D4エンタープライズ15周年記念インタビュー 「プロジェクトEGGとゲーム保存について」前編
プロジェクトEGGを国会図書館のように使ってもらいたい
――鈴木さんがレトロゲームに注目し、保存していきたいと考えた理由をお聞かせください。
鈴木 実は私は、小学校5年生のころからPC-8001(*01)ユーザーでして、ゲームのプログラムを打ち込んだり改造したりして、ゲームを楽しんで育った世代なんですね。私自身がゲームファンであり、コレクターであり、当時買ったゲームを今でもそのまま持っているんですよ。
大堀 机の上に置かれている『FAN FUN』(PC/1983年/エニックス)とか、先ほどからずっと気になっていました(笑)。鈴木さんの私物なんですね。
鈴木 はい。後から中古で買ったわけではなくて、当時私が親におねだりして買ったものなんです。
――小学5年生からということは、PCをいじられたのは早かったんですね。
鈴木 私には2歳上の兄がいまして、兄の中学進学祝いでPC-8001が家に来たんですけど、兄はすぐにコンピューターに興味がなくなり、私がそれを奪い取っていじっていた形です(笑)。兄の入学祝いがなければ、ここまでのめり込むことはなかったかもしれない。
――今のお仕事に就かれるターニングポイントだったかもしれないということですね。
鈴木 はい。そういった私自身の背景もありまして、私はゲームメーカーに入社してからも、過去のコンテンツを保存していくためにどういうことができるかと考えるようになりました。また、プロジェクトEGG立ち上げ当初から言っているんですが、やはりレトロゲームは日本の文化の一つであると。最終的には、(当コンテンツを)国会図書館のように使ってもらいたいですね。
弊社は、あまりゲームをアレンジして復刻することはしていません。あえてそのまま保管して、いつでも遊べるような状態にしているので、国会図書館に昔の書物を読みに来るように、プロジェクトEGGで(かつての)ゲームを遊んでもらえたらいいなと思っています。過去を学ぶための教材としてもいいですし、今後のコンテンツ開発に活用していただいてもいいですし、次の世代に残せるプロジェクトにしていきたいです。
大堀 素晴らしい活動ですよね。ちなみにこの『プッシュマン』(PC/1984年/エニックス)のパッケージに書いてある「108650」という数字は、ご自身の最高得点か何かでしょうか?(笑)
鈴木 かもしれないですね(爆笑)。なんの数字か覚えていないんですが、それ、まさしく私の字なんですよ。なんで書いちゃったんだろうという感じですねえ。
――でもこの落書きが、中古屋で買った品ではなく、鈴木さんの当時からの私物であるという証ですよね。
鈴木 そうですね。中古屋さんといえば、私、秋葉原のレトロPCショップのBEEPさんでいつか購入したいモノが1つありまして。木屋善夫さん(*02)が日本ファルコムで最初に作った『ギャラクティック・ウォーズ1』(PC/1982年)なんですけど、以前に見に行ったら40万円以上(2019年5月現在48万6000円)していましたね。ちょっと手が出ないですね(笑)。
――40万の値がついているPCゲームとは驚きですね。鈴木さんは、ファルコムファンだったのでしょうか?
鈴木 はい。私、生まれは墨田区なんですけど、幼稚園年長のときに立川に引っ越しまして、それからずっと立川市民でして。PC-8001をいじっていた子供時代、立川でPCゲームを買える場所が4カ所あって、その中の1店舗が日本ファルコムさんでした。今の加藤会長が社長さんで、店の展示品を触ろうとして注意されたことがありました(笑)。
1000タイトルの配信作品の選定基準は……?
――現在プロジェクトEGGでは、メーカー11社、ゲーム作品1000タイトル以上を配信されているということですが、配信作品選定の基準をお聞かせください。
鈴木 基本的には、まず協力していただけるチャンスがあったメーカーさん(のタイトル)を優先して配信しているというところですね。コンテンツを譲渡していただかなくてもいいスタンスで当プロジェクトを立ち上げ、運営もしていたんですけど、その中で相手様の状況が変わるということも多々ありました。経営を断念したりとか、売却したいとか……。弊社のほうからは「譲渡してください」とお願いするスタンスは取っていないのですが、相手様からそういう話があって……というケースはあります。1社1社状況は違えど、現在11社分のコンテンツを弊社で配信させていただいているという形ですね。
――鈴木さんやD4スタッフの方々の「このゲームをもう1回やりたい!」という思いがこもっている作品を復刻させる、というパターンもあるのでしょうか?
鈴木 もちろんそれはあります。私は昔からずっと『レリクス』(PC/1986年/ボーステック)が好きでして、いの一番に無料で配信したりとか、そういうことはやっています(笑)。あと、ユーザーさんから随時アンケートを受け付けていまして、そういった意見が反映されることもありますね。
――プロジェクトEGGでは、無料で配信されているゲームもあるのですね。
鈴木 基本、メーカーさんから許諾をいただいたタイトルは無料にはしていません。弊社の保有しているゲームの著作物を、プロジェクトEGGに入会してくださったユーザーさんにまず無料で遊んでいただくことで、入会のハードルを下げているといったところですね。
――現在、140~150ものタイトルが無料で遊べると聞き、驚きました。
鈴木 プロジェクトEGGは、会費をお支払いいただいた上で作品を買ってもらうシステムなので、なかなか今のユーザーさんに理解してもらえない部分もあるんですけど、入会されたユーザーさんには、まず140~150タイトルを無料で遊んでいただくようにしています。
――プロジェクトEGGのシステムは、月額500円(税抜)の会費のほか、ゲームコンテンツの購入ごとに課金が発生するという形ですね。
鈴木 ユーザーさんの中には、「1本2000円でもいいから、入会しなくても欲しいゲームだけ買わせてください」と言う方もいるんですけど、ちょっとお手間でも、500円で入会して500円のコンテンツで遊んでいただければ、それでも1000円ですよね。で、すぐに退会してもそのソフトは遊べますから。こちらとしては買い取ってもらったという形なので。
大堀 昔はエミュレーターを使ってゲームを遊ぶ人は、「仕方ないじゃん。これしかないんだから」なんて言っていて、そこから先のアクションがなかった。ただ自分が遊びたいからという発想だけに留まっていたんですよね。けれど、その行動があなたの好きなゲーム会社さんを困らせているんだよ、と。
でも、そんな中でD4さんが、グレーだった部分を明確にして合法的にシステムを作ってくださったのがうれしいですよね。きちんと交通整理をしていただけるのがホントありがたいです。
鈴木 うれしいお言葉です。
次回予告
次回は、過去のコンテンツ契約にこぎつけるまでの苦労や、新しく販売するハードについてもお話をご紹介しますので、お楽しみに。
鈴木 直人 氏
株式会社D4エンタープライズ代表取締役。かつてはプログラマーとして、スーパーファミコン、ネオジオ、プレイステーション等、自らゲームの制作にも腕を振るった。2004年にD4エンタープライズを立ち上げ、代表取締役に就任。「プロジェクトEGG」を束ねる無類のレトロゲーム好き。
脚注