餅月あんこのゲーセンに行きたい!
目次
第23回「坂本慎一さんの作曲の話を聞きたい!(中編)」
前回に引き続き、あまた株式会社のプロデューサーであり、サウンドコンポーザーとして多くの名作を残してきている坂本慎一さんのインタビュー、中編は前回に引き続いてテーカン在籍時代からのお話になりますが、ボリューム満点で、いったいどの時代までいくんでしょうか!
続・テーカン時代
坂本慎一さん(以下「坂」):テーカンに在籍していた頃(1982年~)の制作環境って、トイシンセって言って、ポータトーンとかカシオトーンとか、小っちゃいやつを弾いて、音を確認しながら譜面をまず書くんですよ。たとえばメロディを作ったら、譜面を見ながら、自分で作ったサウンドドライバにデータを打つんですよ。そして音の確認も実機で行います。まだシーケンサーとか自動演奏の民生品がない時代だったので、実機で確認してました。
――― へ~ぇ!
坂:ドレミファソ、って鳴らしたいんだったら、ド、っていう音が、16進数でたとえば「00」がドだとして、「02」がレ、「04」がミ、みたいに決めて、00,02,04とかって打つんですよ。つまり数字に意味を持たせてて、8分音符って音長したいんだったら、「00」の上の桁のほうを音の長さにするんですよ。「0」だったら16分音符、「1」だったら符点16分音符、「2」だったら8分音符、っていうふうにやると、「20」とした場合、「8分音符の長さのドの音」になるんです。
――― すごいな~、それを1つ1つの音にやるんですね!
坂:これ、まだオクターブ指定してないので、どの高さかわかんないじゃないですか。それは別の命令で、「3オクターブ目」っていう指定をしておくんですよ。そうすると、その後に選ぶ音は全部3オクターブ目ですよ、と。これは一例ですが、ゲームを開発するたびに、もっとデータを減らす方法はないかと詰めてましたねー。
――― なるほど~。
坂:なぜそこにこだわったかっていうと、その頃、めちゃくちゃメモリが高かったんですよ。ROMです、ROM。ファミコンはまだこの頃出てないですけど、アーケードではメインのプログラムROMとは別にサウンド用のROMっていうのが別に載っていたんです。その容量が16KBとかで。16KBっていうのは、16×1024バイトなので、えーと……何か勉強させてる気分になってきた(笑)。
――― 16KBはたぶんすごく少ないんだろうなぁ、とは!
坂:16384バイト。
――― それは英数字が16384文字のデータ量っていうことですか……? 違いますかね……?
坂:そうです。16進数の1バイトデータを16384個、記録できる容量です。16進数00からFFまで。10進数にすると0から255までのデータを16384個しか置けないんですね。で、これ、どんな容量かわかりにくいと思うんですけど、日本語の場合、1字を表すのに2バイト使うから、400字詰め原稿用紙にすると、だいたい20ページ分くらい。その容量の中にプログラムがあって、音楽が入ってるんですね。
――― なるほど~、原稿用紙20ページ分の情報量でひとつのゲームの音楽を鳴らしてたんですね。
ゲームサウンド技術の戦国時代?
――― じゃあその頃のゲーム音楽制作って、プログラム容量とのせめぎあいに費やすエネルギーが大きそうですね。
坂:せめぎあいだし、なるべくコンパクトにしてデータを減らしたいわけですよ。たとえば、曲によっては、こういう(♪ギターで同じ音を何回か鳴らす)、同じ音が続くことってあるじゃないですか。
――― はいはい。
坂:たとえば同じ音が16個続くのに16個の音の情報を書いてたらそれだけで16バイト使っちゃうので、「16回、同じ音を繰り返す」っていう命令を作るんですよ。
――― なるほどなるほど、省略できるんだ。
坂:そういうのを各社さん、テーカンはテーカンで考えてましたし。
――― それぞれなんだ!
坂:それぞれで(笑)。その頃ってヨコのつながりがほとんどなかったから、それどころか、よそのメーカーさんの基板のROMを抜いて解析してたんですよ(笑)。
――― 食べ物屋さんがほかの店の味を盗むみたいな!
坂:そうそう、この秘伝のタレの味はどうしたら出るんだ、って(笑)。
――― 客のフリして! へぇ~、技術が共有されてなかったんですね。
坂:だってメーカー同士はライバルですもん(笑)。だからてっとり早いのは、原稿に載せられるかわかんないけど(笑)、他社の人をひっこ抜いてくるんですよ(笑)。
――― なるほど! そうするとそこのメーカーの技術が!
坂:そうそう、特にハードウェア屋さんはよく狙われました(笑)。
――― へぇ~!(ドキドキ)
坂:だから、まだどういうやりかたがベストか、っていうのは誰もわからないっていう時代でした。もちろん、それはサウンドだけでなくゲーム開発全般で。
――― すごい、戦国時代って感じですね! そこからどんどん効率が良くなっていったんですね。
坂:そうですそうです。僕、いい話してるじゃん(笑)。
――― いやホントにおもしろいです。ゲーム音楽のプログラムの手法がそれぞれの国(←戦国時代的に、各メーカーさんの意)で生まれて成長していったんですね。
効果音とオシロスコープ
坂:そうそう。ゲーム自体のいろいろな動かしかたもそうだと思うんですけど、音楽では効果音の鳴らしかたも違っていて、たとえば「ピュ~ン(なめらかに高音から低音に下がる)」っていう効果音を鳴らすのに最初にやりがちな効果音の鳴らしかたって、僕もやってたんですけど、ドライバで作ったドレミ、とかの音をデータとして並べて、超高速アルペジオみたいな感じで、速く鳴らすんです。それで効果音にはなるんですけど、問題点は、正しい音程のところしか音が出せないんですよ。段階をもってピロリロリロリ、みたいになっちゃう。
――― あ~、なるほど!
坂:だからスイープって呼んでたんですけど、「ここの音程からここの音程までの間を0.5秒で音程を下げていく」みたいなコマンドを作るようになって。
――― わー、そんなこともできるんだ。
坂:ナムコがそういうところがすごい進んでて、『ギャラクシアン』の敵が降りてくる「キューーーーーン」って音とか、「これ、どうやってんだよー!?」って。で、研究するわけですよ(笑)。
――― へぇ~、そんな、手探りで。
坂:だから、他社さんが出してる音を、どうしたらそういう音が鳴るんだろう? って調べるのは耳で相当……場合によってはオシロスコープを繋いで波形を見ながら。
――― オシロスコープ……?
坂:オシロスコープ、知ってますか?
――― わかんないです。検索してみますっ。……何か聞いたことはあるけど……。
坂:波形を見るやつなんですよ。
――― 波形って音楽の話でよく出てくるけど、それがずっと謎なんですよ! く、くけいは、とか。……オシロスコープの画像出てきましたけど、まったくわかんないです! 何か医療器具みたいなんですけど!
坂:そうそう、心電図みたいなね。
――― これで音の波形を見るんですね……これで解析すると、何かがわかるんですか?
坂:わかりますよ。たとえば……(画面共有)。
何かの操縦席でレバー片手に声に出して言いたい日本語「矩形波発生装置 3系統」!
――― これは何ていうソフトですか?
坂:これは『Adobe Audition』です。
――― Adobeの音楽ソフトがあるんですね~!
坂:ここに波形があるじゃないですか。これ「サイン波」っていうんですけど、440Hzで……作って……と(音を作ってる)。
――― これ今、音色を作ってるみたいな感じですか?
坂:そうそう。作れますよ、ゼロから。
――― 私もDTMに憧れて何回かチャレンジしようと思ったけど、難しくて挫折しましたよ……。昔、『Digital Performer 3』を高かったのにがんばって買ったのに、全然使いこなせなくて終わりましたもん。
坂:それはなぜ? 操作が?
――― 全然わかんなくて……。『ファミリーベーシック』でBASICのPLAYコマンドで曲を打ち込むのは、やったんですよ。
坂:あ、それはできたんですね。
――― PLAYコマンドはだいたいわかりました。だから坂本さんが作曲するときって、どういうソフトで、どういうふうにやってるのか知りたくて。ゲーム音楽を作るのって、プログラムが完成形ってことですよね。それってどういうフォーマットなのかなとか……ゲームにもよるんですかね。
坂:そうですね。アカデミックだな、今日(笑)。あ、できました、こういう感じです。♪~(ビープ音のような音)。
――― 音色を作ることができるんだ、すごい!
坂:音の基本というか、和音でなくて他の音が入らない純粋な音です。すべての音は、これを重ねることで表現するんですけど……意味わかんないですかね?(笑)
――― そうなんだ……! 今、「ピーッ」っていう音でしたけど、たとえば他にも「ベーッ」っていう音とか色々あるじゃないですか。キーボードだったら音色を変えられるみたいな。そういうのもコレでできちゃうってことですか?
坂:♪~(別の音)
――― あっ、さっきのと音色が変わった!
坂:本当は元の正弦波に3倍、5倍、7倍と奇数倍の周波数を足していくんですけど、音をひずませていっても矩形波ぽくなるんですよ。
――― くけいは! 出た……!
坂:それが、PSGとかの矩形波ってヤツです。
――― ぴー、えす、じー……。
坂:そこから!?(笑)
――― わかんないっすよ!!
坂:大丈夫かなぁ、説明できるかなぁ(笑)。
――― いやだってそんな、ゲーム音楽作るかたがたにとっては当たり前かもしれないですけど!
坂:そうっすよね(笑)。
――― だって私、一応音楽専攻ですよ!
坂:オッ(笑)。
――― でもまったくデジタルな音楽のこと教わらなかったですもん!
坂:そうか~(笑)。まぁ、つまり、音は波形でできてて、各社さんの波形もこんなふうにできてたわけですよ。たとえば……♪~
――― わぁ、凄い音が出てきた。
坂:これも、突き詰めていくと、最終的にはさっきの、サイン波っていう、こういう波なんですよ。慣れてくると、この波を見てどんな音かわかるようになってきますよ。
――― えっ、それすごい! それじゃあそういう、音色を作るところからやっていたってことですね。
坂:ところが音色は作れなかったんです。表現が難しいんですけど、僕らが使えるサウンドチップって、SN76489ってやつか、AY3っていう……Wikiを貼りますね。
参考リンク:
Programmable Sound Generator – Wikipedia
坂:AY-3-8910っていうチップがあるんですけど、こいつができることってすごく限られてて、「矩形波発生装置 3系統」って書いてあるんですけど、音量が15段階なんです。他社さんの音を解析してたっていうのは、どういう音程を鳴らしてるかを調べたかったからで。
――― なるほど……(「矩形波発生装置3系統」!)。
メモリの値段が音楽制作に影響!
坂:ギターとかもそうだけど、フレットがあるから半音ずつしかできないじゃないですか。だからこうやって(♪~)(1本の弦を高音から低音に向けて鳴らす)やっても、半音ずつ順番に鳴ってるだけなんですよね。
――― あ~、そうなのか~。
坂:ほんとは半音の間にある、途中の音程が出したいわけですよ。
――― シームレスに。
坂:そうそう。それをサウンドドライバでやるときに各社工夫してて、僕がやったのは、たとえばラからファまでとして、その間を、ポルタメントって言って、なだらかに変化する、っていうやりかたで。あと、そのときに音量はどうするか、音程が下がるのと一緒に減っていくか、とか、そういう指定をしながら。さっきあんこさんが言ってたけど、アーケードの音楽ってそういう音づくりの世界がしばらくずっと続くんですよ。コンシューマーと違って。
――― んんん?
坂:どういうことかって言うと、コンシューマーは、先の話になるんですけど、プレステあたりからCDに近い音を鳴らすようになったんですよね。
――― はいはい。
坂:つまり、もう普通の音楽じゃないですか。バンドとかが演奏した音を録音したものをCDに焼いて、CDから再生するっていう。もう、無限の音が出せる。
――― その頃からそういう時代になりましたよね。
坂:ただ、アーケードゲームは、CDなんて載っかってないわけですよ。だからずーっと、さっき言ったメモリを使って音を鳴らしてたんで、メモリの値段がすごく響くわけです。
――― ほ~。
坂:16KBから32KBにした時点で、メモリの値段が1.5倍とか2倍とかに上がるんです。たとえば原価で300円上がると、売価では4倍ぐらいに、1,200円ぐらい値段が跳ね上がっちゃうんですよ。
――― そうなんですね!
坂:その上、当時はもっと厄介で、メモリの値段って安定してなかったんです。だから安いときもあれば高いときもあったんで、安いときにまとめて買っちゃうんですよ。
――― ふんふん。
坂:使用用途がハッキリ決まってない分も、「安いから買っとけ!」って買うんですけど、半年ぐらいすると、もっと容量が多いメモリが安く出たりすることもあるじゃないですか(笑)。
――― あ~、ありますよね、そういうこと。
坂:でも在庫抱えてるのはその前に買ったやつだから、たとえ容量が多いものが同価格で出てきても、それをまず使わなきゃいけないんです、容量の縛りがキツイまま(笑)。
――― へぇ~、難しい時代だったんですね。
坂:難しいし、安いと思って大量に買い付けしたら、どこどこ産のメモリはちょっとクセがあってちゃんと再生できない、ってことがあったり(笑)。
――― そんなことあったんですか!
坂:あります。いっぱいあります。メモリに限らないですが、半導体にはそれぞれ動作可能速度があって、その範囲内で動作させるように設計するんですが、そのマージンが少ないと、どこの国で生産されたってところまで気にしなきゃいけなかったり、同じ型番でも動いたり動かなかったりするんですよ。
――― めっちゃ困りますね!
坂:困りますよ~。……このペースで話してると話が終わらないですね(笑)。
FM音源の登場
坂:アーケードゲームの作曲っていうテーマで言えば、僕がアーケードのサウンドをやってる時代はチップで鳴らすしかなかったんですよ。最初はAY-3っていうのでやってたんですけど、その後、メガドライブとかに乗ってる、SN76489っていうチップが出てきて。あと、ゲームギア、マスターシステムや、シャープのパソコンなんかにも載ってましたし、セガの「システム 1」、「システム 2」もこれです。『モンスターランド』はSN76489っていうチップで鳴ってます。チップはあんまり音は作れないんですけど、みんな工夫して鳴らしてました。
――― なるほど~。
坂:コンシューマー機では、ファミコンが1983年に出ましたが、ファミコンはファミコンで独自のチップなんですよ。だからちょっと違う波形が出せたりするっていう。で、時代が一気に変わったのはFM音源です。
――― そうそう、FM音源ってよく聞くんですけど何なんでしょうか……。
坂:FM音源は、ヤマハが作ったチップで、80年代の、レベッカとか、海外でもa-haとか全体的にシンセで使うようになった音なんですよ。簡単に説明すると、それまでシンセサイザーってアナログだったんです。
――― えっ。シンセサイザーがアナログ……?
坂:電気回路で組んでたんですよ。音を出すのも発振って言って、コンピューターでデジタル的に鳴らすっていうよりは、電気回路の信号処理で音を作ってたんですね。
――― へぇ~?(???)
坂:わかんないと思いますけど……。
――― わかんない……!
坂:(笑)個性のある音を出すためにどうしていくかっていうと、回路で発振させた波形を削っていくんですよ。なので、ろくろを回すような削り出しの複雑な波形が作れるんです、アナログで作ると。
――― ほ~ぅ(?)。
坂:で、フィルタって言うんですけど、高い音をなくそう、とか、低い音を増やそう、とか、中くらいの音域の音を強調しよう、っていうことができて、そのフィルタの味付けで音色を変えてたんですよ。
――― ふぅぅぅぅ~ん
坂:言ってることわかんないと思いますけど(笑)。
――― ちょっとちゃんとイメージできていないです!
坂:絵で言うと、ガンマをいじるようなものですね。絵を描いて、スキャンしたけど、何かちょっと主線のところわかりづらいなぁ、黒をもっと強調したいなぁ、補助線とか薄くならないかな、と思ったら、ガンマをいじって下のほうを削ると、輪郭がハッキリするじゃないですか。
――― なるほどなるほど。
坂:それと同じ感じです。それがアナログシンセなんです。写真でも何でも、読み込んだらそのまま使わないで、美肌フィルタなんかをかけたりするじゃないですか。どっかを飛ばしたりとか、赤を強くしたりとか。そういう感じのことを、音でやるんです。そうすると独自の音になるのが、アナログシンセだったんです。アナログシンセが、もともと複雑なものを削っていって、際立たせたいものを取り出す、みたいな感じだったんですが、FM音源っていうのは全く逆の概念なんです。
――― えっ。
坂:増やしていくんです。最初はさっきお聞かせしたみたいな、プーッ、っていうようなサイン波、ひとつの音だったじゃないですか。あれをまず出しておいて……説明できるかなぁ(笑)。
――― こんな難しいことを、坂本さんは最初どうやって覚えたんですか!
坂:みんな覚えてますよ、音やってる人は(笑)。
――― それがすごいですよね。教えてくれる人とかあんまりいなくなかったですか?
坂:いや~、本読んだりとかですね。まだ本があればいいけど、FM音源が出てきた最初の頃とかは、本も出てないから、試すしかない。
――― ひぇ~、すごい大変そう。
坂:だからいまだに「FM音源って何?」、って聞かれてもうまく説明ができないんですけど(笑)。足し算なので、最初に出した音の倍の音を足すとか、4倍の音を足すとか、ただのドじゃなくて1オクターブ上のドを出すとか、ソを足すとか、オルガンみたいなことになるんです。
――― なるほど、それはわかります!
坂:よかった(笑)。オルガンだと自分で4倍、8倍っていうボタンを押して音を調整するじゃないですか。あれみたいなものですよ。でも、FM音源の本懐はそっちでなくて、元の音を別の音でくすぐることにあるんですけど……わかりにくいかな(笑)。単純なたとえだとビブラートもので、一定の周期で音程を揺らすんだけど、それを極端に速く、そして強くかけると倍音がたくさん出てきて、音の表情が複雑になって、いろんな音が出るようになるんです。PSGでは矩形波2~3種類の音しか出なかったのが、自分である程度、音を作れるようになったんですよ。
――― ふ~ん……?
坂:(餅月がどこまで理解してるか不安そう)
――― いやっ、デジタルの音楽の世界が全然わからないので、とりあえず色々お聞きして勉強させていただきます!
サンプラー、メモリ再生、PCM(餅月のメモより)
坂:で、その後、シンセの世界ではサンプラーっていうのが生まれるんですよ。
――― 音を取り込むやつですか?
坂:そうそう。それからもっとリアルな音になってきて。
――― 猫の鳴き声で音楽を作ったり……。
坂:あはは! そういうのもあるし、ピアノの音や、ギターでもいいんですけど、最初の音から時間が経つとだんだんまろやかな音に変化してく音ってあるじゃないですか。
――― はいはい。
坂:最初、弦をはじく強い音があって、あとは弦の振幅の響きが残る、みたいな。それをFM音源はそれっぽく再現できたんですよ。最初の音はこれを一緒に鳴らして、時間が経過すると鳴らさないように、とか。
――― へぇ~!
坂:で、サンプリング音源も同じで、最初の波形はこれを使って、0.2秒後からは、この波形をループして使う、とか。全部録音するとメモリを食うんですけど、やっぱりメモリが高いから、録音するとしても部分的がいいので、最初の特徴的な音と、減衰したときに出て来る音だけを録音しておいて、あとは音量のコントロールで自然と音が小さくなっていくように作る、みたいな作りかたをしていたんです。で、こういうやりかたを早いうちに採用した家庭用ゲーム機が、スーパーファミコンでした。
――― あぁ、そうだったんだ。へ~ぇ!
坂:チップで決まった音を出すファミコンから、スーパーファミコンはメモリ再生になったんですよ。
――― メモリ再生……。
坂:サンプラーになったんで、サウンドの人が音色を作れるようになったんです。
――― そういう音が鳴ってたんですね、スーファミで。
坂:ただめちゃくちゃ再生に使えるメモリが少ないから、あんまり各社さん、そんなに凝ったことはできなかったんですけど、そこがサウンドクリエイターの腕の見せどころで。菊田裕樹さんの『聖剣伝説2』のオープニング曲とか、「どうやってるんだろう!?」ってくらい衝撃的で、もう、何ていうのかな……本当に綺麗で多彩な音が出されてたんです。僕は残念ながらスーパーファミコンで仕事したことはなかったんですけど、
――― ふむふむ。
坂:でもそのサンプラーっていう時代が、ゲーム機に来るんですけど、最初はPSGで決まった音しか出なかったものが、FM音源が出て、いろんな音が作れるようになって、次に波形音源、サンプリング音源みたいなものが始まって、スーファミもそうですし、初代のプレイステーションもサンプリング音源です。そんなふうに各社さんが、進化するハードに合わせていろいろ工夫をしてたんです。で、今はメモリが安価になって容量が増えたんで、圧縮したPCMとかで鳴らしてる部分が増えてます。
――― ほう……(圧縮したPCM……)。
坂:PCMって何だよって(笑)?
――― (笑)専門用語多いッスね! 我々一般人は知らないですよ! ……でもゲーム好きな人けっこういろんなゲーム音楽に関する用語知ってますよね。あ、PCM、パルス符号変調って書いてある(検索した)。
坂:そうそう。CDとか、ストリーミングやサブスクでふだん皆さんが聴いてる音楽、あれ全部PCMです。
――― (説明を読んで)アナログを、デジタルに変える……へぇぇぇぇ!
坂:そうですそうです。絵で言うとスキャナーみたいなものですよ!
――― じゃあ、スタジオとかで演奏を録音して、それをデジタルのデータにして鳴らしてるってことですか?
坂:そうです。スタジオ使わないでDTMで録音も今は多いですが。
――― なるほど、つまり録音なんですね、PCMは。
坂:一番わかりやすいのは、声優さんのセリフとか。あれは録音じゃないですか。
――― はいはい、そうですよね。
坂:PCMにどんどんシフトして、音楽もそうなったのは、ひとえにメモリが安くなったからです。昔って、フロッピーディスク1枚分、1MBくらいのデータを電話回線で送るだけで1時間くらいかかったりしたけど、今は一瞬じゃないですか。
――― ホントですよね。漫画も何ギガバイトとかなのに一瞬で送っちゃうから、送信ボタンを押した後に何か「間違えた!」って気がついても送信完了しちゃってますよ。
坂:そうそう。今はストリーミングで動画や映画を観たりするじゃないですか。あれは秒間3Mbitとか送ってるんですよ。それでメモリも速くなったし、転送も早くなったので、音は圧縮して全部入れちゃったほうが早いっていう。で、どんどん録音した音を鳴らすようになってきました。
チップチューン!
――― 今は、じゃあ、理想の音を鳴らせる感じなんですか? 音づくりに関して制限ってなくて、イメージ通りの音が作れる感じなんでしょうか?
坂:そうです、作れますね。で、どんな音でも作れるがために、逆に、チップチューンって言って、チップの音が見直されてるわけですよ。制限芸術ですよね。
――― あ~、グラフィックではドット絵も流行ってますもんね。
坂:そうそう。まさしくそうで。僕らの世代では制限でも何でもなく、しょうがなくてそうだったんですけどね(笑)。
――― ガチでね!
坂:ガチで(笑)。今の若い人たちはそれを制限アートとして楽しめる。
――― レトロでおしゃれ、みたいな感じですよね。
坂:でも制限してるからこそ工夫して出せる音、みたいな感じですよね。ゲーム音楽のCDっていっぱい出てるじゃないですか。それをCDで聴いてる時点で、それはもうゲーム音楽じゃないって言う人もいるんですよ(笑)。自分で鳴らせる環境のチップを用意して、データを流し込んで鳴らすことがメディアアートだから、チップから鳴らなくちゃいけない、っていう(笑)。
――― マニアだ(笑)。
坂:マニアっぽいんですけど、みんな、ゲーム機を持ってたら、家にそのメディアがあるっていうことなんですよ。チップが。内蔵音源が入ってるゲーム機を買って、その機器から音が出てるんです。録音じゃないんです。
――― ああそっか、ゲーム機の中にってことですね。確かに!
坂:それって言われてみれば凄いことだなって思って……って、こんな話でいいんですか(笑)?
――― おもしろいですよー! 全然ゲーム音楽のこと知らないので何でもありがたいです。
坂:まぁ話を戻すと、テーカン時代は……(資料を見る)。
――― 坂本さんヒストリー、まだテーカン時代だった!(笑)
大ボリュームの中編をお読みいただきありがとうございました! なのにまさかのテーカン時代で中編が終了! はたして現代にたどり着けるのか!? その後のNMK時代、ウエストン時代と続くタイムトラベルトークな後編もどうぞお楽しみに~!