セガサウンドとの邂逅、拓けた道

「アストロシティミニ」について語るならば、やっぱり音楽もはずせない。
ということで、元ZUNTATAの「なかやまらいでん」こと古川典裕さんに、ご自身とセガ音楽との出会い、その影響などについて語っていただきました。

『スペースハリアー』の衝撃

学生の頃の数年間、アーケードゲームと疎遠になった時期があった。
ゲーム嫌いになったということではなくて、近所のゲームコーナーが閉店して遊べるお店がなくなってしまったこと、そしてようやく入手したパソコンでゲームをしたりMMLで音を打ち込んだりするのが楽しくなっていたからである。

そんな頃、雑誌でとあるゲームの記事を目にした。それが『スペースハリアー』。
これまで見たことのないような綺麗なグラフィックが印象的で、その数万色を駆使したという画面を実際に見てみようと数年ぶりにゲームセンターに足を運んだのである。
その昭和62年当時、福島駅前は置賜町にあったハイテクセガに『スペースハリアー』は設置されていた(現在は“さんかく広場”になっている場所)。

残念ながら噂のムービングシートタイプではなかったが、最初にプレイ画面を見たときの衝撃たるや……画面奥から美麗キャラクターたちが超高速で飛び出してくる驚き。
数年前までのアーケードタイトルしか知らず、自宅でのんびりとしたゲームばかりプレイしていた自分にとってはまさに別世界であった。
それと同時に、筐体から流れてくる音楽……そう、それまで知っていたゲーム音楽ではなく、明らかに違う次元のサウンドがそこにはあった。
サンプリング音で構成されたドラムのビートはもちろん、多数のパートがあってはじめて再現できる複雑な和音(例:メインテーマ15小節目など)。
途中でボスBGMが挿入されるも、ほぼノンストップで展開されるメインテーマの演出。何もかもが、まるで16tヘビーボムを脳天に落とされたような衝撃であったのだ。

『スペースハリアー』©SEGA ©SEGATOYS

“本物の”『ファンタジーゾーン』との出会い

……ヘビーボムといえば『ファンタジーゾーン』を忘れてはならない。
実はゲームを実際にプレイする前、とある雑誌に投稿された『ファンタジーゾーン』BGMのMMLを打ち込んだことがあった。
それは「Dreaming Tomorrow」。軽快なリズムとバッキング、そして何より三連ノリのメロディがとても美しい曲である。しかし残念ながらこの曲はプレイしてすぐに流れるわけではなく、7面目までゲームを進めないと聴くことはできないのであった。
パソコンで流れる打ち込みの音に比べて、本物の「Dreaming Tomorrow」は一体どんな音なんだろう……人だかりの『スペースハリアー』を横目に、テーブル筐体に座って『ファンタジーゾーン』をプレイしてみる。

最初に流れたのは、サンバのリズムからたっぷりイントロを聴かせる「Opa-Opa!」。
おお、何と気持ちの良いメロディと音色なんだろう!
こんな曲が聴けるゲームだったとは知らなかった……と歓喜する間もなく、1フレーズが終わるか終わらないうちにプレイヤー機は速攻四散。最初のプレイではボスまでたどり着けなかったように記憶している。
これが、それまで数年途絶えていたアーケードゲームと戯れる日々が再始動した瞬間であった。学校が終わってバスに乗って帰る前に、友人たちとハイテクセガで遊ぶのが卒業までの定番コースとなった。

当時のハイテクセガには、ラウンドクリアのLIFE復活音が高らかに響く『ワンダーボーイモンスターランド』も設置してあった。
これまたメロディがとても美しいBGMばかりで、クラシック的な品格すらもPSGの音色から感じ取ることができたほど。
特に「Beach」と「Desert」は「何て綺麗な曲だろう……」と言葉にしてしまったほど。
とはいえ、経済的事情が苦しい貧乏学生にとっては、二つ以上のゲームをやり込むことはあまりに困難。残念ながら『モンスターランド』は友だちのプレイをひたすら見ていただけに終わってしまった。

『ファンタジーゾーン』©SEGA ©SEGATOYS

他にも『エイリアンシンドローム』は取り上げておきたい。
今でこそ星の数ほどあるものの、当時このような……スプラッタ的な要素をイメージしたタイトルはアーケードゲームではかなり珍しかった。
こうしたクリーチャー物が当時大好きだった自分にとって、このゲームをプレイしない理由はなかった。
女性プレイヤーがやられるときのサンプリングボイスと、「どんでーん、どんでーん」と低く響く独特のBGMに、ハリウッドの特撮映画に迫りたいという気概が感じられた(ちなみに、この数年後に同じようなテーマのゲームサウンドを担当することになり、『エイリアンシンドローム』で感じた当時の印象を思い出しながら作った記憶がある)。

『エイリアンシンドローム』©SEGA ©SEGATOYS

さて、話は戻って『ファンタジーゾーン』である。
ようやく7面目に到達できるようになったのは、最初にプレイし始めてから数ヶ月は後だったろう。
「Dreaming Tomorrow」が流れてきたとき、それまで聴いていた打ち込みのものとは音の厚みがまるで違う!
すごい、これが本物か!
と感慨にふけるわずかな時間も与えてはくれない7面の難易度。
最初にプレイした速攻四散の光景が記憶から呼び起こされ、7面最初の挑戦は敗退。
さらにこの曲を1ループ聴けるようになるまでには、また日々を重ねることとなる。

……『ファンタジーゾーン』をはじめとする数々のセガタイトルとの出会いは、後に私がゲーム音楽への道を志す大切な柱の一つとなっていくこととなる。
あれから30数年後の現在、これらのタイトルの音を作っていた方々が今も新たな音を作り続け、学生だった自分もまた中年となり、その背中を未だ追い続けているのである。

©SEGA ©SEGATOYS

こんな記事がよく読まれています

2018年04月10日

ゲームセンター聖地巡礼「1980~1990年代 新宿」前編

今回から、新企画「ゲームセンター聖地巡礼」の連載がスタートします。当研究所・所長の大堀康祐氏と、ゲームディレクターであり当研究所のライターとしても協力いただいている見城こうじ氏のお2人が、1980~1[…]