「メガドライブの時代」を詰め込んだタイムカプセル、メガドライブミニのキーマンに訊く 前編
1988年に家庭用ゲームでは初となる16ビットCPUを搭載して発売され、北米で「GENESIS(ジェネシス)」という名で一大ヒットとなったメガドライブ。発売30周年を記念して当時のデザインを約1/4サイズで再現した新ハード「メガドライブミニ」を発売することが2018年4月に発表されて以来、さまざまな話題を提供してきた。
近年のミニ版復刻ブームに乗った商品かと思えば、次第に明らかになった仕様や42タイトルという収録タイトル数の多さ、果てはメガドライブ20年ぶりの新作となる初移植タイトル『テトリス』(1988年/セガ)、そして『ダライアス』(1986年/タイトー)というビッグタイトルまで飛び出すとんでもないハードであった。2019年9月19日の発売が待ち遠しいばかりである。
今回、そんなメガドライブミニを発売前にプレイし、本プロジェクトのキーマンであるセガゲームスの宮崎浩幸氏、奥成洋輔氏に直接お話を伺う機会を得た。本稿では、当研究所の大堀康祐所長とともに本製品の企画意図や魅力に迫る。まずは前編として、ハードウェア面の情報を中心にお届けする。
株式会社セガゲームス
国内アジアパブリッシング事業部 プロモーション統括部 統括部長 宮崎浩幸氏
アジア事業部 CSパブリッシング部 ライセンスチームプロデューサー 奥成洋輔氏
【聞き手】
ゲーム文化保存研究所
所長 大堀康祐
ライター 前田尋之
メガドライブミニはセガからのメッセージ
――この度はメガドライブミニ発売おめでとうございます。この機会に、今回は御社の過去IPについてのお考えを含めてお聞かせいただければと思います。
宮崎 そもそもセガでは以前から過去IPの復刻をやっているんです。現在、ニンテンドー スイッチで展開しているSEGA AGES(*01)の以前にも長らく(サターン、PS2、PS3とXbox360向けに)同名のシリーズをやっておりましたし、任天堂さんのバーチャルコンソール(*02)という枠組みでもやっておりました。また、海外向けではメガドライブコレクションのようなコンピレーションのほか、例えば『ソニック』シリーズの過去のタイトルをまとめて収録したものなど、過去のIPを活用しようという取り組みをやっているんです。
ところが、ハードとなると一度セガは華々しく散ったじゃないですか。2001年に「ハード撤退」という、かなりの痛みと衝撃を与える手法で市場撤退をしてしまいました。そこで、新たにハードを出すというのはかなりの踏ん切りがないとできない。そこに、任天堂さんのミニファミコン(ニンテンドークラシックミニ ファミリーコンピュータ)が発売されたわけです。
本体サイズを小さくしてソフトを収録するという手法に、任天堂さんがどのようなメッセージを込められたか正確には分かりませんが、僕たちは勝手にメッセージとして受け取ったんですね。「ファミコンの時代」「スーファミ(スーパーファミコン)の時代」を、あのような形で当時遊んでいた方々に届けます、と。
それならば「メガドラの時代」というものも確かにあったのだから、「その当時遊んでいた人たちにセガからのメッセージが何もなしというわけにはいかないよね」というのが今回の企画意図です。ですから、任天堂さんからのものがなければ、将来的にはともかく、今このような形で製品化することはなかったと思います。
いちから再設計するために延期を決断
大堀 メガドライブミニは当初の発表から発売日決定までにだいぶ時間がかかりましたが、その辺のお話をお聞きしてもよろしいでしょうか?
宮崎 はっきり申し上げますと、発表当時のメガドラミニと今回発売するメガドラミニは、見た目は同じに見えるかもしれませんが中身はまったく違います。それは設計思想と申しますか、ハードの中身も、ラインナップも、ソフトを動かす仕組みも、全部別物なんですよ。
大堀 それでは完全にいちからの再設計なんですね。
宮崎 はい。実は、最初に発表した時にはこれだけの反響があるとは想定していませんでした。特に海外からの問い合わせが大きかったんです。北米での商品名は「Genesis Mini(ジェネシスミニ)」ですが、日本向けよりも遥かに注文数が多いですね。
もともと海外市場はそれほど考えておらず、日本のメガドライブが1988年の発売から数えてちょうど2018年で30周年を迎えるというタイミングもあって、「日本できちんと受け入れられればいいんじゃない?」と考えてスタートしたんです。
その後に海外から続々と反響やお問い合わせがありまして、過去のユーザーの皆様の推測や期待が届くにつれて「このまま出したらえらいことになるな」と、一旦仕切り直しの判断をしたわけです。
大堀 30周年という節目を外してまでの延期はものすごい英断ですね。
宮崎 そりゃ外したくはありませんでしたよ。うちのトップがあれだけのファンの皆さんの前で「今年発売します!」と言い切ったのですから(笑)。しかも、わずか半年後に「延期します」ですからね。これはかなり勇気のいる判断でした。
仕切り直しをしようという話が夏頃にはあったのですが、ただ、それを発表する勇気がなくて、2018年9月に開催された東京ゲームショウ2018(*03)の直前になってようやく発表したら、延期発表をした日の半日後に「プレイステーション クラシック」の発表がありまして。正直申し上げて「アブネー」といった心境でした。SIE(ソニー・インタラクティブエンタテインメント)さんの後に言っていたらもっと恥をかいていたと思います(笑)。
最終的な延期の判断は当然トップがするわけですけど、「一度ファンの皆さんには公言したが、より良いものをお届けするためには来年にしよう」といった決断を下したときのトップの発言を聞いて、マネジメントの腹のくくり方は大したもんだなと思いましたね。
周りの反応を見ていると、変なものを出すと反動でどんなことを言われるか怖いです。特にお客様の目は厳しいですからね。
奥成 もともとセガは海外においてライセンスアウトでメガドライブの携帯版みたいなものを随分前から発売しておりまして、毎年のように新モデルが出ていたんですよ。ただ契約上、販売地域に日本は含めないことになっていました。それは、日本のお客様の審美眼というか、日本のお客様は海外のお客様と求めるものが違うので、日本で発売しても日本のお客様を満足させるのは難しいだろうという部分が最初からあったんです。
だから、日本で出すのであれば、セガからきちんとしたものを出さなければならないというコンセプトで始めたのですが、その思惑をさらに超えて反響が大きかったといったところも、仕切り直しにつながっています。
当初は日本国内のみのリリース予定だった
――海外の方からきた反響の大きさは予想外だったということでしょうか?
宮崎 反響というか、裾野が広いのは間違いないですね。当時の販売台数も日本よりも海外のほうが10倍くらいは売れていて、北米ではスーパーファミコンに勝っていますから。欧州もいい勝負をしていました。ただ、(メガドライブミニに対する)反響という表現をするなら日本は大きかったですよ。アツいお客様のハートに火を付けてしまったわけですから。
奥成 どちらかといえば「セガフェス2018」というイベントの中でいろいろ発表したうちの一つとして、あくまで日本のイベントいうことで「『シェンムー』2作(DC/1999年、2001年)を(1本にまとめてPS4で)復刻しますよ」とか「『サクラ大戦』(SS/1996年)(の完全新作)を出します」とかと同じ流れで、「メガドライブミニというものを日本国内限定で発売します」というリリースだったんです。しかし、その直後から北米や欧州の子会社から「ウチらは一切聞いていないんだけど、日本以外でも発売してもらえるのかメディアから質問が来ているんだ」といった問い合わせが殺到しました。
大堀 それでは当初は海外販売の予定はなかったと。
宮崎 「なかった」というよりは、日本でまず発売してから様子を見て海外向けを作ればいいんじゃない? という感じでした。そもそも、欧米ではセガが他社にライセンスアウトした「ジェネシスっぽいもの」が4~5年前からかなり安い値段で売られているわけですからね。
奥成 そんなわけで、ビジネススタイルも全部やり直すことになり、セガが全世界向けに提供することになりました。
宮崎 そうなれば、北米向けのジェネシスや欧州向けのメガドライブも作らなければなりません。中に入れるタイトルのラインナップも同じというわけにはいかないだろうし、それらを全部組み直すのに2018年中に出すのはどう考えても不可能だろう、となって延期を選んだということです。
脚注
↑01 | SEGA AGES : 1996年から、過去の作品を復刻してサターンやプレイステーションなどで発売。2018年よりニンテンドースイッチ向けに11タイトルが発売されている(2019年8月現在)。 |
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↑02 | バーチャルコンソール : 過去に発売されたファミリーコンピュータ、スーパーファミコン、NINTENDO64、PCエンジン、メガドライブ、NEOGEO、マスターシステム、MSX向けタイトルを、ニンテンドー3DSやWiiなど任天堂の家庭用ゲーム機で遊ぶために2006年より開始されたサービス。 |
↑03 | 東京ゲームショウ : 毎年9月に幕張メッセで開催されているゲーム関連の総合展示会。コンピュータエンターテインメント協会が主催している。新作ゲームがいち早く展示されたり、ゲーム開発側から大きな発表が行われたりする。 |