「ゲームニクス」で考えるゲームの魅力 第四十七回 対戦プレイPart2
当コラムでは、「ゲームニクス理論」をもとに、なぜゲームがおもしろくなるのか、どうしてプレイヤーはゲームに夢中になってしまうのかを、おもしろおかしくご紹介していきます。
第四十七回のテーマは「対戦プレイPart2」です。
第十九回の「対戦プレイ」では、最初期のビデオゲーム『PONG(ポン)』(Atari/1972年)をはじめ、古い時代のタイトルと対戦格闘ゲームを中心にご紹介しました。
今回は最新作も含めて、「対戦プレイ」をおもしろくする数々のアイデアの中から、特に読者の皆さんに知っていただきたいものをまとめてみました。ぜひ最後までご一読ください!
「ゲームニクス」とは?
現亜細亜大学教授のサイトウ・アキヒロ先生提唱による、プレイヤーが思わずゲームに夢中になる仕組みを理論・体型化したもの。
本稿では、「ゲームニクス理論」を参考に、ありとあらゆるゲームのオモシロネタをご紹介していきます。「理論」というおカタイ言葉とは正反対に、中身はとってもユルユルですので、仕事や勉強の休憩時間や車内での暇つぶしなど、ちょっとした息抜きにぜひご一読を!
画期的な発明「ゴースト対戦」
より「対戦プレイ」をおもしろくする、ビデオゲームならではのシステムのひとつにゴースト対戦があります。
多くのプレイヤーにゴーストの存在を広く知らしめたのは、第十六回の「リプレイ」でもご紹介した『スーパーマリオカート』(任天堂/1992年)になるでしょう。本作のタイムアタックモードでは、ベストタイムの走行データから自動で作成されるゴーストと同時に走ることができます。
さらに時代が進むと、『マリオカートWii』(任天堂/2008年)ではオンラインに対応したことで、世界中のプレイヤーのゴーストと1対1で対戦できる「ゴーストバトル」モードが遊べるようになりました。
最新作に目を向けると、より進化したゴースト対戦機能を搭載したタイトルがあります。
Nintendo Switch用ソフト『ファミコン世界大会』(任天堂/2024年)の「タイムアタックモード」では、『スーパーマリオカート』と同様にプレイヤー自身のゴーストと常時「対戦プレイ」ができます。加えて本作では、オンラインで8人同時に対戦する「サバイバルモード」の対戦相手がすべてゴースト化されています。
対戦格闘ゲームの『鉄拳8』(バンダイナムコエンターテインメント/2024年)には、他のプレイヤーとのゴースト対戦だけでなく、プレイヤー自身の立ち回りを学習したAIによって生成されたゴーストと対戦ができる、その名も「スーパーゴーストバトル」モードが搭載されています。
第四十三回の「無敵」でも触れましたが、レースゲームに登場するゴーストには当たり判定がなく、プレイヤーの走行を邪魔することが一切ありません。またオンライン対戦時にゴーストを導入したタイトルでは、いわゆる「ラグ」によるストレスから解放されるのも大きな長所です。この素晴らしいアイデアを最初に発明した人は、本当に天才だと筆者は思います。
ところで、ゴースト対戦を史上初めて実装したタイトルは何だったのでしょうか? たいへん申し訳ないのですが、筆者が調べた限りでは『スーパーマリオカート』以前に実装していたタイトルを見付けることはできませんでした(※もしご存知のかたがいらっしゃいましたら、ぜひご一報を!)……。
©Nintendo
遊びの幅を広げる、性能が異なるキャラ同士での「対戦プレイ」
前述の『PONG』をはじめ、『スピードレースツイン』(タイトー/1976年)、『対戦空手道』(データイースト/1984年)など、古い時代に登場した「対戦プレイ」ができる各タイトルは、プレイヤーが操作するキャラクターの性能は、どれもまったく同じです。
では、例えば空手家VSプロレスラーなど、性能が異なるキャラクター同士で「対戦プレイ」ができるシステムを最初に取り入れたタイトルは何だったのでしょうか?
アクション系のゲームに限れば、その最古の部類に入るのがアーケードゲームでは『ギャラクティックウォリアーズ』(コナミ/1985年)、家庭用ではファミコン版『キン肉マン マッスルタッグマッチ』(バンダイ/1985年)です。
『ギャラクティックウォリアーズ』はサムソン、ガイアー、ポセイドンの3種類のロボットから1体を選択し、1対1で敵と戦うアクションゲームで、2人プレイ時は「対戦プレイ」ができるようになっていました。サムソンはビームサーベル、ガイアーはミサイルを装備し、ポセイドンは手足を長く伸ばせるなど、性能がキャラごとに異なります。
プロレスゲームの『キン肉マン マッスルタッグマッチ』は、パンチやキック、バックドロップなどの通常攻撃は全キャラ共通ですが、必殺技はそれぞれ異なります。とりわけ、当時ミリオンセラーとなった本作がきっかけで、性能が異なるキャラ同士で「対戦プレイ」ができる楽しさを知ったプレイヤーは数多くいたことでしょう。
©ゆでたまご/集英社・NTV・東映動画
ビデオゲーム黎明期に登場した、野球やサッカーなどのスポーツゲームも、「対戦プレイ」時にプレイヤーが使用するチームの性能差はなく、各選手の能力値もまったく同じでした。
なので、チーム(選手)ごとに能力がまったく異なるアイデアをいち早く導入した、『ファミスタ』こと『プロ野球 ファミリースタジアム』(ナムコ/1986年)は、まさに画期的な作品でした。このアイデアによって、各チームの特徴に応じた作戦を考えながらプレイする楽しさを生み出していることは、多くの皆さんがご存知のことと思います。
同じく、ファミコン用ソフトの『アイスホッケー』(任天堂/1988年)は、自チームの4人の選手を「やせ型」「中間」「太め」の3タイプの体型から自由に選べる、秀逸なアイデアを取り入れていました。本作では「やせ型」の選手は移動スピードが速い、「太め」はシュートの威力が高いなど、タイプによって性能に違いがあります。
よって本作では、プレイヤーは単にゴールを狙うだけでなく、どのタイプの選手を何人配置するべきか、つまりメンバー選考のおもろしさも盛り込むことで、プレイヤーをますます夢中にさせてくれます。
©1988 Nintendo
プレイヤー、チームごとにルールが変わるおもしろさ
チームまたはプレイヤーごとに、勝利条件やプレイ方法が異なることで「対戦プレイ」をおもしろくしているタイトルもいろいろあります。
FPSゲームの『カウンターストライク』(Sierra/2000年)は、「相手チームを全滅させれば勝利」となるルールは共通していますが、マップによってはカウンターテロリスト側が「人質を救出する」「VIPを安全な場所に送り届ける」ことでも勝利となり、反対にテロリスト側は「VIPを倒す」ことで勝利を収めることもできます。
相手とただ撃ち合うだけではなく、所属したチームによって戦略が変わるところに、本作ならではのおもしろさが凝縮されています。
(※出典:https://store.steampowered.com/app/10/CounterStrike/?l=japanese&cc=at )
©Valve
勝利条件がチームによって異なるだけでなく、チームごとの人数も操作するキャラも異なる、非対称の「対戦プレイ」を導入した有名タイトルのひとつが、「鬼ごっこ」にしばしば例えられる『EVOLVE』(2K/2015年)です。
本作は、プレイヤーが4対1に分かれ、4人チーム側はハンターを、1人だけのプレイヤーは巨大なモンスターを操作して戦います。ハンター陣営のプレイヤーたちは、お互いに連係を取りながらモンスター討伐を目指します。
一方、モンスター側のプレイヤーは、ハンターの監視の目から逃れつつモンスターをEVOLVE(進化)させ、強力なアビリティを得たところで反撃に転じるといった要領で戦うところに、本作独特の楽しさがあります。
本作のほかにも、非対称の「対戦プレイ」を導入したタイトルには『Dead by Daylight』(Behaviour Digital/2016年)などがあります。
ところで、プレイヤーごとに勝利条件や役割が異なる「対戦プレイ」を導入したタイトルは、いつ頃から登場したのでしょうか?
その元祖となるタイトルは……またも申し訳ないのですがハッキリとはわかりませんでした。ですが、その古いタイトルのひとつにファミコン版の『バンゲリングベイ』(ハドソン/1985年)があるように思われます。
本作の2人プレイモードでは、1P側は1人プレイ時と同様にヘリコプターを操作し、バンゲリング帝国の戦闘機や戦艦、砲台と戦いつつ、マップ内にある工場をすべて爆破すればステージクリアとなります。2P側はバンゲリング帝国の司令官となり、マイクに叫ぶことで味方の戦闘機を呼び出し、ヘリコプターを攻撃します。
今では当たり前に存在する、非対称の「対戦プレイ」を導入したタイトルが、実は39年も前に登場していたとは……。今更ですが、筆者は改めて驚かされました。
©KONAMI
WITH PERMISSON OF BRODERBUND SOFTWARE INC
以上、今回は「対戦プレイPart2」をテーマにお送りしましたが、いかがでしたでしょうか?
1980年代以前に登場した、古い時代の「対戦プレイ」ができるタイトルは、そのほとんどが2人「対戦プレイ」だった感があります。やがて、多数のコントローラーを同時に接続できるマルチタップや、Wi-Fiなどを利用して通信ができるゲーム機が普及したことで、同時に5人も10人もの大人数で「対戦プレイ」ができるタイトルがどんどん増えていきました。
そして現在では、同時に100人単位で「対戦プレイ」ができる、いわゆるサバイバルゲームもけっして珍しいものではなくなりました。今回は触れませんでしたが、UIやインターネットなどの技術的なインフラの発達によって、「対戦プレイ」がどのように進化したのかも、今後の大きな研究課題ですね。
それでは、また次回!