『ザクソン』を通じて考えるクォータービューシューティングの世界
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『スペースインベーダー』(1978年/タイトー)の登場以来、多岐にわたり広がりを見せるシューティングゲームの世界。スクロール方向や視点など、様々なバリエーションがリリースされた同ジャンルであるが、今ひとつ定着しなかったニッチなジャンルのひとつにクォータービューシューティングがある。
クォータービューとはいわゆる「斜め視点」を指す言葉で、家庭用やパソコンゲームではよく使われる視点。縦横だけでなく高低差も表現できるために、昨今のあらゆるゲーム、とりわけシミュレーションゲームにおいて、もはや定番ともいえる表現形態といえる。
しかし、シューティングゲームの世界では『マッドクラッシャー』(1984年/SNK)、『ブレイザー』(1987年/ナムコ)、『メルヘンメイズ』(1988年/ナムコ)、『ビューポイント』(1992年/サミー)などの例が挙げられるものの、タイトル数としては決して多いとはいえない。
本稿では、そんなクォータービューシューティングの草分けといういうべき1982年に発売されたセガの『ザクソン』を例に、クォータービューシューティングの世界について触れてみよう。
箱庭世界を覗くような不思議なプレイ感覚
『ザクソン』は、まだ固定画面のシューティングゲームが一般的だった1982年に発売されたクォータービューによる強制スクロールのシューティングゲームである。自機に燃料の概念があり、マップ上に点在している燃料タンクを撃つことで燃料が補給され、燃料がなくなると墜落してミスとなってしまう。
このシステムは前年に発売された『スクランブル』(1981年/コナミ)から着想を得たと思われ、スクロール方法は違うものの、本作は『スクランブル』から派生したゲームといえる。
画面の見た目としては斜め方向から俯瞰視点で見下ろした縦スクロールシューティングといった趣で、立体感を強調したグラフィックが印象に残る。『ザクソン』をプレイしていると、どことなく箱庭世界を覗き込んで遊んでいるような錯覚を覚えることがあり、このプレイ感覚は本作のみでしか味わえない独特のものといえよう。
『ザクソン』の本質は3Dシューティングだった
本作の一番大きな特徴は、クォータービューという特異な視点を活かした「高度の概念があるゲーム」であるという点。レバーの左右に自機の左右移動、上下に上昇・下降が割り当てられており、他のゲームに見られる前後の移動はできない。
そういう意味では三次元的な画面でありながらプレイヤーの移動自由度という面では二次元のみの移動しかできないゲームといえる
この点ではセガが得意とする『スペースハリアー』(1985年/セガ)をはじめとした3Dシューティングに通じるものがあり、『ザクソン』は一見縦スクロールシューティングによく似た画面レイアウトでありながら、ゲーム性の本質は3Dシューティングに分類されるべきゲームといえる。
なお、マップ上には様々な形状・高さの壁が設置されており、高度を上げないと乗り越えられない上、燃料タンクは当然ながらすべて地上に設置されているため、燃料補給のために下降しなければならない。本作の最大要素である高度をうまく活かしたゲームデザインといえるだろう。
なぜクォータービューシューティングは廃れたのか
冒頭で述べた通り、クォータービューを採用したシューティングゲームは決して多くない。しかも、レバー上下で上昇・下降という垂直方向への移動を採用したのは本作と、そのマイナーチェンジである『スーパーザクソン』(1982年/セガ)くらいである。
それ以外のタイトルは視点こそクォータービューを採用しているものの、ゲームシステム自体は見た目の目先を変えた、単なる縦スクロールシューティングゲームに過ぎない。なぜ、このシステムは派生タイトルを生むことなく本作限りにとどまってしまったのであろうか?
一番大きな問題点は自機と敵(敵弾含む)との位置関係をつかみにくいところにある。特に各ラウンドの中盤エリアに存在する宇宙空間は背景が真っ暗なため、輪をかけて高度差をつかみにくく、理不尽なミスをすることが多い。
結局、上昇・下降+左右移動しかない自機で敵を迎え撃つというゲームシステムならば単なる3Dシューティングにしたほうが理にかなっているわけで、事実、セガ・マークⅢ用に 1987年に発売された『ザクソン3D』ではクォータービューを捨てて、やや俯瞰気味の3Dシューティングになっている。
シューティング進化の過程を彩ったクォータービュー
一方、『ザクソン』以外のクォータービューも前述の通り、ゲームシステムの本質的には単なる縦スクロールシューティングなため、見た目の目先を変える程度の効果しか見込めなかった。
縦スクロール、横スクロールともに「弾幕ゲー」「避けゲー」といった具合に様々な方向へ進化を遂げたにもかかわらず、クォータービューはシステムとしての進化をすることはなく、進化に取り残されてしまったのである。
独自の視点表現とという武器を活かすゲームシステムをうまく構築することはできず、ジャンルとして定着・発展することなく廃れてしまったのがクォータービューを取り巻く現実といえるのかもしれない。
まだ映像表現技術が貧弱であった1980年代初頭において、クォータービューが見せてくれた立体的なグラフィックは確かにそれまでの平面的なグラフィックとは一線を画した「未来」を感じさせてくれたのも確かである。
シューティングゲームが進化する過程で残念ながら淘汰されてしまったジャンルではあるが、時代の徒花として「新しいゲーム」「新しい表現」を目指す試行錯誤の上で生まれたクォータービューシューティングというジャンルを胸にとどめておきたいと思う。
様々なゲーム機、パソコンに移植された名作
1982年というアーケードゲーム黎明期に発売された本作の存在は大きなインパクトを持って迎えられ、様々なプラットフォームへの移植が存在した。下記に紹介したもの以外にもLSIゲームにまで移植されたものまであり、当時の人気のほどが窺えるトピックといえる。ここでは正当な続編を含め、比較的入手難易度の低いものをいくつか紹介しておこう。
『スーパーザクソン』(1982年・アーケード)
敵キャラクターの追加・変更が行われ、ゲームバランスが調整されたマイナーチェンジ版。各面最後のボスがロボットではなく怪獣になった。
『ザクソン』(1985年・SG-1000、MSX)
スクロール機能のない機種への移植なため8ドット単位の荒いスクロールだが、アーケードの雰囲気を再現しようとする意欲が随所に感じられる。SG-1000版は同機種のキラータイトルであった。
『ザクソン3D』(1987年・セガ・マークⅢ)
3Dグラスによる液晶シャッター方式による立体映像を実現した、セガ・マークⅢオリジナルタイトル。ゲーム内容はシンプルな3Dシューティングとなっている。
『ザクソン』(2009年・Wii)
バーチャルコンソールアーケードにより、はじめて実現したアーケード版完全移植。画面を90度回転表示させることができ、モニターを縦にして遊ぶこともできる。
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