餅月あんこのゲーセンに行きたい!
第22回「坂本慎一さんの作曲の話を聞きたい!(前編)」
最近では「ゲームギアミクロ」のメニュー画面BGMや、リリースを控えているものでは『ワンダーボーイ アーシャ・イン・モンスターワールド』や『時計じかけのアクワリオ』などのサウンドを手掛けている、あまた株式会社のプロデューサーでありながら、ゲームミュージックコンポーザーとして大きな存在感を放ち続ける坂本慎一さん。
『Last Labyrinth(ラストラビリンス)』の配信では餅月と一緒に出演してくださいました!
ゲーム文化保存研究所ではすでに「アーケードゲームが輝いていた時代を駆け抜けた男! 坂本慎一氏インタビュー」という記事もありますが、今回はその坂本慎一さんの、特にゲーム音楽の作曲のお話に特に焦点を当ててお聞きしていきたいと思います!
坂本さんのギター
――― (※Zoomでインタビューさせていただきました)そこがお部屋ですか?
坂本慎一さん(以下「坂」):そうそう。
――― スクショ撮らなきゃ! かっこいー! 音がやっぱりいいですよね。優しい音ですよね。
坂:フォークギターよりガットのほうが……。
――― ガットギター?
坂:ナイロンなんですよ。さっきの普通のアコースティックギターは、弦が金属でできてるじゃないですか。ガットギターはナイロンなんですよ。
――― ああ、透明のやつってことですか。
坂:だから音が……(♪ギターを鳴らす)
――― やわらかい? それってギターの本体も違うんですか? 弦を張り替えるだけでいいんですか?
坂:本体が違うんですよ。
――― 違うんだ。ギターいっぱい持ってるんですね~。
坂:巻きかたから違ってて。ピックガードがあったりなかったり。ガットギターは結ぶんですけど、この前、張り替えたら全然うまくいかなくて2時間ぐらいかかって(笑)。
――― 大変そう!
坂:でもこれは本体が薄くて、あんまり鳴らなくて。なぜかというとプラグが刺さっていて、アンプを通すようにできてるんですよ。あんまりココ(本体)で鳴っちゃうとハウっちゃうから、わざと薄くなってるんです。音がちっちゃくて、家で弾くぶんには弾きやすいんですよ。
――― へぇ~! いいですね、音も録り込んだりできるじゃないですか。
坂:でも結局こっちのギターにも(プラグが)ついてるんですよ(笑)。あとこれはエレキギターでしょ。
――― いっぱい持ってるんだ!
坂:で、何でしたっけ。本題入りますか?(笑)
――― あ、よろしくお願いします!
~ ゲーセンでバイト時代 ~
――― 今回のテーマとしては、坂本さんの作曲のお話をお聞きしたい! ということで、前もって、使用機材や製作の流れを、もう坂本さんにテキストで用意していただいてありがとうございます! ほぼほぼこのまま載せさせていただきますね。
坂本さんの使用機材と音楽制作の流れ
テーカン時代 ’82~
トイシンセを使用して音を確認しながら譜面に。
譜面を見ながらデータをバイナリでROMエミュレータに打ち込み実音確認。
その後、そのデータを見つつコンピューターにデータ文で入力。
(『SENJYO』、『ラブリーポーカー』)
NMK時代 ’84~
YAMAHA MSX CX5にSFG-01を刺して環境構築。
2203とFM音源の機能が同じなので、こちらで音色を製作(YRM-12)。
カートリッジを差し替えて「FM MUSIC COMPOSER 「YRM-15」」にて打ち込み、MSX上で作曲。
その譜面を見つつ、コンピュータ (当時はIN3)でデータ入力。
効果音は実機(基板)でデータを入力して作成。
(『アーガス』、『バルトリック』、『サイキック5』)。
MSXのデータセーブはテープレコーダー w
(コンシューマーは全然やってない、『ドラクエ』が出て来てびびったけど。
あー、『ウイザードリィ』を可視化したんだな。という見えかた。シナリオとかあるし別物ですが)
ウエストン時代 ’86~
環境はないけど、速攻で(『モンスターランド』)の開発に入ったので再びトイシンセに戻る。
作業はテーカン時代と同じ。
データ保存は実機のソースコードと譜面。
後半やっと、機材を購入していただく(『モンスターレア』)。
NEC PC9801にMIDI I/Fを挿入。
シーケンスはダイナウエアのプレリュード 11万円もした。
この当時はまだシーケンサーが全盛。
音源はYamaha TX-81Z(『モンスターレア』のためにFM音源を使いたくて)。
当時はMT-32も出てたが、ゲームの音(FM音源)が出ない作れないので。
使いかたとしてはニッチ。(と、思ってたら、すぎやま先生も使ってたw)
MIDI キーボードは AKAI MX-73(音源は入ってません)。
ソフトはフロッピーで起動してそのまま使います。
かゆいところに手が届きにくいのでシーケンスソフトを「カモンミュージック」社のRCP-PC98に変更。
それでやっとマルチティンバー音源 MT-32を購入。
ここから先はMT-32に時代!w
『モンスターレア』、『オーライル』までは上記環境で作ってましたが、
この辺からコンシューマーでPCエンジンやメガドラの仕事も入ります。
CDROM2やサターンが出る頃には「CD-DA」、
つまりシンセで音を鳴らしそれをレコーディングをして再生という分野が部分的に
入って来たため音源を増強(が、しかし作曲はこの辺でやめてます)。
Hudson 海外向けMegaCDタイトル『ダンジョンエクスプローラー』。
音源
・ローランドSC-88
・YAMAHA RX-15
・YAMAHA TG55
・AKAI S2000
・マキシマイザー(エフェクタ)BBE Sonic Maximizer Model 1002
・イコライザー ローランド E-231
・YAMAHA MIXER MV1602
ここでPlayStationの登場
何とサウンドの開発はAppleマッキントッシュに。
作曲環境もMACに移行、シーケンスソフトをopcodeのstudio visionに。
坂:ではこれを順番に説明していきますね。テーカンが最初に入った会社なんですが、1982年、16歳ですね。
――― 坂本さんの生まれた年は、1966年ですよね。
坂:くわしいじゃん。
――― 私と10コ違いだから(笑)。
坂:(笑)覚えやすい。1月7日生まれです。早生まれだから免許取るのもバイク乗るのも最後のほうだし(笑)。
――― 16歳で就職されたんですね!
坂:僕は高専に行ってたんですけど、何かめんどくさくなっちゃって行かなくなって、テクモのゲーセンで働き始めたんですよ。メーカーだってことは知らないで入ったんです。で、半年ぐらい働いてたんですけど、本社の人が集金とかメンテとかでたまに来るんです。
――― ほうほう。
坂:で、社長さんが来たときに、「坂本くん、コンピューターできるんなら本社で働かない?」って。「じゃあ行きます!」とか言ったらスンナリ入っちゃったんだけど(笑)。っていうのも、同じような形で先に入った1歳上の先輩がいたんですよ。石塚路志人さん。ウエストンのストンのほうの人ですよ。
――― すごっ。
坂:で、めちゃくちゃプログラムができるんですよ、石塚さん。だから「若い10代の子はプログラムがみんなできるんだ」みたいなイメージを持たれてるわけですよ(笑)。僕がちょっとそういうプログラムを勉強するような学校に行ってます、っていう話をしたら、できると思われちゃって(笑)。だからラッキーでした。
――― 学校は情報処理系だったんですか?
坂:コンピューターの授業があったのでそこにしました。入りたいところがなかったからボーッとしてたんですけど、『スペースインベーダー』が大好きになっちゃって、「これ、コンピューターで作ってるんだ!」ってわかって、コンピューターおもしろいなって思ったところがキッカケで、せっかく学校に入ったにもかかわらず……ゲーセンで働き始めて、それもお店閉めた後なら「タダで遊べるじゃん」って思って(笑)。
――― あ~(笑)。
坂:ゆるやかだったんですよね(笑)。僕の家は今、スカイツリーがあるあたりのそばにあったんですね。そこから、働いてたところは、お茶の水と両国と神田と市ケ谷の店をローテーションで回ってたんですけど、そこを全部チャリンコで行ってて。なぜチャリンコで行ってたかというと、終電が終わっても帰れるから(笑)。だから店を閉めてからがオレの時間、みたいな(笑)。
――― なるほど~。どれくらいの時間やってたんですか?
坂:えっ、もう朝までですよ。
――― え~! それ他のスタッフの人も一緒にですか?
坂:ゲーセンってワンオペ多いんですよ、夜とかになると。風営法が厳しくなる前だったのもあるんですけど、ワンオペが多いから他に誰もいないんですよね(笑)。
――― え~、そんな、ひとりで朝までインベーダーやってたらさぞかし凄いナゴヤ撃ちが……。
坂:インベーダーだけじゃないですけどね(笑)。バイト始めた頃は『ギャラクシアン』とか『ギャラガ』とか『ポールポジション』とか出てたから。
――― あ~、そうか、そんなにいろいろ遊べたら朝になっちゃいますよね。
~ テーカン時代 ~
坂:そうそう。そんなことをしてたら本社の人に「働け」って言われちゃったんですけど(笑)。テーカンはプログラムをやる前に、たいがい先輩たちがみんなやってたのは、サウンドのドライバを作るんですよ。
――― 何か専門的な言葉が出てきた……サウンドのドライバ、とは……。
坂:ドライバは直訳だと「駆動する」とか、例えば車だったら、車を運転する人は「ドライバー」って言うじゃないですか。サウンドドライバっていうのは、サウンドを鳴らすものです。
――― へえへえ(???)
坂:「サウンドプレイヤー」っていう言いかたでもいいんですけど、あらかじめデータ文で作った音程を解釈して、何の音をどれくらいの時間鳴らすんだ、っていう指定したとおりに鳴らしてくれるのがサウンドドライバです。
――― それってプログラムってことですか?
坂:そうそう。ドライバでゲームができてるんです。例えばスティックで方向を入力したら自分のキャラが右や左に移動したりするわけじゃないですか。その仕組みこそがドライバなわけですよ。エンジンとも呼んでます。ゲームエンジン。
――― エンジン……。
坂:サウンドは「サウンドドライバ」って言いかたをするか、「サウンドモニター」って言いかたが多くて、まだMIDIとかない頃なので、自分たちで解釈して鳴らす、みたいな時代だったんです。
――― MIDI……。
坂:たとえば普通にPSGとかのチップで「ド」とか鳴らそうと思うと、プログラムで鳴らすにしても何でもいいんですけど、ある特定のポートっていうんですかね、チップの入力のところにデータを書くわけなんですが、すごい書く量が多いんですよ。周波数の設定をして、音量の設定をして、鳴らしてください、って。それで例えば四分音符ぶんで止めてください、って信号をまた送るっていう。で、それをベタにプログラムで書いていったらすごいめんどくさいじゃないですか。間違えるかもしれないし。なので、MMLとかと同じなんですけど、簡易言語みたいなのを使って、例えば3オクターブ目のドの音を8分音符で鳴らしてください、ってデータを作るわけです。で、それを読み込んで、そのとおりに鳴らすのがドライバなんです。……伝わってるのかなコレ?
――― (笑)(←とりあえずまるっと出てきた単語をメモってる)。
坂:つまりプログラムの基本的なところがサウンドドライバを作ることによってわかる、っていうことで、当時テーカンに入ったプログラマーは全員サウンドドライバを作ってて、それはテクモになっても続いてて。だから半井香織さんや花岡拓也さん(おふたりともあまた株式会社のサウンドチーム「伯林青(ベレンス)」メンバー)もやったんじゃないかな。僕は最初音楽を担当するっていう話で入社したわけではなくて、あくまでプログラマーで入ってるんですよ。で、『SENJYO』とか作ってましたけど、「サウンドができるんだったら……楽曲が作れるんだったら自分で入れればいいじゃん」って言われて(笑)。
――― すごい展開に……!
次回は、メモリの値段がサウンド制作環境を大きく左右することに!? ゲームサウンドの作りかたが各メーカーで同じではなかった! ゲームサウンド戦国時代のお話……など、当時のゲームサウンド業界事情をお話してくださった中編に続きます!
どうぞお楽しみに!