ストーリーを文字以外で語った『ファイナルファイト』
『ファイナルファイト』は、1989年12月発売のアーケードゲームです。
1989年は、どんな年かというと、1月7日に昭和天皇が崩御して昭和から平成になった年です。また、4月に「ゲームボーイ」が日本で発売、8月には「Sega Genesis(セガジェネシス:メガドライブに相当)」が北米で発売されました。
映画は「インディ・ジョーンズ/最後の聖戦」と「バック・トゥ・ザ・フューチャー PART2」が、本国と日本で公開されています。
そんな時代に、カプコンは『ファイナルファイト』をゲームセンターに送りこみます。ジャンルはベルトスクロール・アクションで、敵を倒しながらひたすら前に進むという単純明快なゲームです。新たなジャンルというわけではありませんが、その高い戦略性と魅力的なキャラクターでたちまち人気を博します。
そして次々と家庭用ハードに移植されていくわけですが、筆者がこのゲームと出会ったのは、実はゲームセンターではなく、また、スーパーファミコン版でもありませんでした。
『ファイナルファイト』との出会いは、自分が中学生だった1990年の冬、小学校の同窓会で行ったボーリング場です。その片隅にあるゲームコーナーから聞こえてくる「ンオ゛オ゛ォォオ゛! ンオ゛オ゛ォォオ゛!」という叫び声、歩を進めて筐体を覗き見ると、大男が半裸で暴れていました。大量のチンピラどもを右に左に吹き飛ばしています。もう画面のなかは惨劇です。
―ひどく荒ぶったゲームに出会ってしまった。
当作品の魅力を正しく伝えているかどうかはともかくとして、それが筆者の『ファイナルファイト』に対する第一印象でした。
「筋肉もりもりマッチョマン」のハガーがボディプレスで飛んでゆく
後に筆者は、この荒ぶる大男の正体が「マイク・ハガー」という元プロレスラーの市長で、さらわれた自分の娘を追っていることを知るわけですが、このときは他人のプレイを途中から見ていますので、そんなことは一切分かりません。
ハガーの印象は、ひたすら奇声を発して、しかもボディプレスで後ろ方向に飛んでゆく「筋肉もりもりマッチョマン」です。ちなみに「筋肉もりもりマッチョマンの変態だ」というセリフが印象的なアクション映画「コマンドー」ですが、これは1985年の公開、テレビでの初回放送は1987年です。ハガーがどことなくベネットに似ていると思うのは、筆者だけでしょうか……。
さて、そんな『ファイナルファイト』は、シリーズの全世界の累計販売本数が320万本(CAPCOM IR シリーズソフト販売本数より)という大ヒット作品です。
その後、筆者がハマったのは言うまでもありません。
駅前のゲームセンターで夢中になりました。
バックジャンプやパンチはめで上達を実感できた
1989年前後のゲームセンターというのは、まだまだ薄暗くてトイレが汚くて、そしてタバコの臭いの立ちこめるようなところでした。筆者の住んでいた神奈川の山奥では特にそうでした。
しかし、そんな所に通ってまでプレイするほどの魅力が、『ファイナルファイト』にはありました。
パンチやキックといった攻撃がどれも爽快で、ただボタンを押しているだけで気持ちよかったからです。ギラギラとしたBGMも刺激的で、グラフィックも抜群に綺麗でした。
何度も通い詰め、ゲームの腕が上達すると、パンチを数発ヒットさせてから(回数はキャラによって異なる)、レバーを後ろ方向に入力してパンチを空振りさせ、また敵の方向を向いて同じことの繰り返すという「パンチはめ」や、上述のハガーが連発していたバックジャンプで、敵を楽に処理できるようになりました。
また、ボタン同時押し技の「メガクラッシュ」は、体力を消費する代わりに無敵攻撃を放つという技なのですが、実のところ消費する体力は、敵に殴られるよりも少なくてすむことが多いです。しかも敵にヒットしなければ体力は消費しませんので、少しでも危険を感じたら「メガクラッシュ」を放ったほうがお得です。
このような攻略法がいくつも存在し、プレイするたびに上達が感じられたのも魅力的でした。
ストーリー性のあるステージ構成
『ファイナルファイト』の魅力は、多彩な攻撃法だけではありません。ゲーム画面から伝わってくるストーリー性にも強く惹かれました。
当時のゲームは、今のゲームと比べてテキストがとても少ないです。『ファイナルファイト』も文字でストーリーを伝えるのは、コイン投入前のデモとエンディングのみでした。
しかしこの作品は、文字以外でストーリーを語るのが上手かったのです。
ゲームがスタートすると、プレイヤーキャラの眼前にはドラム缶が並んでいます。そして、ドラム缶の向こうに女性を抱きかかえた敵がいます。
この女性はハガーの娘で、彼女を取り戻すのが当作品の目的なのですが、ここで注目したいのは彼女のボディコン姿ではなく、抱きかかえている敵のほうです。
こういった演出の場合、奪い去るのはたいていラスボスです。そうじゃなくても、ラストステージまで一気に連れていってしまいます。ところが『ファイナルファイト』でハガーの娘を誘拐したのは、ステージ1のボスでした。このちょっとした違いが物語を面白くします。
プレイヤーは、このボスを倒したときに、「主人公は、連れ去ったヤツらに追いついたけれど、すでに女性は誰かに渡された後だったんだ」と察します。ボスと戦った場所には、地下鉄の階段がありますから、それで追跡することになります。
『ファイナルファイト』の主人公は、ほかのゲームとは違い、ラストステージに向かっているのではありません。誘拐犯をリアルタイムで追いかけているのです。だからマップ上では寄り道や回り道をしているように見えても、なんの不思議もありません。
「各ステージのボスに、行方を聞いているんだな」と、容易に想像がつくのです。さらにステージは、スラム街から徐々に富裕層が住むような華やかな場所へと移り、誘拐した犯人が強大な権力者であることを予感させます。
実は『ファイナルファイト』のストーリーは、コイン投入前のデモやインストカードを読めばだいたい分かります。それだけで十分です。しかし、ゲーム中のちょっとした演出からも伝えることで、物語にいっそうの厚みが増しました。こういった演出に対する細かな配慮は、当時のゲームには、ほとんど見られなかったと思います。
『ファイナルファイト』を遊びたいなら全国各地のゲーセンで
『ファイナルファイト』は、スーパーファミコンやメガドライブ(メガCD)といった、以下のようなゲーム機に移植されました。
①『ファイナルファイト』 Wii U(バーチャルコンソール)
1990年に発売されたスーパーファミコン用の『ファイナルファイト』がプレイできます。
②『ファイナルファイト』 Newニンテンドー3DS(バーチャルコンソール)
こちらも同じくスーパーファミコン用です。アーケード版とは若干内容が異なります。
その後も『ファイナルファイト』は、PlayStation 2やXbox 360(Xbox Live Arcade)、iPhone(iOS)などに移植されました。しかし、これらの移植作品は、ハードやソフトが入手困難となったりアプリの配信が停止したりといった状況です。
というわけで、『ファイナルファイト』をプレイしたい場合は、懐かしいゲームを取り扱っているゲームセンターに行くのがオススメです。私は、最近、秋葉原の「Hey」で遊びました。まだまだ、現役で稼働しているお店も多いようです。
ベルトスクロール・アクションというジャンルを流行らせ、一時代を築いた『ファイナルファイト』。そのギラギラとしたサウンドと世界観、刺激的な難易度をぜひゲーセンで味わってみてください。
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