特集:ゲームバー 第二回目「TOKYO VIDEO GAMERS」

  • 記事タイトル
    特集:ゲームバー 第二回目「TOKYO VIDEO GAMERS」
  • 公開日
    2020年09月18日
  • 記事番号
    3578
  • ライター
    外山雄一

ゲームバー特集の第二回は、2020年8月6日にプレオープン、同年8月21日にグランドオープンしたばかりの「TOKYO VIDEO GAMERS」(以下:TVG)を紹介する。

TVGの特徴は、何といっても店内を彩る大型モニタと、そこに流れるゲーム映像、店内BGM、販売されているゲームグッズ、ゲームメーカーとのコラボメニューの数々……それらがすべて権利元公認のオフィシャルな物だという点だ。

グランドオープン時に許諾を受けているメーカーは、アークシステムワークス、SNK、シティコネクション、ジー・モード、セガ、パオン・ディーピー、DotEmu SASとなっており、各メーカーの様々なタイトルのキャラクタービジュアル、ゲームミュージックが店内を彩っている。

フリープレイのゲーム筐体が複数稼働している他、各メーカーのコラボグッズ、店のオリジナルグッズも多数販売しており、他店とはあきらかに方向性が違う。
何故TVGがこういった店舗を作り上げることができたのかといえば、世のゲームバーの多くが個人経営に近いのに対して、TVGは別の業態を本業に持つ企業が運営しているからだ。
今回の取材では、主にTVG店長、金沢氏に御話を伺った。

TOKYO VIDEO GAMERSの運営会社「インドア」とは?

ゲーム・アニメのライセンスを受けたスリッポン「ANIPPON」というブランドをご存じだろうか? また、よく秋葉原を訪れる人は中央通りに店を構えていた「INDOR STORE」を目にしたこともあるかもしれない。
最近では「PCエンジンmini」発売記念イベントなどを開催していた、秋葉原駅中央口徒歩0分に位置するイベントスペース『THE AKIHABARA CONTAiNER』に足を運んだ人もいるだろう。これらはすべて「インドア」が販売・運営しているものだ。

各ゲームメーカーからのライセンスを受け、正式に公認グッズを企画・制作・販売する企業は複数あるが、インドアは他社とは違ったアプローチで様々な商品を世に出し、ゲームファンからも注目されている。
2018年の東京ゲームショウで、「メガドラの湯」「セガサターンの湯」「ドリキャスの湯」を含む「セガハード 温泉の素3種セット」が販売され、ゲームファンの間で大きな話題になったが、これもインドアの手がけた商品だ。
また、インドアではゲームだけではなく、アニメ版権のライセンス商品も数多く取り扱っている。

こうしたライセンス商品を多数手がけてきたことで得た、ゲームキャラクターの取り扱いかた、権利元との交渉ノウハウなどを下地としてゲームバー運営に乗り出したからこそ、TVGはこのような店づくりが実現できたのだろう。

各社からのライセンスを受けたオリジナルグラスは販売もしている

店内を彩る、映像と音楽、そしてゲーム!

店内に一歩踏み込むと、多数のゲーム映像が目に飛び込んでくる。フロアの中央に置かれた高低二種類あるテーブルには、それぞれ2面、合計4面の大型モニタが仕込まれている。
カウンター席から天井を見上げると、そこにも3面の大型モニタがある。さらにアップライト筐体を模した立ち飲みテーブル2台にも大型モニタが入っており、合計9台のモニタにより、常時ゲーム映像が流されている。
これらのテーブルはTVGのために作られた特注品だという。

特に注目してほしいのは、この立ち飲みテーブルだ。
ダミーのレバーとボタンが1セットだけ備え付けられている、一見ゲーム筐体にも見えるこの形状と大きさ、どこかで見覚えはないだろうか…?
実はこのテーブルはカプコンの『キャプテンコマンドー』の筐体を模して作られているのだ。
モデルとなった筐体は4人同時プレイを目的としていたため、コントロールパネルは半円に近い形だったが、こちらはあくまで立ち飲みテーブルなので、食器などを置きやすく長方形に近い形となっている。

一見するとゲーム筐体に見えるが、レバーとボタンはダミーの立ち飲みテーブル

店内に流れるBGMは、許諾を受けている各メーカーのゲームミュージックだ。
楽曲はメーカー毎にフォルダ分けされており、日毎にメーカーを変えながら再生される。
取材時にはセガのフォルダだったようで、始終『スペースハリアー』『ファンタジーゾーン』『カルテット』などが流れていた。

店内ではアーケード筐体としてブラストシティ×2台、ビュウリックス×2台、家庭用筐体のARCADE1UP×2台が稼働中で、飲食の利用、あるいはグッズを購入することでフリープレイとなっている。
取材時、アーケード筐体では『KOF’98』『トップハンター』が稼働していた。

片方のブラスト筐体をよく見ると「全日本テーブル筐体愛好会」(*01)と、その会長であるヒジヤン氏の名前が書かれているステッカーが貼ってある。
ここに書かれた会員番号は、実はインドア代表、佐川社長の物だ。
これは以前、インドアの事務所にて、TV番組『ゲームセンターCX』の撮影が行われた際、番組に出演していたヒジヤン会長に対して、佐川社長が入会を申し込んだ経緯があり、ここに貼られているとのことだ。

「全日本テーブル筐体愛好会」のステッカーが貼られたブラスト筐体

またARCADE1UPの『スペースインベーダー』では、筐体に記録されているハイスコアを更新することで、ドリンクが1杯無料となるサービスが行われている。
グランドオープン時のハイスコアは、筆者が2面までで出した6040点となっている。決して高いスコアではないため、早々に更新されるだろう。

ARCADE1UP版「スペースインベーダー」が入口で稼働中

なぜ「インドア」がゲームバーを運営するのか?

TVGは、ジェイアール東日本都市開発が手掛ける商業施設、「SEEKBASE AKI-OKA MANUFACTURE」の一角にある。この施設には、鉄道模型店、中古CD・レコード店、時計店など、様々な業態の店が営業中だ。

元々インドアでは、この施設の出店者募集の段階からインドアストアを移転させての出店を検討していた。
しかし、施設側の意向など様々な要因もあり、インドアが出店するためには「飲食業を営むこと」が必須の条件となった。

そこで出店を諦めるという選択肢もあったはずだが、インドアは何と未経験の飲食での出店を決意、しかもグッズメーカーとしての業態も一部に残しつつ、グッズ販売も行うゲームバーという形態をとった。
しかし出店を決めた後に、コロナ禍による緊急事態宣言が政府より発令される。
ここでも出店を見合わせるタイミング、および選択肢があったが、インドアは8月のオープンを決めた。

元々、インドアは代表の佐川氏の方針もあって、会社自体が「攻め」の方向で、他社がやらないところに踏み込んで行くことが多いという。
インドアが手掛けるアパレルブランド、ANIPPONは「アニメ・マンガ・ゲーム x シューズ(スリッポン)」というコンセプトで、シューズを扱っている。
コラボグッズにも色々あるが、キーホルダーやアクリルグッズ、Tシャツとは違い、シューズは何よりかさばるため扱うのに手間がかかる。
しかし、だからこそ競合他社がおらず、模倣もされにくいのだろう。

今回の出店も、秋葉原でゲームカフェ&バーを営みつつ、インドアの本業であるモノづくりを伸ばしていく、相乗効果が狙いだと思われる。

TVG店長・金沢氏によれば、インドアの方針としては「尖ったモノづくり」があり、代表佐川氏からも日頃「やるリスクより、やらないリスクを恐れるべき」「とりあえずやりなさい、やらないんだったら、やって失敗したほうがいい」といった言葉をかけられているとのことだ。

椅子も、店名とゲームキャラクターがデザインされたオリジナル

TOKYO VIDEO GAMERSのターゲット層

コロナ禍によりすっかり風景は変わってしまったが、以前の秋葉原は平日・休日問わず、外国人観光客で溢れていた。
秋葉原UDXの裏手、JRの高架沿いの通りにも、中央通りほどではないにしろ、外国人がよく歩いていた。
TVGが入居する商業施設「SEEKBASE AKI-OKA MANUFACTURE」自体も、店構えや入居業者のバリエーションからして、そうした観光客をターゲットにして企画されたと思われる。
TVGも当然ながら外国人観光客を視野に入れているが、それだけではない。
グランドオープン時のコラボドリンク、店内に流れる映像からもわかるように、まずは30代~40代のアーケードゲームファンを狙ってスタート。
金沢氏によれば、今後は色々な企画を試しながら、客層を広げて行きたいとのことだ。

コラボドリンク注文で、対応したブランドのコースターがもらえる

TVGの店内は、9台のモニタと6台のゲーム筐体に映し出される映像こそ鮮やかだが、それ以外の部分の装飾はシンプルだ。
ゲームグッズなどを数多く置くこともできたが、あえて映像に絞ることで他店との違いを出しているのだという。

現在も新たにライセンスを受けるべく、ゲームメーカーと交渉中とのことで、モニタの映像や稼働ゲームタイトルが変わることで、新たにTVGに興味を持つお客さんも出てくるだろう。そうすることで、今後幅広くゲームファンを取り込んでいける作りになっている。
TVGでは、アーケードゲームを介して、お客様同士がゲームの話題で盛り上がったり、店内で対戦を楽しんだりする出会いの場になれば……という狙いもあるようだ。
また、お客さんが少ないときは、店長金沢氏をはじめとするスタッフとの対戦ができるかもしれない。

高低2種ある特注テーブルには大型モニタが2台ずつ内蔵されている

これからの展開は……?

グランドオープンを迎えたTVGだが、まだ店内は完成形ではないという。
現在、レジカウンターでTVGオリジナルグッズや、コラボドリンクのグラスを販売しているが、さらにレジ近くに立ち飲みテーブルを兼ねた物販コーナーを設ける予定とのことだ。

立ち飲みテーブルを兼ねた物販コーナー、テラスのテーブル席が取材後に設置された(写真は公式Twitterより)

ゲーム筐体で稼働させるタイトルも、今後定期的に入れ替える予定もある。
さらに、もしプレイスペースが確保できるのであれば、ピンボールを置きたい……という希望も、金沢氏にはあるようだ。
現在ではピンボールがあるゲームセンター自体が少なく、ましてや酒場でピンボールを稼働させている店となるとさらに希少なので、ぜひ実現を期待したい。

人数によっては貸し切りもでき、その場合は店内のモニターやスピーカーにお客さんが持ち込んだ映像や音楽を流すことも検討可能とのこと。
まだ専用プランなどが用意されているわけではないが、秋葉原でオフ会や対戦会を企画する幹事さんは一度相談してみては如何だろうか。

カウンターバーから見上げると、大型モニタ3台の映像が目に入る

さらに題材がゲームであれば、お店全体を期間限定で1タイトル固定にした「ポップアップバー」としての営業にも対応可能だ。
新作、旧作、ジャンルは問わないとのことなので、興味があるゲームメーカー、プロデューサーの方はTVGに相談してみてほしい。

ゲームバー初心者向け? 気軽に立ち寄れるTOKYO VIDEO GAMERS!

「SEEKBASE AKI-OKA MANUFACTURE」内の「The Tools」と呼ばれる区画、その御徒町側の入口から入ったすぐの一角にTVGは位置している
施設内に入った後は、通路からよく見える開けた作りになっていることから、稼働中のゲーム筐体に惹かれて、ゲームコーナーかと勘違いしてフラッと入ってくるお客さんもいるかもしれない。
カフェ&バーという業態の店に入ったことがない人でも、ゲームに興味があればショッピングモールのフードコート感覚で入れるような、そんな敷居の低さがTVGにはある。

季節によっては屋外のオープンスペースで、筐体風立ち飲みテーブルを使っての外飲みを楽しめるようにする予定もあるとのことで、通行する人々からの注目度も上がりそうだ。

道路側から見た様子。キッチン側の窓は、屋外席からのオーダー用

日中のカフェタイムは、ランチメニューは500円~と良心的。夜のバータイムのチャージ料金も200円と安価で、気軽に立ち寄れる価格設定となっている。
※メニューは、こちらからご覧いただけます。
https://www.tokyovideogamers.com/menu

ゲームバーに入ったことがないという人でも、秋葉原に行ったときには、最初は物販を見るだけでも良いので、一度訪れてみるのはどうだろうか。
店内を彩るタイトルに馴染みがあるゲーム仲間と一緒に訪れれば、流れる映像やBGMを肴に、きっと楽しく盛り上がれることだろう。

【店舗情報】
住所:〒101-0022 東京都千代田区神田練塀町13-1 SEEKBASE 1-9
※秋葉原駅徒歩3分
電話番号:03-5577-5106
営業時間:11:00-23:00(L.O 22:30)
※東京都の自粛要請を受け、9/15まで22時閉店(L.O 21:30)

公式サイト https://www.tokyovideogamers.com/
公式Twitter https://twitter.com/TVG_INDOR

脚注

脚注
01 全日本テーブル筐体愛好会
個人でゲーム筐体を所有する人々の集まり。テーブル筐体等を使用したイベントの企画や機器貸出も行っている。活動の様子は、Twitterのハッシュタグ「#全日本テーブル筐体愛好会」から見ることができる。
https://twitter.com/hashtag/全日本テーブル筐体愛好会
https://twitter.com/hizuyaso

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