「ゲームニクス」で考えるゲームの魅力 第二十五回 ボスキャラクター
当コラムでは、「ゲームニクス理論」をもとに、なぜゲームがおもしろくなるのか、どうしてプレイヤーはゲームに夢中になってしまうのかを、おもしろおかしくご紹介していきます。
第二十五回目のテーマは「ボスキャラクター」です。
アクションやシューティング、RPGなどあらゆるジャンルにおいて、各ステージやダンジョンの終盤に強力な「ボスキャラクター」が登場する演出は、今も昔も定番中の定番です。
クライマックスの場面で「ボスキャラクター」を出現させるのはなぜでしょうか? その理由を「ゲームニクス理論」で解くならば、プレイヤーにゲームの目標、または最終目標を極めてわかりやすい形で設定できるからです。
「お姫様が悪の大魔王にさらわれた」とか「大魔王が世界を破滅させようとしている」などといったストーリーを用意しておけば、「ボスキャラクター」を倒すのが目標であることがプレイヤーに自然と伝わりますよね。
以下、古いタイトルを中心に、さまざまなアイデアを駆使してプレイヤーを夢中にさせた「ボスキャラクター」の例をご紹介したいと思います。
どうぞ最後までご一読ください!
「ゲームニクス」とは?
現亜細亜大学教授のサイトウ・アキヒロ先生提唱による、プレイヤーが思わずゲームに夢中になる仕組みを理論・体型化したもの。
本稿では、「ゲームニクス理論」を参考に、ありとあらゆるゲームのオモシロネタをご紹介していきます。「理論」というおカタイ言葉とは正反対に、中身はとってもユルユルですので、仕事や勉強の休憩時間や車内での暇つぶしなど、ちょっとした息抜きにぜひご一読を!
強くて大きい、圧倒的な存在でプレイヤーを虜に
1970年代の黎明期に登場したアクション、シューティングゲームには、そもそも「ボスキャラクター」が存在しませんでした。
『スペースインベーダー』(タイトー/1978年)に出現するUFOも、敵の宇宙人たちの親玉、あるいは母船などという設定は特になく、画面をただ横切るだけで一切攻撃しないこともあり、「ボスキャラクター」とは呼べない感があります。
では、明確に「ボスキャラクター」を登場させた最初のタイトルは何だったのでしょうか? 冒頭からたいへん申し訳ないのですが、ハッキリと「これが元祖だ!」と言えるタイトルは特定できておりません。(※ご存知のかたがいらっしゃいましたら、ぜひご一報を!)
筆者が知る限りで、「ボスキャラクター」が明確に存在する最も古いタイトルのひとつが『ギャラクシアン』(ナムコ/1979年)です。
本作には、各ステージで敵のエイリアン軍団のうち2機だけ、その名もズバリのギャルボス(ボス・エイリアン)が登場し、護衛のエイリアンとともに激しい攻撃を仕掛けてきますが、倒すと高得点ボーナスが獲得できます。
その後継タイトルにあたる『ギャラガ』(ナムコ/1981年)も、自機を吸い込むトラクタービームを発射したり、護衛のエイリアンと編隊攻撃を仕掛けたりするボスギャラガが登場します。当時からゲームセンターに通っていたかたであれば、よくご存じのことでしょう。
ほかにも、奇しくも『ギャラクシアン』と同じ1979年10月に登場したシューティングゲーム『アストロファイター』(データイースト/1979年)には、最終ステージにキングコアという名前の「ボスキャラクター」(※パンフレットの表記は「親玉敵機」)が出現するアイデアが導入されていました。
また『サスケVSコマンダー』(SNK/1980年)も「ボスキャラクター」にあたる火炎、分身などの華麗な忍術を繰り出する親分忍者が登場することで、プレイヤーの緊張感を高めるバトルシーンを演出していました。
©SNK PLAYMORE
PCや家庭用ゲームの古いタイトルで「ボスキャラクター」が際立つジャンルは、やはりRPGになるでしょう。ドラマチックなストーリーを創出し、かつプレイヤーにゲームの目的を明示するシンボルとして、これほどわかりやすいものはありません。
その中でも、おそらく最も有名なタイトルのひとつが『ウィザードリィ』(サーテック/1981年)になるでしょう。本作は、「狂王」ことトレボーから秘宝アミュレットを盗み出した、「ボスキャラクター」にあたる悪の魔術師ワードナを倒し、アミュレットを奪還することが目的となります。
同じく『ウルティマ』(オリジン/1980年)も、終盤に出現する「ボスキャラクター」にあたる魔導士モンデインを倒すことが目的ですし、アクションRPGの『ハイドライド』(T&Eソフト/1984年)は最強の悪魔バラリスを、『ドラゴンクエスト』(エニックス/1986年)でもご存じ、竜王を倒して世界の平和を取り戻すことがゲームの目的になっています。
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© SUGIYAMA KOBO
さらに時代が進むにつれて、特にアクションやシューティング系のタイトルでは、巨大サイズの「ボスキャラクター」を登場させることで、より迫力のあるバトルをプレイヤーに楽しませる演出が定着していきました。
かつて、ゲームセンターで『ゼビウス』(ナムコ/1983年)を遊んだことがあるプレイヤーであれば、巨大浮遊要塞のアンドアジェネシスを初めて見たときは、誰しもがその威圧感や強さには衝撃を受けたことでしょう。
なおアンドアジェネシスは、作中で「ボスキャラクター」との表記はありませんが、ストーリー上では敵の中枢であるガンプ(※人工脳を発展させたもの)の本体にあたるブラグザを核に持つという設定になっています。
©BANDAI NAMCO Entertainment Inc.
「『ゼビウス』が嚆矢となった」と100パーセント断言はできないのですが、本作の後に発売されたアクション、シューティングゲームには巨大サイズの「ボスキャラクター」がよく登場するようになり、当時はその存在自体が個々のタイトルのセールスポイントにもなっていました。
例えば『1942』(カプコン/1984年)では、各ステージに大型戦闘機が出現するほか、7面などの最終地点では画面の大半を覆うほどの超巨大戦闘機「亜也虎(あやこ)」が出現します。「亜也虎」が出現中はBGMが変化し、プレイヤーの緊張感を高める演出を取り入れているのも見逃がせないところですね。
『スペースハリアー』(セガ/1985年)は、豊富な種類の「ボスキャラクター」が登場するのに加え、疑似3D視点で描かれた1面のボス、スケイラなどの巨大な敵が、こちらに向かって来る迫力には、誰もが大いに驚いたことでしょう。さらに「ボスキャラクター」ごとに異なるBGMを流したり、最終ステージでは一度戦った「ボスキャラクター」7体と再戦したりする、実に粋な演出も用意されていました。
とりわけ「ボスキャラクター」の巨大さでプレイヤーの度肝を抜いたタイトルと言えば、やはり『ダライアス』(タイトー/1987年)になるでしょう。
本作は、モニターを横に3台並べ、1つの大きなモニターとしてプレイする専用筐体を使用しており、各ステージの最後に出現する巨大戦艦はモニター1画面分をほぼ占拠するほどの大きさがありました。巨大戦艦の種類も豊富で、海洋生物をモチーフにした独特のデザインと多彩な攻撃パターン、さらにはステージごとにボス戦のBGMが変わる演出も相まって、そのインパクトは凄まじいものがありました。
©TAITO CORPORATION 1986, 1990 ALL RIGHTS RESERVED.
家庭用ゲームでも、特にファミコンブームの絶頂期だった80年代の後半は、巨大サイズの「ボスキャラクター」をセールスポイントにしていたタイトルが続々と発売されていた感があります。
その最たる例が『スターソルジャー』(ハドソン/1986年)です。本作は、4ステージごとに「ボスキャラクター」のビッグスターブレインが出現しますが、メーカーがビッグスターブレインを「ファミコン史上最大のキャラ」と銘打って、発売前から盛んにプロモーションを仕掛けていました。
筆者も本作を発売日に購入して夢中で遊びましたが、初めて「ビッグスターブレイン」が眼前に現れたときには、その迫力と自機の行動できる範囲の狭さに驚かされた記憶があります。
同じくハドソンが発売した、PCエンジン用アクションゲーム『THE 功夫』(ハドソン/1987年)も、巨大サイズの主人公や「ボスキャラクター」たちが登場するのが大きな特徴でした。当時、まだ発売されたばかりだった新ハードの優れた描画性能を、メディアを通じてアピールする際にも本作はよく利用されていたと記憶しています。
©Konami Digital Entertainment
PC用アクションRPG黎明期に登場した、超有名タイトルの『ザナドゥ』(日本ファルコム/1985年)も、クラーケン・ジャイアントやシルバードラゴンなど、巨大かつ豊富な種類の「ボスキャラクター」が登場することでも有名です。
その続編の『ザナドゥ シナリオII』(日本ファルコム/1986年)では「ボスキャラクター」の種類が増え、対ボス戦専用のBGMも追加されましたが、当時のメーカーやメディアでは「デカキャラ」「ビッグモンスター」といった表記を使用していました。
コマンド入力方式のRPGでも、前出の『ドラゴンクエスト』(エニックス/1986年)の竜王(の最終形態)をはじめ、『ファイナルファンタジー』(スクウェア/1987年)の「ラスボス」であるカオスなどは、ほかのどのモンスターよりも巨大サイズで、いかにも強そうな風貌で描かれていることは、もはやくわしい説明は不要でしょう。
これらの巨大な「ボスキャラクター」の攻撃をしのぎ、恐怖感を乗り越えて倒したときの達成感は本当に格別ですよね!
©Nihon Falcom Corporation. All rights reserved.
ゲームの展開、シーンリズムがよりおもしろくなる「中ボス」の発明
主にアクション、シューティングゲームにおいて「ボスキャラクター」ほど大きくはないものの、ザコキャラよりもずっと高い攻撃力を備えた強敵、通称「中ボス」と呼ばれるキャラクターが出現するタイトルも、古い時代からたくさんあります。
家庭用ソフトで「中ボス」の存在をプレイヤーに広く周知させた有名タイトルのひとつが、おそらく『メトロイド』(任天堂/1986年)ではないかと思われます。
本作には、特定の場所でグレイドとリドリーの2体の「中ボス」が出現します。いずれもザコキャラとは比較にならないほど手強い相手で、エンディングを迎えるためには両方を倒すことが必須となります。
なお、当時の「ファミコン通信」などのゲームメディアでは「中ボス」ではなく「小ボス(コボス)」という表記が使われていました。なので、当時アーケードゲームを遊んでいなかった人にとっては「小ボス」のほうが、よりなじみ深い表現かもしれませんね。
© Nintendo
アーケードゲームで、随所に「中ボス」を登場させてゲームをおもしろくしていた代表例のひとつが『TATSUJIN』(タイトー、開発:東亜プラン/1988年)になるでしょう。本作は、各ステージの最後に巨大な「ボスキャラクター」が出現しますが、対ボス戦までの間に数々の手強い「中ボス」が登場します。
前出の『1942』も、各ステージに「ボスキャラクター」にあたる大型戦闘機のほか、敵のザコ機よりもサイズが大きくて耐久力の高い、「中ボス」に位置付けられる中型機がしばしば出現します。同様に『ASO』(SNK/1985年)も、各ステージに「中ボス」にあたるモルトガンデ、オバノンなど耐久力の高い敵が出現します。
また『ダライアスII』(タイトー/1989年)には、前作の「ボスキャラクター」だったキングフォスル(シーラカンス)、グリーンコロナタス(タツオノトシゴ)などをコンパクトサイズにした「中ボス」が登場し、プレイヤーを楽しませるアイデアが盛り込まれていました。
余談になりますが、『テラクレスタ』(日本物産/1985年)には中型母艦、その名もチューボという「中ボス」が出現します。名前の由来は中型母艦の略称なのか、それとも「中ボス」にかけたのかまでは定かではないのですが……。
© TATSUJIN Co., Ltd.
このような「中ボス」を登場させることで、プレイヤーは最終地点、または各ステージの最後に登場する「ボスキャラクター」を倒すことを大目標にしつつ、「今日は3面の中ボスを倒すぞ」「最終面の中ボスまで行けたらいいな」などといった要領で、対ボス戦にいたるまでの中間目標も設定してプレイできるメリットが生じます。
ところで、「ボスキャラクター」とは別に「中ボス」が最初に登場したタイトルは何だったのでしょうか? こちらもいろいろ調べてみたのですが、ハッキリしたことはわかりませんでした……。ご存じのかた、ぜひともご一報を!
クライマックスの場面を盛り上げる悪の首領「ラスボス」の存在
数々の「ボスキャラクター」や「中ボス」を打ち破り、クライマックスの場面に進むと敵の親玉、いわゆる「ラスボス」が出現するのも昔から定番の演出です。
例えば前出の『ザナドゥ』には、最終マップのレベル10に「ラスボス」としてキングドラゴンが出現します。国産RPGの中でも最も古いタイトルのひとつである『夢幻の心臓』(クリスタルソフト/1984年)も、要所で「ボスキャラクター」にあたる赤き竜、一角ライオンなどの強敵が出現し、最終盤には「ラスボス」にあたるバドーと戦うシーンがあります。
『ファイナルファンタジー』(スクウェア/1987年)も、「ボスキャラクター」にあたる4体の強敵(バンパイア、マリリス、クラーケン、ティアマット)との対決を経て、前述したように「ラスボス」のカオスと戦うストーリーになっています。続編の『ファイナルファンタジーII』(スクウェア/1988年)も、数々のボス戦を経て「ラスボス」の皇帝を倒せばエンディングを迎えることができます。
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古いアーケードゲームでも、ステージごとに異なる「ボスキャラクター」と戦い、最終ステージに「ラスボス」が出現するシステムは、前出の『ASO』(SNK/1985や『ツインビー』(コナミ/1985年)などのシューティングのほか、『スパルタンX』(アイレム/1984年)、『ダブルドラゴン』(タイトー、開発:テクノスジャパン/1987年)『ファイナルファイト』(カプコン/1989年)などのアクションゲームでも数多く見られます。
また『エグゼドエグゼス』(カプコン/1985年)は、各ステージの最終盤に種類も出現する数も異なる、巨大な浮遊要塞が「ボスキャラクター」として登場し、最後に出現する超浮遊要塞の名前をタイトルと同じ「エグゼドエグゼス」にするおもしろいアイデアを取り入れていました。
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倒したかと思った「ラスボス」が突然復活したり、より手強い第2、第3段階に変身してバトルが再開されたりするのも、古くからおなじみの演出です。「エッ、まだ生きているの!?」「もう勘弁してくれよ……」などと驚かされた経験が、きっと皆さんもあることでしょう。
前出の『ドラゴンクエスト』の竜王しかり、『悪魔城ドラキュラ』(コナミ/1986年)のドラキュラしかり、あるいは『ワンダーボーイ モンスターランド』(セガ、開発:ウエストン/1987年)もまたしかりで、ジャンルやプラットフォームを問わず、実に多くのタイトルに導入されています。
©Konami Digital Entertainment
これと似たパターンで、「ラスボス」を倒してハッピーエンドと思いきや、実はその後に「真のラスボス」が出現するタイトルもたくさんあります。
古い時代のRPGでは、『ドラゴンクエストII』(エニックス/1987年)で大神官ハーゴンを倒した直後に現れる、破壊の神ことシドーが特に有名でしょう。あるいは、続編の『ドラゴンクエストIII』(エニックス/1988年)のように、当初のストーリーでは「ラスボス」に設定されていたバラモスを倒すと、「真のラスボス」であるゾーマの存在が初めて明らかにされる演出も、プレイヤーを大いにワクワクさせてくれますよね。
アクションゲームでも、『魔界村』(カプコン/1985年)シリーズでは2周目の最終ステージに「真のラスボス」である大魔王が出現し、倒すと真のエンディングを迎える演出が定番になっています。同様のアイデアは、シューティングゲームの『首領蜂』(アトラス、開発:ケイブ/1995年)シリーズなどでも見ることができます。
© CAPCOM CO., LTD. ALL RIGHTS RESERVED.
さらに時代が進むと、主にRPGにおいて「ラスボス」を撃破後に、さらに強力な「真のラスボス」あるいは「裏ボス」を出現させ、上級者向けのやり込み要素を用意するタイトルが次々と出てくるようになりました。『ドラゴンクエストV』(エニックス/1992年)で、エンディングを迎えた後に入れる隠しダンジョンにエスタークが出現するのがその一例です。
このアイデアは、後にスーパファミコン用ソフトとして発売されたリメイク版の『ドラゴンクエストIII』(エニックス/1996年)にも採用され、エンディング到達後に隠しダンジョンを進むと、元祖ファミコン版では登場しなかった「裏ボス」の神竜と戦うことができます。
本作がきっかけになったかどうかはハッキリわからないのですが、本作以降に登場したRPGのリメイク作品には、追加要素として「真のラスボス」や「裏ボス」を登場させるタイトルが目立つようになった感があります。
ほかにも、90年代に大流行した対戦格闘ゲームには、CPU戦で特定の条件を満たすと出現する「真のラスボス」を隠し要素として盛り込み、プレイヤーを驚かせるアイデアを取り入れたタイトルがいくつか登場しました。『スーパーストリートファイターIIX』(カプコン/1994年)の豪鬼、『龍虎の拳2』(SNK/1994年)のギーズ・ハワードなどがこれに該当します。
© ARMOR PROJECT/BIRD STUDIO/SPIKE CHUNSOFT/SQUARE ENIX All Rights Reserved.
© SUGIYAMA KOBO
以上、今回は「ボスキャラクター」をテーマにお送りしましたが、いかがでしたでしょうか?
昔は「ボスキャラクター」が出現するだけで、あるいはサイズが大きいだけでも各タイトルのセールスポイントになっていて、時代が進むごとにプレイヤーを楽しませるさまざまなアイデアが編み出されたことが、皆さんに少しでも伝われば幸いです。定期的にオンラインアップデートを実施して、新しい「ボスキャラクター」を追加するタイトルがごく当たり前に存在する現在とは、まさに隔世の感がありますよね。
なお、「ボスキャラクター」を利用した目標設定についての解説は、筆者とサイトウ・アキヒロ先生の共著「ビジネスを変える『ゲームニクス』」の「原則4-A:目標設定」などのページにくわしく書いてありますので、ご興味のあるかたはぜひ御覧ください。
それでは、また次回!