高井商会探訪記~代表・高井一美氏に聞く ビデオゲームの歴史と保存~ 中編

  • 記事タイトル
    高井商会探訪記~代表・高井一美氏に聞く ビデオゲームの歴史と保存~ 中編
  • 公開日
    2019年06月13日
  • 記事番号
    1079
  • ライター
    外山雄一

レトロゲームファンは一度座ってみたい筐体応接室

▲所狭しと貴重な筐体が並んだ応接室(?)

一同 うわー!!

堀井 ここで応接される人がいるのか! いいな、ここにずっと座っていたい…。

大堀 ここで1日中話せそうですね。1台ずつ説明しながら話していたら、1日じゃ足りなさそうです。

高井 この椅子はユウビスさん(*01)が社長室のヤツをくれたんです。事務所移転するからって、(ユビウスの)川楠社長が持ってきてくれたんです。

堀井 そういう意味では、そこにも歴史がありますね。

大堀 スペースサイクロン』(1980年/タイトー)がありますよ。

堀井  セガ・グレムリン製の『スペースフューリー』(1981年/セガ)もありますね。

――せっかくなので、貴重なコレクションをいくつか紹介してください。

4色揃う『コンピュータースペース』(1971年/ナッチング・アソシエーツ)

▲2人プレイ用の『コンピュータースペース』筐体(緑)

大堀 コンピュータースペース』が4台……。これはどう違うんですか?

高井 これは2人で(プレイ)できるんですけど、ほかの3台は1人でしかできないんです。

大堀 これは初期の頃に出た筐体なのに。

高井 キレイですね。4色、これで全部です。

堀井 なんですか! カラーが揃っているじゃないですか!

▲『コンピュータースペース』の黄、青、赤の筐体は1人プレイ専用

当時問題作となった『デスレース』(1976年/エキシディ)

▲当時は問題作となった『デスレース』を前に、子供時代を振り返る大堀所長

大堀 「人を(ひき)殺すゲーム」とかで、当時は新聞で問題となりました。(自分が育った)八王子にはなかったです。

高井 青少年の育成にどうのこうのと。

――今の感覚で言ったら、大したことない表現なんですよね。先日(2019年3月2日~3日)行われた「埼玉ゲームシティ」の「あそぶ!ゲーム展」で、これを小学生が遊んでいましたよ。

高井 (ひき)殺す相手は、人ではなくモンスターと言ってはいますが、どう見ても人ですもんね。

堀井 (修理中の『デスレース』筐体を見て)この辺の筐体も、メンテナンスが済んでいて、必要とあらば貸し出す類のものなんですか?

高井 そうですね。

堀井 なるほど! じゃあ『デスレース』を(自宅に)置きたければ置けるんだ!

高井 でも故障がねえ。これ、修理するだけで20万円ぐらいかかったと思う。

大堀 動かすだけでも大変そうだよね。

堀井 本当に、割に合わないですね。

想像しながら修理をした『スプリント4』(1977年/アタリ)

▲『スプリント4』筐体を初めて見た筆者

高井 スプリント4』の修理には本当に苦労しました。

堀井 スーパースプリント』(1986年/アタリ※国内では1986年にナムコが販売)じゃなくて、『スプリント4』なんですね。これ、日本にあるんだ! 日本にあるのを初めて見ましたよ

高井 (『スプリント4』の後方を指しながら)『スーパースプリント』はそこにあります。『スプリント4』は、扉はないし基板はバラバラだし、(修理に)苦労しました。モニター、基板、ハンドル、すべて状態が悪く、サイドの扉もなかったんで、想像しながら自分で作ったんです。だから実物の通りか分かりません。

▲『スーパースプリント』と『ブレイクアウト』(1976年/アタリ)

勝利条件がいまいち不明?!『フットボール』(1979年/アタリ)

▲『フットボール』について語る堀井氏(左)と説明する高井氏(右)

堀井 アタリの『フットボール』だ! これナムコのゲームセンターにあったような……。

高井 ナムコさんとアタリさん、仲良かったですからね

堀井 (『フットボール』をプレイしながら)このデカいトラックボールがいいですね。

高井 これ、ゲームが分からないんですよ。サッパリ分からない。

――このパネルを見ても、アメフトのフォーメーションが描いてあるだけで、勝利条件が分からないですね。

ブラウン管が可動する『スペースタクティクス』(1980年/セガ)

▲『スペースタクティクス』の操作方法を説明する高井氏

大堀 これはセガの『スペースタクティクス』ですね。

高井 これは変わったゲームなんですよ。この筐体の中にモーターが入っていて、ブラウン管が可動するんですよ。画面上で映像が動くのではなく、ブラウン管自体が奥に入ったり、左右に動いたりするんです。

大堀 ブラウン管が動くんですか!

堀井 モニターが動くせいで、メンテナンスは大変そうですね。

高井 画面がいまだに完全に動きますから、なかなか珍しいと思います。電源を入れたら「ガーッ」と音が出ますよ。

――ボタンもたくさんあって贅沢ですね(笑)。

見事な保存状態の『デコカセットシステム』(デコカセ)

▲保存状態のよい大量のデコカセに全員が驚いた

堀井 デコカセがこんなに! 僕、ここの子になる!

大堀 デコカセ! 遠くから見てマンガが置いてあるのかと思ったら…。テープは、どんどん劣化してしまうので、こうやって保存していただけているのはありがたいですね。

きれいに整理された部品置き場

▲パーツは同じ種類ごとに分類・整理されている

――次に部品置き場に移動して、お話を伺いします。こちらはまたきれいに整頓されていますね。

高井 ここは全部ROMなんですけどね。

大堀 128」とか「64(*02)とか書いてありますよ。キレイに管理されてありますね。

高井 ひとつ部品がないだけで、修理が進まないときがありますからね。

――希少価値が高いものばかりですね。

大堀 もう作られていない部品とかあるんですよね。

高井 あります、ほとんどそうです。 16K(*03)TTLのSRAM(*04)とか、ヤマハの音源(*05)DRAM(*06)6502のCPU(*07)とかね。この辺はほとんど製造終了のものばかりです。

大堀 これは全部、ご自身で部品を取って管理されているんですか?

高井 たぶん、ほとんどはそうだと思いますけど、部品屋さんが商売をやめるからと、もらったものもあります。

▲ひとつだけチップが外されたナムコのシステム2基板

大堀 (ナムコのシステム 2基板を見て)この基板は最終的にパーツを取られて終わったヤツなんですか? それともこれから何か…。

高井 実は、『ファイナルラップ2』(1990年/ナムコ)を作るために、ナムコさんがこの石(ICチップ)を欲しがったんですね。この石さえ手に入れば、動く基板がいっぱいあるんです。

大堀 我々素人だと、(この石を)作ればいいのでは? と思ってしまいますが…。

高井 でも、作ると1~2カ月かかるらしいです。『ファイナルラップ2』の急ぎの注文が来たとか。こんなものでも100万円ぐらいはかかるんですよ。

大堀 これはそもそも何の基板なんですか?

高井 これはシステム2ですね、『オーダイン』(1988年/ナムコ)や『ワルキューレの伝説』(1989年/ナムコ)などのICチップをそこ(抜けている部分)に入れれば、完全な基板になって動くんですよ。

いろいろな工夫が詰まった高井氏の作業場

▲高井氏の作業場。ここで数々の名作を修理してきた

高井 ここが私の作業場です。

――作業台の右手にはオシロスコープがありますね。

高井 ここには今から修理する基板を置いてあります。

大堀 パックマン』(1980年/ナムコ)のコピー版である『ハングリーマン』や『パックギャル(*08)など、同じ『パックマン』の基板を使っているとはいえ、それぞれで部品が違うわけですよね。基板ごとにそれぞれの部品を全部取って保管してありますね。

高井 そうですね。部品が異なるので一応全部取って保管しています。

堀井 容量の少ないRAMもありますね。

高井 そうですね。今、ないですからね。

大堀 昔の基板から外して、使えるものは使っているんですね。

堀井 それにしても、貴重な部品がここにはゴロゴロしている。ずっと蓄積していないと、こうはならない。

――しかも、集めているだけじゃ意味ないですもんね。

堀井 分類されていないと

▲基板から外されたアンプ類

高井 このアンプも、ものすごく役に立っているんです。セガさんなどの基板を全部外して、ここに保管してあります。

大堀 これはどうやって外すんですか?

高井 ハンダ槽に入れてハンダが溶けたところでピッと(アンプを)抜きます。このヒーターの温度が大切です

堀井 中のチップは壊さずにハンダが溶ける温度にするのが難しいですよね

▲基板からパーツを外すときに使用するヒーター

史料的価値の高い紙資料

▲ファイリングされ50音順に整理された紙資料

――ここは、基板に付属していたカタログやインストラクションカードなどを保管するコーナーですね。

高井 そうです。上の段がカタログ、フライヤーです。下の2段がインストラクションカード。麻雀は麻雀、NEOGEO(MVS)はNEOGEOでひとまとめにしています。まぁ大概のものはあります。

大堀 アイウエオ順で並んでいますね。(『スペースインベーダー』のコピー基板の)『ワールドインベーダー』(1980頃年/ワールド・ヴェンディング)とか出てきましたけど。

高井 珍しいところでは、『ワルキューレの冒険』とかもあります。

▲貴重な『ワルキューレの冒険』のインストラクションカードを見せていただいた

大堀 任天堂のVS筐体に入れるやつですね。これは珍しい。

堀井 (マ行のファイルを開きながら)すごいな。『マーカム』(1983年/サン電子)とかある!

大堀 『マーカム』! 30年ぶりぐらいに聞いたタイトルです。

堀井 SNKも忘れてしまったかなというくらいの古いタイトル『マービンズメイズ』(1983年/SNK)のインストラクションカードもありますね。お、『マーブルマッドネス』(1985年/アタリ※国内はナムコが販売)、『マイティガイ』(1986年/日本物産)、『マウサー』(1983年/UPL)もある!

大堀 やっぱりこの管理体制は目を見張るものでありますね。

堀井 語るネタなら十分すぎますよね…。『マッドエイリアン』(1980年/データイースト)に『マリンデート』(1981年/タイトー)、『マリンボーイ』(1982年/オルカ)とかもある…いや、ないですよ普通。

――『マリンボーイ』は弓削雅稔さん(*09)の処女作ですね。

大堀 マサオジャンプ(*10)もありますね。

堀井 そう、これが見たかったんです! あるだろうなと思ったら、やっぱりある! これらの紙資料は「ラベリングされて初めて資料になる」って話を、耳が痛くなるほど人にされているんですが。コピーゲームのものもあるとは…。『マサオジャンプ』があったということは、もしかして『ハングリーマン』もありますか?

▲希少価値の高い資料にくぎ付けになる堀井氏(左)と大堀所長

高井 そりゃ、コピーのヤツはあんまり置いていませんからねえ。まぁどんなもんでも見たいという人はおりますから、置いていますけど…。ただ、それをやると、捨てられなくなりますから困りますね。

大堀 ここ自体を博物館として遺してほしいですね。

堀井 何かあったときに国が引き継ぐ価値がある物が残っていると思います。

高井 そうなればいいと思うんですけどねえ。

膨大な資料を7年間で整理

堀井 これだけの膨大な資料の管理は、個人の手には余るものがありますね。

――頂いた資料によると、従業員数が12名の頃があったようですが、今は何名でやっているんでしょうか?

高井 今は2人しかおりません

――高井さんと、お子さんと?

高井 そうです、ここに来たときも2名で、そこから5名にしたんだけども、その時は紙の資料が段ボールに入ってこの部屋を埋め尽くすほど、ものすごくあったんで、パートさんを入れて7年間で整理しました。

堀井 それは大変でしたね。

高井 基板の整理も事務員にさせましたが、基板に詳しくないので、ちょっと大変でした。「画像が少し変」だと故障として分けるんですが、ちょっといじれば直るのに、とかね。例えば、エッジがちょっと汚れているだけとか、電気がうまいこと通じていないとか、そんな簡単なことでもすぐに故障扱いにされてしまう。

堀井 電圧が足りていないだけでも基板が壊れたことにされちゃいますからね!

高井 今は、ほとんど資料の整理が終わりましたんで、息子と2人だけでも十分やっていけるようになりました。


次回予告

今回は、史料的価値が高い倉庫に潜入し、貴重な数々の資料を見せていただいた。今では日本でも見られないような希少なコレクションが所狭しと並べられ、レトロゲームファンである私たちは垂涎の思いで見入ってしまった。
次回は、高井商会所有のAM機器の現状を踏まえて、今後のアーケードゲーム筐体・基板の保存についてお話を伺う。こうご期待!!

脚注

脚注
01 ユウビス : 1971年創立の、各種アミューズメント機器の製造・販売会社。かつてはアミューズメント施設の運営も行っていた。
02 「128」「64」: 128Kbit(16キロバイト)、64Kbit(8キロバイト)のEPROM(書き込み・消去可能なROM)のこと。どちらも現在では容量があまりに小さく、使用用途がないために製造されていない。
03 16K : 16Kbit(2キロバイト)は2048バイト。例えば、日本語テキストにするとわずか1024文字。
04 TTLのSRAM : TTLはTransistor-Transistor Logicの略で、SRAMはStatic Random Access memoryの略。DRAMと比較すると、消費電力が少ないが高価な揮発性記憶デバイス。
05 ヤマハの音源 : ヤマハは楽器事業と並行して電子デバイス事業も行っており、ここでいう音源とは、ゲーム基板で使われる音源IC、YMシリーズのこと。
06 DRAM : Dynamic Random Access Memoryの略。SRAMと比較すると、安価で大容量な揮発性記憶デバイス。
07 6502のCPU : 米モステクノロジー社製のCPU「MOS6502」のこと。6502ベースのCPUはファミコンやPCエンジンに使われているが、アーケードゲーム基板での採用例は多くない。
08 『ハングリーマン』『パックギャル』 :『パックマン』のコピー商品。『ハングリーマン』はオリジナル版から若干の変更が加えられており、ワープトンネルが増えていたり、パワーアップ中に迷路が消えたりする。『パックギャル』は『パックマン』派生タイトルである『ミズ・パックマン(Ms.Pac-Man)』(1981年/ミッドウェイ)のコピー商品。
09 弓削雅稔(ゆげ まさひろ) : オルカ、東亜プラン、タクミコーポレーション、パオンなどに所属していたゲーム開発者。東亜プラン時代に『スラップファイト』(1986年)、『TATSUJIN』(1988年)、『鮫!鮫!鮫!』(1989年)などで開発と作曲を担当。現在はビデオゲーム企画開発会社TATSUJIの代表取締役。
10 マサオジャンプ : アーケード版『マリオブラザーズ』(1983年/任天堂)のコピー基板。メーカーは不明。

こんな記事がよく読まれています

2018年04月10日

ゲームセンター聖地巡礼「1980~1990年代 新宿」前編

今回から、新企画「ゲームセンター聖地巡礼」の連載がスタートします。当研究所・所長の大堀康祐氏と、ゲームディレクターであり当研究所のライターとしても協力いただいている見城こうじ氏のお2人が、1980~1[…]