書評:日本の「ゲームセンター」史 娯楽施設としての変遷と社会的位置づけ

  • 記事タイトル
    書評:日本の「ゲームセンター」史 娯楽施設としての変遷と社会的位置づけ
  • 公開日
    2022年04月01日
  • 記事番号
    7305
  • ライター
    鴫原盛之

本書は、立命館大学ゲーム研究センターで客員研究員を務める、著者の博士論文『日本の「ゲームセンター」史――娯楽施設が社会に根付く過程を中心に――』をベースにした、世にも珍しい「ゲームセンター史」の学術研究書である。

著者は、今までに発表されたゲームセンターに関する先行研究はビデオゲーム史、またはプレイヤー目線による分析が中心であり、「店舗」としてのゲームセンター、つまりゲームセンターという場所、あるいはゲームセンターと社会との関係に関する研究が皆無であると指摘する。

そこで本書では、ゲームセンターの社会的、歴史的な位置付けを研究するにあたり、「問題意識と目的」として以下の2項目、

1:なぜ日本のゲームセンターが他国と比べて継続して維持できているのか
2:日本のゲームセンター店舗は、いかにして社会に根付いたのか

を「問い」に設定している。
  

日本のゲームセンター史を語るうえでは、「1」の答えを導き出すことが非常に重要である。
なぜなら、アーケードゲームの市場規模が現在に至るまで数十年にわたり、5000億円以上の数字で推移しているのは世界広しといえども日本だけだからであり、筆者も長らくその理由を知りたいと思っていた。

その解答を、著者はアメリカのゲームセンターにあたる施設「Game Arcade」の先行研究などを元に、日本では店舗ごとの客層に向けたゲームおよび店舗開発をしたり、地域との連携を生み出したりして社会的に維持できていた一方、アメリカではその土壌がなかったからと説明している。
ただ単にプレイヤー目線で見た、歴代のアーケードゲームの良し悪しだけで分析せず、他国との社会環境の比較分析によってひとつの結論を見出したのは、まさに目からウロコであった。

また、第1章で国内外のゲームセンターに関する先行研究をまとめて紹介している点だけを取っても、本書は大きな価値がある。
今まで誰もやらなかったであろう、先行研究の内容をあまねく網羅、整理してわかりやすく紹介し、さらにゲームセンターが誕生するまでの歴史も併せて解説しているので、ゲーム業界の関係者や研究者以外にも大いに参考になることだろう。
  

「2」の問いに対しては、風営法による規制を受けるようになった経緯を踏まえ、日本のゲームセンターは老若男女を問わず、さまざまな客層が対象となる施設となったことを示すとともに、子供向けのゲームーコーナーや駄菓子屋など、古くから存在した店舗形態の多様性が特に重要なポイントだったとの結論を導き出している。

その根拠は、著者自身が実施した、かつて麻雀ゲーム『ジャンピューター』などのテーブル筐体を設置していた喫茶店や、ビデオゲームのほかエレメカ、メダルゲームなどを稼働させていた駄菓子屋のフィールド調査だ。
本調査によって、それぞれの営業形態や客層、プレイ状況、地域との関わりを明らかにし、喫茶店でのゲーム稼働が衰退したのは、単なるビデオゲームのトレンドの変化だけでなく、主客層の労働環境、つまり社会環境の変化が一因であったことも突き止めている。

駄菓子屋では、店舗経営者と客との交流などがあることから、ゲームセンターが社会に根付く過程においてゲームセンターと同等の貢献があったことを見出したのも、本書の大きな成果である。
ただ欲を言えば、先行研究がまったくない、アーケードにおける定番ジャンルのひとつであるメダルゲームが、長らく幅広い年代、とりわけシルバー世代に支持される要因、およびその社会的な関わりも調査してほしかった。ここは今後の大きな研究課題であろう。

今も昔も、インカム(売上)の低迷したアーケードゲームはすぐに撤去、あるいは改造されて姿を消してしまう。しかも、筐体や基板は高価かつサイズが大きく、メンテナンスにも非常に手間がかかるため、法人・個人を問わず長期の保存をするのは極めて難しい。

また、ゲームセンターもゲームコーナーも機種の入れ替わりだけでなく、周辺地域の住環境の変化に起因する、客層の入れ替わりによってもトレンドが変化する。
したがって、その時々で実際に店舗に通っていなければ、たとえ個々のゲームの中身に精通していても、店にはどんな人が集まり、どんなゲームの遊び方をしているのか、あるいは店内でどう過ごしているのかが理解できなくなってしまう。
  

かように、ゲームセンターの研究を進めるには多くの難題があるので、たとえ「インベーダーブーム」の時代を知る世代であっても、歴史の変遷を綴るのはけっして容易なことではない。
著者は、おそらくそれを承知のうえで、しかも自身が生まれる前の時代まで遡りながら、実に10年にも及ぶ膨大な時間をかけて本書を見事にまとめ上げた。その偉業には、大いに敬意を表したい。

本書の刊行を機に、家庭用に比べて総じて少ない感があるアーケードゲーム、およびゲームセンターの社会的な位置付けの研究がますます進み、ひいてはゲームセンター文化の恒久的な発展に貢献することを願ってやまない。

書籍『日本の「ゲームセンター」史』概要

■書名 日本の「ゲームセンター」史
■著者 川﨑 寧生(かわさき・やすお)
■刊行日  2022年 3月5日
■ページ数 264ページ
■定価 本体 4,600 円+税
■発行所 福村出版株式会社
https://www.fukumura.co.jp/book/b602105.html

■内容
日本で普及した娯楽施設、ゲームセンターの歴史を店舗の形態により 4種に分類し、当時の文献、新聞・
業界誌の記事やフィールドワークをもとに各々の盛衰と現状を分析する。

■目次
序章
第1章 ゲームセンターに関する先行研究、および現在までに整理された日本ゲームセンター史の概観
第2章 日米ゲームセンター史の比較分析──場所・空間の定着過程に着目して
第3章 日本のゲームセンター史が持つ特殊性の分析──社会統制史の観点を中心に
第4章 ゲームセンターにおける店舗形態の特徴──先行研究における議論の整理を中心に
第5章 ゲームセンターが社会に根付く過程のケーススタディ1 大人向けゲームコーナー
第6章 ゲームセンターが社会に根付く過程のケーススタディ2 子供向けゲームコーナー
第7章 娯楽施設としてのゲームセンターの変遷──店舗形態に影響を与えた要素を中心に
終章

■著者紹介 ※初版刊行時のものです
川﨑寧生(かわさき・やすお)
1984年、奈良県奈良市生まれ。立命館大学ゲーム研究センター客員研究員。2020年10月、立命館大学大学院先端総合学術研究科先端総合学術専攻(表象領域)一貫制博士課程修了。博士(学術)。専門は歴史社会学、戦後日本史、社会統制史。ゲームセンターを中心とした娯楽施設について、それらの「場所」にいる人々と娯楽のありようや、施設に対する社会統制が与える社会的・歴史的影響に着目して研究を進めている。

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