圧倒的なグラフィックとサウンドでゴシックホラーの世界を表現した『悪魔城ドラキュラ』

  • 記事タイトル
    圧倒的なグラフィックとサウンドでゴシックホラーの世界を表現した『悪魔城ドラキュラ』
  • 公開日
    2019年07月10日
  • 記事番号
    1128
  • ライター
    前田尋之

8週連続でお届けした「KONAMI 50周年アニバーサリーコレクション記念特集」も、いよいよ今週が最後となる。今週は、ホラーアクションゲームの名作『悪魔城ドラキュラ』(1988年)を紹介する。人気シリーズだけに筆者の主観がどうしても入りがちな本稿ではあるが、アーケード版の魅力が少しでも伝わってもらえれば幸いである。

アーケードゲームが家庭用ゲーム機に移植された例は、枚挙にいとまがない。そもそも、コンシューマー機自体が「アーケードゲームを家庭でも遊びたい」という思いから生まれたものだけに、独自のキラーコンテンツがなかった各家庭用ゲーム機において、人気アーケードゲームの移植タイトルの存在は強力なセールスポイントであった。

「任天堂VS.システム」のように、ファミコンゲームそのものをアーケードで稼働させようという発想で生まれた製品は例外として、家庭用ゲーム機向け発のタイトルがアーケードに移植されるというケースはほとんどなかった。『悪魔城ドラキュラ』はそんな数少ない例の一つであり、このような“逆移植”が成功した稀有な作品である

ファミコンからアーケードへの逆移植

1980年代、8ビットから16ビット世代の家庭用ゲーム機はアーケードとの性能差が大きく、「あの有名タイトルが家庭用に登場!」というキャッチコピーに胸踊らせたものの、現物を見てがっかりするというパターンが少なくなかった。搭載されたメモリやROM容量をはじめ、そもそもの値段差を考えれば無理もない話なのだが、家庭用ゲーム機のユーザーにとって、アーケードから移植されたタイトルの出来はなかなか納得いかないものも多かったのではないだろうか。

▲丁寧に描かれたグラフィックは美麗の一言に尽きる(画面写真はNintendo Switch版)

そんな折に発表された『悪魔城ドラキュラ』アーケード版のリリースは、ファミコンやMSXで遊んだオリジナル『ドラキュラ』ファンに驚きをもって迎えられた。『悪魔城ドラキュラ』といえば、ゲームの完成度もさることながら、ゴシックホラー風味の雰囲気を漂わせるグラフィックやBGMでも話題になったタイトルである。これらがアーケードクオリティにパワーアップしたらどれだけすごいものになるのか。いやがうえにも期待を抱かずにはいられなかった。

タイトルは同じ『悪魔城ドラキュラ』でも内容は別物のアーケード版

▲アーケード版のステージマップ。城にいるドラキュラ伯爵を倒すというストーリー設定は家庭用と変わらない(画面写真はNintendo Switch版)

アーケード版は横スクロールの面クリア型アクションゲームで、ファミコン版の6ブロック全18ステージを再構成した全6ステージからなる。『悪魔城ドラキュラ』とタイトルこそ同名であるものの、ムチを武器に戦うドラキュラハンター、シモン・ベルモンドが主人公であることや、ジャンプとアタック(メインウエポン、サブウエポン兼用)の2ボタンによる基本アクションといった基本的要素を踏襲している程度で、アーケードならではの派手な演出が多数盛り込まれたオリジナル作品となっていた

数ある同社タイトルの中でも『悪魔城ドラキュラ』のタイトルを冠した作品は、ほかにもスーパーファミコン版、X68000版があり、これらもお互いにリソースが共有されていないオリジナル作品となっている。逆に言えば、『悪魔城ドラキュラ』というタイトルが持つブランドイメージがそれだけ大きなものであるという証と言えるのかもしれない。

▲アーケードならではの演出が随所に挿入されている(画面写真はNintendo Switch版)

大きく期待されたグラフィックとBGMは大幅なパワーアップを遂げており、オリジナルの2倍以上のサイズで丁寧に中割りモーションが追加されたシモンのアクションは、「これぞアーケードゲーム!」と胸を張って言えるものであった

ライフ制が採用されたアーケード版

▲残機制ではなくライフ制となっている(プレイ動画:公式YouTubeチャンネルより)

オリジナルとの相違点で一番大きな部分は、残機制+ライフ制から純然たるライフ制(目盛りは16ゲージ)への変更だろう。キャラクターを大きくした分、敵の攻撃を避けにくくなったことに対する配慮と思われるが、シモンのモーション自体、中割が増えた分機敏さに欠ける点があり、ライフ制とはいえかなり難易度は高い

ちなみに、オリジナル同様に、ドラキュラ城内部の至るところに落とし穴が配置されているが、ここに落ちても一発死とはならず、ある程度体力が削られた状態で(ゲージ残量8未満だと体力は減らない救済措置がある)少し手前の場所から復帰する仕様となっている。

また、ゲーム中にコインを投入する方法(この場合はゲージが16目盛り分補充される)と、ゲームオーバー後のカウントダウン中にコインを投入する方法の2種類によるコンティニュー機能が設けられている。ただし、合計3回までしかコンティニューできないため、いわゆる連コインによる力押しプレイはできないシステムが採られていた。

結果的に万人向けとは言えない難易度になったとはいえ、この硬派なゲームバランスこそ『ドラキュラ』だ、という考え方もあるかもしれない。

▲当時のパンフレット。ロゴやメインビジュアルはファミコンやMSXと同じものが使用されている

『グラディウスⅡ』と同タイミングでリリースされた不運

『悪魔城ドラキュラ』自体は非常に知名度が高いタイトルであり、そのアーケード版ともなればもっと知られているはず、と思われがちな同作だが、実のところアーケード版に限って言えば、ややマイナーな扱いに甘んじている現実は否めない。ゲーム自体の出来自体は決して悪くはなく、前出の難易度の件はさておいて、今遊んでみても十分にやり応えがある。にもかかわらずこれだけ不遇をかこっているのは、リリースされたタイミングにある

本作が発表されたのは1988年の「AOUアミューズメントエキスポ」で、KONAMIブースにて出展されたタイトルは『グラディウスⅡ』(同年3月稼働)、『スーパー魂斗羅(こんとら)』(同年1月稼働)、『チェッカーフラッグ』(同年5月稼働)、そして『悪魔城ドラキュラ』(同年2月稼働)の4作であった。

いずれも単体でも十分な商品力を持つタイトルだったにもかかわらず、『グラディウスⅡ』が一気に話題をさらってしまったのである。これだけのビッグタイトルを一つのイベントに同時出展するという、当時のKONAMIの勢いもさることながら、『グラディウスⅡ』と同タイミングでぶつかってしまったのは不運であったとしか言いようがない。

▲本作でも最強のサブウエポン「タイマー」。すべての敵に有効(画面写真はNintendo Switch版)

初期『ドラキュラ』を遊び尽くす

同社の看板タイトルであり、比較的リメイクや移植の機会に恵まれた『悪魔城ドラキュラ』シリーズにおいて、アーケード版『ドラキュラ』をコンシューマー機に移植した例は数少ない。なにしろ、初の移植がアーケード版リリースから18年も経過したプレイステーション2版であり、さらにその10年後のプレイステーション4版くらいしか、これまで存在していなかった。

そんな同作が、このたび創業50周年を記念して登場した『アーケードクラシックス アニバーサリーコレクション』と『悪魔城ドラキュラ アニバーサリーコレクション』という形で立て続けにリリースされたのは、往年のファンにとって実にうれしいニュースといえる。

当時の水準では群を抜いた緻密なグラフィックやサウンドが知られることなく埋もれてしまうのは残念極まりないため、『アーケードクラシックス アニバーサリーコレクション』で、ぜひアーケード版『ドラキュラ』の世界にも浸ってほしいと願うばかりである。

なお、『悪魔城ドラキュラ アニバーサリーコレクション』にはアーケード版は収録されていないものの、ファミリーコンピュータ版をはじめ、シリーズの原点ともいうべき初期シリーズを多数遊ぶことができる。これを機に『ドラキュラ』三昧というのはいかがだろうか。

©Konami Digital Entertainment

前田尋之

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