世にも珍しいアーケードゲームの企画展はなぜ開催されたのか?
「小樽・札幌ゲーセン物語展」主催者インタビュー(後編)

  • 記事タイトル
    世にも珍しいアーケードゲームの企画展はなぜ開催されたのか?
    「小樽・札幌ゲーセン物語展」主催者インタビュー(後編)
  • 公開日
    2021年05月21日
  • 記事番号
    5227
  • ライター
    鴫原盛之

2021年1月16~3月29日にかけて、小樽文学館で開催された「小樽・札幌ゲーセン物語」。後編では、小樽市のゲーセンマップやコミュニケーションノートを通じたナラティブ体験について、本展の企画者である藤井昌樹氏と、玉川徹館長にたっぷりと語っていただきました。
さらに今後開催を予定している、ゲームをテーマにした新たな展示イベントの計画についてもお話しいただきましたので、ぜひ最後までお読みください!
前編は、こちらから

「ゲーセン物語」は、まさに「ナラティブ」そのもの

―― 会場を拝見させていただいたところ、ゲームのポスターやグッズ類だけでなく、地元のゲーセンマップやコミュニケーションノートもあったので驚きました。

玉川 その中でも、私が特に興味を持ったのはレタス702のノートでした。ノートには、当時の皆さんのゲームに対する思い入れだけでなく、ゲーム以外にもいろいろな情報や話題の広がりかたがこういう形で残されているのは、今で言うナラティブ、町の物語ではないかと思いました。
ネット以前とは言わないまでも、SNSが普及する以前の時代には、手書きでこんな記録が残されていたのはすごいことだと、個人的には大きなインパクトがありました。これぞまさに、ゲーセン文化の核心ではないかと。

藤井 「文化庁メディア芸術祭 小樽展」のテーマも、まさにナラティブだったんですよね。イベント内では、「個人の固有の物語」という定義でしたが、ノートの話を最初にお聞きしたときには、私もこれこそナラティブだと思いましたし、今回の「小樽・札幌ゲーセン物語展」の「物語」も、まさにこれを指しているんですよ。
ですから、来場されたかたがたも展示物を見ながら、皆さんそれぞれ当時のことを思い出すことで各人ごとのナラティブ体験ができたのではないかと思います。たとえ物理的な展示がなくても、皆さんの頭の中には物語が入っているんですよね。

レタス702で実際に使用されていたコミュニケーションノート

玉川 昔から、物語を小樽文学館のコンセプトにしていましたので、以前は「小樽・札幌喫茶店物語」という展覧会がありましたし、ほかにも「古本屋物語」などのような展示を開催しました。つまり、町の中は対話や思索、そして物語が生まれる場所であり、大げさに言えばこれが文学の原点なんだということですね。
昔に比べ、そういった町中の場所がだんだん痩せ細っているような気がしていましたし、「もう一度それを意識してみよう」という展示を、時折ですが今までに何度もやっていましたので、「小樽・札幌ゲーセン物語展」も私の中ではまったく違和感がありませんでした。
実は、会場に展示したテーブル筐体は、「喫茶店物語」を開催するときに骨董品屋で安く売っていたのを私が買ったものなんですよ。元々は『ヴォルフィード』の筐体で、分解したら中から説明書も出てきましたね。タイトーさんに展示の許可をいただこうと、筐体の写真も添えてご連絡したら、「間違いなくタイトーのオリジナル品です」と、古い筐体にすごく関心を持たれたようで、そんなこともあって展示の許可をスムーズにいただけました。

玉川館長が購入した、タイトー製のテーブル筐体

―― 会場には、小樽市内にあった歴代のゲーセンマップも展示されていました。そのマップを拝見しましたが、現存しているお店はほとんどないようですが……。

藤井 そうですね。あのマップは、Wikiに投稿していただいた情報を反映させつつ作りました。投稿が増えるたびに、お店の数がどんどん増えていきましたから、昔はいかにたくさんゲーセンがあったかを如実に表わしていると思います。以前は札幌市内であれば、ちょっと歩けば何かしらのゲーセンがあったんですよね。今回の展示は小樽と札幌だけなのですが、昔はオホーツク海に近い地方に行っても、有名どころのゲームはだいたい遊べる場所があったので、実は地域格差があまりなかったこともわかりました。
北海道では、昔はナムコの直営店は札幌を含めた一部の地域にしかない時代がありましたので、「NG」が読めるのはそういった地域まで行けるかただけでしたが、「ベーマガ」や「ゲーメスト」とかは本屋で手に入りましたので、情報自体は道内のどこに住んでいても比較的共有しやすくなっていたようですね。展示が始まった後も、Wikiには新しい情報がたくさん寄せられ、今では当初の3倍近い情報が集まりましたので、Wikiがデータベースの役割を果たしてくれたように思います。

参考リンク:「札幌・小樽のゲーセン情報リスト
  

―― ナルホド! Wikiの作成は大成功でしたね。

藤井 古いゲーセンの情報は、ネットで検索してもなかなか出てこないんです。SNSには断片的に出てくるのですが、その情報を集約されたものがないことにあるとき気が付きました。じゃあ、私が1人でできることと言えばWikiを作って投稿を募ることぐらいだろうなと思って、去年の9月頃にWikiを作ったところ、ありがたいことに今でも少しずつ情報が蓄積され続けていて、「こういうのがほしかった」といった反響もいただけています。
先日は関東にお住まいで、個人で昔のハイスコア集計店の跡地を巡って記録をしているかたからも連絡がありました。「当時、どういうゲーセンがあったのかを記録するのにWikiが役立っています」と仰っていましたので、私としてもそういう使われかたをするのは一番いいな、Wikiを作った意義があったなあと率直に思いましたね。

―― 来場者から、展示内容の感想や意見、要望などは寄せられるのでしょうか。

玉川 こちらで用意したノートに、皆さんからのご要望はいろいろと書かれていますし、私は普段から会場のすぐ隣で仕事をしていますので、仕事中に歓声がいろいろと聞こえてきました。特に、かつて自分が熱心に読んでいた雑誌が飾られていたりすると、すごく感動されていましたよね。文学館の展示は歴史の展示でもあるのですが、今回の「小樽・札幌ゲーセン物語展」も、ここへ来る人自身とゲームの歴史がつながっていて、これはまさに物語だなあと。
「雑誌に投稿したゲームのプログラムが掲載されてお金をもらった」とか、そんな声が聞こえてきたこともありました。展示と皆さん自身の物語がつながることで強い感動があったのだと思いますが、こんなことは今までの展示ではなかったですね。

―― 皆さん展示を楽しまれたようで何よりでしたね。それではお時間が迫ってまいりましたので、最後に今後の取り組みについてお尋ねします。今後も小樽文学館では、藤井さんや玉川館長が企画された、ゲームをテーマにした展示イベントを開催する予定はあるのでしょうか?

藤井 はい。先日、私が出演したYouTubeの配信ですでに発表したのですが、2種類の展示を予定しています。まずひとつは、今回と同じコンセプトで行う「ゲーセン物語2」です。今回の展示は、コロナの影響で来館したくてもできなかったかたが多く、これを機に「自分のコレクションを提供したい」というお声掛けをたくさんいただけましたので、もう一度見ていただく機会を作りたいなと思ったのが企画をした理由ですね。

玉川 コロナの状況次第ですが、できれば皆さんが来やすい7~8月辺りで実施したいですね。

藤井 もしくは、コロナが落ち着けば9月に開催されるかもしれない「小樽アニメパーティー」のイベントに合わせるのもいいかもしれませんね。もうひとつは、ゲームの書籍にフォーカスした展示です。こちらも今回の展示で知り合った、個人でたくさん本をコレクションしているかたからご協力をいただくことになっていまして、アーケード以外の家庭用ゲームも含めた攻略本や雑誌、付録などを展示する予定です。
そのコレクションをお持ちのかたは、本業は居酒屋の経営なのですが、以前から自分のお店などを利用して、何らかの形でシェアしたいと考えていたそうです。そんな中でお知り合いになるきっかけができましたので、玉川館長にも相談したところ「じゃあ、コレクションをそのまま展示しようか」というお話になりました。コレクションはかなりの数がありますので、開催する際は有料エリアの広い展示スペースを使おうと考えております。
それから、かつてナムコの直営店を拠点に活動され、同人誌を作っていたサークルの代表だったかたにもご協力をいただけて、すでに当時の同人誌をこちらで預からせていただいております。古い同人誌も展示して、雑誌や攻略本が売られる以前はどんな時代だったのかもお見せできるようにしたいですね。IGCCの大堀さんや手塚さんのように全国的に有名なかた以外にも、昔は各地にゲーセンを拠点に同人誌を作っていたかたがたくさんいたと思いますので、その歴史も知っていただけるような展示になればいいなと思っています。

参考リンク:「80年~90年代のゲーセンを物語る」(※玉川館長のYouTubeチャンネル)

―― どちらもおもしろそうですね! ちなみに書籍の展示のほうは、今回の「小樽・札幌ゲーム物語展」とは違って地域性は考慮しない企画と考えてよろしいですか?

藤井 はい、そうです。ほかにも、できればゲームを題材にしたマンガなども可能な範囲で展示ができればと考えています。開催時期は来年以降になる予定で、展示をしつつ我々も自身の活動を同人誌にまとめて、世に広めることができたらいいなあと。

玉川 現時点で、多くの皆さんから次回以降のご期待をひしひしと感じておりますし、私としても、もしそのようなものが生まれる場が実際にできたら理想的な展示になりますね。

―― 本日は取材のご協力ありがとうございました。次回以降の展示も楽しみにしております。

後書き:取材を終えて

ゲーセンをテーマにした企画展が開かれるとの情報を聞いた刹那、自称40年来のゲーセン好きの小生は、たとえ取材仕事にならなくても、どんなに忙しくても絶対に行くぞと1秒で決めました。本当は開催初日に行きたかったのですが、コロナ禍のためなかなか日程が調整できず、ギリギリのタイミングでの取材となってしまいましたが、展示を楽しく拝見することができました。

展示物の中には、自分で書いた記事が載っている本があったのももちろんうれしかったのですが、それ以上に心を引かれたのは小樽市のゲーセンマップとコミュニケーションノートでした。
「ああ。昔雑誌で見た、当時のハイスコア集計店はここにあったのか」とか、「この人たちも、自分たちと同じ時代に、同じゲームで、同じような遊び方をしていたんだなあ……」と、自身とはまったく縁のない土地でありながら、地元北海道の皆さんの「物語」を疑似体験したかのような気分になれたのが最高でしたね。

ゲーセンっていいな、アーケードゲームは何て魅力的なんだろうと、再発見する機会をいただいた藤井さん、玉川館長には、この場をお借りして改めて感謝申し上げます。
次回以降の企画展も、ぜひ取材にお邪魔させていただきます!

参考リンク:小樽文学館 ミニ企画展「小樽・札幌ゲーセン物語展」のページ

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