高井商会探訪記~代表・高井一美氏に聞く ビデオゲームの歴史と保存~ 中編

  • 記事タイトル
    高井商会探訪記~代表・高井一美氏に聞く ビデオゲームの歴史と保存~ 中編
  • 公開日
    2019年06月13日
  • 記事番号
    1079
  • ライター
    外山雄一

ゲーム黎明期から現代まで日本のアミューズメント産業にさまざまな形でかかわり、ゲーム業界を見つめてきた高井商会の代表・高井一美氏へのロングインタビュー。前回は、創業から近年に至るまでの同社の歴史、事業の変遷についてお話を伺った。

全3回でお送りする本企画。中編となる今回は、高井商会が所有するアーケードゲーム筐体・基板の保管倉庫にお邪魔して、所有するAM機器についてのお話を、数々の名作ビデオゲームの移植・復刻を手掛けるエムツー(*01)堀井直樹社長と当研究所の大堀康祐所長とともに伺っていく。

【聞き手】
ゲーム文化保存研究所 所長:大堀 康祐
エムツー 代表取締役:堀井 直樹
ライター:外山 雄一

ゲーム基板・筐体レンタル事業の移り変わり

▲現在は基板・筐体の月額レンタル事業を行う高井氏

――今回はゲーム基板倉庫を見せていただく予定ですが、まずは、現在のリース業についてお聞かせください。以前は、売り上げを歩合で分けるリース業をされていましたが、現在は月額レンタルに形態が変わりましたよね?

高井 そうですね。喫茶店やバッティングセンター、ボーリング場がどんどん閉まり、最近ではゲームセンターも減った。月額レンタルにするようになったのは、1996年からですね。

――基板や筐体のレンタルの貸出先はゲームセンターだけではなく、2016年に開催された「GAME ON(*02)や、2015~2019年の「あそぶ!ゲーム展(*03)といった展示会にも貸し出しているそうですが、料金はいずれも同じ条件でやられているんですか?

高井 筐体物のレンタル料金はものによって異なりますが、基板は一律、1タイトルにつき1カ月1万円で貸し出しています。大体は月決めですけど、たくさん借りてくれる広域オペレーターさんに、ちょっとサービスしたりすることもあります。

――レトロゲームセンターの「ビデオゲームミュージアム ロボット 深谷店」には高井商会さんのコーナーがありましたね。今、取引先って何軒ぐらいあるんですか?

高井 今はそんなにないですね。

――イベントなどの貸し出しで、トラブルが起こることはありますか?

高井 一番困るのは故障ですね。基板はダメになっても、電話をもらえれば大概複数ありますから、入れ替え用の基板を送ってタイムラグも少なく稼働させることができるんですけど、筐体は…。筐体は原則として、動くかどうかをお客さん(リース先)にここ(長野県)で確認してもらって、(輸送業者に)引き渡しになるんです。引き渡し後に故障したりするときもある。機械ものなので、仕方のないことなのですが、その後、免責うんぬんという問題が出る場合もあります。だから、(筐体を)持って行くまでは「しっかりとテストをしてください」と言ってるんですが、なかなか難しいですよね。

――(リースする)お客さんはいろんな触り方をしますもんね。

高井 動かないのにお金払うというのもイヤでしょうからね。

――個人のお客さんに貸し出すこともありますか?

高井 ありますよ。趣味でゲームの音を録るとか、絵を撮るとかのために借りていく人もいます

――エムツーさんも、昔のゲームを移植するために、基板を解析する必要があったりするわけですよね? そんなときに高井さんからレンタルされたことはあるんですか?

堀井 直接レンタルはないですけど、あるメーカーさんから「高井商会さんから借りました」と言われた資料がウチに送られてくるときもあり、間接的にではありますが、高井さんにはお世話になっております。今回、ここを訪問できたのは本当に喜ばしいです。

いざ、ゲーム基板の保管倉庫へ

▲基板はあいうえお順で丁寧に整理されている

高井 こっちはアイウエオ順になっていて、こっちはメーカーのシステム基板です。VS基板(*04)とかCPシステム(*05)とかNAOMI(*06)とか。

堀井 (ケイブの)『エスプレイド』(1998年/アトラス)だけでも4枚はあるぞ!

――(アルファ電子の)『エクイテス』(1984年/セガ)が2枚ある!

堀井 温度管理も含めてしっかりと管理していらっしゃいますね

高井 温度は偶然なんで(笑)。あっちに特殊コンパネ(コントロールパネル)は全部置いているんです。基板と一緒に出さないといかんものはあっちに。

――これは確かに個人じゃ(管理するのは)無理ですね。

▲お気に入りのアタリ基板を眺める高井氏

高井 ここら辺がアタリの基板です。大体ハーネスがついているので動きます。修理には苦労しました。

堀井 アタリのある辺りを…(笑) あ、『スペースレース』(1973年/アタリ※国内では1974年にナムコが販売)や『アバランシェ』(1978年/アタリ※国内では同年にナムコが販売)まである!

高井 その辺を集めたかったんでね。

堀井 すごいな! いくつかは僕も所有していますが、このレベル(アタリ作品だけで54タイトル)ですか!

▲高井商会の素晴らしいコレクションにため息をもらす大堀所長(左)と堀井氏(中)

大堀 フードファイト』(1983年/アタリ)すらありますよ。

――ここは、おそらく日本で一番レトロゲームを所有している所でしょうからね。

堀井 日本で出回らなかったものもありますね

高井 そうですね、こういう『タックスキャン』(1982年/セガ)用のモニターとか注文しましたもんね。

堀井 本当だ! もう焼き付いている! カラーXYモニター。

大堀 モニターって今後どうなっちゃうんですかね? 壊れていくだけですもんね。

▲基板倉庫に置かれた表示テスト用モニター。基板によって表示形式が違うため、複数のモニターが必要

堀井 もうどうしようもないんですけど、ブラウン管の後ろのヨーク(*07)を巻くのを、手で巻いてXYモニターにしている人が、最近出始めていますね

高井 そうですね。

堀井 あれは狂っているんですけど、いかんせんブラウン管がこれ以上もう増えないので……。それにしてもこれはビックリですね。確かに、在庫リストを見て「たくさんあるんだろうな」と予想はついていたんですが……。

脚注

脚注
01 エムツー : 1991年創業、千葉県我孫子市に本社を置くゲーム開発会社。アーケードゲームの家庭用ゲーム機向け移植が有名だが、それに限らずオリジナルゲームの開発、キャラクターアニメーションツール「E-mote(エモート)」の開発などを手掛けるほか、2016年からは自社でのゲームパブリッシング事業にも乗り出している。
02 GAME ON ~ゲームってなんでおもしろい?~ : 東京・お台場の日本科学未来館において2016年3月2日~5月30日に開催された企画展。もともとは2002年にロンドンで開催された、バービカン・インターナショナル・エンタープライズによる展示会で、世界中を巡回して開催されている。公式サイト
03 あそぶ!ゲーム展 : 埼玉県が主催し、2015から2019年まで3回にわたり、同県の施設「SKIPシティ 彩の国ビジュアルプラザ 映像ミュージアム」で開催された企画展。公式サイト
04 VS基板 : ファミリーコンピュータをベースに、1984年に開発された任天堂のアーケードゲーム基板「VS.システム」のこと。
05 CPシステム : カプコン開発のアーケードゲーム用システム基板。大きく分けて、CPシステム(1988年)、CPシステムⅡ(1993年)、CPシステムⅢ(1996年)の3種類がある。
06 NAOMI : 1998年リリースのセガのアーケードゲーム基板。ドリームキャストをベースに開発された。
07 ヨーク : ブラウン管の中の電子ビームを偏向させるための電磁石「ヨークコイル」のこと。

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