進化推論~『ダライアス』に描いた音の世界 前編
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- 記事タイトル
- 進化推論~『ダライアス』に描いた音の世界 前編
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- 公開日
- 2021年04月09日
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- 記事番号
- 5089
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- ライター
- なかやまらいでん(古川典裕)
今回、『ダライアス コズミックリベレーション』の発売に合わせて、『ダライアス』の楽曲についてのコラムを執筆していただけないかとご依頼をいただいた。
この音源は、音色は、コードの使いかたは…といったテクニカルな解説は他の方にお任せして、『ダライアス』という長いシリーズの音楽制作風景を垣間見ることのできた私なりの視点を感じていただければ幸いである。
宇宙に降る“雪”
1990年。初めてのZUNTATA LIVEが行われたその頃、新たな家庭用ゲームマシン「スーパーファミコン」用のソフトとして『ダライアスツイン』の開発が進められていた。
楽曲のデータ制作や効果音、楽曲のディレクションを担当していた私に、オリジナルのダライアス作曲者である小倉さんがこんな言葉をかけた。
「これ、シューティングの曲だけど“ダライアス”じゃないよね」
『ダライアス』という名が冠されたゲームとしては、初めて小倉さんの曲ではないタイトルであるツイン。ご本人が作曲しているわけではないからそれは仕方がないだろう、と当時は思っていた。
が、実はごく最近、この言葉が本当に意味するところを理解できるようになってきたのだ。
そう、「シューティングゲームの音楽と、ダライアスの音楽は根本的に違う」のだ。
大きな三画面筐体に魚型巨大戦艦が登場する『ダライアス』。
当時、こんな横長の画面を持ったゲームは非常に珍しかった。美麗なるグラフィック、そして内蔵されたスピーカーによって低音が体の芯まで揺さぶるシート。
ちょうど私が高校三年の頃に出回り始めたこの筐体は、ゲームセンターの中に入らなくても「あ、ここにはダライアスがある!」と気付かせるほど、中はおろか店先にまでその低音を轟かせていたのだ。
スタートボタンの上にはプレイ待ちの100円玉が並び、全員クリアすると仮定して一人あたり30分だから自分の順番は……などと待ち時間を計算していた。
ゲームはもちろん、画面と共に様々な顔を見せる美しい楽曲たちに皆が熱狂した。
その中で鳴り響く、ひたすら「異質」な音色。オーケストラヒットと呼ばれるそれは、当時の決して高いとはいえない音源スペックにも負けず、それまでのゲーム音楽とは確実に違う次元を見せてくれていた。
これがバンアレン帯ステージのBGM「MAIN THEME CHAOS」である。
しかしながら、『ダライアス』のプレイヤーにとって印象的という点に於いては、おそらく一面目の「CAPTAIN NEO」のほうが高いはず。それでもメインテーマがCHAOSである、とは一体どういうことなのだろう。
CHAOSの深層に触れた最初は、何と『ダライアス』発表から10年ほど経った頃の、とある社内行事である。
この中で小倉さんによって語られた、CHAOSが描こうとしていたもの。それまで宇宙の誕生だ、ビッグバンだ、とインタビューか何かで耳にはしていたものの、何かひどくぼんやりとした抽象的な印象は、「宇宙に雪を降らせる」という一言で明確な色彩を与えられることになった。
宇宙に降る雪……ああ、あの音だ! あのフレーズは雪を表現していたのか! でも、なぜ宇宙に雪が降るのだろう? どうして小倉さんはその発想に至ったのだろう?
……さて、ここまで話を進めてきたところで「宇宙に降る雪なんて、ゲーム内容に何にも関係がないじゃないか!」と憤慨するかたもいらっしゃるだろう。
ゲームとより密接に絡んでこそのゲーム音楽。それはまさにそのとおりで、私自身もその考えかたに近い。
しかし、小倉さんがCHAOSで試みたのは、ゲームというXYの平面にそのまま線を重ねていくのではなく、Z軸を少しずらした新たな面を平行に置くことで、そのタイトルの新たな一面……つまり、前から見るのか、後から見るのか、はたまた下から覗き込むのかといった様々な表情をゲームに与えることだったのだ。
そして後に続く自分たちは、ゲーム本体という原点と命綱で自身を繋ぎ止めながらも、大きく拡がったZ軸の空間の中で軽くステップしたり、思い切りジャンプしたり、何なら水の中に飛び込むことだってできるようになったのだ。
つまり、ゲーム音楽という世界の外郭を大きく拡げたのが、このCHAOSであったといえよう。少なくとも私にとっては。
巨大戦艦の記憶
人気曲ということで、やはりBOSS7にも触れておかなければならないだろう。
ヘッドフォンでただ曲を聴くことでさえ高揚するこの曲は、実際の筐体ではシートから響く低音を伴って数倍の威力を持ってプレイヤーに襲い掛かる。
『ダライアス』の楽曲は何度かCDになっていて、その度にシートから伝わる震動の迫力を音に加えようと試行錯誤をしているのだが……さすがに本物の筐体には敵わない。
ワーニングの後の静寂、最終ボスがゆっくりと画面に登場すると共に、強大な敵の登場を讃えるイントロが流れ出し、その圧倒的な物量攻撃と共に激しい音色のリフが鳴り響く。
さらにベースとメロディの印象的なユニゾンを経て、混沌とした戦闘は音の波の中にゆっくりと埋もれ、遠くなっていく……。
『ダライアス』のボス曲の中でもこれだけドラマティックな展開を見せるのはこのBOSS7のみ。
当初は最終ボスの曲ではなかったという話だが、よくぞ最後の最後にこの曲でゲームを飾ってくれたと心からの拍手を送りたい。
この曲を一度だけデータとして打ち込んだ機会があった。
冒頭にも書いた『ダライアスツイン』がそれである。もともとBOSS7を入れる予定はなく、かなりの土壇場になって私が個人で判断したのだ。
その理由は、スーパーファミコンの画面に登場したグレートシング(クジラ)の存在であった。
もともと用意されていたラストボス用の曲も、決して合わないわけではない。これはこれで(家庭用と割り切れば)アリかも知れない。
けれども、グレートシングの威容が、存在が、どうしても“あの曲”でプレイヤーを迎え撃ちたいと私に訴えてきたのだ。
厳しいスケジュールでわざわざ仕事を増やすことはなかったが、私は覚悟を決めて小倉さんにBOSS7を『ダライアスツイン』で使わせて欲しいと相談した。
最初のうちは難色を示していたと記憶しているが、おそらく私の“圧”が凄かったのだろう、結果的にはOKが出て、即座に私はデータを作り始めた。
本来ならば、この曲のために新たな音色を作成するのが筋なのだが、非常に厳しい容量制限の中で開発していたため、サンプリングデータを増やす余裕はまったくなかった。そんな中でも精一杯の、自分の中のBOSS7への愛を、グレートシングに応えたいという熱を、許された環境の中で曲データに刻み込んだ。
あの仕事で、どれだけ周囲に評価されたかはわからないが、30年経った今聴いても自分の中にあの時の熱が湧き上がってくるような気がする。
混沌の再構築
話をCHAOSに戻そう。
この曲は90年のファーストライブでも演奏され、けたたましいサイレンから始まる激しい戦争のイメージと共に、壮大な演奏で客席と舞台袖にいた私たちを圧倒した。
そんな私がCHAOSのアレンジをする機会を得たのはここ最近のことである。
90年のライブのイメージをある程度踏襲しつつも、シルバーホークから見える恒星が生み出す圧倒的な炎、そして訪れる漆黒の闇に、ただ自分の呼吸だけが聞こえる。
そして人間が未だ到達出来ない不思議な空間で、まるで雪のようにきらきら光る小さな粒子がゆっくりと眼前を埋め尽くしてゆく……という映像を、自分なりに表現した。
そのアレンジが完成した少し後、インタビューという形で小倉さん本人に「宇宙に降る雪」の真意を聞く機会を得た。
……そこで語られたのは、自分が想像していた「雪が降る」という表現をさらに超えた、地上では決して見ることができないであろう不思議な映像。
ああ、もっと早くこれを聞き出せていれば! と少し後悔した。
一緒に仕事をしていた頃と比べて成長したであろう今の自分をもってしても、小倉さんの代弁者にはなれるはずもなかったか……そうだ、CHAOSが本来描こうとしていた映像をより明瞭に表現できるのは私ではない。
いつか、今の小倉さんが描く「宇宙に降る雪」を聴いてみたいとその場でお願いをしてみたものの、やんわりと断られてしまった。
……というわけで、この願いが叶うかどうかはご本人次第。
ゲーム導入を透明感のある音色で彩るCAPTAIN NEO。
マシンノイズのようなドラムが激しく響くINORGANIC BEAT。
軽快なリズムの人気曲COSMIC AIR WAY。
神秘的かつ劇的な展開を見せるTHE SEA。
BOSS各種を含めどれもこれも素晴らしい楽曲だが、ゲーム本編に寄り添った曲であるのは間違いない。
そんな中にあって、ゲームという平面世界に立体軸を創造したCHAOS。FM音源+サンプリング音源がゲーム基板に導入されてからのわずかな間に、こんな挑戦をしてみせたタイトルが他にあっただろうか。
ゲーム音楽が表現できるフィールド・外郭を拡げたCHAOS。
その中で、後に続く自分たちが勝手気ままに新たな音を作り出していく。そして、また新たなる世代へと。
「シューティングゲームの音楽と、ダライアスの音楽は根本的に違う」
私が辿り着いた解釈、皆さんにも少しだけおわかりいただけたことと思う。
しかし、ここから小倉さんが作り出した“軸”はシリーズを重ねることで新たな次元へと入っていくのだ。
それは、また次回に。
『ダライアス コズミックリベレーション』好評発売中!
アーケードゲーム『ダライアス』シリーズの四作目に当たる『Gダライアス』を高解像度(HD)化した『GダライアスHD』。
そして、もとはPSP版として誕生したものの、アーケードへ、さらに再び家庭用ゲーム機へと移植がくり返された名作『ダライアスバースト』。本作に新たな要素を加えて蘇った『ダライアスバースト アナザークロニクルEX+』。
この二本をカップリングしたのが、『ダライアス コズミックリベレーション』(個別に1タイトルずつのダウンロード版もあります)。
『ダライアス』の“今”を知りたい人は、ぜひ!
公式サイト:https://darius.jp/revelation/
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