「ゲームニクス」で考えるゲームの魅力 第三十五回 ユーザーインターフェース
当コラムでは、「ゲームニクス理論」をもとに、なぜゲームがおもしろくなるのか、どうしてプレイヤーはゲームに夢中になってしまうのかを、おもしろおかしくご紹介していきます。
長らく書かせていただいてる当コラムですが、第三十五回は趣向を変えて「ユーザーインターフェース」をテーマにお送りします。
筆者とサイトウ・アキヒロ先生の共著「ビジネスを変える『ゲームニクス』」では、「ゲームニクス理論」の「原則1:直感的で快適なインターフェース」の1種として「原則1-B:入力デバイスの特性に対応したUI(ユーザーインターフェース)設計」を提唱しています。
たとえどんなにおもしろいゲームであっても、操作しにくい「ユーザーインターフェース」であった場合は、せっかくのおもしろさが損なわれてしまいます。そこで本書の「原則1-B」では、各種入力デバイスの特性と、「ユーザーインターフェース」設計のポイントを解説しています。ゲームの要素を他分野に取り入れ、ユーザーのモチベーション向上につなげる「ゲーミフィケーション」と「ゲームニクス理論」との大きな違いは、まさにこの「原則1-B」の有無にあると言えます。
以下、主な「ユーザーインターフェース」を、有名タイトルでの実用例からご紹介しましょう。今回も、どうぞ最後までご一読ください!
「ゲームニクス」とは?
現亜細亜大学教授のサイトウ・アキヒロ先生提唱による、プレイヤーが思わずゲームに夢中になる仕組みを理論・体型化したもの。
本稿では、「ゲームニクス理論」を参考に、ありとあらゆるゲームのオモシロネタをご紹介していきます。「理論」というおカタイ言葉とは正反対に、中身はとってもユルユルですので、仕事や勉強の休憩時間や車内での暇つぶしなど、ちょっとした息抜きにぜひご一読を!
誰もが直感的にプレイできる「十字キー」と「ボタン」の組み合わせ
今までに数多くのメディアで紹介されていますが、直感的、かつ快適な操作を実現する入力デバイスの代表例に十字キーがあります。十字キーが最初に導入されたのは、80年代前半に大人気を博した任天堂の携帯型LSIゲーム、ゲーム&ウオッチ版の『ドンキーコング』(任天堂/1982年)です。
本作は、元祖アーケード版の1面と同様に、主人公を上下左右に移動、またはジャンプして転がってくるタルを避けつつ道を進み、最終地点にあるクレーンに捕まればクリアとなるアクションゲームです。
十字キーを導入したことで、プレイヤーは左手の親指1本だけで、上下左右のどこに入力しているのかが触覚で把握できるようになり、初めて遊ぶプレイヤーでもすぐにブラインドタッチで操作することができます。さらに本作では、主人公の移動手段がフロアを左右に歩く、またはハシゴを上下に登り降りするの2種類しかないことから、十字キーを利用して直感的に、かつ快適に遊べる、実に見事な「ユーザーインターフェース」を構築しています。
なお、本作の開発当時のエピソードは、任天堂のホームページ「社長が訊く!「ゲーム&ウオッチ」」にくわしく書かれていますので、こちらもぜひご覧ください。
ゲーム&ウオッチ版『ドンキーコング』以降も、ファミコンやスーパーファミコンなどのコントローラーに十字キーが導入されたことは、多くの皆さんがご存知のことでしょう。
初期のファミコン用ソフトで、十字キーの特性を生かした「ユーザーインターフェース」の代表的な例のひとつにコマンドメニューがあります。
各コマンドを縦または横に並べることで、プレイヤーはカーソルを上下左右のいずれかで動かせばいいことが直感的にわかります。さらに、すべてのコマンドをAボタンで決定、Bボタンでキャンセルと入力ルールを統一しておくことで、プレイヤーが操作方法をより覚えやすくなります。
以下の写真は、ファミコン版の『ポートピア連続殺人事件』(エニックス/1985年)と『信長の野望 全国版』(光栄/1988年)です。前者は、元々PC版ではキーボードでコマンド(文章または単語)を入力する方式でしたが、ファミコン版では十字キーの上下でコマンドを選び、Aボタンで実行する、より簡易な「ユーザーインターフェース」に改良されました。
またPC版の『信長の野望』では、コマンド選択後にキーボードの「Y」または「N」ボタンを押すことで実行、キャンセルを選ぶ仕組みでしたが、ファミコン版では十字キーの左を「Y」に、右に「N」を割り当てることで、コントローラーを使ってプレイするのに適した「ユーザーインターフェース」を実現しています。
瞬間移動に最適な「マウス」と、「ペンタッチ」
近年は、FPSなどのゲームを使用したeスポーツが人気を集めていることもあり、プレイヤーが素早く、かつ正確に操作できるゲーミングマウスやキーボードの需要が日を追うごとにどんどん高まっているように思います。
マウスは、FPSでガンの照準を画面の隅から隅へと瞬時に移動させる際には、とても向いている入力デバイスですが、逆に正確な自由曲線を描くことや文字を書くことには適していない特性があると「ビジネスを変える『ゲームニクス』」では解説しています。
昭和の時代から存在するアーケードゲーム用ガンシューティングゲーム、例えば『オペレーションウルフ』(タイトー/1987年)などのタイトルには、マウスを使用するFPSと同様に、プレイヤーが瞬時に照準が動かせるよう、専用のガン型デバイスがば導入されていました。また、タイトルによってはガン型デバイスにブローバック(を体感できる)機能が搭載され、プレイヤーにさらなる快感をもたらす「ユーザーインターフェース」を構築していました。
以下の写真は、プレイステーション版の『タイムクライシス』(ナムコ/1997年)です。本作はアーケードからの移植ですが、家庭用であってもガン型デバイスを使用することをほぼ前提に作られています(※本作はガンコン同梱版も発売されていました)。なので、各種メニューや設定画面も、ガン型デバイスでの操作がしやすいように「ユーザーインターフェース」が作られています。
© Bandai Namco Entertainment Inc.
2004年に任天堂が発売した、携帯型ゲーム機の大ヒット作であるニンテンドーDSにはタッチペンが標準で搭載され、2つのモニターのうち手前側にあるモニターはタッチパネルになっていました。
「ビジネスを変える『ゲームニクス』」では、DSなどのタッチペン入力の特性は、先程のマウスとは違って「自由で正確な曲線を描くのに適している」「叩く動作が可能」「払う動作が可能」「押したままの移動が可能」などと解説しています。
数あるDS用ソフトの中でも、とりわけタッチペン入力を利用して素晴らしい「ユーザーインターフェース」を設計していたのが、『ゼルダの伝説 夢幻の砂時計』(任天堂/2007年)になるでしょう。
本作では、攻撃したい敵をペンでタッチし、(主人公から見て)敵のいる方向にスライドさせることで、主人公リンクが剣を振って攻撃を仕掛けるなど、従来の『ゼルダの伝説』シリーズにはなかったアクションが楽しめます。
また本作では、マップ画面に切り替えて「メモ」を選択すると、タッチペン入力で直接矢印や文字などを自由に書き込めるようになります。しかも、プレイデータをセーブするとメモした内容も保存されるので、より快適かつスムーズに冒険を進めることができるのです。
方眼紙やノートに、手書きでマッピングをするのが当たり前だったファミコン世代から見れば隔世の感がある、まさに未来の「ユーザーインターフェース」でした。
© Nintendo
デジタル、アナログで異なるスティックの特性
ここからは、スティック(レバー)を使用した「ユーザーインターフェース」についてご説明しましょう。
アタリが1977年に発売した家庭用ゲーム機、アタリVCS(※後にアタリ2600に改称)の入力デバイスは、片手でぐっと握るデジタル入力方式のジョイスティックとボタンでした(※これとは別にパドルコントローラーもあります)。本機のジョイスティックは、上下左右の入力には適していますが土台の部分が小さくて滑りやすいので、プレイ中はスティックを握っていないほうの手で土台を支える必要があり、正確に操作するのは意外と難しい感があります。
80年代前半に登場した国産の家庭用ゲーム機でも、本機とよく似たジョイスティックを搭載したものがいくつかありましたが、いずれもファミコンほどの人気が出なかったのは、もしかしたら快適に遊べる「ユーザーインターフェース」を構築できなかったのが一因かもしれません。
http://www.ne.jp/asahi/cvs/odyssey/
90年代に入ると、いわゆるポリゴンを利用した3DCGを描画できる家庭用ゲーム機が相次いで登場します。アクション、アドベンチャーゲームやRPGなどでマップが立体的に描かれるようになると、従来の4方向や8方向入力を前提にした十字キーやスティックを使用して、マップ上を360度移動できるキャラクターを快適に動かす「ユーザーインターフェース」を構築するのが難しくなります。
そこで出番となるのが、360度の任意の方向に入力できるアナログスティックです。1996年に任天堂が発売したNINTENDO64では、コントローラーの中央部にアナログスティックが標準搭載されたことで、『スーパーマリオ64』(任天堂/1996年)では主人公のマリオを3D化されたマップ上でも自由自在に操作できるようになっています。
© Nintendo
アナログスティックの登場により、新たな「ユーザーインターフェース」が設計されたおもしろい例のひとつに、パーティゲームの『マリオパーティ2』(任天堂/1999年)があります。
本作のメニュー画面では、各ステージのアイコンが円形に配置されていますが、アナログスティックを使用することで遊びたいステージをスムーズに選ぶことができます。
もし、NINTENDO64用コントローラーが従来の十字キーや4、8方向スティックだった場合は、このような円形にメニュー画面を作ってしまうと、プレイヤーはどの方向に入力すればいいのか、瞬間的にわかりにくくなります。なので、本作のようなメニュー画面は、アナログスティックがデフォルトで使える本機ならではの特性が生み出した、当時としては新しい「ユーザーインターフェース」であったと言えるでしょう。
© Nintendo
以上、今回は「ユーザーインターフェース」をテーマにお送りしましたが、いかがでしたでしょうか?
個々の入力デバイスの特徴に合わせて「ユーザーインターフェース」を設計しなければ、プレイヤーはストレスがたまり、ゲームを楽しめなくなってしまうことが改めておわかりいただけたのではないかと思います。
繰り返しになりますが、「ユーザーインターフェース」に関する「ゲームニクス理論」のくわしい解説は、筆者とサイトウ・アキヒロ先生の共著「ビジネスを変える『ゲームニクス』」の「原則1-B:入力デバイスの特性に対応したUI設計」などのページにくわしく書いてありますので、興味のあるかたはぜひご覧ください。
それでは、また次回!