「ゲームニクス」で考えるゲームの魅力 第三回 逆転の発想

  • 記事タイトル
    「ゲームニクス」で考えるゲームの魅力 第三回 逆転の発想
  • 公開日
    2020年03月27日
  • 記事番号
    2814
  • ライター
    鴫原盛之

当コラムでは、「ゲームニクス理論」をもとに、なぜゲームがおもしろくなるのか、そうしてプレイヤーはゲームに夢中になってしまうのかを、おもしろおかしくご紹介していきます。

第3回目のテーマは、今にもミスになりそうなピンチの場面を瞬時に脱出できることによって、プレイヤーがこの上ない快感を得られる、「逆転のアイデア」を取り入れた例をご紹介していきましょう。

「ゲームニクス」とは?
現亜細亜大学教授のサイトウ・アキヒロ先生提唱による、プレイヤーが思わずゲームに夢中になる仕組みを理論・体型化したもの。
本稿では、「ゲームニクス理論」を参考に、ありとあらゆるゲームのオモシロネタをご紹介していきます。「理論」というおカタイ言葉とは正反対に、中身はとってもユルユルですので、仕事や勉強の休憩時間や車内での暇つぶしなど、ちょっとした息抜きにぜひご一読を!

『パックマン』に端を発する、立場が一瞬にして逆転するおもしろさ

今も昔もアクションゲームでは、プレイヤーが操作する主人公キャラを敵キャラが追い掛けてきたり、あるいは武器を使って攻撃を仕掛けてきて、捕まったり当たったりするとミスとなるルールがよく用いられます。

その代表例と言えば、やはり往年の名作『パックマン』(ナムコ/1980年)になるでしょう。
もはやくわしい説明は不要かもしれませんが、本作は主人公のパックマンがパワークッキー(※筆者注:昔はパワーエサと呼んでいましたが、現在はこう呼びます)を食べると、敵のゴーストが一定時間だけイジケ状態になり、その間は逆にパックマンがゴーストに噛み付ける(パックマンはゴーストを「食べ」たりしないため、現在ではこのように記載されています)ようになるアイデアが盛り込まれていました。

ゴーストたちに捕まる寸前でパワークッキーを食べられたときは、ミスを回避できたという安心感とともに、ゴーストに噛みつけば1匹目は200点、2匹目以降は400点、800点、1600点の高得点が獲得できるチャンスも得られ、なおかつパワークッキーの効果持続中はサウンドの変化によりプレイヤーのテンションを大いに高めてくれます。
 
 

『パックマン』がいち早く導入した、パワークッキーによる逆転の発想は、調べてみると他のタイトルにも大きな影響を与えていることがわかります。

例えば、本作の翌年に発売された『ルート16』(サン電子/1981年)では、マイカーがチェッカーマーク(※チェッカーフラッグ型のアイテム)を取ると、敵の車が一定時間だけ得点アイテムのドルマークに変化し、これを取ると高得点が獲得できるという逆転システムが存在します。

またチェッカーマークを取ると、同じくBGMが一時的に変化する演出も盛り込まれています(※ちなみにパワーアップ中のBGMは、ビゼー作曲の『カルメン』が元ネタです)。

ほかにも、『スイマー』(テーカン/1982年)や、『ロックンロープ』(コナミ/1983年)、『ボンジャック』(テーカン/1984年)など、パワーアップアイテムを取ると一時的に立場が逆転し、主人公が敵を追い掛ける立場に変わるアイデアを取り入れた例が数多く存在します。ちなみに『スイマー』と『ロックンロープ』は、アイテムの名称がどちらも「パワーエサ」となっていました。『パックマン』の影響がいかに大きかったのかが伺えますね。
 
 

『パックマン』を開発した元ナムコの岩谷徹氏は、著書『パックマンのゲーム学入門』(エンターブレイン刊)や、筆者も取材・執筆を担当したゲーム産業史のオーラル・ヒストリー収集事業によるインタビューにおいて、パワークッキーのアイデアはアニメ『ポパイ』のホウレン草がヒントであり、ずっとゴーストに追い掛けられてばかりではストレスがたまってしまうので、そのストレスを解消するために入れたなどと証言しています。

もしご興味のある方は、こちらのリンクから岩谷氏のインタビュー( 一橋大学イノベーション研究センター リサーチ ライブラリ )をぜひご覧ください。
なお余談になりますが、ゲームの『ポパイ』(任天堂/1982年)にも、ホウレン草を取るとポパイが一定時間無敵になり、ブルートを倒した(突き飛ばした)ときのボーナス得点がよりアップするフィーチャーがありました。

様々なジャンルのゲームをおもしろくする、一発逆転システム

次に、いわゆる落ち物パズルゲームにおける一発逆転の例をご紹介します。

その嚆矢となるのが、『コラムス』(セガ/1989年)です。
本作は、同じ色の宝石をタテ、ヨコ、ナナメのいずれかに3個以上並べて消していくゲームで、宝石が画面の最上部を超えて積み上がるとゲームオーバーとなります。
ゲーム開始時はゆっくりと宝石が落ちてきますが、しばらく続けていると落下スピードがどんどん速くなり、少し迷っただけでもあっという間に積み上がってしまいます。

今にも積み上がりそうになったときに、まれに出現してプレイヤーにピンチを脱出するチャンスを与えてくれるのが、特殊な宝石であるその名も「魔宝石」です。
この魔宝石は、他の宝石上に着地させると、画面内にある同じ色の宝石がすべて消える効果を持っているので、実にありがたい存在です。
さらに、1色分の宝石がまるごと消えたことによって連鎖が発生しやすくなるので、画面内の宝石の大半が一瞬にして消え去り、ピンチを脱出したときの快感が味わえます。

ほかの落ち物パズルゲームにおいても、例えば『コズモギャング・ザ・パズル』(ナムコ/1992年)や『エメラルディア』(ナムコ/1993年)のように、積み上がった多くの敵やブロックを一掃できるスター(星)が時折出現し、プレイヤーにピンチ脱出のチャンスを提供するアイデアが盛り込まれているタイトルがいろいろと存在します。
 
 

アクション系のゲームだけでなく、RPGにおいても一発逆転のアイデアは存在します。
その代表例のひとつが、『ファイナルファンタジーVI』(スクウェア/1994年)です。
本作では、キャラクターが瀕死(※HPが少なくなり、苦しそうにしゃがみ込んだ状態)のときに「たたかう」コマンドを実行すると、16分の1の確率で各キャラ固有の強力な必殺技が発動するという隠し技がありました。

たとえプレイヤーが狙って出すことはできない、運に委ねられたシステムであっても、必殺技が発動して強敵に勝ったときには、助かったという安堵感とともに大きな快感が得られます。
 
 

最後に、プレイヤー同士で勝敗を競える対戦格闘ゲームにおいて、一発逆転システムを導入した例をご説明します。

まずは『龍虎の拳』(SNK/1992年)から。
本作では、キャラクターの体力が残り少なくなった状態で、なおかつ気合ゲージを一定以上ためてから特定のコマンドを入力すると、相手に大ダメージを与える超必殺技を繰り出せるようになっていました。

超必殺技を出すためには、諸条件を満たしたうえで複雑なコマンドを入力することが必要で、もしヒットする前にかわされたり、コマンド入力に失敗したときは反撃を受けるリスクが生じます。
だからこそ、うまく相手に超必殺技を当てて逆転勝ちを収めたときは本当にスカッとします。
同様の例は、同じくSNKが発売した『餓狼伝説2』(SNK/1992年)などでも見られます。
 
 

また、『サムライスピリッツ』(SNK/1993年)では、相手の攻撃を受けると「怒りゲージ」がたまり、ゲージが満タンになると攻撃力が大幅にアップするシステムを導入していました。
ゲージが満タンの間は、キャラクターによっては通常の大(強)攻撃の威力が必殺技をも上回ることがあり、本作独自の一発逆転が狙えるおもしろさを生み出していました。

ほかにも、対戦格闘ゲームには一発逆転、あるいは接戦を演出するいろいろなアイデアが盛り込まれていますが、くわしくはまた機会を改めて触れたいと思います。
 
 

以上、逆転の発想をテーマにした当コラムをお読みになったご感想はいかがでしたでしょうか?

我々日本人は、『水戸黄門』や『遠山の金さん』のような時代劇において、印籠や桜吹雪の入れ墨が登場した瞬間に悪党たちが一斉にひれ伏し、立場が一変するシーンを見てスカッとするのが大好きなように思います。
ですが、『パックマン』が世界的な人気を博したように、もしかしたら逆転の発想というのは、全人類にとって普遍的なおもしろさの一要素なのかもしれません。

なお、逆転の発想を盛り込むことでゲームがおもしろくなる仕組みについては、サイトウ・アキヒロ教授と筆者の共著、「ビジネスを変える『ゲームニクス』」(日経BP)の第2章、「原則3-B-⑥ 一発逆転のチャンスを設定する」と、「原則4-D-① 習熟度に応じて課題や障害を変える」のところでくわしく書かれていますので、ご興味がある方はぜひご一読ください。

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