「ゲームニクス」で考えるゲームの魅力 第三十回 リスタート

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    「ゲームニクス」で考えるゲームの魅力 第三十回 リスタート
  • 公開日
    2023年02月24日
  • 記事番号
    9235
  • ライター
    鴫原盛之

当コラムでは、「ゲームニクス理論」をもとに、なぜゲームがおもしろくなるのか、どうしてプレイヤーはゲームに夢中になってしまうのかを、おもしろおかしくご紹介していきます。

第三十回目のテーマは「リスタート」です。

あくまで本稿独自の定義ですが、「リスタート」とは自機や主人公が敵にやられてミスをした直後に、どのような状態でプレイが再開するかを指す言葉です。

例えば『スーパーマリオブラザーズ』(任天堂/1985年)シリーズは、ステージの序盤でマリオがやられるとスタート地点から、後半でやられた場合は中間ポイントから「リスタート」します(※各ワールドの4面は、ミス後に必ずスタート地点に戻されます)。

またRPGでは『ドラゴンクエスト』(エニックス/1986年)シリーズが、主人公たちが全滅すると最後にセーブした場所から、ゴールド(所持金)が半分になった状態から「リスタート」するシステムが特に有名でしょう。
  

ミスをしたプレイヤーは、多かれ少なかれ必ずストレスを抱えます。ですから、プレイヤーがゲームの途中で投げ出すことなく、「負けてたまるか、もう一回挑戦してやるぞ!」とモチベーションを維持するためにも、「リスタート」時の演出は非常に重要です。

以下、今回も筆者の知る限りではありますが、古いアクション、シューティングゲームを中心に、さまざまな工夫を凝らした「リスタート」の仕組みをいろいろとご紹介しましょう。どうぞ最後までご一読ください!
  

  
「ゲームニクス」とは?

現亜細亜大学教授のサイトウ・アキヒロ先生提唱による、プレイヤーが思わずゲームに夢中になる仕組みを理論・体型化したもの。
本稿では、「ゲームニクス理論」を参考に、ありとあらゆるゲームのオモシロネタをご紹介していきます。「理論」というおカタイ言葉とは正反対に、中身はとってもユルユルですので、仕事や勉強の休憩時間や車内での暇つぶしなど、ちょっとした息抜きにぜひご一読を!

   

黎明期の「リスタート」方法:ポイントは連続ミスの回避

まずは世界初の商業用ゲームであるシューティングゲーム、『コンピュータースペース』(Nutting Associates/1971年)の「リスタート」の仕組みから説明しましょう。

本作は、自機のロケットが敵機や敵弾に当たる、すなわちミスをするといったん敵の動きが止まり、やや間をおいてから自機がその場で復活するルールになっていました。なので、もしミスをしたタイミングで、たまたま近くに敵機がいた場合は「リスタート」時にいきなり攻撃を受け、連続ミスとなってストレスがたまるケースが往々にして生じます。

一方『スペースインベーダー』(タイトー/1978年)は、自機のビーム砲が破壊されると敵がいったん静止し、さらに敵弾もすべて画面から消えてから、規定の位置に自機が出現して「リスタート」します。ですから、本作は『コンピュータースペース』とは違って、「リスタート」した瞬間に敵弾といきなり重なるような不条理な展開にはなりません。
  

さらに時代が進むと、『ギャラクシアン』(ナムコ/1979年)や『ギャラガ』(ナムコ/1984年)などのように、敵が単独または編体を組んで体当たりを仕掛けるシューティングゲームでは、「リスタート」の仕組みがより進化します。

これらのタイトルではミスをすると、移動中の敵キャラがすべて軍団内に帰還して攻撃をやめ、待機状態になってから「リスタート」します。このアイデアによって、プレイヤーは不利な態勢から「リスタート」することがなく、余計なストレスを抱えずに済みます。
  

シューティング以外のタイトル、例えば『パックマン』(ナムコ/1980年)や『ディグダグ』(ナムコ/1982年)などのアクションゲームでも、古い時代の作品はプレイヤーがミスをすると、敵の配置を初期状態に戻してから「リスタート」する例が非常に多かったように思います。

『ギャラクシアン』や『ギャラガ』などと同様に、初期状態に戻ってから「リスタート」することで、プレイヤーはいったんピンチの場面から解放され、作戦を立て直す時間が得られるメリットがあると言えるでしょう。

古い時代のタイトルで、ちょっと変わった「リスタート」のアイデアを取り入れていたのが『平安京エイリアン』(1979年/電気音響)です。本作では、各ステージのスタート地点(※主人公の出現位置)は中央の最下段に固定されているのですが、ミスをしたときの「リスタート」の位置がその都度変化します。

なぜ、本作では「リスタート」の位置が毎回変わるのでしょうか? これは筆者の推測になりますが、「リスタート」時に敵にすぐに捕まらないようにするため、すべての敵との平均距離から最も遠い位置を計算して「リスタート」地点を決めていると思われます。

まだ歴史の浅い70年代の時点で、敵から離れた位置にピンポイントで主人公を出現させる、見事なアイデアが導入されていた事実には改めて驚かされます。本作を開発した東大生たちがいかに秀才だったのか、を「リスタート」の工夫が如実に証明しているように思います。
  

「やり直し」か「中間ポイント」か、それとも「その場復活」か?

冒頭で紹介した『スーパーマリオブラザーズ』のように、主人公が移動した方向にマップがスクロール(任意スクロール)する、または『ゼビウス』(ナムコ/1983年)などのように強制スクロールするタイトルが増えるにつれて、「リスタート」のバリエーションがどんどん増えた感があります。

最もシンプル、かつ極めてわりやすい「リスタート」の方法は、ミスをしたら必ず各ステージのスタート地点からやり直しにすることです。『スクランブル』(コナミ/1981年)をはじめ『ノーティーボーイ』(ジャレコ/1982年)、『スパルタンX』(アイレム/1984年)、『快傑ヤンチャ丸』(アイレム/1986年)など、任意、強制どちらのスクロール方式でも多くのタイトルに導入されています。

ただし、ルール自体は明確な一方で、プレイヤーによってはミスをするたびに振り出しに戻されることで大きなストレスを受けることになります。なので、スタート地点に戻って「リスタート」する場合は、マップの広い(または、プレイヤーが広いと感じる)タイトルには不向きと言えるでしょう。
  

「リスタート」時に振り出しに戻るストレスをある程度緩和するために、新たなアイデアを導入したと思われるのが『ゼビウス』(ナムコ/1983年)です。

本作は、どのエリア(ステージ)でもマップの70パーセント以上まで進んでミスをした場合は、次のエリアのスタート地点から「リスタート」します。このアイデアによって、プレイヤーは「リスタート」時に次のエリアに進んだ場合は、「ミスはしたけど先に進めたぞ、今度はどんな敵が出てくるのかな?」などと新たなモチベーションが得られるので、エリアの最初に戻された場合とでは受けるストレスが全然違います。
  

さらに凝った「リスタート」のアイデアを導入しているのが『達人王』(タイトー、開発:東亜プラン/1992年)です。

本作では、1人プレイと2人同時プレイとで、それぞれ「リスタート」の方法が異なります。1人プレイ時は、ミスをすると特定の位置に戻ってから「リスタート」しますが、2人同時プレイの場合はどちらがミスをしても、すぐに新たな自機が出現して「リスタート」する、いわゆるその場復活方式となります。

本作は強制スクロール方式でもありますので、もし2人同時プレイ時も戻ってから「リスタート」するルールだと、ミスをしていない側のプレイヤーは「何で勝手に戻されるの?」と納得がいかず、少なからずストレスを抱えてしまうことでしょう。ゆえに、プレイヤーの人数で「リスタート」の方法を変えたのは賢明な判断であったと言えるでしょう。

なお本作と同様に、1人プレイではミスすると所定の場所に戻され、2人同時プレイの際はその場復活になるシステムは、はっきりとは覚えておらず申し訳ないのですが『ダライアス』(タイトー/1987年)にもあったかと記憶しております。
  

『ワンダーボーイ』(セガ、開発:ウエストン/1986年)は、各ステージに「1」「2」「3」「4」と書かれた立札があり、ミスをした場合は最後に通過した立札のある地点から「リスタート」します。つまり、前述の『スーパーマリオブラザーズ』のような中間ポイントを、さらに細分化した「リスタート」地点を用意しているワケですね。

また『クレイジークライマー』(日本物産/1981年)は、ミスをすると主人公がビルから「アレー!」という叫び声とともに落下する演出がありますが、周囲の敵や障害物が消去された状態でその場復活するルールになっています。

あくまで筆者の私見ですが、『ワンダーボーイ』も『クレイジークライマー』も、各ステージをクリアするまでには比較的時間が掛かりますので、もし「リスタート」時に振り出しに戻されるルールだった場合は、ミスをしたプレイヤーは多大なストレスを抱えることになります。ですから、両タイトルのように途中、またはその場復活を導入することによって、プレイヤーは「リスタート」時に、「もうちょっと頑張ればクリアできそうだ」とモチベーションをある程度維持した状態でゲームを続けることができると言えるでしょう。
  

まさに世紀の大発明! 主人公の「無敵状態」

「リスタート」の仕組みを紹介するにあたり絶対に避けて通れないのが、主人公や自機を一時的に無敵状態にするアイデアです。

特に強制スクロール、またはその場復活方式のタイトルでは、「リスタート」時に主人公を無敵状態にすることで、プレイヤーは安心して周囲の敵を倒したり、パワーアップアイテムを回収したりできる絶大なメリットが得られます。

ところで、主人公を無敵にするアイデアを最初に導入したタイトルは、いったい何だったのでしょうか? たいへん申し訳ないのですが、その元祖を特定することはできなかったのですが、その古い例のひとつに『マリオブラザーズ』(任天堂/1983年)があります。

本作ではミスをすると、画面上部からマリオ、またはルイージがリフトに乗った状態で出現します。マリオがリフトからジャンプし、フィールドに着地したところで「リスタート」となりますが、実はリフトに乗っている間はマリオが無敵になっています。

マリオが無敵状態になることで、近くに敵やファイアボールがいても連続ミスになる心配がなく、プレイヤーが好きなタイミングで「リスタート」できるアイデアは、リフトに乗って現れるカッコイイ演出ともども、実に素晴らしいアイデアです。

本作と同様に、主人公が「リスタート」時にじっとしている間は無敵になるアイデアは『ソンソン』(カプコン/1984年)や、ファミコン用ソフトの『デビルワールド』(任天堂/1984年)、『クルクルランド』(任天堂/1984年)などにも導入されています。
  

「リスタート」時に、プレイヤーに主人公が「無敵状態」であることを明示するために、主人公を半透明、または点滅状態で表示するのも素晴らしいアイデアです。

例えば『エグゼドエグゼス』(カプコン/1985年)は、「リスタート」時に自機を半透明にするだけでなく、無敵状態の間は特別なジングルを流すことで、プレイヤーは耳でも無敵状態であることがわかります。

ほかにも、「リスタート」時に主人公が点滅、または半透明の無敵になるアイデアは『スペースハリアー』(セガ/1985年)や『バブルボブル』(タイトー/1986年)、『ダブルドラゴン』(タイトー、開発:テクノスジャパン/1987年)、『クラックダウン』(セガ/1989年)など、古くから多くのタイトルに採用されています。

ちなみに『ギャプラス』(ナムコ/1984年)は、前述の『ギャラクシアン』や『ギャラガ』とは異なり、「リスタート」時に自機が数秒間だけ無敵状態になります。本作は、敵編隊がすべて待機状態になる前に「リスタート」するため、連続ミスが発生しないように無敵状態を用意したのだと思われます(※ただし、敵編隊が出現する前半のフェーズでミスをした場合は最初からやり直しになります)。
  

まだまだあります! 「リスタート」の至高の演出

『ファイナルファイト』(カプコン/1989年)に代表される、いわゆるベルトスクロールアクションゲームにも、素晴らしい「リスタート」のアイデアがあります。

本作では、「リスタート」時に主人公が少しの間だけ無敵になるのに加え、画面内のすべての敵が、たとえボスキャラのような強敵であっても強制的にダウン状態になり、プレイヤーが態勢を立て直しやすくなっています。

この「敵キャラ強制ダウン」のアイデアは『ベア・ナックル』(セガ/1991年)のほか、『キャプテンコマンドー』(カプコン/1991年)、『天地を喰らうII』(カプコン/1992年)、『バトルサーキット』(カプコン/1997年)など、とりわけカプコンのベルトスクロールアクション作品に数多く導入されています。
  

アイテムなどを取ると、主人公がパワーアップするシステムがあるタイトルでは、「リスタート」時にパワーアップがはく奪され、初期状態に戻ってしまうとプレイヤーは非常に大きなストレスを受けてしまいます。

そこで、「リスタート」直後にアイテムを持った敵、いわゆるアイテムキャリアを出現させることで、プレイヤーのモチベーションを再燃させるアイデアも、これまた素晴らしい発明であると思います。

そのありがたみを、筆者が最初に実感したのが『1942』(カプコン/1984年)です。本作はほとんどの場所で、「リスタート」時に全滅させると「POW(パウ)」アイテムが出現する赤色の敵編隊が出現するので、自機が初期状態に戻っても態勢が立て直しやすかった印象があります。

前述したように、『スーパーマリオブラザーズ』は各ワールドの4ステージ目、すなわち大魔王クッパが出現するステージでミスをすると、必ずスタート地点から「リスタート」します。あえて最初からやり直しにしたのは、プレイヤーにステージの序盤に隠されたスーパーキノコを取り、スーパーマリオにパワーアップするチャンスを与える意図があったと思われます。

上記以外にも、「リスタート」直後にアイテムキャリアを出現させる、またはアイテムキャリアの出現地点の直前から「リスタート」するアイデアは、前述の『達人王』をはじめ『奇々怪界』(タイトー/1986年)、『究極タイガー』(タイトー、開発:東亜プラン/1987年)、『ソニックブーム』(セガ/1987年)など、多くのタイトルに導入されています。

それにしても、『スーパーマリオブラザーズ』より古い作品にも、実は「リスタート」時にプレイヤーにパワーアップのチャンスを与え、復活しやすくする配慮をしていた例があったことは特筆に値するように思われます。
  

ほかにも、古いタイトルの中で「リスタート」時に自機の攻撃力低下を条件付きで防ぐ、とても優れたアイデアを採用していたタイトルに『ASO』(SNK/1985年)があります。

本作は、ミスをすると自機の移動スピードとレーザー、ミサイルのパワーアップは初期状態に戻ってしまいますが、「K(キープ)ポイント」のアイテムを取っていた場合は、それぞれのパワーアップ状態を維持したまま「リスタート」できる効果があります。

筆者も子どもの頃に本作を何度もプレイしましたが、青色を取ればスピード、黄色はレーザー、赤色はミサイルのパワーアップを維持できる「Kポイント」には、何度も助けられた思い出があります。
  

以上、今回は「リスタート」をテーマにお送りしましたが、いかがでしたでしょうか?

中間ポイントの設置をはじめ、無敵状態、あるいはアイテムキャリアがすぐ出てくる救済措置など、「リスタート」には歴代のゲーム開発者たちのノウハウがたくさん凝縮されているんだなあと、本稿を執筆しながら改めて思いました。

なお、「リスタート」に関する「ゲームニクス理論」のくわしい解説は、筆者とサイトウ・アキヒロ先生の共著「ビジネスを変える『ゲームニクス』」の「原則3-B:ストレスと快感のバランス」「原則4-A:目標設定」などのページにくわしく書いてありますので、興味のあるかたはぜひご覧ください。

それでは、また次回!

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