「ゲームニクス」で考えるゲームの魅力 第六十八回 ストレス

  • 記事タイトル
    「ゲームニクス」で考えるゲームの魅力 第六十八回 ストレス
  • 公開日
    2026年07月31日
  • 記事番号
    14654
  • ライター
    鴫原盛之

当コラムでは、「ゲームニクス理論」をもとに、なぜゲームがおもしろくなるのか、どうしてプレイヤーはゲームに夢中になってしまうのかを、おもしろおかしくご紹介していきます。

第六十八回のテーマは「ストレス」です。

筆者とサイトウ・アキヒロ先生の共著「ビジネスを変える『ゲームニクス』」では、「ゲームニクス理論」の「原則3:はまる演出」を実装するにあたり、ゲームデザインにおける最大のポイントを以下のように解説しています。

「ゲームデザインにおける最大のポイントは、ストレスと快感のバランスを考えることであり、ユーザーがゲームにハマるのはこれらのバランスが絶妙に調整されていることに起因する」

そこで、場面によっては適度な「ストレス」を受ける演出を用意し、これを克服すると達成感や解放感が得られるようにデザインすることで、プレイヤーはますますゲームにハマってしまうというわけです。このようなゲームデザインの例を、本書では「原則3-B:ストレスと快感のバランス」の項でまとめています。

以下、今回も筆者の思い付く限りではありますが、プレイヤーの快感につながる布石となる「ストレス」の導入例をご紹介しましょう。どうぞ最後までご一読ください!
 

「ゲームニクス」とは?
現亜細亜大学教授のサイトウ・アキヒロ先生提唱による、プレイヤーが思わずゲームに夢中になる仕組みを理論・体型化したもの。
本稿では、「ゲームニクス理論」を参考に、ありとあらゆるゲームのオモシロネタをご紹介していきます。「理論」というおカタイ言葉とは正反対に、中身はとってもユルユルですので、仕事や勉強の休憩時間や車内での暇つぶしなど、ちょっとした息抜きにぜひご一読を!

 

プレイヤーの意表を突く、スタート直後に強烈な「ストレス」を与える仕掛け

ビデオゲームの多くは、開始直後は誰でも簡単にクリアできる課題を用意し、先に進むにつれて少しずつ難しくして、プレイヤーに徐々に「ストレス」を与えていくゲームバランスに調整していると言えるでしょう。これは本書の「ゲームニクス理論」でも、「原則4-B:段階的に難易度を上げる」の名称で体系化しています。

その一方で、実は序盤から強い「ストレス」をあえてプレイヤーに与えることで、よりゲームのおもしろさが増しているタイトルもあります。

以下の写真は、有名ホラーアクションアドベンチャーゲーム『バイオハザード』(カプコン/1996年)のシリーズ第1弾です。本作にはゲーム開始直後に、床にじっと横たわっているゾンビのそばを通り抜けようとすると、ゾンビが突然動き出して主人公の足をつかむ場面があります。

ここでゾンビをただの死体だと判断したプレイヤーは、「まさか攻撃されるとは……」と予期せぬ恐怖を体験することになります。ですが、ゾンビはボタンを連打するだけで簡単に倒せるので、ここでゲームオーバーになるプレイヤーはほとんどいないと思われます。

加えてゾンビの出現地点のすぐ近くには、プレイデータを「セーブ」するためのアイテム「インクリボン」が置かれています。ゾンビに捕まる「ストレス」を克服したプレイヤーに対し、報酬として超重要アイテムを用意してほっとさせる一連の構成は、今さらですが実に見事ですね。
 

元祖『バイオハザード』よりもさらに古い、今から40年も前に発売された有名PC用アクションRPGにも、冒頭からプレイヤーに強烈な「ストレス」を与える作品があります。

そのタイトルとは『ザナドゥ シナリオII』(日本ファルコム/1986年)です。本作では、主人公キャラクターを作成後にレベル1のマップに移動すると、触れると大ダメージを受ける「逆さつらら」に挟まれた状態からスタートします。

レベル1の主人公のHPは1500ですが、「逆さつらら」に触れると、何と最低でも1200ダメージを受けてしまいます。「逆さつらら」は、とある「裏技」を使って入手した特殊アイテムを使用しない限り絶対に避けられないので、ほとんどプレイヤーはいきなり大ダメージを受けることになります。

つまり本作は、いきなり大ダメージを受ける場面をあえて用意することで、プレイヤーに対して「逆さつらら」の怖さを教える「チュートリアル」の役割も機能しているわけですね。

なお本作は、前作の元祖『ザナドゥ』(日本ファルコム/1985年)のフロッピーディスクがなければ遊べない仕組みになっています。よって本作の場合は、基本ルールをすでに理解したプレイヤーが遊ぶことを想定したうえで、序盤から強めの「ストレス」を与える仕掛けを用意したものと推察されます。
 

小さなストレスで大きな快感を生む、ビギナーズ・ラックと変動比率

前述しましたように、「ビジネスを変える『ゲームニクス』」の「原則3-B-①:ストレスと快感のバランスを取る」の項では数多くの導入例を解説しています。

その中には、プレイヤーが予測できない「ランダム」などの偶然の要素を盛り込み、小さな「ストレス」でも大きな快感を得られるビギナーズ・ラックと、報酬がその都度異なる変動比率を導入する方法も含まれています。

小さな「ストレス」から大きな快感が得られる、とてもわかりやすい例が『大乱闘スマッシュブラザーズ』(任天堂/1999年)シリーズに登場するアイテム「モンスターボール」です。

本シリーズでは、入手したプレイヤーが「モンスターボール」を投げると、中から「ランダム」でさまざまなポケモンが出現し、対戦相手を自動で攻撃する効果が得られます(※たまにトサキントなど、まったく相手を攻撃しない「ハズレ」を引くこともありますが)。

もし低確率でしか出現しない強力なモンスターを味方にできれば、不利な状況からでも大逆転するチャンスが得られます。さらに『大乱闘スマッシュブラザーズSPECIAL』(任天堂/2018年)では、より強力なポケモンが出やすい「マスターボール」が追加されています。
 

『スマブラ』シリーズよりもさらに古いタイトルにも、ビギナーズ・ラックを実装したおもしろい例があります。

以下の写真は、対戦格闘ゲームの金字塔『ストリートファイターII』(カプコン/1991年)です。実は本作では、パンチまたはキック攻撃を出した際に256分の1の確率で、必殺技が自動で繰り出される仕掛けが用意されています。実戦的には極めて低い確率ですが、もし相手に必殺技が当たれば大逆転が狙えます。

本作の開発を手掛けた西谷亮氏は、2017年に掲載された「電ファミニコゲーマー」のインタビューで、必殺技が「ランダム」で出るようにした意図を以下のように証言しています。

「あれは本当に誰にでも出してもらいたかったんで、『もしかしたら本当に田舎の人は必殺技の存在すら知らないままになる』と思って、『弾が出たことに気づいてもらえれば探ってくれるかな』って。」

本作が発売された当時は、複雑なコマンドを入力して必殺技を放つ仕組みを導入したタイトルはほとんどありませんでした。なので、こと本作の「ランダム」要素については、プレイヤーにその存在を知らせ、興味を引くための「チュートリアル」の側面が強かったようですね。

このアイデアは、必殺技コマンドの存在を常識として知っている現在のプレイヤーにとっては歓迎されないかもしれません。ですが、対戦格闘ゲームの黎明期にあっては、とてもおもしろい試みだったのではないかと筆者は思います。
 

プレイヤーがますますゲームにハマる飢餓感の演出

本書の「原則3-D-⑤:飢餓感をあおる要素と構成を導入する」の項では、初見ではすぐに取ったり利用したりできない要素をあえてプレイヤーに見せることで、飢餓感をあおる例を解説しています。

例えば『ソニック・ザ・ヘッジホッグ』(セガ/1989年)には、ステージ1の360度ループを通過中に、画面上部ギリギリの位置にバリアや1UPアイテムがちらっと見える仕掛けがあります。

本作は、プレイヤーが主人公のソニックを操り、高速ダッシュで360度ループを駆け抜けるだけでも爽快感が得られますが、もしこれらのアイテムの存在に気付いた場合は「あれは何だ? 取ってみたい!」と、思わず急ブレーキを掛けて引き返したくなります。

これらのアイテムを取るためには、ゴール地点への最短ルートからかなり遠回りをする必要がりますが、苦労した分だけアイテムを取ったときの達成感がより高まります。
 

RPGやアドベンチャーゲームにも、序盤からプレイヤーの飢餓感を大いにあおる作品がたくさんあります。

以下の写真は、『ドラゴンクエストII』(エニックス/1987年)のスタート地点となるローレシア城です。目立つ場所に宝箱がずらっと並んだ部屋がありますが、いざ取ろうと思っても入口の扉には鍵が掛かっており、部屋の中に入ることができません。

さらに宝箱の部屋とは別に、周囲が真っ暗でいかにも怪しげ場所につながる扉もありますので、プレイヤーは「きっと、何か秘密が隠されているに違いない。早く行ってみたい!」と飢餓感が大いに高まります。
 

最後に、アクションパズルゲームで「原則3-D-⑥:拡張性を暗示して期待感を持たせる」を採り入れて飢餓感をあおる例をご紹介しましょう。

スーパーファミコン用ソフト『すってはっくん』(任天堂/1998年)は、プレイヤーが全体マップから遊びたいステージを自由に選んで遊べる仕組みになっています。

本作で遊べるステージは、最初の島(全体マップ)にある全3ステージ(※本作では10面分のパズルを「1ステージ」単位でまとめているので、正確には全30面が遊べます)だけかと思いきや、一定のノルマをクリアすると画面下部に虹の橋が架かり、新たな3ステージが遊べる次の島へと移動が可能となります。

さらに2番目の島をよ~く見ると画面の右端に、実に意味深な小さな島がポツンと描かれています。そしてゲームの攻略を進めていくと、やはり一定のノルマクリア後に3番目の島に進める虹の橋が出現します。

「どうやら、まだまだ続きがありそうだ……」とプレイヤーに暗示して挑戦意欲を大いにあおる、こちらも実に見事な演出ですね。
 

以上、今回は「ストレス」をテーマにお送りしましたが、いかがでしたでしょうか?

日常生活での「ストレス」は困りものですが、ゲームの中では「ストレス」を受ける場面が適度に登場するおかげで、プレイヤーはゲームにますますハマることが、皆さんにもきっとおわかりいただけたことでしょう。

繰り返しになりますが、「ストレス」に関するくわしい解説は、「ビジネスを変える『ゲームニクス』」 の「原則3-B:ストレスと快感のバランス」などで解説していますので、興味のあるかたは本書をぜひご覧ください。

それでは、また次回!

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