ジョイスティックとボタンに込めた職人魂、三和電子に聞く・中編
大型筐体では必須の照光式ボタン
鵜木 照光式ボタン(*01)もまた、もとはアメリカから来たものなのですが、薄型タイプを開発したのは三和電子で、今流通しているものはほとんど薄型タイプですね。
メーカーさんごとに要望は多岐にわたるので、それに合わせて弊社の製品も種類が豊富です。薄型が多いと申し上げましたが、クレーンゲームのボタンのようにしっかり押した感があるほうが間違えて押される心配がないため、厚型が喜ばれますし、逆に音ゲーのように、連打が求められるゲームだと薄型が喜ばれるなど、ケースバイケースです。
佐藤 いずれにせよ、耐久力が求められる箇所に使用されるケースが多いので、長年の納入実績のおかげとはいえ、弊社のボタンを選んでいただけるのはうれしい限りです。
実は、アミューズメントばかりでなく、TV番組用の小道具や博物館の展示物用といった特殊な用途のお問い合わせもたびたび頂いているんですよ。身近なところでは、駐車場の発券機のボタンへの採用事例なんてものもあります。
――ハート型や星型はあまり使い道が思いつきませんが、三角型などはエレベーターの上下ボタンみたいな使い方ができそうですね。
大森 ハート型や星型といった特殊な形は一応採用例があったので作ったものですが、確かにあまり出ませんね。三角は4つを並べて方向指示ボタンといった需要が多いです。余談ですが、弊社のトイレの押しボタンには、うちの照光式ボタンを採用していますよ。
「調整中」による稼働ロスを減らす、メンテナンス性の工夫
大森 照光式ボタンにもいろいろな形があるのですが、その一方で、スイッチもだいぶ昔と比べて変わってきています。最初の頃はマイクロスイッチが直接付いていたものだったんです。このタイプは、スイッチとランプを合わせて4カ所配線をしなければならなかったのですが、それを1カ所にまとめたものが「ワンタッチランプホルダー(*02)」という部品なんです。
大堀 これなら差し間違えもないし、何より交換が楽ですね。
大森 その通りです。さらに、マイクロスイッチをリードスイッチに変更して長寿命にした「ワンタッチランプホルダー」、光センサースイッチを使用した、さらに長寿命の「ワンタッチランプホルダー(フォトスイッチ一体型)」というものもあります。いずれにせよ、上のボタン部分とワンタッチランプホルダーは、45度ひねるだけで取り付け・取り外しができるので、メンテナンス性は飛躍的に向上しました。
――昔は、ボタンのランプが1つ切れただけで「調整中」の札をかけて、その筐体は丸1日営業できなかったわけですから、それは大きな進歩ですね。
大堀 それに、昔のボタンは下にあるコネクターに挿していただけだったから、長時間遊んでいると振動で抜けてくるんですよ。
大森 このワンタッチホルダーも、初期の頃はパーツの品質にばらつきがあって簡単に緩むものもあったんです。当時はその調整に試行錯誤したものでしたが、度重なる改良の甲斐あって勝手に緩むことはまずなくなりました。スイッチメーカーと協業で何度もモック(試作模型)を作って、1年くらいやり取りをしていたと思います。
大堀 何気なく押しているボタンですけど、目に見えない苦労があったんですね。
鵜木 脱落が起きない上にワンタッチになったということで、革新的だと各メーカーさんから大変良い評価を頂きました。
佐藤 また、これはお客様から見えない部分なのですが、ボタンに限らずジョイスティックも複数の構成パーツから構成されています。これらの部品は保管の際の湿度などに気を付けないと、部品ごとに変形して感応性が変わることがあるんです。そのため、弊社では組立前の部品の保管についても、同じ倉庫の中でも高い場所に保管するなど、温度差・湿度差が変動しにくいように留意しています。
――そこまでされているとは、ただ遊ぶ側の立場からは考えもしませんでした。
大森 いえ、考えなくても大丈夫ですよ(笑)。
次回予告
次回はいよいよ最終回。最後はジョイスティックレバーやボタン以外の三和電子製品群はもちろんのこと、長年の業務用機ノウハウを投入した家庭用向けアケコン、さらに、近年躍進著しいeスポーツへの取り組みなど、同社の新たな分野への取り組みについてご紹介する。次週公開予定。
三和電子
1982年に創業以来、一貫して業務用ジョイスティックレバーやボタンをはじめとする周辺パーツを開発・販売してきた、アーケードゲーム業界の影の立役者。近年では、その長年培ってきた高信頼パーツを武器に、家庭用ゲーム機向けのアーケードコントローラー(アケコン)の販売もおこなっている。公式サイト
脚注