回転・拡大縮小による演出でプレイヤーの心を鷲掴みした『A-JAX』の魅力

  • 記事タイトル
    回転・拡大縮小による演出でプレイヤーの心を鷲掴みした『A-JAX』の魅力
  • 公開日
    2019年06月07日
  • 記事番号
    1065
  • ライター
    こうべみせ

A-JAX(エージャックス)』はKONAMIが1987年にリリースした縦スクロールシューティングだ。画面を見ただけで遊び方が分かるようなオーソドックスなタイプで、初見でも気軽に遊んでみようと思える敷居の低さがあった。

しかし多くの場合、その敷居の低さは凡庸さと背中合わせになっていることが多い。そして、凡庸さはアーケードゲーム史の中に埋もれてしまいがちだ。似たような縦スクロールシューティングゲームが多かった中、『A-JAX』は回転・拡大縮小機能による印象的な画像表現で僕らの記憶に残るゲームとなった。

今回はそんな『A-JAX』のゲーム内容と、画像の回転・拡大縮小機能が業界に与えたインパクトについて語っていこうと思う。

2Dと3Dの両方が楽しめるユニークなシューティングゲーム

▲2Dと3Dの混在ステージをアピールした当時のチラシ

空中と地上の敵を2つのボタンで撃ち分ける攻撃方法で、この頃のシューティングゲームとしては『ゼビウス』(1983年/ナムコ)以降スタンダードになっていたプレイスタイルだ。
この2ボタンに加え、スーパーウエポン用(一般的には「ボム」「ボンバー」と呼ばれていた緊急回避攻撃)のボタンが加わる3ボタン構成になっている。

『A-JAX』がユニークだったのは、全編を通じて縦スクロールだったわけではなく、ステージ2、ステージ5、最終ステージが3Dシューティングになっていたことだ。3Dステージでは、ゲーム基板に搭載されている回転・拡大縮小機能を活用した演出を行っている。画面奥から拡大しながら迫ってくる敵基地は、自機の操作に合わせて角度を変えるなど、それまでのゲームにはなかった迫力を生み出していた。海上の空母艦隊に急降下攻撃するシーンはあまりにも有名で、『A-JAX』の名前を聞くと真っ先に思い出す人も多いのではないだろうか。

▲ステージ2。3D画像となっている

難易度的にはアーケードゲームであることから「推して知るべし」な難しさではあるが、無理ゲーと放り出してしまうようなレベルではなかったと思う。中級くらいの実力があればじっくり取り組むことで徐々に先へと進めるようになり、全ステージクリアを目指すことができた。

画像だけではなくPCMを多用した楽曲も僕らを夢中にさせた

▲オーケストラヒットやリアルなドラム、迫力のある効果音など、音声に関しても当時のゲームの中で秀でた存在だった

回転・拡大縮小機能ばかり語られる傾向にある『A-JAX』だが、楽曲を評価する声も多い。

すでに当時のゲームでは音源にPCM (*01)も併用されるようになっていたが、一部の効果音や音声など限定的に使用されることがほとんどだった。そんなPCMを「これでもか!」というくらいに使いまくっていたのが印象的だった。オーケストラヒットを多用し、高速でリズムを刻むドラムなど、KONAMIのゲームミュージックといえば『A-JAX』以降の作風をイメージする人は多いと思う。

『A-JAX』と前後して、ゲームミュージックの世界でオーケストラヒットが流行のようになっていたが、『A-JAX』の楽曲がきっかけになっていたかは定かではない。機会があればゲームミュージックのトレンドの移り変わりを調べてみると面白そうだ。

画面外にすぐ消えたパワーアップアイテムに一苦労

▲パワーアップアイテムの出現頻度は低く、オプションもステージクリアすると解除されてしまうため、標準装備だけである程度立ち回れるテクニックを身に付けたい

『A-JAX』では、パワーアップアイテムを取得することで武器を切り替える。パワーアップアイテムには武器の種類を表す英数字が描かれており、「V」から「L」までの5種類に一定間隔で変化する。オプション(分身)の装着は「O」が描かれているアイテムで行うが、これは武器切り替えのパワーアップアイテムとは別物として登場する。

パワーアップアイテムは特定の敵を破壊することで出現する。武器切り替えのパワーアップアイテムは赤いヘリコプター、オプションは赤い小型機の編隊が運んでいる。

『A-JAX』のアイテムはすぐに画面外へ消えてしまうことが多く、取得できずに悔しい思いをよくしたものだ。どのような条件でアイテムの軌道が変化するのか不明だが、出現した途端に横方法へと流れていき、そのまま画面外へ消えてしまうことがある。ただでさえ『A-JAX』はアイテムの出現頻度が低かったので(1ステージ内でパワーアップアイテムが2個、オプションが1個)、当時は「なんて意地悪なゲームだろう」と思いながらプレイしていた。

ちなみに3Dステージでの戦闘は武器の種類が固定されており、2Dステージでパワーアップした内容は反映されない。オプションはそのステージ限定の使い捨てとなっており、次のステージからはオプションなしの状態でスタートする。
また、スーパーウエポンはアイテムで補充されることはない。絶体絶命の状況で1発のみ使用できるもので、まさに緊急回避用の武器であった。

出現アイテム解説

シンボル
表示
名称説明
VVULKAN
(バルカン)
小型ミサイルをマシンガンのように連続発射する。基本的に自機の真正面に一直線に飛んでいくが、左右移動するときに弾道が斜め方向に変化する。基本的に連射が利かないA-JAXの武器において、唯一連射できて頼りになる武器だった。
BBOMB
(ボム)
対地攻撃のパワーアップ。2段階までパワーアップが可能で、段階ごとに見た目も変化する。発射速度が上がるとともに当たり判定が大きくなるので、地上の敵を効率的に破壊できるようになる。
33-WAY
(スリーウェイ)
前方のほか、自機の真横へも弾が発射される。敵に回り込まれたときなど、横方向へ攻撃できて便利ではあるが、威力は他の武器と比較して低く、ボス戦など固い敵を相手にするときは苦労することもある。
TTRIPLE
(トリプル)
三連ミサイルを前方に発射する。ミサイルは幅広く並んで飛んでいくので、自機前方を広くカバーした攻撃になる。オプションを装着した状態で使用したときの攻撃力はかなり高い。
LLASER
(レーザー)
敵を貫通するレーザーを2本同時に発射する。レーザーというと強力なイメージがあるが、本作の場合は威力が抑えられていた。
連射が利かないので無防備になる瞬間も多く、間違って取得してしまったときはトラップに引っかかった気分になった。
O自機にオプション(分身)が加わり、自機と同じ種類の対空攻撃をする。
オプションの動きは常に自機と同じ位置に移動してくる『ツインビー』(1985年)式で、『グラディウス』(1985年)のように、自機が静止するとオプションもその場で静止する方式ではない。
インストカード(台についている簡易的な説明書)には2つまで装備できると書かれていたが、1ステージ中にアイテムが1つしか登場せず、次のステージに持ち越しもできないため、実際には1つしか装備できない。

回転・拡大縮小処理が持つ魅力を広く世に知らしめた『A-JAX』

▲出現時に地下の駐機場から上昇してくるステージ1のボスなど、拡大縮小機能も要所で効果的に使われている

アーケードゲームで回転・拡大縮小を基板に機能として実装したのは『A-JAX』が初めてというわけではない。1984年に日本物産からリリースされた『チューブパニック』では、すでにハードウエアの回転・拡大縮小で画像表現が行われていた。ただ、機能が使われていた表現の大半が単純な模様を描いた単色の背景であり、回転・拡大縮小機能が話題になることもなかった。

『A-JAX』は『チューブパニック』から3年を経て登場するのだが、3年間で進化したハードウエアの差は歴然で、多色表示のビットマップで描かれた背景がグルグルと回転する演出は、当時のプレイヤーに強い衝撃を与えた。『A-JAX』をプレイしなかった人でも、デモ画面で回転する空母艦隊を見て、回転・拡大縮小機能の魅力に取り憑かれた人は多かったはずだ。筆者もこの時期は回転処理をしているゲーム画面を見てはうっとりするアブナイ青春時代を過ごしていた(笑)。

業界にムーブメントを起こした回転・拡大縮小機能

『A-JAX』登場の翌年1988年には、ナムコも回転・拡大縮小機能を搭載するシステム基版「SYSTEM Ⅱ」をリリースし、回転・拡大縮小機能はセールスポイントになる要素としてゲーム業界でのムーブメントとなっていく

ハードウエアに回転・拡大縮小機能を持たない家庭用ゲーム機やPCでは、プログラムによって回転・拡大縮小を行うゲームが増えていく。処理速度を犠牲にしてでもリアルタイムで描画するもの、描画開始前にパターンを計算で作り出すもの、グラフィックデータとして初めから用意しているものなど、手法はさまざまだった。

やがて1990年にスーパーファミコンが登場すると、ついに家庭用ゲーム機に回転・拡大縮小機能が搭載され、多くのゲームファンが興奮した。ラスタースクロール(*02)との組み合わせによる多彩な画像表現テクニックも生まれ、回転・拡大縮小による画像表現はどんどん進化していった。擬似的な2軸回転で描かれた『F-ZERO』(SFC/1990年/任天堂)のレースシーンを見て「回転機能でこんなこともできるのか」と当時は驚かされたものだ。

これらすべてが『A-JAX』の直接的な影響によるものだったわけではないが、少なくとも次世代の画像表現として回転・拡大縮小の可能性を分かりやすく提示したのが『A-JAX』だったと思う。

3Dステージが加えた独創性

▲2Dパートのステージを見る限りでは、多くの縦スクロールシューティングとさほど変わらない。本作での3Dパートはほかとの差別化に大きく貢献していたといえる

ゲーム性で見たときの『A-JAX』は、レガシーと表現できるくらいにシンプルなシューティングだったといえるだろう。本作の前年には『沙羅曼蛇』(1986年/KONAMI)がリリースされていたので、2Dパートオンリーのタイトルとして発売されていたら苦戦したかもしれない。

そう考えると、本作に挿入された3Dステージは非常に大きな意味を持っていたといえる。伝え聞くところによると、もともと2Dステージと3Dステージは異なるゲームとして開発されていたそうだ。開発が難航し、それぞれ単独のゲームとして完成させることが難しくなり、合体させて生まれたのが『A-JAX』だという。

これまでゲームセンター以外では、レトロPCのX68000へ移植されたもの(1989年)や、アーケードアーカイブスのPlayStation 4版(2015年)でしか遊ぶことができなかったが、2019年4月18日からは「アーケードクラシックス アニバーサリーコレクション」としてNintendo Switch、PlayStation 4、Xbox One、PC(Steam)向けにダウンロード販売されるようになった。この機会に『A-JAX』の魅力に触れ、当時のプレイヤーが受けた衝撃を追体験してみてほしい。

※記事内のゲーム画像は、アイキャッチ画像以外すべて『アーケードクラシックス アニバーサリーコレクション』公式サイトより引用。

©Konami Digital Entertainment

こうべみせ

脚注

脚注
01 PCM : デジタルサンプリングした音声を鳴らすことができる音源。サンプリングレートにもよるが、生音に近いリアルな音を再生できる。
02 ラスタースクロール : テレビモニター上の走査線ごとにスクロール位置を変化させることで画面を波打たせたり、画面分割や多重スクロールさせたりする画面効果、プログラムテクニックのことをいう。ノウハウの蓄積やプログラムテクニックの向上により、これを応用したさまざまな画像表現が生み出された。

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