アーケードゲーム黎明期に燦然と輝く名作『クレイジー・クライマー』
目次
まだゲームセンターがアングラな雰囲気に満たされていた1980年代初頭に、『クレイジー・クライマー』は登場しました。
その頃のアーケードゲームの主流というと固定画面のシューティング。ようやく『パックマン』のような毛色の変わったゲームが現れ始めた時期でした。
『クレイジー・クライマー』は、窓枠をよじ登り、障害物を避けながらひたすら屋上を目指す、分かりやすいルールのゲームです。
『クレイジー・クライマー』の制作会社である日本物産は、前作『ムーンクレスタ』で一躍注目を集めていたメーカーでした。『ムーンクレスタ』でも、3機からなる自機の合体でパワーアップするなど、他メーカーとは一線を画すアイデアを盛り込んでいましたが、『クレイジー・クライマー』ではさらにそれを突き進め、「ビル登り」という、これまでになかったゲームでプレイヤーを虜にしてしまいました。
ゲームの評価はプレイヤーの趣味嗜好が反映されやすいので、どのような名作であっても否定的な人はいるものですが、『クレイジー・クライマー』の場合は否定する人をこれまであまり見たことがない気がします。
敵と戦うのではなくビルを登るだけのストイックな世界感と、2レバーという特殊な操作のせいか、フォロワーとして後に続く作品はなく、直系の続編のみでした。名作として語り継がれるその理由を考察してみたいと思います。
直感的ですぐゲームに没入できる秀逸な操作方法
当時のコントロールパネルの主流は、レースゲームや『パックマン』など一部のゲームを除いて、1レバーと1ボタンが当たり前のようになっていました。そのような中で、『クレイジー・クライマー』は2レバーという異質な存在。初めて見たときに「これ、どうやって操作するの?」と思った人も多かったのではないでしょうか。
しかし、実際にプレイするとそのような不安はすぐになくなります。2本のレバーがそれぞれキャラクターの両手に対応しているのです。レバーを上に上げればキャラクターの手も上に上がる。右レバーを右に動かせばキャラクターの右手も右へと動く。このように手の動作がレバーとシンクロしているので、直感的に操作することができました。
直感的なだけではなく、レバーを操作するのは自分の手ですから、自分の手の動きがキャラクターの手の動きと一体化した気分になってくるんですね。
今ふうに言うなら「バーチャル感」。元祖体感ゲームと言ってもいいのではないでしょうか。
両レバーを下に引けば落下物に耐えることができると気が付いた時には、「なるほど!」と思ったものです。
当時としては革新的なグラフィックとキャラがしゃべる衝撃性
発表当時は、まだ固定画面表示がアーケードゲームの主流で、画面スクロールするゲームはなかったと記憶しています。そのような中で、画面スクロールによってゲームが進行する『クレイジー・クライマー』は、グラフィックだけでも充分なインパクトを持っていました。
しかも、画面全体がカラフルに描かれていて、とても美しかったですね。その時期はゲーム画面のカラー化が徐々に始まっていましたが、あくまでも登場キャラクターがメイン。当時、一番カラフルに見えた『パックマン』ですら背景は黒がベースだったんですから、背景もカラフルな『クレイジー・クライマー』がどれだけ革新的であったか分かると思います。
今の若い人には笑われてしまうかもしれませんが、「黒い部分がない!」「フルカラーだ!」と驚いてしまうくらい、他のゲームと比較しても圧倒的に精度の高いグラフィックでした。
また、音に関しても先端を行くゲームでした。当初は効果音だけだったゲームも、徐々にBGMが流れるようになっていた頃でしたが、音声チップやサウンドドライバーが未発達だったせいか、チャンネル数も少なく、ただ単音で演奏している時代。しかし、日本物産はナムコとともに音にも力を入れているメーカーでした。
要所要所で演奏される『クレイジー・クライマー』のBGMは、メロディーだけではなくベースやパーカッションなどのパートもある多チャンネルで、音楽に厚みがあり、ゲームセンターで目立つ存在になっていました。
音声合成もインパクト抜群。落下物に当たると「イテッ!」、ミスをしたときには「アレー!」など、ゲームを盛り上げるために一役買っていましたね。
実はしゃべるゲームは、『クレイジー・クライマー』以前にも『スピーク&レスキュー』などが存在しましたが、いずれもクリアな音声にはほど遠く、ノイズの多い、「それっぽくしゃべってるな」と思わせる程度のものでした。
それに対し、『クレイジー・クライマー』の効果音はハッキリと言葉の内容が聞き取れるクリアなものでした。
そのように、ワンランク上のグラフィックと音声でわれわれを魅了した『クレイジー・クライマー』は、当時としては相当高性能な基板を使っていたのでしょう。
次は何が出てくるのか…繰り返し遊びたくなるゲームデザイン
今思い返すと、ゲームデザインやレベル設計も絶妙だったと思います。
まず、ステージごとに変化するビルのデザイン。当時の感覚で制作されていたら、ビルのデザインは全ステージ共通でも許されたはずです。他のメーカーが作っていたら、窓の開閉やお邪魔キャラの出現頻度、落下物のスピードなどで難易度を変化させていただけでしょう。そうではなかったところが『クレイジー・クライマー』のすごいところですね。
次のステージに進むとビルの壁デザインが変わり、ビル全体の形(ステージの構成)も変わります。
次のステージはどんなビルだろうかとやり込んでしまう、そんなゲームでした。
また、ビルだけではなく、看板が落下してきたり、切れた電気ケーブルで感電する看板があったり、新しい障害物が登場する仕掛けもあって、ワクワクさせてくれる演出が盛りだくさんでした
それだけに、当時のハードウェアとしてはメモリ量的に4ステージループが限界だったのでしょうが、プレイするごとに先に進むことができる絶妙な難易度で、飽きさせず4ステージを一気に遊ばせてしまうさじ加減は見事でした。
Nintendo SwitchやPlayStation4やスマートフォンでも遊べる!
さまざまなプラットフォームに移植されていますので、興味があれば今でも容易にプレイすることができます。なかでもNintendo SwitchやPS4のアーケードアーカイブス版やWiiのバーチャルコンソール版は、入手しやすさの点からもおすすめです。また、スマートフォンではAndroid版がリリースされていますので、手軽に楽しみたいという方はいかがでしょうか。
他にもファミリーコンピュータ版、プレイステーション版、Windows版、変わったところではワンダースワン版もありました。中古ショップで探してみてもいいかもしれませんね。
続編の『クレイジークライマー’85』や『クレイジークライマーWii』はプレイステーション(一部の機種)やWiiで遊ぶことができます。初代の進化系として体験してもいいでしょう。
©HAMSTER Co.
こうべみせ