものではありませんでしたが、見ず知らずのプレイヤー同士がゲーセンで対戦するという遊び方は『ストⅡ』によって普及し、そして大流行します。もちろん私も、友達や知らないお兄さんたちと対戦しまくりました。
以下は『ストⅡ』以降に発売された対戦格闘ゲームです。
1991年03月 『ストリートファイターⅡ -The World Warrior-』(カプコン)
1991年11月 『餓狼伝説 -宿命の闘い-』(SNK)
1992年02月 『富士山バスター(フジヤマバスター)』(カネコ)
1992年04月 『ストリートファイターⅡ’ -CHAMPION EDITION-』(カプコン)
1992年07月 『ワールドヒーローズ』(アルファ電子)
1992年09月 『龍虎の拳』(SNK)
1992年12月 『ストリートファイターⅡ’ TURBO -HYPER FIGHTING-』(カプコン)
1992年12月 『餓狼伝説2 -新たなる闘い-』(SNK)
1993年03月 『ファイターズヒストリー』(データイースト)
1993年03月 『ナックルヘッズ』(ナムコ)
1993年04月 『タオ体道』(ビデオシステム)
1993年04月 『ワールドヒーローズ 2』(ADK)
1993年07月 『バーニングライバル』(セガ)
1993年07月 『サムライスピリッツ』(SNK)
1993年09月 『スーパーストリートファイターⅡ The New Challengers-』(カプコン)
当時の一番人気は『ストⅡ』シリーズですが、大人気すぎて常に順番待ちの行列ができています。だから仕方なく他の格闘ゲームをプレイするという人が大勢いましたし、私もその一人です。とにかく需要があり、『ストⅡ』に似た傾向のゲームがたくさん発売されました。
そんな中、1993年にようやく自分が夢中になれる対戦格闘ゲームが登場します。
それが『ファイターズヒストリー』です。
敵を殴るだけで気持ちがいいゲーム
『ファイターズヒストリー』は、データイースト(*01)が製作した対戦格闘ゲームです。
緻密に描かれたドット絵と重厚なヒット音、レスポンスのいい操作感で敵を殴ったときの衝撃が伝わってきて、キャラを動かしているだけで気持ちがいいという非常に爽快感のあるゲームでした。
「何を当たり前のことを言っているんだ」と思うかもしれませんが、実はこの格闘ゲームとしての当たり前に、『ストⅡ』以降『ファイターズヒストリー』以前のゲームでは(急いで作ったからなのか)なかなか出会えなかったんです。
『ファイターズヒストリー』は面白さの基本をしっかりおさえたゲームでした。操作は8方向レバーと6ボタン。ボタンは弱パンチ・中パンチ・強パンチ、弱キック・中キック・強キックという、いわゆる『ストⅡ』スタイルです。
実は、6ボタンの格闘ゲームは、『ファイターズヒストリー』以前だと『ストⅡ』シリーズくらいでした。例えば、以前のネオジオ(*02)のゲームは筐体にボタンが4つしかないため、初期の格闘ゲームは最大4ボタンでした。ちなみに、『餓狼伝説2』(1992年)は4ボタンに加えてボタン同時押しによるライン飛ばし攻撃とライン移動の擬似6ボタン。『サムライスピリッツ』(1993年)以後は、4ボタンにボタン同時押しの強攻撃2種を加えた合計6ボタンの格闘ゲームが増えていきます。
そういった意味で、『ファイターズヒストリー』も格闘ゲームで6ボタンの流れを作ったゲームの一つといえますね。
それが決定的だったかどうかは不明ですが、『ファイターズヒストリー』は『ストⅡ』を制作したカプコンから著作権問題で訴訟を起こされてしまいます。
両者は最終的に和解していますが、『ファイターズヒストリー』とほぼ同時期に発売された他のゲームにも6ボタンのタイトルは存在したので、訴訟の理由にはさまざまなウワサがありました。
当時『ファイターズヒストリー』が好きだった私は中学生でしたから、「このゲームが一番おもしろかったから訴えられたんだ」という、実に中学生らしい(しかし、案外真相を言い当てているんじゃないかという)、そんな理由を信じていました。
「(訴訟の理由は)勝利画面の溝口誠(というキャラクター)が『ストⅡ』のリュウに似ているから」という説を信じている友達もいました。溝口というキャラは、後に『ファイターズヒストリー』の顔となるくらい、非常にキャラが立った高校生(27歳)なのですが、それがまた『ストⅡ』のキャラクター「リュウ」を嫌な方向にリアルにしたというか、関西弁にした感じというか…。その真相はさておき、この説も妙な説得力を持っていました。中学生にはね。
野心的で魅力的なシステムが盛りだくさん
『ファイターズヒストリー』は、確かに『ストⅡ』に似ているところが多々ありますが、それでも「弱点システム」など魅力的なオリジナリティもたっぷりありました。
「弱点システム」とは、その名のとおり弱点を何度か攻撃すると相手を気絶させられるというものです。弱点は「シャツの稲妻マーク」や「ハチマキ」「胸当て」「レッグバンド」など、特徴的なアイコンで隠されており、たいていは3発程度ではがれてキャラが気絶します。
たった3発で弱点の印(ハチマキなど)がはがれるので、弱点の位置によっては非常に気絶させやすいのですが、一度弱点がはがれると、そのラウンドでは二度と気絶させられません。試合は攻守が目まぐるしく変わるスピーディーな展開で、プレイしているほうは手から汗が吹き出ますし、見ているほうも目が離せない状態となります。
溝口というキャラは、飛び道具と対空突進技、空中連続蹴りという必殺技を持った、一見オーソドックスなキャラなのですが、実は対空必殺技を持ちながらも弱点がハチマキ(頭部)というたいへんリスキーな、彼の生き様にピッタリな設定でした。
しかも、対空必殺技の「虎流砕」は対空に使いにくく、どちらかというとその突進力を生かして地上の敵を押しまくる技です。しつこくジャンプ攻撃をされると非常に苦しかった記憶があります。
さらに「タイガーバズーカ」という飛び道具は、「タイガーバズーカじゃ!」という豪快な声とは裏腹に、素早くしゃがんで低姿勢から飛び道具を高速で放つという非常に姑息な技でした。近距離でガードされるとほぼ反撃が確定なのですが、とにかく発射が速いので、不意を突いて撃つのに最適です。
そして、極めつけは「空中連続蹴り」という、技名がそのまんま技の性能を説明している必殺技です。プレイした人には「チェスト」と言ったほうが馴染み深いかもしれません。
この「空中連続蹴り」は、実は追加入力技の元祖ともいえる技で、対戦格闘ゲームで追加入力により連続して攻撃が出せる必殺技は、筆者が調べた限りではこのゲームが初めてです(『ストⅡ』シリーズの人気キャラ・春麗(チュンリー)の「空中踏みつけ攻撃」とは、ちょっと違うような気がします)。
この追加入力技は当時としては新鮮で、しかも入力しているだけでおもしろいものでした。
レバーをぐるぐる回しながらキックボタンを連打すると、画面では溝口が「チェスト! チェスト! チェストォ!」と叫びながらジャンプキックを連発します。
このジャンプキックがまた、不意に飛び出だす上に低空なので、意外にもよく当たるんです。しかも、しゃがんだ敵のちょうど頭にヒットするので、弱点が頭のキャラはあっという間に気絶させられてしまいます。
卑怯というか、単純な操作のわりに有効な戦法なんですけれど、とはいえ、溝口も頭が弱点なので、それほどズルい印象はありませんでした。
末永く愛される『ファイターズヒストリー』
『ファイターズヒストリー』は豪快な技が多く、いきおいでごまかしながらもゴリ押しするのが楽しいゲームでした。しかし、攻守が目まぐるしく変わり、一方的に攻めるようなことがなかったので、わいわい友達と対戦するのが楽しいゲームでもありました。
それはどうやら私の周りだけの評価ではなかったようで、アーケードゲームが発売されてから1年後の1994年にはコンシューマー版が発売され、ゲーセンでも『ファイターズヒストリーダイナマイト』という続編がMVS筐体(ネオジオ)で発売されます。
その後も、溝口が主人公となる『ファイターズヒストリー~溝口危機一髪!!~』(1995年)が発売されたり、『水滸演武』(*03)シリーズ(1995年/データイースト)や携帯ゲームアプリの『餓狼伝説VS.ファイターズヒストリーダイナマイト』(2007年/SNK、ジー・モード)などに溝口が登場したりもします。
しかも、「カタログIPオープン化プロジェクト(*04)」の対象タイトルにもなり、日本国内のクリエイターにIP(知的財産権)の一部を開放しました。このことにより『ファイターズヒストリー』に登場するキャラクター、音楽、ストーリー、設定などを使用した二次創作作品が、日本国内のクリエイターによって作られるようになります。『ファイターズヒストリー』はこれからもデジタルコンテンツとして存続し続け、溝口の下品なシャウトが未来永劫鳴り響くのです…。
なんだか壮大なお話になっちゃいましたけど、『ファイターズヒストリー』が近い将来、いろいろなクリエイターの手によって創作され、どんどん進化していく可能性が出てきたことは、一ファンとしてとてもうれしく思いますし、楽しみなところでもあります。
まだ『ファイターズヒストリー』を遊んだことがないという人は、プロジェクトEGGでコンシューマー版が配信されているので、ダウンロードして遊んでみてくださいね。
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脚注
↑01 | データイースト : かつて日本に存在したゲームソフトウェア開発会社。デコ(DECO、Data East COrporationの略)の愛称を持つ。デコの製作したゲームは「デコゲー」と呼ばれ、その濃い内容から熱心なファンがついていた。「データイースト復活PJ」公式サイト |
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↑02 | ネオジオ(NEOGEO) : SNKが開発・販売していた業務用ゲーム機。もともとは家庭用ゲーム機として開発が進められたが、後に業務用にも流用されるようになった。 |
↑03 | 水滸演武 : 中国古典文学の『水滸伝』をもとにデータイーストが開発・発売した対戦型格闘ゲーム。 |
↑04 | カタログIPオープン化プロジェクト : 『パックマン』や『水滸演武』など39タイトルのカタログIPを日本国内のクリエイターへ開放し、スマートフォンアプリなどのデジタルコンテンツ領域で広く活用できるようにしたプロジェクト。2016年バンダイ・ナムコ統合10周年記念企画として2015年4月から始動している(企画受付は終了、作品公開は2020年3月末まで)。 |