ジョイスティックとボタンに込めた職人魂、三和電子に聞く・前編
アーケードに限らず、ゲームといえばソフトウェア面から語られがちで、ハードウェアはわりと軽視されがちな傾向がある。特にプレイヤーとゲームとの接点ともいうべきヒューマンインタフェースについては、ほとんど語られる機会がなかったといってもいい。
本稿では、そんなアーケードゲームにとっては必須コンポーネントであるジョイスティックやボタンをはじめとする業務用インタフェース機器、周辺デバイスを専業で作り続けてきた老舗企業、三和電子を訪問。当研究所の大堀康祐所長とともに、全3回にわたって知られざる世界の紹介を試みた。第1回目はジョイスティックへのこだわりについて迫る。
三和電子株式会社
生産部部長:大森 博克氏
生産部技術課:鵜木 智之氏
営業部第一課:佐藤 望氏
【聞き手】
ゲーム文化保存研究所
所長:大堀 康祐
ライター:前田 尋之
改良を繰り返し、現在の主力ジョイスティックは第6世代
――今回はお忙しい中、ご対応いただきありがとうございます。本日は今まで語られることがほとんどなかったヒューマンインタフェースについて、今回その道の老舗である三和電子さんにいろいろお話をお伺いしたいと思います。
大森・鵜木・佐藤 こちらこそよろしくお願いいたします。
大堀 僕は昔からレバーやボタンは御社の製品を相当購入させていただいているのですが、いつもその品質とか耐久性には感心していました。今日は、ぜひそれらの製品に対するこだわりをお聞かせいただきたいですね。あと、会社のマークがなぜゾウさんなのかとか……。
大森 マークについては分かりませんね。先代の社長に聞いてみないことには(笑)。
製品の流れなどについてはホームページで公開しているのですが、基本的にそのままなんですね。それをもとにお話したいと思います。
まず、ジョイスティックについてですが、マイクロスイッチを4つネジ止めしたレバー、これが最初となります。これを1枚の基板で成形したものが1993年に発売したJLF-TP(*01)。TPとはプリント基板という意味で、S社さんの『●ーチャファイター』(1993年)にメーカー採用されたのが初めてです。
ただ、採用されたばかりの頃は、新しい技術だけにいろいろ不具合もありまして、その後の改良を重ねて今に至っています。
大堀 不具合とは、具体的に何が問題だったのでしょうか?
大森 汎用筐体に組み込むために小型化したのですが、強度面に問題があったんです。中の基板が割れてしまうとか。マイクロスイッチについても4つが均一にON/OFFが入らなかったり、激しい使用をしていると細かい問題があったんですよ。各パーツの形状を変える等の改良は相当繰り返しましたね。型番としては同じ製品なのですが、初期に比べればずいぶん変わっていますよ。
鵜木 JLFの「JL」は「ジョイスティックレバー」の略なんですが、(それに続く)Fというのは、その前にAレバー、Bレバー……と続いていまして、アルファベットの6番目、第6世代の製品という意味なんです。いわば、JLFという型番には弊社ジョイスティックの改良の積み重ねが込められているわけです。
大森 JLFを発売してからはずいぶん長いですよ。ジョイスティックとしては、ほぼ完成されたといっていいかもしれませんね。おかげさまでお客様からも大変好評をいただいておりまして、これといった不具合も出ておりません。
その後にはJLHS-8(*02)という製品があるのですが、こちらはマイクロスイッチの代わりに光センサーを使用しております。これは、もともとはアメリカのメーカーと共同開発したものを弊社が業界に先駆けて製品化したのですが、当初は世間の受けが悪く、世の中に受け入れられませんでした。マイクロスイッチのカチカチといった感触がないために、どうも「これじゃない」という評価だったんですね。
耐久性という観点からは、有接点のためにどうしても摩耗してしまうマイクロスイッチとは比べ物になりません。しかし、従来の製品に比べてコスト高だったことも理由だったんでしょう。次第にオーダーもなかったため、廃品種となってしまいました。
――それでは、その後は光センサー型の採用事例がなくなってしまったんですか?
大森 実は、最近発売されるようになった「静音型スティック(*03)」というのが、光センサー型ジョイスティックの発展形として生まれたものなんですよ。当時のものとは違う方式ですが、JLHS-8の失敗の経験があったからこそといえます。
佐藤 昔は、今みたいに家庭用のアーケード仕様コントローラーはなかったので、家でガチャガチャやるといった使い方を想定していなかったんです。一度は廃れた光センサー式だったのですが、家庭向けコントローラーが多数発売されるようになった現代だからこそ、光センサー型の静音性が大きなメリットとして見直されるようになったんですよ。この辺りは時代を追いかけながら、後ほどお話したいと思います。
脚注