「ゲームニクス」で考えるゲームの魅力 第十八回 ショートカット その2

  • 記事タイトル
    「ゲームニクス」で考えるゲームの魅力 第十八回 ショートカット その2
  • 公開日
    2021年10月29日
  • 記事番号
    6424
  • ライター
    鴫原盛之

当コラムでは、「ゲームニクス理論」をもとに、なぜゲームがおもしろくなるのか、どうしてプレイヤーはゲームに夢中になってしまうのかを、おもしろおかしくご紹介していきます。

第十八回目のテーマは、前回に引き続き「ショートカット」です。

前回は、短縮コマンドを導入して操作の手間を省いたり、素早くプレイデータをセーブできる機能を追加するなどの方法で、ゲームがより快適に遊べるようになる例をご紹介しました。

今回は主にアクションゲームにおいて、ステージクリアまでの近道となる別ルートの存在や、途中のステージを飛ばして最終面に短時間で到達できるワープの仕掛けなど、ゲームを攻略するうえで役立つ「ショートカット」の例をご説明したいと思います。

以下、またまた筆者の思い付く限りではありますが、その実例をいろいろご紹介していきましょう。どうぞ最後までご一読ください!
  

「ゲームニクス」とは?

現亜細亜大学教授のサイトウ・アキヒロ先生提唱による、プレイヤーが思わずゲームに夢中になる仕組みを理論・体型化したもの。
本稿では、「ゲームニクス理論」を参考に、ありとあらゆるゲームのオモシロネタをご紹介していきます。「理論」というおカタイ言葉とは正反対に、中身はとってもユルユルですので、仕事や勉強の休憩時間や車内での暇つぶしなど、ちょっとした息抜きにぜひご一読を!
  

プレイヤーの挑戦意欲を大いに煽る「ショートカット」

古くからアクションゲームにおいては、成功すればステージクリアまでの近道が通れる一方、失敗するとミスになるリスクが高まる「ショートカット」を用意し、プレイヤーに選択を迫るアイデアがしばしば導入されています。

有名タイトルから例を挙げますと、『ドンキーコング』(任天堂/1981年)の3面には、ステージの中盤でリフトに乗った直後、続けざまにジャンプして高い位置にある足場に着地を成功させると、ゴール地点付近まで一気に「ショートカット」できるルートが用意されています。

以下の写真を見れば明らかなように、連続ジャンプに成功すれば右下のルートを通らずに、大幅に「ショートカット」して得点が稼げる(※残りタイムがクリアボーナスとして加算されるため)ようになります。

ただし、少しでもジャンプのタイミングが遅れると着地できずに落下してミスになるリスクが生じます。ですから、練習を繰り返して「ショートカット」のテクニックをマスターしたプレイヤーは、他のプレイヤーにも自身の腕を自慢することができるというわけですね。
  

『ドンキーコング』の続編にあたる、『ドンキーコングJR.』(任天堂/1982年)の2面にも同様の仕掛けがあります。

本作では、2面のスタート地点のすぐそばにジャンプ台があります。ここで普通にジャンプした場合は反対側にある足場に着地しますが、タイミング次第ではもう一段高い位置にある、左右に動くリフトに着地して「ショートカット」をすることができます。
  

レースゲームにおいて、意図的にコース外を走って「ショートカット」し、走行タイムを縮めることができる画期的なアイデアを取り入れているのが、スーパーファミコン用ソフトの『F-ZERO』(任天堂/1990年)、および『スーパーマリオカート』(任天堂/1992年)の両シリーズです。

『F-ZERO』は、スーパージェット(ターボ)を使用するとマイカーが約4秒間高速で走れるようになり、なおかつコースの側面にある砂地などに乗っても減速しないため、これを利用してさまざまな場所で「ショートカット」ができます。

同様に『スーパーマリオカート』シリーズでも、使用中はコース外に飛び出してもスピードが落ちない効果を持つ、ダッシュキノコのアイテムを使って「ショートカット」が可能なことは、皆さんもよくご存知のことでしょう。

今さらではありますが、従来のレースゲームの常識を覆す「ショートカット」を利用した攻略のアイデアを採用し、ゲームのおもしろさにつなげた開発スタッフの発想力には、ただ脱帽するばかりですね。
  

ちょっと変わった「ショートカット」のアイデアを取り入れていたのが、ファミコン用シューティングゲームの『頭脳戦艦ガル』(dB-SOFT/1985年)です。

本作の1~12面にあたる地底エリアでは、各ステージの最終地点で左右2つにルートが分岐(※11、12面を除く)し、左ルートを選ぶと難易度が低いステージに、右ルートを選ぶと高難易度のステージに進む仕組みになっています。

例えば、1面からずっと右のルートを選択すると1、3、7、12面の合計4ステージをクリアすれば次のコアエリア(13面)に進めますが、ずっと左のルートを選択した場合は1、2、4、6、8、10、11面の合計7ステージをクリアしないと、次のコアエリアに進むことができません。つまり難しいルートを選択するほど、より早く先のエリアに進める「ショートカット」ができるようにしたわけですね。

ただ、これはあくまで筆者の体感ですが、本作の地底エリアは左右から外壁が突き出た場所が多いため行動範囲が狭く、しかも自機が左右の外壁に当たった場合もミスになるので、クリアするのはけっして簡単ではありません。

本来ならば、左ルートにひたすら進めばクリアが容易になるハズなのですが、右ルートに比べてステージ数が増えてしまうため、かえって壁に当たってミスをするリスクが高まるように思われます。しかも、13面から始まるコアエリアは、外壁が突き出た場所が一切なく、地底エリアに比べてはるかに行動範囲が広く戦いやすいので、最短で地底エリアを抜けられる右ルートを進んだほうが、むしろ攻略が楽になる感があります。

ルート分岐自体はとてもおもしろいアイデアだと思いますが、あまりにも複雑な仕組みゆえ、プレイヤーにとってはどのルートが最適解なのか、判断が非常に難しくなってしまったかもしれませんね。
  

「ショートカット」の定番、ワープの演出

途中のステージを飛ばし、最終ステージに到達するまでの時間を大幅に「ショートカット」できるワープゾーン、あるいはワープアイテムの存在も、プレイヤーの快感を大いに高める演出のひとつと言っていいでしょう。

例えばジャレコのアーケード用アクションゲーム『シティコネクション』(ジャレコ/1985年)は、たまに出現する風船を合計3個取ると先のステージにワープすることができます。風船はマイカーから離れた位置に出現することが多いのですが、うまく風船をキャッチしてワープに成功すると大きな快感が得られます。

ワープゾーンを利用した「ショートカット」の存在を一躍有名にしたのは、おそらく『スーパーマリオブラザーズ』(任天堂/1985年)でしょう。

本作はワールド1-1から8-4まで、全部で32ステージもありますので、全面クリアしてエンディングまで到達するのはなかなか大変です。しかしワールド1-2、つまり2面の終盤に隠されたワープゾーンを発見すると、一気にワールド2-1、3-1、4-1のいずれかにワープすることができます。

さらに、ワールド4-2の終盤に隠されたワープゾーンに入るとワールド5-1へ、中盤に隠されたツタを登った先にあるワープゾーンを発見すると、ワールド6-1、7-1、8-1のいずれかにワープすることもできます。

これらの「ショートカット」を利用すれば、最短で約15分でエンディングに到達できるだけでなく、ワープゾーンの存在自体を発見したときにも大きな喜びと感動を得ることができます。

このような隠しルートにワープソーンを仕込むアイデアは、本作の続編である『スーパーマリオブラザーズ2』(任天堂/1986年)をはじめ、多くのタイトルに導入されています。また『NewスーパーマリオブラザーズWii』(任天堂/2009年)では、特定のステージに隠された「裏ゴール」につながる隠しルートを発見してクリアすると、マップ画面で最終ステージまでの近道となる「ショートカット」が出現するようになっていました。
  

隠しルートではなく、隠しアイテムを取ると先のステージにワープする「ショートカット」のアイデアを盛り込んでいたのが、ファミコン用アクションゲームの『グーニーズ』(コナミ/1986年)です。

本作では3面に隠されたアイテム、ハイパーシューズを入手すると、主人公のマイキーが本来は絶対に先へ進むことができない場所で驚異的なジャンプ力を発揮し、4面をスルーして5面にワープすることが可能となります。本作は全6ステージですので、1面飛ばすだけでもエンディングまでの到達時間をかなり短縮できます。
  

ファミコン用シューティングゲームの『スターソルジャー』(ハドソン/1986年)では、スコアの千の位と百の位の数字が同じ、つまりゾロ目のときに特定の場所に16発撃ち込むと隠れキャラのワープが出現します。ワープは1、5、9、12面の4か所にあり、1面でワープを取ると4面に、5面で取れば8面、9面で取ると12面、12面で取ると15面にそれぞれ進む効果があります。

本作は全16ステージで、すべてのワープを取ってノーミスでクリアすれば、わずか15分足らずでエンディングまで到達することができる、とてもありがたい「ショートカット」です。

本作のように、特定の条件を満たすと出現する隠しアイテム、または隠れキャラとしてワープが登場するアイデアは『バブルボブル』(タイトー/1986年)をはじめ、ファミコン版の『ソロモンの鍵』(テクモ/1986年)など、やはり多くのタイトルに導入されています。
  

隠しアイテム以外にも、特定の条件を満たすとワープする、すなわち裏技として「ショートカット」を用意したタイトルもいろいろあります。

例えば『パックランド』(ナムコ/1984年)では、1面をノーミスでクリアしてから、2面で特定の切り株を押し込むと、トリップ3(9面)にワープする裏技があります。同じく本作のファミコン版には、1面で1万点以上の得点を稼ぎ、なおかつ屋根の上に登るなどの方法でパックマンが高い位置にいる状態でノーミスでクリアすると、いきなりトリップ4(13面)にワープする裏技がありました。

ファミコン版の横スクロールシューティングゲーム『グラディウス』(コナミ/1986年)は、1~3面で特定の条件を満たしてクリアすると、次のステージを飛ばして2面先にワープできる裏技があります。ちなみに当時のコナミは、ファミコン専門誌の広告としてワープ中の写真を公開し、プレイヤーの興味を掻き立てるプロモーションを実施していた点でも特筆に値します。

ちょっと変わったワープの裏技を仕込んでいたのが、ファミコン用アクションゲームの『ドアドア』(エニックス/1985年)です。

本作の練習ステージにあたる0面でA、Bボタンを押したまま、取るとミスになってしまう爆弾のアイテムをわざと取って主人公のチュン君を自爆させると、いきなり25面にワープするという驚きの裏技が用意されていました。
  

ほかにも、同じステージ内のマップをワープして「ショートカット」できるタイトルもいくつかあります。

前出の『スーパーマリオブラザーズ』でも、土管に入って地下室を通ることでゴール地点まで「ショートカット」ができるステージが存在します。またアーケード用シューティングゲームの『ASO』(SNK/1985年)では、地上物を破壊すると時折出現する「W」アイテムを取ると、数画面先にワープできるのがその一例です。

ファミコン用アクションゲームの『忍者ハットリくん』(ハドソン/1986年)は、隠れキャラの鍵を取ると約6画面分先にワープするほか、8面では残りタイムが10秒を切った状態で特定の場所にある蔵の入り口に入ると、一気にゴール地点の手前までワープできる裏技もあります。同様のアイデアは、同じくファミコン用アクションゲームの『六三四の剣 ただいま修行中』(タイトー/1986年)にも導入されていました。

このように、とりわけファミコンブーム真っ只中の1980年代には、各メーカーがファミコン専門誌の名物だった裏技コーナーに掲載されることを意識していたのか、「ショートカット」の裏技を仕込む例が多かったように思われます。
  

『ドラゴンバスター』に見る、「ショートカット」を利用した戦略性とおもしろさを引き出す絶妙の演出

ここからは「ショートカット」を利用した、高度な戦略性を取り入れた特筆すべきタイトルをピックアップしてご紹介します。

以下の写真は、アーケード用アクションゲーム『ドラゴンバスター』(ナムコ/1985年)のラウンド7、洞窟モードのスタート直後の場面です。ここで左上、または右上に見える通路に向かって、斜め2段ジャンプと呼ばれるテクニックを使って飛び移ることに成功すると、出口までの道のりを大幅に「ショートカット」することができます。

もう少しくわしく説明しますと、左上の通路に着地した場合は、出口までにルームガーダーと呼ばれる強敵が出現する部屋を3回通るだけで(※この洞窟には全部で14部屋あります)出口にたどり着くことができます。右上に着地した場合は、さらにその先にある通路でもう1回斜め2段ジャンプに成功すると、何とルームガーダーのいる部屋を1回通るだけで、すぐに出口から脱出できるのです。

ただし、もし2段ジャンプに失敗して落下すると、左上から落下したときは出口までにルームガーダーがいる部屋を最低でも7回、右上から落下した場合は4回通る遠回りを強いられます。「ショートカット」できるか否か、プレイヤーが一発勝負に挑むスリル感を見事に演出した好例であると筆者は思います。

ほかにも本作では、ルートの選びかたによっては出口までの「ショートカット」ができる洞窟モードのステージが多数登場します。主人公のバイタリティ(体力)を温存したいときは「ショートカット」を進んだり、逆に余裕がある場合はわざと遠回りして得点やアイテムを稼ぐなど、その時々の状態やプレイヤー自身の腕と相談をしつつ、臨機応変に対応しながらプレイするのが非常におもしろいゲームになっています。
  

さらにファミコン版の『ドラゴンバスター』(ナムコ/1987年)には、マップモード(※ルートを選択するモード)にも「ショートカット」の要素が追加されています。

ファミコン版は、途中のラウンドからマップが1画面に収まり切れないほど広大になり、全12ラウンドクリアに要する時間が、アーケード版よりもはるかに長くなりました。

そこで、ルームガーダーを倒すと時折出現するオノ、カギ、水晶のいずれかのアイテムを取っておくと、マップモードで道を塞いでいる門の扉を開く、森の木を切り倒す、水晶で道の切れた所に虹の橋を架けるといった方法で「ショートカット」し、全ラウンドクリアまでのルートおよび時間を短縮できるようになりました。
  

以上、ゲーム攻略の一要素としての「ショートカット」をいろいろとご紹介しましたが、どんなご感想をお持ちになったでしょうか?

プレイヤーの実力を示すバロメーターの役割を果たすのはもちろん、友人たちにエンディングを早く見せたいときにも重宝する、数々の素晴らしいアイデアを発明した先人たちの知恵には、改めて敬意を表したいですね。

なお、ゲームの攻略の一要素としての「ショートカット」に関連するくわしい内容は、筆者とサイトウ・アキヒロ先生の共著「ビジネスを変える『ゲームニクス』の「原則3-B-⑤:ハイリスク・ハイリターンの調整」のほか、「原則3-C-④:発見した喜びを増幅する」「4原則-D-⑤:迂回ルートを準備する」などのページに書いてありますので、ご興味のあるかたはぜひ御覧ください。

それでは、また次回!

こんな記事がよく読まれています

2018年04月10日

ゲームセンター聖地巡礼「1980~1990年代 新宿」前編

今回から、新企画「ゲームセンター聖地巡礼」の連載がスタートします。当研究所・所長の大堀康祐氏と、ゲームディレクターであり当研究所のライターとしても協力いただいている見城こうじ氏のお2人が、1980~1[…]