新進気鋭な大学生5人のチームが開発した2Dドットワイヤーアクション!
情熱と執念で作り込んだであろう意志力を感じさせる良作『SANABI』

  • 記事タイトル
    新進気鋭な大学生5人のチームが開発した2Dドットワイヤーアクション!
    情熱と執念で作り込んだであろう意志力を感じさせる良作『SANABI』
  • 公開日
    2023年12月15日
  • 記事番号
    10652
  • ライター
    山村智美

いい感じの遊び心地
いい感じのポップさ
いい感じのカジュアルなビジュアル
いい感じの2Dドットなゲームも豊富
いい感じの重すぎない&軽すぎないゲームらしさ

『発見! インディーゲーTreasures』は、
そんな“ちょうどいい感じ”なインディーズゲームを紹介していく月イチ連載です。

今回ピックアップした1本は、こちら。

『SANABI』!

  

タイトル:『SANABI』
開発元:WONDER POTION
パブリッシャー:NEOWIZ
リリース日: 2023年11月9日
価格:¥1,520
配信プラットフォーム:Nintendo Switch / PC(Steam)

【Steam】
https://store.steampowered.com/app/1562700/SANABI/

 
【Nintendo Switch】
https://store-jp.nintendo.com/list/software/70010000056430.html

   

世の中には様々なゲームがありますが、ときに、特にインディーゲームでは、

ゲームが好きな若い人が、「自分たちがゲームを作るのなら、こういうゲームシステムで、こういうプレイフィールで、こういう物語を楽しめるものにしたい!」

そうした、熱意、情熱、若さ、ほとばしるパトスで、過酷なゲーム作りの道を走りきったのが想像できるような、

そんなエネルギーに満ち溢れているゲームに出会えることがあります。

この『SANABI』もまた、そういうゲームだけが持つ熱量と色を感じられるゲームですよ。
   

『SANABI』は、巨大企業が支配するディストピアな都市を舞台にした2Dアクションゲーム。

主人公は、「SANABI」という存在に愛する娘を殺されてしまった元軍人。そのSANABIが潜伏していることを突き止めた巨大企業都市では、300万もの住民が一瞬にして姿を消すという事件が起きていた。

ゴーストタウンと化した都市で主人公はハッカーの少女「マリ」と出会い、彼女と共に都市の最高層部を目指していく……。

本作のストーリーは、導入部こそ復讐をきっかけにした元軍人による潜入ミッションものというテイストですが、そこから展開される物語はかなりひねりの効いたもの。

ビジュアライズするのが難解だったのではと思えるようなイマジナリーな展開も多く含みますが、プレイヤーがスムーズに理解できるようにうまくまとめられています。

プレイヤー心理をうまく捉えているところも魅力で、プレイヤーが「もしかして……、この話はこういうことなのか……?」と、物語の核心に気づいた直後には、プレイヤーのその気付きを前提とした新たな展開を見せてきます。

プレイヤーの理解度を信頼して「次はこのあたりが気になるところですよね?」と先回りで次の思考ポイントを出してくる。そのテンポの良さと物語への引きこみ方は独特で、そのテンポが噛み合う人は気持ちよく考察しながらプレイが進められると思います。
   

ちなみに、『SANABI』を開発したのは韓国の5人の大学生によるゲーム開発チーム「WONDER POTION」。
本作はそのチームの初作品だそうで、正直なところ「大学生5人が初作品でこれを作ったのかぁ……」と、驚かされるものがあります。

前述のとおり、本作は実際にゲームとして開発するとどのようなグラフィックスで表現するのか悩みそうなツイスト(ひねり)の効いた物語で、話のつじつま、いわゆる整合性を取るのにも苦労したのではと想像できるところ。

それでも、本作を実際にプレイしてみると物語はテンポがよく、難解なところもスムーズに入ってくる見せ方ができています。

ピクセルアート、いわゆる2Dドットのグラフィックスだからこそという部分もあり、プレイヤーをぐいぐいと引き込むものになっているんですよ。

ちなみに本作、「Fate」シリーズ等で知られるTYPE-MOONの奈須きのこさんが自身の個人サイト「竹箒日記」にて、『SANABI』をプレイし、「軽い気持ちで踏み込んだら、ゲームライターとして致死級のダメージを受けました。」と称賛しています。

・『竹箒日記』11月29日
http://www.typemoon.org/bbb/diary/#29

   

本作は全編がピクセルアート、いわゆる2Dドット絵ですが、かなりの描き込みようで、色の使い方も淡い色合いを中心にしたポップかつ美麗なものになっています。

アニメーションパターンも豊富で、よく動く。キャラクターはかなりデフォルメしたコミカルな描き方ではありますが、小さいながらも動きや表情の雰囲気がつかめるものになっています。

ステージである都市のビジュアルも細かな描き込みをしていて、シーンも豊富。

冒頭にも書いたように、初作品のゲームに対して、熱意と情熱で作り込んだんだろうと伺い知れるものがあります。
   

アクションの方はというと、

本作はワイヤーアクションとジャンプで足場を跳び移って先へと進んでいく、2Dアクション。

主人公の片腕が特殊なチェーンフックを発射できるものになっていて、地形にフックを射出! 振り子運動で遠くへと跳んだり、運ばれていくコンテナにフックを撃ってぶら下がったり。

フックを射出する角度は手動で調整して撃つこともできますが、フックがかかる場所へある程度は自動で狙ってくれるように調整されているので、リズミカルにポンポンとボタンを押してフックを撃って跳んでを繰り返すだけで、スピーディーに移動可能。

ちなみに、敵のロボットやタレットが攻撃してくる場面もありますが、攻撃方法はやはりチェーンフック。敵に撃って掴み引き寄せて、一撃で破壊できます。バシュン! と撃って、ガシャーン! と、効果音が気持ちよさを増幅してくれます。

身体に対してアンバランスなほど巨大な機械の腕で、敵を掴み一撃で粉砕、残像しか追えないようなスピードで次の敵へと飛び、瞬く間に敵を全滅させる……“そういうの好きでしょ?”的なスタイルです。

少し気になるのは難易度で、アクションゲームが苦手な人だとちょっと苦戦するかなと。特にワイヤーアクションで連続ジャンプするところは、慌てて落下してしまうことが多発すると思います。上達すればスピード感のあるプレイが気持ちよく決められる良さがあるとは思うのですが……ここはがんばってリトライして、突破できたときの達成感を味わってもらいたいところです。

『SANABI』は、ストーリーの魅力もさることながら、アクションの手触りの良さ、BGMや効果音のセンス、よく動く2Dドットのビジュアルに、カットシーンの演出の切れ味、どの点においても高水準な意欲作。

さすがに荒削りな部分もあるにはあるのですが、スピード感が重視されているゲーム全体のテンポも相まって、それが作り手の若々しさを伝えてくるところもあり、独自性のある味にも繋がっています。

惜しむらくはローカライズの精度で、言語にもよるかもしれませんが、日本語翻訳においてはプレイヤー側が想像して補完しないと何を言っているのか伝わりづらい箇所もいくつかありました。物語全体としてはちゃんと理解できるレベルではあるのですが、もう一歩ブラッシュアップするアップデートを期待したいというのが正直なところ。

そうしたところもあるにはあるものの、本作は「このゲームと物語を納得する形で完成させたい」という情熱と執念で作り込んだのだろうと感じさせるものがあり、そうした意志力を作品からストレートに感じられるのはインディーゲームならでは。

新進気鋭の若手チームによる、サイバーパンクでドラマティックな2Dドットアクション。ぜひプレイしてみてはいかがでしょうか。

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