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目次
第8回 Wingspan/ウイングスパン
「健部さん、超重量級ゲーム『グルームヘイヴン』の短期集中連載、お疲れさまでした」
と編集さん。
「いやいや、しょせん手札から2枚出すだけの簡単なゲームだったし」
と、謙遜してぼくが返すと……
「その簡単なゲームの原稿提出、遅れに遅れて泣きの一手だったのは、どこのどなたさんでしたっけ?」
ぐうの音も出ない。毎回毎回、余裕をもって仕上げようとは思っているのだが、いつも迷惑をかけてしまう。もはや宿痾である。ここは土下座しかない。
「お詫びのしようもございません。申し訳ない。今後気をつけます」
そんな低身低頭なぼくに、編集さんはあくまでも優しい一声。
「いえ、でも原稿の密度を考えたら仕方のない部分もあるかなとも思ってるんです^^。なので、次回はもっと軽めでも全然かまいませんよ」
「あ、そうだね。それじゃあひとつ『ウイングスパン』でも」
「ああ、いいですね……って、どこが軽いんねん!」
「いやあ、鳥を選んでダイス振るだけだし」
まったく懲りていないのであった……
え? ウイングマン? うぐいすパン?
そんなこんなで『ウイングスパン』である。
『ウイングマン』でも、うぐいすパンでもないが、わざとそう言う輩も多い。うぐいすという鳥の名前が入ってる物品なので、よけいにややこしい。
ともあれ、ドイツ年間ゲーム大賞2019エキスパート部門の大賞の栄冠にも輝いている。
タイトルは、直訳すると翼開長。広げた翼の左翼端から右翼端までの長さで、ゲーム内データとしても、よく参照される。不正確ではあるが、短縮して翼長と書かれている。
このゲームの最大の特徴が、実際に地球上に存在する鳥が1枚1枚カードになっていること。美麗なイラストと正確なデータ&解説が収められ、簡易鳥類図鑑として見ていてとても楽しい。
プレイ人数:1~5人
プレイ時間:40~70分
対象年齢:10歳以上
PC版は、こちら。
iOS版は、こちら。
Android版は、こちら。
Nintendo Switch版は、こちら。
Xbox版は、こちら。
ナチュラリストとしての自然な心から生まれた
作者はエリザベス・ハーグレイヴ。
『ウイングスパン』がゲーム・デザイナーとしての処女作である。自分で書き溜めた野鳥の観察記録を元に2016に完成し、2019年に英語版がストーンマイヤー社から発売された。したがって鳥の能力も、実際の習性に近いものになっている。
その後も彼女は、動植物に関するゲームを作り続けている。
2018年には、ハーブの花束をテーマにした『タッジーマッジー』が完成し、『ウイングスパン』より1年早くボタンシャイ社から公開された。
2020年には、渡りをする蝶を題材にした『マリポーサ -天翔ける胡蝶の夢-』がAEGより出版。
最新作は、来年2023年にパンダサウルス社から出版が予告されている『フォックス・エクスペリメント』。禁断の狐の家畜化実験を扱っている。
彼女の自然に関する興味と訴求性は、世の女性の心にも広く訴えかけ、世界的にボードゲームの裾野を広げるのに一役買ったのであった。
アメリカの鳥類
エリザベスはアメリカに住んでいるため、基本セット収録の鳥たちは北米の170種となった。
ただ若干最初に覚えることが多く煩雑なところもあり(編集部註:それ見たことか)、プレイしながら自然にゲームを覚えられるようにと、後に10種の新たな鳥を含む「スウィフトスタート」セットが付属するようになる。
この「スウィフトスタート」セットは、電子版でもきちんと最初から収録されている。ただし、紙版にあった専用セットアップ部分はなくなっている。その代わり、丁寧なチュートリアルがあるので問題ない。
プレイヤーの立場は鳥類愛好家で、自分の管轄の各生息地(森林、草原、湿地の3種類)に、できるだけたくさんの種類の鳥(最大各5種類=計15種類)を棲まわすことが目的。鳥ごとに配置勝利点が決まっている。
システム的にはエンジン・ビルダーと呼ばれる種類で、各鳥に特殊能力があり、その能力のコンボでより強力な連鎖反応を作りだしながら、4ラウンド終了後、最も得点の高いプレイヤーが勝利する。能力の発生タイミングは大まかに、配置時、起動時(後述)、次の手番までに1回、の3種類。
第1ラウンドの手番数は8回だが、第2ラウンドは7回、第3ラウンドは6回、第4ラウンドは5回と少なくなる。しかし場に置かれたカードは徐々に増え、コンボや効果も加速するため、満足感はむしろ上がる。
ゲーム開始時、各ラウンド終了時に全員で競う小目標がランダムに設定され、その達成順位によって追加得点が入る。
また同様にゲーム開始時、各人には2枚の大目標カード(ボーナスカード)が配られるので、秘密裏にいずれか1枚を選ぶ。ゲーム終了時、その大目標を達成していたら、指定の追加得点が入る。
その他、何らかの能力によって各鳥に配置できた他のカード、卵、餌(種子、果実、無脊椎動物、魚、齧歯類の5種類)は、それぞれ追加1勝利点である。
手番でできることは:
1.手札の鳥1枚配置
2.森林アクション:餌の獲得
3.草原アクション:産卵
4.湿地アクション:鳥の手札への獲得
と、きわめてシンプル。
1.手札の鳥1枚配置
森林、草原、湿地のいずれか生息地の、各5マスある最も左の空きマスに、手札から1枚、その生息地が合致する鳥カードを選んで配置する。
その際、餌として指定されたコストと、場所によって指定された数だけの卵(後述)を支払わなくてはならない。この際、その鳥に配置時の能力があったら、適用する。
2~4のアクションでの共通事項:
各生息地のアクションは、5つのマスのうちで、最も左の空きマス(鳥が配置されていないマス)で指示された効果にしたがう。
その後、そのマスより左にある鳥カードの起動時能力を、右から左へ順に適用していく。これが最も重要なコンボとなる。
2.森林アクション:餌の獲得
基本的には巣箱から餌を獲得するのだが、一番左のマスならひとつ、一番右のマスなら3つ獲得できる。
巣箱には、最初5つの餌がある。各餌は、6面ダイスの各面で示され、ここで獲得された餌のダイスは、いったん巣箱から外に出される。
ゲーム開始時、および特定の条件で、全ダイスを巣箱の中で振り直す。巣箱から全餌がなくなったら、振り直さなくてはならない。それ以外でも、巣箱の中の餌が1種類しかなくなったら、全ダイス振り直すことができる(振り直した後で、獲得する餌を選べる)。
3.草原アクション:産卵
一番左のマスなら2個、一番右なら4個産卵できる。
各鳥カードには、配置できる卵の上限が決まっている。産卵した卵は、その上限を超えないように、好きなように自分の場の鳥の上に配置する。
鳥を配置する際、各生息地でふたつ目と3つ目のマスなら卵を1個、4つ目と5つ目のマスなら卵を2コ、消費しなくてはならない。消費する卵は、自分のどの鳥からでもよい。
ゲーム終了時、鳥の上に乗っている卵の数は、そのまま追加勝利点となる。
4.湿地アクション:鳥の手札への獲得
一番左のマスなら1枚、一番右なら3枚獲得できる。
獲得用の鳥カードは、各手番開始時には、常に3枚が公開されている。この公開カードからでも、山の上からでも獲得できる。各手番終了時、公開カードが2枚以下なら、3枚になるよう、山から公開すること。
またラウンド終了時には、公開されている全鳥は破棄され、新たに3枚公開される。
これで大体の説明は終わりだ。
紙版では1人プレイ用に、「オートマ」と呼ばれる自動行動する仮想敵用のルールがある。オートマの行動は幾分単純化され、それだけに強力だ。基本行動は、卵(すなわち勝利点)の獲得、鳥(すなわち勝利点)の獲得/配置、餌ダイスの破棄(すなわちこちらの邪魔)、だけである。
オートマは一応、電子版にも移植されているが、これに関して電子版では詳しい説明がない。さらに言うなら、電子版では通常のプレイでも対戦相手を(当たり前だが)AIにできる。そんなわけでオートマ・モードをわざわざ選ぶ意味は(トロフィーをもらう以外に)ない。
もちろん、オンライン対戦モードもあるので、友だち同士しめしあわせてネット対戦するのもいいだろう。
電子版オンリーのダウンロード・コンテンツとして「季節の装飾パック」がある。
ヨーロッパの鳥類
電子ゲームでは、2002年11月14日現在、最初の拡張セットである「欧州の翼」が、ダウンロード・コンテンツとして用意されている。ヨーロッパ特有の新種81枚が投入され、新たな能力も登場。もちろん新規の目標も増えている。
大きな変更点として、鳥の能力の4番目のタイミング「ラウンド終了時」が追加された。
オセアニアの鳥類
その次に、時期は未定だが実装が予告されているのが「大洋の翼」で、キーウィやペンギンといった飛べない鳥など95種が追加。飛べない鳥の翼開長は、どの長さにも見なせる、ワイルドカードにできる。
また鳥の能力の5番目のタイミング「ゲーム終了時」が追加された。
さらにはボードと餌ダイスが一新。
ボードのマスには、餌ダイスを振り直せる能力が追加。
ダイスには、どんな餌の替わりにもなる花蜜の目が追加。
このダイナミックかつエキサイティングに進化したヴァージョンを一早く体験したいのであれば、紙版でどうぞ。
アジアの鳥類
そんな紙版の最新作は「東洋の翼」。とうとう日本の鳥も登場で、そのセレクションには日本語版の版元であるアークライトも協力。よく知っている鳥を含め90種が追加。
しかも、これだけで2人プレイができる。共通マップを使用し、早い者勝ちの陣取りの要素が加わった。
さらには基本セットと組み合わせると、プレイ人数を7人にまで拡張できる! 2チームに分かれ、2人が同時にプレイするのだが、これは電子版で再現できるのか不安である……
ともあれ、世界もシステムも着実に広がり続ける『ウイングスパン』は、現在あるボードゲームの中でも最高傑作のひとつに数えられることは間違いない。ぜひあなたも、豊饒なる鳥たちの楽園を作りあげてほしい。