「ゲームニクス」で考えるゲームの魅力 第四回 「4ステージ構成」が生み出すおもしろさ
当コラムでは、「ゲームニクス理論」をもとに、なぜゲームがおもしろくなるのか、どうしてプレイヤーはゲームに夢中になってしまうのかを、おもしろおかしくご紹介していきます。
第4回目は、「1構成単位を4ステージ」にすることで、ゲームがおもしろくなるという例をご紹介していきます。文章(ストーリー)を書くときには、「起承転結」の構成にするとおもしろくなると言われているのと同様に、とりわけアクションゲームにおいては「1構成単位を4ステージ」にした結果、おもしろさがより増した例が古くから見受けられます。
「ゲームニクス」とは?
現亜細亜大学教授のサイトウ・アキヒロ先生提唱による、プレイヤーが思わずゲームに夢中になる仕組みを理論・体型化したもの。
本稿では、「ゲームニクス理論」を参考に、ありとあらゆるゲームのオモシロネタをご紹介していきます。「理論」というおカタイ言葉とは正反対に、中身はとってもユルユルですので、仕事や勉強の休憩時間や車内での暇つぶしなど、ちょっとした息抜きにぜひご一読を!
4ステージ単位のゲームを展開が生み出すリズム、テンポ、おもしろさ
4ステージを「1ワールド」という構成単位にしたゲームのなかでも特に有名なのは、おそらく『スーパーマリオブラザーズ』(任天堂/1985年)でしょう。
本作は全8ワールド(32ステージ)で、各ワールドの1面は地上、2面は地下や海、3面は空が舞台になることが多く、そして4面は必ず大魔王クッパとの対決(※正確には、ワールド1~7はニセモノのクッパ)という構成になっていました。
その結果、プレイヤーはゲームに慣れるにしたがって、例えば3面到達時には、「次の面はクッパが出てくるから、絶対にファイアマリオの状態でクリアするぞ」などと自然と戦略を考えるようになります。
また、クッパを倒すとプレイヤーを祝福するジングルが流れるので、さらなる快感、達成感をもたらしてくれます。
ちなみに、『スーパーマリオブラザーズ』以前の作品では、同じく任天堂のアーケードゲーム、『ドンキーコング』(任天堂/1981年)と『ドンキーコングジュニア』(任天堂/1982年)が「1構成単位を4ステージ」になっていて、4面をクリアすると前者はレディ、後者はドンキーコングを救出するハッピーエンドのシーンを見ることができました。
任天堂のタイトル以外で、「1構成単位を4ステージ」にするおもしろさを見事に作り出したした代表的な作品として、真っ先に挙げられるのはアーケードゲームの『パックランド』(ナムコ/1984年)でしょう。本作では、1構成単位を「トリップ」と呼び、各トリップの最終ステージ、すなわち4面ごとに進行方向が左右逆になるのも大きな特徴です。
単に4ステージごとに区切っただけでなく、そこに明確なストーリーが存在するのも本作の素晴らしいところです。
本作には、主人公のパックマンが迷い子の妖精をフェアリーの国に連れて行くというストーリーがあり、各トリップの3面をクリアするとフェアリーの国に到着し、パックマンの帽子の中に隠れていた妖精が現れて喜ぶとともに、無事送り届けたことを祝福するジングルが流れます。
さらに3面をクリアすると、4面でのみ使用できる、パックマンが連続ジャンプで空を飛べるようになる魔法の靴がプレゼントされるので、ゲームのおもしろさをさらに引き立ててくれます。
また、1面のスタート地点と4面のゴール地点はパックマンの自宅になっているので、1トリップをクリアすると、「パックマンは、妖精を無事に送り届けて帰宅できましたとさ……」とストーリーがめでたく完結となり、プレイヤーの達成感を大いに高めてくれます。
4ステージ目の工夫から見たゲームの素晴らしさ
『スーパーマリオ』では4面ごとに強敵クッパが出現し、『パックランド』では進行方向が逆になり、操作方法が少し変わることによって、おもしろさと同時に難しさも増すようになっていました。ですが、逆に4面ごとに難易度を下げ、「1構成単位を4ステージ」としたタイトルも存在します。
そのタイトルとは、シューティングゲームの『1942』(カプコン/1984年)です。
本作では、4面ごとに「% AND POINT UP STAGE」と表示され、時折出現する大型機以外の敵機が弾を撃たなくなるため、より得点が稼ぎやすくなります。なお、「%」とは撃墜率のことで、ステージクリア時にパーセンテージに応じたボーナス得点が加算される仕組みになっています。
このアイデアによって、プレイヤーは4面に到達するとほっとひと息付けるとともに、「よし、得点を稼いでエクステンド(1UP)を狙うぞ!」などと新たなモチベーションを得られる効果があります。
ちなみに、本作は第二次世界大戦の激戦地が舞台となっており、4ステージごとに戦地が変わります。
最初の1~4面はミッドウェイ、最後の29~32面は沖縄上空で戦い、沖縄の背景には首里城をイメージしたと思われる城郭や城の絵が描かれています(※舞台となる地名は、各ステージの開始時に表示されます)。
また、本作にはサウンドにもおもしろい工夫があり、「% AND POINT UP STAGE」でミスをすると、リスタート時に流れるジングルが通常とは異なる、いかにも危機感を煽るようなものになっています。「こんなところでミスをしているようではダメだ!」という、まるで自軍の指揮官、あるいは開発者から叱咤激励の声が聞こえてくるかのような演出も、これまた秀逸でした。
ほかにも、4面ごとにルールが少し変わることによって、おもしろさが増した特筆すべきタイトルとしては『メトロクロス』(ナムコ/1985年)があります。
本作は、制限時間内にゴール地点に到達するとステージクリアとなるルールで、さらに1~3面クリア時に余った時間の合計が、4面の制限時間にプラスされる仕組みになっています。このシステムを導入したことによって、例えば3面クリア時に、「よし、今回はトータルで5秒の貯金ができたぞ。前回は4秒だったから上達してきたな」と、残りタイムを基準にしてプレイヤーが自身の実力を把握することが可能となります。
もし、途中でゲームオーバーになってしまった場合にも、「2面が制限時間ギリギリでのクリアだったから、次回は2面をもっと速くクリアできるパターンを作らなくちゃ」などというように、プレイヤーが残りタイムの重要性を自然と学習し、攻略法を考えるようになるアイデアは本当に素晴らしいと思います。
以上、「4ステージ構成」をテーマにした当コラムをお読みになったご感想はいかがでしたでしょうか?
シンプルなルールのアクションゲームであっても、プレイヤーが夢中になって繰り返し遊んでしまう秘密のひとつが、「1構成単位を4ステージ」であったことが、きっとおわかりいただけたのではないかと思います。
なお、1構成単位を4ステージにすることでゲームがおもしろくなる仕組みは、サイトウ・アキヒロ教授と筆者の共著、「ビジネスを変える『ゲームニクス』」(日経BP)の第2章、「原則3-BD-⑧ 4ステージを基本構成にする」のところでくわしく書かれていますので、ご興味がある方はぜひご一読ください。