『キャメルトライ』は、こうして作られた 海道賢仁氏インタビューPart2

  • 記事タイトル
    『キャメルトライ』は、こうして作られた 海道賢仁氏インタビューPart2
  • 公開日
    2022年07月08日
  • 記事番号
    7918
  • ライター
    福地健太郎

前回に続き、『キャメルトライ』がどのようにして作られたのか、ゲームデザイナーの海道賢仁氏にお聞きしていきます。
今回からは各ステージにこめられた工夫や意図についてです。
ぜひ、プレイしながらお読みください。
なお、使用しているマップ画像は、X68000版を使わせていただいております。

このインタビューは、明治大学 総合数理学部 教授の福地健太郎先生のご発案、IGCCの協力で行われたものです。
メインのインタビュアーは、福地先生にお願いいたしました。

『キャメルトライ』は、こうして作られた 海道賢仁氏インタビューPart1は、こちら

【聞き手】
福地健太郎(明治大学 総合数理学部 教授)
大堀康祐(ゲーム文化保存研究所 所長)
奥野博之(ゲーム文化保存研究所)

トレーニング-1「Turn and Try」~許容される道幅

―― では各ステージのデザインについてくわしくうかがっていきます。トレーニングの1面から見てみましょうか。

海道 まず基本の決め事として、ボールは1小ブロックサイズなんです。ただ、1小ブロックの細さの通路は、プログラム的にも理屈的にも一応通っては行けるけど、狭過ぎる。で、その2倍の広さの通路でも、プレイヤーにとってはまだ狭いんです。こんな細いところ、通らせる気ねーだろって、プレーヤーがヘイトするぐらい。そのさらに2倍(自機の4倍分)になると、まあ進めるな、という感じになります。で、このステージはそれよりもさらに広い、自機の6倍サイズ。これは、かなり安心できる広さになってる。
 実はこの法則は『キャメルトライ』だけじゃなくて、他の2Dゲームでも3Dゲームでも大体一緒なんです。例えば3Dアクション、僕がやった『サルゲッチュ』だと、自分のキャラの太さ、幅1ブロックの橋って。

―― 緊張しますよね。

海道 それはもう、細過ぎて、プレーヤーは通る気になれない。通れるのかこれって思っちゃう。これがキャラの2倍だと、うわ細っせえ、危ねーとは思うんだけど、何とか頑張ったらいけるかも、っていう難しいコースになる。そのさらに倍だと、まあまあ気楽に突っ込める。それ以上の広さは、もう全然怖くも何ともない、走り回れるところ。この基準は、3Dでも一緒だなって思ってて、レベルデザイナーになる人たちは、まずこれを基本として覚えといてほしいです。
 『キャメルトライ』のこのステージは、安心できる太い道幅にしてあって、どこに行けばいいかがわかりやすくなるように、矢印はすごく多めに出してます。この面は、とにかく回してゴールに行くんだよ、と。余計な寄り道もできない、シンプルコースになってます。

―― ゴールをチェッカーフラッグのようなグラフィックにしたのはなぜなんですか。

海道 これはレースゲームを意識して、ゴールしたぞという気分になってもらうためです。

トレーニング-2「Jungle Club」

―― 次がトレーニングの2面です。

海道 さっきのステージは全部四角で90度のコーナーしかないんだけど、この面は他の形もあることを紹介するステージなんです。進んでいくうちに材質の違う木のブロックや45度のコーナーもありますよ、と。ちょっと狭いところもあったり。

―― 4キャラ分になってますね。

海道 はい。ちょっとずつ複雑になっていく仕掛けを覚えてくださいっていう面ですね。危ないところはないので、矢印どおりに進んでいけば、自然とゴールするけど。最後のところだけ心持ち難しめにはなってます。

トレーニング-3「Angel Steps」

―― 3面からはマイナスブロック(*01)が登場します。

海道 このステージが始まる前に、チュートリアル画面でマイナスブロックについて説明してるので、まず当たってもらって体験してくださいっていう意図です。でもタイムは潤沢にあるので、多少当たってもどうということはない。だからもう、当たってくれ、頼む、というぐらいの感じで置いてあります。そのあとはところどころ出てきてビビらせる。たくさんあるようで、当たったり当たらなかったりっていうのがいい感じで起きるようにしてある面です。
 最後のゴールのところは、行き過ぎるとちょっとリカバーしづらくなるような形にしてます。こうやって見ると別にどうっていうことはないんですけど、実際やってて行き過ぎちゃうと、もうどうしていいかわからないぐらい。

―― マイナスブロックの位置は遊びながら調節したんですか。

海道 そうです。遊んだときの感覚で、ちょっと厳し過ぎるなとかいうところは少し削ったりして。

―― その場合、調節のために他のプレーヤーのかたに遊んでいただいたりするんですか。

海道 はい。ただ『キャメルトライ』のときは基本的に自分の感覚だけでやってて、後日、何か言われたときには再考して直すこともあったんですけど、他の人にテストプレイさせるのは、あまりしなかったですね。

―― 思ったより簡単過ぎたとか難しかったっていうときも、調節をするんですか。それとも後のほうのステージに使うとか?

海道 そうですね、手順として、まずは出せるネタを投入してステージをたくさん作ります。その後で、どのステージをどのコースの何面目で出すのかを決めていきました。もっとも各コースの1面目ぐらいは、1面にするつもりで作ってはいるんですけど。
 当時のやりかたは、カラープリンターが使えなかったので、インスタントカメラで全体図を1枚1枚撮って、できた写真をテーブルに並べて物理的に入れ替えて順序を決めるというものでした。結構アナログですね。

簡単なステージのほうが難しい

海道 ステージは全部自分で作って何回もプレイしてるんで、どのぐらい難しいかは把握してるんです。で、難しい面と簡単な面、ちょっとネタとして楽しんで欲しい面なんかを、各コースのこの辺だな、って。難しいやつは、上級コースに回していくんで、あんまりテストプレイで調整する必要はなかった。経験上、すごく簡単に作ったつもりでもユーザーには結構難しかったりするっていうの、もとからわかってたんで。 レベルデザインは、簡単に作るのが実は難しいんです。難しく作るのははっきり言って誰でもできるんですよ。『キャメルトライ』ではなるべく簡単に、極端に簡単に作ることを心掛けてやってたんで、それなりのバランスにはなってるかなっていうのが見えてた。それで足りない分は、タイム側の調整とかで解決してました。

―― よくレベルデザインをやられるかたで、うちのおかんができるくらい簡単にするみたいな話を聞いたりするんですけれど、レベルデザインをする上で具体的にターゲットみたいなのはあったんですか。

海道 『テトリス』みたいに一般のサラリーマンの人とか女性のお客さんとかにもやってもらいたかったんで、『テトリス』ぐらい売れるゲームになるつもりで、そのぐらい客層の幅を持たせようと思ったので、ゲーム初めてやるような人たちからゲームマニアまで全対応しようと思って作ってました。
 そのために僕がやっているのは、下手な人のプレーをエミュレーションするいろんなテクニックがあって、パドルを逆の手で回してみようかとか、目をつぶってやって、何秒かに1回ぐらいのタイミングで画面だけ見て、状況判断の遅い人のエミュレーションとか、パドルを足で回してみるとか。『サルゲッチュ』のときは、 デュアルショックを下に置いて、足でプレイするっていう。そうすると、操作のおぼつかない人の動きがある程度エミュレーションできる。人間エミュレーター(笑)。
 僕自身も、ゲームそこそこはうまいですけど、あんまりうまくはないんで、標準的プレーヤーなんです。キログラム原器みたいな「プレイヤー原器」があるとすれば僕だ、ぐらいの子なんです、プレイヤーとしては。なので、上手いほうはできなくても、下手な人の気持ちにはなれるし、そういう人のプレイをどうやったら再現できるかっていうのをすごいやってるんで。
 ほんとはその「おかんテスト」とかモニターテストとかがいいんですけれども、それをしなくてもなんとかなりましたっていう。

―― 今だと、テストプレイは自分たちでプレーヤーを呼んでくるか業者さん雇うかしていますが、当時のタイトーのやりかたはどのようなものだったんでしょうか。

海道 テストプレイヤーとか全然なくて、デバッグも、作った人たちがやってるぐらい。たまに手の空いてる人に手伝ってもらうぐらいの。

ロケテスト

―― ロケテストは重視するような社風だったんですか。

海道 ロケテストは、やります。それ見て改善はするんですけど、やっぱりインカムを見ることが、ほぼメイン。三辻(みつじ)さん(*02)とかはロケ先に立ってすごい実地調査して、ゲームの手直しに役立ててましたけど。僕も割と頑張るほうなんですけれども、そこでほんとにおっきい穴とかがあったら改善するけど、ロケテストって大体1回か2回なんで、そこで何かを大きく改善して急におもしろくなりましたみたいな、そういうことはあんまりなかったです。
 やっぱりロケテストで調整するところっていうのは、平均プレー時間のコントロールが主眼。

―― アーケードは3分とかいいますよね。

海道 そうそう。よりインカムを上げるためにはどうすればいいかっていう。稼働率は高いのにインカムが上がらないときはプレイ時間が長いっていうことなんで、それ潰さなきゃいけないし、稼働率が低くてインカムが伸びてないんだったら、稼働率をもうちょっと上げるようにした方がいいんじゃない? とか、そういうことはありました。

―― 何面で終わらせよう、みたいな感じになってたんですか。

海道 そこはあんまり考えてなくて。そもそもレースゲームにしたのが良かったので、うまい人は勝手に早く終わってくれる。あと、タイマーがあるんで、そこでプレイ時間の限界が保証されてる状態なんで。ただ、綿密な計算はなくて、タイマーあるし大丈夫だろう、と。なので結構太っ腹にボーナスタイムも与えてます。残り5秒でゴールして、次のステージで、35秒加算されてもスタート40秒じゃ、プレイヤーはちょっとやる気出なくなるよ、だって、もう終わり見えてるじゃんってなったらかわいそうなので、そういう場合にはボーナスとして、ランダムで何度かタイマーを与えてあげるとかって。そうすると一応、ケアされてるっていう気になるんで、ちょっと、じゃあ行けるとこまで頑張ってみるか、みたいな。で、結局その面で、最後ぎりぎりゴール見えてるのに、そこで時間切れとかになるとチクショウってなるし、そうなっても、まだナンバーマッチがあって、10分の1の確率で生き延びられる、っていうとこまでやってるので、プレイヤーさん的には多分、そんな悪い気持ちにもならないっていう、そういう全体の大枠の計算があるので、個々の面の難易度的には、あんまり綿密にやらないでも済むっていう計算でやってます。
 それよりもやっぱりこの、回しておもしろいかどうかっていう、そっち重視で、気持ち良くなったり、「してやられた」みたいな、「それはずるい」みたいなそういう感情はね、もう。逆にうまく抜けたときには、「スルッてうまくいったー!」って、結構気持ち良くなったりとか。そういう心の動き重視のレベルデザインをやってます。
 そういえばロケテストのときに、サラリーマンの人がお金入れてプレイしてくれたんですよ。でも、始めても全然動かなくて、それからしばらくしてゲームを進め始めたんですけど、僕ちょうどそれロケ調査で見てて、「すいません、お客さん、最初何で動かなかったんですか」って聞いたら、「いや、敵が出てくるのを待っててさ」って、そういうこともあるんだっていう。ああそういう考えかたもあるんだねって、すごく勉強になったりとかします。

スペシャル-6「Saw Saw Panic」

―― では、その実例として、スペシャルコースの6面を見てみましょう。

海道 「Saw Saw Panic」ですね。

―― ノコギリのところに折り返しがあって、これはほんとに開発者を呪いながらやってた記憶があるんですけども。行きと帰りで、難易度が全然違う感じなんですよね。

海道 そうです、そうです。

―― 行きはスピーディーですもんね。

海道 行きはまだ、引っ掛かるんですけど、ぼぼっと行けるんですけど、帰りは、すげー、やめろー、っていう。ただ、ここをうまくできるようになると、上達したなっていう気分になるんですね。だからここはもう、このノコギリのところをやりたかった。折り返させると同じとこに着いちゃうんで、じゃあもう、スタート地点とゴール地点を近づけようと。
 まあちょっとね、壁抜けバグのおかげで、スタート地点から直接ゴールへねじ込むという大技もあって、そこは失敗かなと思ったんですけど、まあでも伝説としてはおもしろいですよね、今となっては。
 ここは他の面と比べてみてですけど、このノコギリのところで、だいぶ時間がつぶされるので、逆に他のいやらしいタイマーダウンとかも1個しかないですし、あと、ステージ全体の規模も、他のステージの半分ぐらいになってるっていう、そういうステージです。これは別にスペシャルコース用に考えたっていうわけじゃなくて、ネタとしてこういうのもできるねっていって、作ったのが結構難しかったので。

―― ノコギリがやりたくてノコギリを作って、やってみたらすごく難しかったんで、スペシャルコースにしたと。

海道 そうですそうです。元々これは難しくなるとは思ってたんですけど、自分でもやっててイライラしたぐらいですから。

スペシャル-5「Whirlwind Break」

―― じゃあ、慣れると楽しくなるっていう意味で、その1個前の面も見てましょうか。スペシャルの5面「Whirlwind Break」です。

海道 これは、いろいろ試行錯誤してるうちに、くるっと回してブロック壊して進んでいくっていう仕掛けができるね、ってなって。試しに作ってみたらうまくいって。右に回して左に回してっていう手順がうまくできるようになるとすごいスピードで進んでいけるのが楽しい面です。上達感がめちゃ出るんです。
 あと、この面は前半から中盤にかけて、結構詰まりながら進むことも多くて、それで終わっちゃうとストレスがたまるだけだなと思うので、最後はばーっとキモチイイ直線通路を。このパターンが多いんですけどね(笑)。ただこの面のテーマはやっぱり回ることなんで、最後ぐるんと回されてバンパーに当たってゴールに弾き飛ばされるという引っ掛けはあります。

―― ゴールのゾーン、めちゃ広いですよね。

海道 これは、他のところはちっちゃいところが多いんで、ここは何となくフィーリングというか、バランスでこうしました。
 僕、(ここへ)来る前に一応ステージ全部見直してみたんですけど、全部の面で同じぐらい語れますよ。それぐらい思い入れがやっぱあるんです、やっぱ作ってて。

―― 『キャメルトライ』の本ができちゃいますね。ではステージをどんどん見ていきましょう。

ビギナー-1「Morning Forest」

海道 これは1面用に簡単に作ったんだけど、トレーニングほど簡単じゃないよっていう。プレイヤーさんはトレーニングコースをやってるかもしんないけどやってないかもしれないので、そこも配慮して。基本的には安全に行けるんだけど、1種類ずつ基礎的な役物から紹介するっていう、ストーリーというか流れを意識して作ってます。
 最後のところ、ゴールの手前(①)はちょっとパチンコみたいな感じで。サイコロの5になってるところ(②)のピンと、ゴールの前のピン、このピンを全部かわして入れるようになると、すごい気持ち良くプレーできるので、1面なんだけども、上級者でも、さらに向上できる余地みたいなものを残してやって。でも初心者にとっては、別に、このピンに多少当たっても、まったく脅威でも何でもないっていう。

―― 木のところから石のところにもう一回、再度戻るときに、真ん中にポンと1個ピンがあって(③)、いやらしかったです、やってて。

海道 そうです、そうです、こういうのが、他の面にも随所にあって、このいやらしいところに、なぜここにあるんだって。

―― 何で当たるんだろうっていうの多いですよね。道の真ん中にあっても当たっちゃう。

海道 そう、そう、そう、なぜか当たりますよね。そういうようにピンを打ちましたっていう。自分でテストプレイを繰り返しやってるときでも、やっぱり当たるんです。でも、慣れれば当たらなくなる。

ビギナー-2「Aqua Palace」

―― では、次、『キャメルトライ』面ですけど、私、やってるときに、キャメルトライという文字があることを知らなかったんです。

海道 これは気付かないように、ちょっとお遊びで入れてる感じです。ここも最初、まず上に向かうっていう、要するに回さなきゃいけないんですけど。結構、これ、割と難しい狭いところが多くて、この狭さっていうだけで難しいですっていうアピールになってます。
 あと、分岐があるんだけど、どっち進んでも最終的にはOKよっていう。でその後にね、ちょっとストレスためたんで、最後はズバっと滑っていけるようには作ってあるんですけれども。

―― ピンが。

海道 ピンをちょっとよけないと。だからこれ、慣れると斜めの床を転がしながらピンのとこだけぴゅっぴゅっとジャンプしていくと、最後くるっと回って、ゴールに飛び込めるっていう。これも、上級者の人だけは、最後はここを気持ち良く行けるっていう、そういう面です。

ビギナー-3「High Speed Circuit」

海道 これはさっきも言ったとおり、ここまでちょっとストレスがたまってるのを、気持ち良く抜けてもらうための。

―― 壊し面。

海道 壊し面です。ここの下のほうに4つ壊せるブロックがあって(①)、これを壊すとすごいショートカットできるように見えるんですけれども、どっちかっていうと、これは罠です。もしかしたら行けるかもしれないぐらいの、ぎりぎりのやつです。
 ここはもう、ストレス解消面っていうテーマで、遠心力で地面に押し付けるようにして強引に回していくとすごい気持ちいいです。

―― これはやっぱり、前のステージとのバランスで、ここに持ってきたっていう感じですか。

海道 そうです、それはもちろんあります。

―― ユーザーの緩急を付ける意識から?

海道 そうです。

―― 『テトリス』で、途中でレベルががくんって下がるじゃないですか。ああいう要素を入れようと思って?

海道 そうです、そうです。やっぱ上がった後はちょっと下がって、また上がってっていう、そういう緩急はすごい意識して配置してあります。だから、こういう簡単な面も必要だねっていうことで作ってあるので。でもこれを1面にしちゃうと、またちょっと違うんですよね。

ビギナー-4「Menthol Moon」

海道 これはちょっと、今思えばちょっと出来が悪い。

―― どこが海道さん的には納得いってないところですか。

海道 今見たら、もうちょっとやりようあったかなっていう。悪くはないんですけど。でも結構、いい面だな、やっぱり(笑)。少しちょっと意地悪かなっていう。
 最後ゴールするときに、上からそのままパーンと落ちちゃうと行き止まりになってるんだけども、画面ではゴールが下に見えてて、わっやられたって。で、焦って迂回しようとするとバンパーに当たってっていう、そういうトラップを。
 これも、前の面がちょっと簡単だったから、まだ許されてる感じなのかなって。最後、ゴールのとこはトラップなんだけど、スペース的には結構余裕があるので、落ち着けば、どうということはないっていう。これは初見殺しという面です。次いきましょうか。

ビギナー-5「Space Walker」

海道 これは、このコース取りだけで引っ掛けを。

―― 引っ掛かりが多いですよね、ここ。

海道 こっちかと思えば実は内側、っていう。この上のところ(①)が2重に引っ掛けになっていたりとか、ちょっと工夫が入っています。
 あと、右端の真ん中のところ(②)は、行き止まりのところに行くとボーナスブロックがあって、壊せばボーナスがワンチャンある。でもノーボーナスっていうときもあるから、安定したプレイをしたいときには、そこはやらなくていい。
 そうやって、いやらしいところを抜けていくと、急に大空間に放り込まれる。壁がないから、回ってるとぐるぐる回り始めて、見えてるゴールになかなかたどり着けない。しかも1回たどり着いても、ブロックに阻まれてて壊さないといけなくて。壊したところにうまくまた入れればいいんですけど、あるいは壊すと同時にそのまま下に沈めばいいんですけど、斜めに当たって変に跳ね返されるのを繰り返しちゃうと、ブロックが歯抜けにはなってスキマはできるんだけど、なかなかゴールできない。そういう、抑圧と解放とまた抑圧、みたいなことを考えて作った面です。広いところも割と難しいっていう面です。ただ広いだけだと全然おもしろくないので、壊れるブロックとガイドはしつこく置いて、ちゃんとプレイヤーに対してはフェアに。プレイヤー的には、何をやればいいかはわかる。だけど、操作的にどうすればいいかわからないっていう。「トリック・トラック・スペース」だったかな、このステージそんな名前だったと思うんですけど、一応、宇宙遊泳を楽しんでください的な。

―― 「Space Walker」ですね。

海道 「Space Walker」です。すいません、そのままです。

ビギナー-6「Trick Trap Track」

―― 次はその、「Trick Trap Track」ですね。

海道 こっちもコンセプト的には似た感じで、コース引っ掛け系ですね。似たような構成が2つ続くのは、多分意図はなくて、たまたまな感じだったと思うんですけど、難易度的にはちょうどいい具合のところで。ただ、この面は引き回しが長いんですね。だから油断するとちょっとタイム削っちゃうよっていう面です。次いってみましょうか。

エキスパート-1「Beginners Quest」

―― すごくシンプルに見えますけども。

海道 エキスパートの1面ですね。ここもコンセプトとしては一緒で、基本の役物とか、基本のコース構成を覚えてくださいっていう面です。ピンのところとマイナスブロックのところは、なぜか引っ掛かる。こうやってみると、すごい簡単そうに見えるんですけど。

―― あそこ入れるの嫌ですね、最後のほう。さっさっさっと来たのに、どんどん狭くなりますんで。

海道 そうそう。最後のところがちょっと、テクニカルになっていく感じです。これもシンプルだけど、見た目以上に難しいね、ということで、エキスパートの1面に持ってきてあります。じゃあ、次いきましょうか。

エキスパート-2「December Cellar」

海道 ここも結構いやらしいとこですね。エキスパートの2面で、スタート地点を、意匠としてちょっと印象が残るようにしてます。というのは、あんまり似たような面が続くなとは思われないように、スタート地点の特徴付けっていうのはすごくいろいろ考えてて、それでこういう形になってます。ブロック壊して、あとはささっと進めるんですけども、見た目的には大ブロック1つ幅なんで、わりと狭めな印象になってて。あと、このマイナスブロックによう当たるんですよ、これが。

―― 多いですよね、マイナスブロックが。

海道 この面はすごい多いので、結構思った以上に体力(残りタイムのこと)を。

―― 引っ込んでるとこと出っ張ってるとこにあるんで。

海道 そうです、そうです。これちょっとやり過ぎかなと思うけど、まあエキスパートだからいいか、ぐらい。左下部分の袋小路はトラップですね。気持ち良く真っすぐ行くとぽーんと行き止まりに放り込まれるっていうところは、もう完全、初見殺しの覚えゲーになってて、しかも、ピンが3本並んでるとこ(①)なんて、そこをよけようとして、なおさら間違った方向に。そこをこう、回り込むようにコース取りするのが必要です。

―― ステージ名は「December Cellar」ってなってるんですけれども、これの意味は覚えてらっしゃいますか。
海道 これは何となく感覚です。多分、全部木で出来てるからとか、そんな。

―― 割と適当に付けてる部分が多い?

海道 そうですね。何かあったかもしれないですけど、忘れました。

エキスパート-3「Down to Heaven」

―― 次は「Down to Heaven」。

海道 ここもすごい。

―― マイナスブロックが目立ちますね 。

海道 これはもう超意地悪で、すいません、やり過ぎました。ただ、スタートから狭いところなんで。ここはすごい慎重に行ったほうがいいです。そして、忘れた頃に、奥へ奥へと外れコースに追いやられてしまうので。ちょうど中間部のセクションが、もうすっげーいやらしくて、ルートをしっかり覚えて行かないと安全にはクリアできない。ここをノーミスでいくことはほとんどあきらめたほうがいいぐらい。ちょっとやり過ぎました。
 ただ、全体としては、前半から中盤まで難しかったんで、後半は気持ち良くすぱっと行けるようにして、ストレスを与えた後は解放してあげて。ただ、やっぱりあそこのゴー・ストップ・ランプのところで(①)、ストップのタイミングでいくと、ボーンと跳ねられて、ウッてなるんですけど、ただ、それはそれで落ち着いてその先のコースを見て調整できるので、最後はもう、真っすぐただ下りるだけ下りてください、でも最後のピンに「落ち」というか、気持ち良く来たときにあのピンに絶対当たるようにね。ま、よけられるんですけど、気持ち良くうぉーってなった最後に、そうはいかないぞって感じで作られています。

―― プレイヤーの感情に起伏を付けてやろうっていうような。

海道 もう、まさに。

―― 1面、2面、3面っていう展開の中での起伏でもそうですし、1つの面の中でも、気持ちいいとことそうでないところがある。これは、最初からそういう起伏を付けようと狙って設計されるものなんですか。

海道 はい。例えばスタートからゴールまでが4コマ漫画だとすると、起承転結的なものがないと。平板だと何の印象もないし、全然おもしろくもないですよね。これ、レースゲームだって言いましたけど、実際のサーキットコースなんかも、ストレートがあってヘアピンがあって、後にちょうど嫌な感じの複合カーブがあって、みたいな構成になってるので、そういうところは見習ってやらなきゃなっていうのは、すごく意識してました。
 ただ、テーマによっては、そういうふうにできないところもあったりはするので、全部が全部じゃないんですけれども。このステージはもう平板でいいやってやるところもあるし、この面みたいに、ちょっと意地悪し過ぎたなっていうときは、最後は、じゃあ気持ち良く抜けさせましょうと。

レースゲームの経験

―― 海道さんって、レースゲームとかお好きなんですか。

海道 レースゲームは、結構やります。『F-ZERO』とか『グランツーリスモ』とか狂ったように。

―― では、レースゲームの影響というのも結構あるんですか。

海道 そうっすね。

―― 例えば、コースによって気持ちいいコースもあれば、そうじゃないとこもあったりとか、いろいろあるじゃないですか。

海道 はい。ただ、レースゲームというよりは、実際のサーキットの造りから学んでることのほうが多いですね。レースゲームでこういう感情の起伏とか、スタートからゴールまでの、コースだけのストーリーっていうのは、あんまりないじゃないですか。どっちかっていうとライバルカーとの駆け引きみたいな方にいっちゃうので。
 ただ、僕が(レースゲームの)タイムアタックとかで回ってるときには自分の気分的な、ここ抜けたら最終コーナーさえ安全に抜ければあとはもう真っすぐだ、とか、ここまで来たらもうあとは安心だ、とかそういう心の動きは、自分ですごく思ってたので、そういうのを応用する感じでやってます。

今回は、ここまで。
次回も、どうぞお楽しみに。

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脚注

脚注
01 ステージ画像中の✕印ブロックがマイナスブロック。ボールが触れるとペナルティとしてタイマーがマイナスされる。
02 三辻富貴朗氏。『バブルボブル』『レインボーアイランド』『サイバリオン』などのゲームデザイナー。

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