「イチハラ指揮者の“カレー”なる日々」第3回 *WIZ1の音楽マジ最高ダーッ!*
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前回は『ウィザードリィ』(以下、『WIZ』)というゲームの概要と、音楽に羽田健太郎氏が起用されたことについて書きました。今回は音楽について記述したいと思います。
「イチハラ指揮者の“カレー”なる日々 第2回」については、こちらをご覧ください。
FC版『ウィザードリィ 狂王の試練場』(以下、『WIZ1』)のゲーム中BGMは、
・オープニング・テーマ
・城
・ギルガメッシュの酒場
・冒険者の宿
・ボルタック商店
・カント寺院
・町はずれ
・地下迷宮
・キャンプ
・戦闘
・全滅
・ワードナ
・任務完了
(曲順はサウンド・トラック(*01))
の全13曲が存在します。
それに加え、「レベルアップ(*02)」「カント寺院での治療(蘇生) (*03) 」「ブルーリボン入手 (*04) 」といったごく短い曲をBGMとカウントいたしますと、16曲。残りは効果音ということになります。
ただし、サウンド・トラックに収められている13曲以外の上記曲、そして効果音まで羽田氏が作ったのかは定かではありません。
恐らくこれまで情報が出ていないはずです。
JASRACのデータベースにも、13曲以外にそれらしき曲は登録されていませんので、羽田氏以外の方が作った可能性も残されています。
残されているというか、考えれば考えるほど、その可能性が高いように感じます(でも、「カント寺院での~」なんかは羽田さんっぽいなぁと思ってしまう説得力があるんですよね)。
特に効果音に関しては羽田氏ではないだろうと考えています。
もしかしたら、サウンドプログラムを担当された、故・大野木宣幸氏の作であったかもしれません。
どなたか当時のことをご存じの方がいらっしゃいましたら、情報をお寄せいただければ嬉しいです。
大野木氏が効果音を担当したかは定かではありませんが、『WIZ1』のサウンドは作曲の羽田氏、サウンドプログラムの大野木氏というお二人の合作であるということは言えると思います。
どちらが欠けても生まれ得なかったのではないでしょうか。
お二人ともまだまだという年齢でこの世を去ったことが残念でなりません。
個別の話をしましょう
まず(カセットを挿し、電源を入れても上手く映らないのでカセットをフーフー(*05)した後に再度)電源を投入すると同時に聞こえてくる「オープニング・テーマ」。
ファミコン3和音にも関わらず、一聴して重厚、荘厳、中世といった『ウィザードリィ』を構成する要素が頭の中を駆け巡ることでしょう(もっとも『初代WIZ』は重厚さよりも、映画「モンティ・パイソン」等のパロディ的要素が実は多く含まれており、硬派なファンタジーという世界観のイメージを決定づけたのは、末弥氏のイラストと羽田氏の音楽であったとも言われます)。
この時点でプレイヤーは『WIZ』の世界に深く引き込まれるわけです。
私が思う音楽の凄さの一つというのはまさにそこで、単なる音の羅列にすぎないはずのものなのに、聞き手の頭の中に、ある情景を浮かび上がってくる。
それができるのは優れた作曲家の証であると言えるでしょう。
『WIZ1』を実際にプレイして、BGMについて――豪華というか、不可解というか、凄いというか、おもしろいというか……――感じたことがあるのです。
ゲーム中で最も耳にするBGMは、ダンジョン探索中の「地下迷宮」で間違いないでしょう。それに「戦闘」「キャンプ」を加えた3曲で、クリアまでにBGMを耳にする時間のうちの7~8割を占めているのではとすら感じられます(あくまで体感上で、厳密に調査したわけではありませんが)。
ところが、曲一覧を眺めてみますと、それほど長時間は耳にしないであろう、地上の曲が非常に充実していることに気づきます。
上記一覧ですと、「城」から「町はずれ」までの6曲が地上の曲に該当します。
ゲームを成り立たせるうえで必要だと思われる曲を、
・オープニング・テーマ
・地上の曲(ここが論点です)
・地下迷宮
・キャンプ(これも「地下迷宮」のままでもいいのかもしれません)
・戦闘
・全滅
・ワードナ
・任務完了
の7曲と考えますと、地上の曲を例えば「城」1曲に集約することだってできたはずなのです。
仮にそうしたとしても、BGM不足だと思わることはなかったでしょう。
それなのに、どうして地上のBGMをこれだけ細分化して拘ったのか。
これは私にとって一つの大きな謎となりました。
だって、階層が進むたびにBGMを変化させたり、最下層だけ変えたり、中ボスを専用BGMにしたり、その方が今現在のゲーム音楽の考え方としては一般的でしょう。
それなのに、そこは一切変化させず、店毎に、場面毎にBGMを変えている。
地上のシーン間で同じBGMの使い回しはありません。
ここを減らせば6曲削減が可能なわけで、その分の容量をグラフィック等に回せた可能性もあります。
それを犠牲にし(たのかどうかはわかりませんが)て曲数を増やした。
不思議です。
せっかく羽田氏に依頼するのだから、多めに作ってもらおうということだったのでしょうか。
それならば、なぜその対象が地上の音楽だったのか。
もちろん、私としては珠玉の名曲が増えたという結果については大変喜ばしいことなのですが。
『WIZ』フリークの皆様、いかがでしょう。
この観点の話題は見たことがないように思います。
色々なご意見、考察などで盛り上がれば嬉しいです(当時のことを知る方の証言が出てくればそれが答えではありますが)。
やはり只者ではない発想力
『WIZ1』のBGMはどの曲もハズレなしの名曲揃いなのですが、中でも私が特に素晴らしいと思ったのは「キャンプ」で、その発想に驚いたのが「全滅」でした。
『WIZ』は想像力のゲームであるとも言われます。
根幹のグラフィックが殺風景である分、プレイヤーそれぞれの頭の中に、それぞれの『WIZ』の世界が存在します。
まさに十人十色の世界です。
みなさんがどのようなイメージを持たれているかはわかりませんが、「キャンプ」はごく小さなキャンプファイヤーのような印象を受けます。
暗くジメジメした迷宮内で小さな焚き火をつけ、その周りをパーティが円になって囲んで座っている。
それも、楽しい歓談ではなく、この迷宮から生きて帰りたいという意思。
それを心の中で神に祈る敬虔な時間のように思えるのです。
それでいて一時の休息の安らぎも感じさせる。すごい曲です。
『ウィザードリィ』を鳥の名前と勘違いした羽田氏(*06)が、「キャンプの曲」というリクエストで、よくぞこのような曲を書いてくれたものだと驚嘆するばかりです。
羽田氏に対してイメージを説明した誰かの存在があったのか、羽田氏が作曲のために無音の初代『WIZ』をプレイしたのか、そこはわかりませんが、羽田氏の偉大さを感じることができる1曲だと強く思います。
発想力の点では「全滅」に驚かされました。
RPGにおける全滅といえば、レクイエム(鎮魂歌)のような暗く沈み込む曲や、静謐な曲、絶望感を漂わせる曲が多い中、『WIZ1』の全滅は誇らしげですらあります(幸いにも私は全滅せずにクリアしましたので、実はゲームプレイ中には聴いていないんです。ふふん)。
この曲は、「迷宮に勇敢に挑み、そして無念にも散った戦士たちに対する敬礼」であると私は感じます。
狂王の試練場で散った勇者たちは讃えられる存在なのだと。例え探索開始直後、地下1階で即アンデッドコボルドに殴られて全滅したとしても、とても勇気ある者たちだったのだと。
「あなたは死にました。残念でした。悲しいですね」ではなく、「よく頑張りましたね」という曲なのです。
これはRPGにおける全滅という、自らの分身の死に対して送られる音楽としては画期的だったのではないでしょうか。
「全滅」というタイトルを先に見てから曲を聴いたので、そのときの驚きは忘れられません。
これも一体どういった経緯でこの曲調となったのか、興味は尽きません。
えー、長くなってしまいましたが、次回は「優れたゲーム音楽とは一体、何なのか」というテーマを取り上げたいと思います。
読めばわかるさ、ありがとーっ!