「メガドライブの時代」を詰め込んだタイムカプセル、メガドライブミニのキーマンに訊く 前編
スロットのギミックがメガドラタワーミニを可能にした
――今回、数量限定でメガドラタワーミニが同時発売されますが、これは当初から予定があった製品だったのですか?
宮崎 ぼんやりとはそういうパターンは考えていました。もっと言うと、最初期の企画では「実際に動くメガCD」という案もあったんですよ。同様にスーパー32X(*01)も実際に動くという企画もあったのです。ただ、そもそもスーパー32Xの対応ソフトって何本あったんだよという(笑)。30タイトルくらい?
奥成 17本ですね。
宮崎 まあ、そんなふうにいろいろあり(笑)、スーパー32Xはチップの問題もあって今は無理だな、と。そんなことを考えているうちにメガドライブミニに集中しようということになりまして、メガCDミニやスーパー32Xミニは実現こそしませんでしたけど、くっつけることができるようなギミックは残しておこうよというこだわりはありました。
奥成 初期には、ソフトを入れ替えたら何度でも出せますということも議題にあったんですが、松原社長(*02)から「そういうのではなくて、1回ですべてを出し切って、後に残すことを考えるな」と言われたのがもとで、42タイトルを一気に詰め込むことになったんです。
ギミックについては、過去にミニ(版ゲーム機)が出た時に「あれ、ここのフタが開かない!」みたいなことが個人的体験としてあったので、作るなら全部動いてほしいという要望がありました。
宮崎 その時点では、奥成の発言は話半分に聞いていましたけどね。「とりあえず一応ギミックは作っておくけど、単なる飾りで終わる可能性も相当高いと思うから」と断って。そうしたら、ハードの設計企画部隊のほうから「とりあえずやってみました」といった感じで試作品が来まして、思ったよりいい感じだったので「あくまで装飾品」として作ってみることになったんです。「ここまでやったらロックオンカートリッジ(*03)も必要ですよ。そこまでやってタワーなんだから」と行くとこまで行っちゃったわけですよ。恐る恐るボスのところに持っていったら、これがまた大反響でしてね。
そういえば、(3月に開催した)「セガフェス2019」でのこぼれ話なんですが、カートリッジスロットの所を触りながら「ここも動くんですよ」と言ったら、手前の席のギャラリーが「おおー!」と沸きましてね。これだけウケるならガチでやってもいいかなと、あの時思いました。
奥成 最初に再現しようと思った時に、まず完全なミニチュアを作ってみたんですよ。それで、すべてのギミックを入れたサンプルができた時に「製品ではおそらくボリュームレバーはゼロかMAXかで固定になると思いますがどっちがいいですか?」と聞かれてしまい、「せっかく動くものがあるんだからちゃんと動かそうよ」と答えたことがありました。
ヘッドホン端子は生かすと原価が大きく上がってしまうので断念しましたが、カートリッジスロットはギミックとしてやっぱりみんな指を突っ込んでみたいよねと。あと、横の拡張端子もフタを付けてきちんと本物同様に開けられるようにと譲りませんでした。さすがに中の基板までは見えませんが(笑)。
これらを開けられるようにしておいたら、もしかしたら何かが起こるかもしれないという期待もありまして「開けられるようにしたら原価はどれくらい違うんですか?」と聞き、数字を聞いて「よっしゃ開けよう!」ということになりました。
奥成 そういえば、当時メガドライブの設計をやっていた者が、今回のメガドライブミニの設計も担当しているんですけど、実は「メガドライブ1」と呼ばれる本体だけでも初期と後期でデザインが異なっているんです。初期は円形の下部にワインレッドでプリントされた文字と塗り分けされた部分があるのですが、後期ではコスト削減を図ってプリント文字をなしにして、塗り分け部分は別パーツで対応しています。そうなると、当然再現するにあたって「どっちにするの?」という話が出てくるわけですよ。
こういうことはアメリカ向けのジェネシスや欧州のメガドライブでもありまして、時期によってけっこう色が違ったりするんです。最終的に何色にするのかとなった時に、まず色を決めてから現地の工場に行って色見本を比べながら「この色じゃない」なんてことを何度もやりました。この赤の色、このボタンの色といった具合に、一つ一つ「これがメガドライブだ」と言えるようなカラーを探して、かなり四苦八苦しながら調整しています。
プレイ感覚を損なわない、6ボタンパッドへのこだわり
大堀 先ほどからコントローラーも触らせてもらっていますが、よくできていますね。
奥成 コントローラーも再現にずいぶんこだわりました。コントローラーも本来、メガドライブ1であれば3ボタンパッドにすべきなんですが、6ボタンのほうが操作性はいいんです。なので「6ボタンでいきましょう」と言ったら、北米や欧州のスタッフからは「いや、我々は3ボタンがいい!」と。やっぱりジェネシスは3ボタンなので、海外向けとしてわざわざ3ボタンパッドを別途作ることになりました。
でもそうしたら、北米のジェネシスと欧州のメガドライブではプリントは違うし、色も違うから、それぞれの地域向けに変えなければいけない。さらに、そのプリントも「どのバージョンを再現するのか?」という話になりまして、結局あらゆる部分でどのバージョンを採用するか揉めたのです。うちのハード設計担当は「もう、面倒くせえなー」と言いながらうれしそうに選んでいました。
手元にあるコントローラーはまだプリプロの段階ですが、コネクタ部分にセガロゴが入ります。サイズの都合で横向きになってしまいますが「しょうがないよねー」と言いながら喜んで作業しています。
大堀 コントローラーのサイズは当時と同じなんですか?
奥成 はい。当時のものとまったく同じです。海外を含めたライセンス品でもけっこう本物同様に再現したコントローラーはあるのですが、今回セガが作っているものは当時の設計から起こしているので、それらの品よりは群を抜いた再現度を誇っています。
さすがに四半世紀経っているため、当時の部品とは違っている箇所があり、完全に同じものというわけではありませんが、限りなく当時と同じ感覚で遊べるものにしています。部品の担当者によると、まったく同じ部品ではないため100%とは言えないまでも、普通の人ではまず区別がつかないレベルということです。
「X、Y、Zのボタンの高さがまだちょっと違っているね」なんて言ったりして、最終的にいい感じにまとまっていると思います。そもそも、新品か使い込んだボタンかによっても感触が変わるんです。コントローラーの再現は本当に苦労させられます。
そういえば、手元に持っている私物の6ボタンパッドと見比べていた時に、スタートボタンのプリントが異なっていたので現場に問い合わせたことがあったのです。そしたら、「あなたが見ているパッドはどのバージョンですか?」と逆に聞かれまして。慌てて手持ちの6ボタンパッドを4~5個かき集めてみると、全部スタートボタンの文字が違うんですよ(笑)。そういった紆余曲折の中で1つを選んで今回の製品に採用しているんです。
大堀 普通に考えれば、途中で文字を変える理由なんかないでしょう。
宮崎 それはおそらく、途中で製造工場が変わったんじゃないでしょうか。特にプリントは型があるわけじゃないですからね。指示はしたけれど、若干サイズが変わってしまうといったことはあったと思います。
奥成 「セガフェス2019」ではコントローラー付きで実際に試遊してもらうことができたのですが、ファンの方からお墨付きをもらえたようで我々もホッとしました。遊んでくださった方が違和感なく使っていただけたのは良かったですね。
大堀 マニアの目にさらされるというのはある意味怖いですけど、味方につけることができればこれほど心強いことはないですね。
次回予告
メガドライブミニの魅力は、ハードウェアのこだわりはもちろんのこと、従来の復刻版ミニゲーム機とは一線を画するその強力なソフトラインナップにある。次回の後編では、ソフト選定にあたっての内幕や、『テトリス』『ダライアス』といったタイトルを新規開発・収録した真意に迫る。
宮崎 浩幸 氏
1993年セガ入社。セガの国内アジアプロモーションを統括しているだけでなく、生き字引と言われるほどの長きにわたり、セガコンシューマハードの立ち上げから統括、一部ソフトのプロデューサーとしてもかかわってきた。メガドライブミニのプロジェクトマネージャーに加え、eスポーツ推進室室長も務める。
奥成 洋輔 氏
1994年セガ入社。2005年よりPS2「SEGA AGES 2500シリーズ」のプロデューサー職に就いて以降、Wiiやニンテンドー3DSのバーチャルコンソール、ニンテンドー3DS「セガ3D復刻プロジェクト」など、さまざまな形でセガの旧IPを復刻してきた。メガドライブミニでは宮崎氏と並んでプロジェクトのキーマンである。
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脚注