「ゲームニクス」で考えるゲームの魅力 第十九回 対戦プレイ

  • 記事タイトル
    「ゲームニクス」で考えるゲームの魅力 第十九回 対戦プレイ
  • 公開日
    2021年11月26日
  • 記事番号
    6560
  • ライター
    鴫原盛之

当コラムでは、「ゲームニクス理論」をもとに、なぜゲームがおもしろくなるのか、どうしてプレイヤーはゲームに夢中になってしまうのかを、おもしろおかしくご紹介していきます。

今回のテーマは「対戦プレイ」です。

主に対戦格闘やスポーツゲームでは、CPU戦の場合は攻略パターンが毎回同じになってしまうことが往々にしてありますが、プレイヤー同士で「対戦プレイ」をすれば相手によってまったく異なる無限の攻略パターン、あるいは駆け引きが楽しめるようになり、ゲームがますますおもしろくなります。

また、ファミコン版などで発売された『ボンバーマン』(ハドソン/1986年)は、元々は1人プレイ専用のアクションゲームでしたが、後に登場したPCエンジン版の『ボンバーマン』(ハドソン/1990年)では、最大5人まで「対戦プレイ」ができるようにしたことで人気が文字どおり爆発しました。ゲームボーイ版の『テトリス』(任天堂/1989年)も、通信ケーブルを介して「対戦プレイ」も遊べるようにしたことが大ヒットにつながったのは明らかでしょう。

そもそも、商業用(アーケード)ゲームとして世界で初めて成功を収めた『PONG(ポン)』(Atari/1972年)も、2人でパドルを操作してボールを打ち合うゲームでした。ですから「対戦プレイ」は、今も昔も普遍的な需要が存在する、ビデオゲームの一要素であるように思われます。

以下、「対戦プレイ」を導入したタイトルでは、よりゲームをおもしろくするためにどんなアイデアや工夫をしていたのか、いろいろとご紹介していきましょう。どうぞ最後までご一読ください!

ビデオゲーム史上初のヒット作『PONG』も、2人で「対戦プレイ」で遊ぶことを前提に開発されたタイトルでした(※2019年「遊ぶ!ゲーム展」会場で撮影)

「ゲームニクス」とは?

現亜細亜大学教授のサイトウ・アキヒロ先生提唱による、プレイヤーが思わずゲームに夢中になる仕組みを理論・体型化したもの。
本稿では、「ゲームニクス理論」を参考に、ありとあらゆるゲームのオモシロネタをご紹介していきます。「理論」というおカタイ言葉とは正反対に、中身はとってもユルユルですので、仕事や勉強の休憩時間や車内での暇つぶしなど、ちょっとした息抜きにぜひご一読を!
  

「対戦プレイ」を盛り上げる、数々のこだわりのアイデア

たとえCPU戦は慣れていても、「対戦プレイ」で強くなるためには、対人戦で勝つための練習を繰り返すことが必要不可欠です。なので、「対戦プレイ」を初めたばかりのプレイヤーは、対戦慣れした相手にはなかなか勝たせてもらえません。実力差があるうちは仕方がないとはいえ、毎回負けてばかりではプレイヤーのストレスがどうしてもたまってしまいます。

そこで、プレイヤー同士でハンディキャップをつけられるようにして、「対戦プレイ」の初心者でも遊びやすくするアイデアを取り入れたタイトルが古くから多く見られます。

以下の写真は、メガドライブ版の「ぷよぷよ」(セガ/1992年)です。本作では、対戦モード開始時に「激甘」から「激辛」までの全5段階でハンディキャップを設定可能で、「激辛」を選んだプレイヤー側のフィールドには大量の「おじゃまぷよ」が積まれた状態からスタートします。
  

かつて、全国各地のゲームセンターで大人気を博し、世に対戦格闘ゲームブームを巻き起こした、『ストII』こと『ストリートファイターII』(カプコン/1991年)も、スーパーファミコンをはじめ家庭用に移植された際は、ハンディキャップを自由に設定して遊べるVSモードを新たに追加していました。

以下の写真は、PS2版『カプコン クラシックス コレクション』(カプコン/2006年)の『ストリートファイターII』です。本作では、全8段階のハンディキャップが設定できるほか、キャラクター別の勝敗やKO率を集計する機能なども付いています。同じく、アーケードから移植されたプレイステーション版の『鉄拳3』(ナムコ/1998年)も、対戦モードでは体力を増減させることでハンディキャップがつけられるようになっています。
  

時代が進み、バッテリーバックアップやメモリーカード、あるいはネットワークサーバーを介してプレイデータが保存できるタイトルが増えるにつれて、「対戦プレイ」の実績に応じた段位や称号を用意して、プレイヤーの達成感をさらに高めるアイデアを取り入れたタイトルが続々と登場するようになりました。

アーケードゲームに限れば、その嚆矢は業界初となる全国オンラインリアルタイム対戦を実現した、麻雀ゲームの『麻雀格闘倶楽部』(コナミ/2002年)だったように思います。

本作は、別売りの専用IDカードを使用するとプレイデータが自動で記録され、全国のどこのゲームセンターでも継続して遊べるようになっています。初回プレイ時は10級からスタートし、良い成績を収めるごとに級が上がり、1級で規定の条件満たすと初段に昇段します。初段以降は八段までの段位があり、八段で昇格条件を満たすと「四神マスター」と呼ばれる特殊な称号に変わり、さらに「四神マスター」で3連勝すると「黄龍(こうりゅう)」に昇格できるようになっていました。

また『バーチャファイター4』(セガ/2001年)では、別売りの専用IDカードを使用してプレイするとプレイデータが記録されるようになり、プレイ内容に応じて段位が変動するようになっていました。さらに有料の携帯電話用サイト『VF.NET』に加入すると、段位以外にも連勝記録やキャラクターのカスタマイズアイテムなど、各種データの閲覧および設定がゲーセンに行かなくてもできるようになりました。
  

「対戦プレイ」をおもしろくするアイデアとして、筆者がとりわけ衝撃を受けたのがナムコのアーケード用レースゲーム『ファイナルラップ』(ナムコ/1987年)です。

本作には、2位以下を走る車の最高速度が、なんと1位の車よりも自動で速くなるという、その名も「ラバーバンド」と呼ばれる驚愕のシステムが導入されていました。このシステムのおかげで、初心者でもレースの終盤まで上手なプレイヤーとほぼ互角に勝負することができる、実に画期的なアイデアでした。

当時を知るプレイヤー間以外では、現在に至るまであまり大きな話題になることはなかった感がありますが、「ラバーバンド」はゲームの歴史に残る、世紀の大発明であったように思います。

バンダイナムコエンターテインメントの公式サイト「バンダイナムコ知新」によると、「ラバーバンド」の発明者は本作の企画を担当した岡本進一郎氏。上記サイトのインタビューにおいて、岡本氏は「慣れている人はちゃんとプレイできちゃうんですけど、たまにやったことない人に遊ばせると、全然相手にならない。『こりゃあ、何とかせないかん』と導入しました」と証言しています。

このアイデアは、以後本作の続編をはじめ、『エースドライバー』(ナムコ/1994年)、『レースオン』(ナムコ/1998年)など、多くのタイトルに継承されていたと記憶しております。

ちなみに、現在の人気タイトル『グランツーリスモSPORT』(SIE/2017年)にも、下位を走るプレイヤーの車のスピードがアップする「ブースト」と呼ばれるシステムが存在します。このような最後の最後までレースを白熱させるアイデアは、今から30年以上も前に誕生していたことには改めて驚かされますね。
  

「乱入対戦台」の発明を機に、新たなアイデアが次々と誕生

「対戦プレイ」のあれこれを語るうえで忘れるわけにはいかないのが、90年代のゲームセンターで一世を風靡した、主に対戦格闘ゲームに使用された「乱入対戦台」です。

「乱入対戦台」とは、2台の筐体を背中合わせに並べ、プレイヤー同士が筐体を挟んで向かい合う形で、「対戦プレイ」ができるゲームを稼働させた筐体のことです。『ストII』シリーズをはじめとする対戦格闘ゲームの爆発的なヒットを機に、「乱入対戦台」は全国各地のゲーセンで定番のオペレーションとなりました。

このオペレーションを最初に発明したのは、実はゲームの開発者ではなく、ゲームセンターのスタッフでした。見ず知らずのプレイヤー同士でも、「乱入していいですか?」などといちいち声を掛けてなくても気軽に「対戦プレイ」ができる、まさに革命的なアイデアでした。

やがて「乱入対戦台」が普及するにつれて、ゲームメーカー側でもこのオペレーションで動かすことを前提とした、「対戦プレイ」を盛り上げるためのさまざまな工夫を凝らすようになりました。

例えば、『ストII』シリーズの第2弾にあたる『ストリートファイターII’(ダッシュ)』(カプコン/1992年)では、2プレイヤー側が空いているときは画面上部に「求む!対戦プレイ」と表示される、前作にはなかった演出が追加されました。

また、誰かが乱入すると画面に「Here Comes A New Challenger!(挑戦者現る)」などと表示される演出が本シリーズをはじめ、『バーチャファイター』(セガ/1993年)シリーズなど多くの対戦格闘ゲームに導入されました。

CPU戦をプレイ中に、誰かが乱入したことを示すメッセージが表示されてCPU戦が打ち切られると「お、誰か来たな。さあ、かかって来いや!」などとテンションが一気に高まることは、当時ゲーセンに通っていた皆さんであればよ~くご存じのことでしょう。
  

上記の『バーチャファイター』の写真のように、「対戦プレイ」で勝ち残ったプレイヤーを「チャンピオン」と表示して祝福したり、連勝中のプレイヤーの連勝記録を表示する演出も古くからよく見られます。さらに『バーチャファイター2』(セガ/1994年)では、連勝中のプレイヤーがCPU戦に移行すると、画面に「連勝記録を止めろ!」などと表示するアイデアが追加されました。

このような演出は、連勝記録を達成したプレイヤーに極上の達成感を提供するのはもちろん、挑戦する側のプレイヤーにとっても「おっ、強いヤツがいるな。ヨシ、俺が記録を止めてやる!」などとテンションが高まり、ゲームにますます夢中にさせてしまう、非常に良いアイデアであったように思います。

ほかにも、『鉄拳』(ナムコ/1994年)では「対戦プレイ」で連勝すると、『パックマン』(ナムコ/1980年)のステージ数表示をほうふつとさせる、メロンやアップルなどのフルーツが画面下部に表示されるおもしろいアイデアを導入していました。さらに『鉄拳3』(ナムコ/1997年)では、同じ技ばかりを繰り返したり、消極的なプレイで勝ったプレイヤーの勝利を示すマークが、なんとニワトリ(チキン)になってしまうという、実に心憎い(?)アイデアを取り入れていました。
  

プレイヤー同士の実力が拮抗して、勝負がもつれにもつれた場合はサドンデス方式を導入して、プレイヤーを楽しませる演出を導入したタイトルもいろいろあります。

例えば、前述の『バーチャファイター』や『バーチャファイター2』では、最終戦がドロー(引き分け)だった場合はサドンデスマッチに移行します。サドンデスマッチで使用するリングは通常ステージよりも非常に狭いので、1発の攻撃がヒットしただけで即リングアウトすることもしばしばあります。つまり、リングを変えて決着が短時間でつきやすくすることで、最終戦をよりスリリングにしているわけですね。

また、サッカーゲームの『バーチャストライカー』(セガ/1994年)では、延長戦に突入すると先にゴールを決めたプレイヤーが即勝者となるVゴール方式を採用し、プレイヤーの緊張感を高める演出を用意していました。当時はアーケード、家庭用を問わず、本作以外にもJリーグブームの影響を受けてVゴール方式を採用したサッカーゲームが非常に多かったように思います。
  

最近のタイトルで、このようなサドンデス方式を導入したタイトルの中でも特に有名なのは、『大乱闘スマッシュブラザーズSPECIAL』(任天堂/2018年)などの『スマブラ』シリーズでしょう。

本シリーズでは、2人以上のプレイヤーが同ポイントで1位タイになったときは、全員が蓄積ダメージ300%の状態で始まり、なおかつ時間の経過とともにフィールドが少しずつ狭まるサドンデス専用のステージでの戦いとなるため、やはり短時間で勝負がつきます。
  

意外なところに隠された「対戦プレイ」を盛り上げる演出

ここからは、筆者が思い付いた限りではありますが、ちょっと変わった「対戦プレイ」を盛り上げるアイデアをご紹介します。

かつて、ナムコが発売していたビデオゲーム筐体の『サイバーリード』(ナムコ/1997年)には、上部に文字やドット絵を表示できるLED表示ユニットが搭載されていました。

例えば、『鉄拳3』をこの筐体で稼働させると、LEDには選択したキャラクターの名前や、使用した技の名前などが表示される演出が楽しめます。さらに続編の『鉄拳タッグトーナメント』(ナムコ/1999年)を使用した場合、味方の体力が減ってピンチになると「休ませて!」などとLEDに表示され、パートナーに交代を促すおもしろいアイデアも導入されていました。

・参考リンク:『サイバーリードII』(バンダイナムコアミューズメントのホームページ)

同じく、汎用ビデオゲーム筐体にLED表示ユニットを取り付け、ゲームの内容に応じて表示を変える演出は、セガの『バーサスシティ』(セガ/1994年)にも導入されていました。『バーサスシティ』とは、通常のビデオゲーム筐体2台を背中合わせの向き、つまり「乱入対戦台」と同じ形で1台に合体させた、文字どおり「対戦プレイ」用に開発された筐体です。

こちらの筐体は1P、2P側それぞれに2ケタの7セグLEDがあり、『バーチャストライカー』稼働時はゴールが決まると「GOAL」の文字を流したり、『バーチャファイター2』では技がヒットするとダメージ量が数字(16進数)で表示されるなどの演出があり、「対戦プレイ」を盛り上げに一役買っていました。

また、「WINNER」と書かれた上部の看板部分にはランプが仕込まれていて、勝ったプレイヤー側のランプが点灯、あるいは点滅する演出も(対応タイトルを稼働した場合は)用意されていました。

・参考リンク:哲信クリエイトのホームページ(『バーサスシティ』の商品情報)

最後に、開発スタッフが「対戦プレイ」を推奨したタイトルから番外編をひとつご紹介します。

以下の写真はご存じ、懐かしのアクションゲーム『マリオブラザーズ』(任天堂/1983年)です。「エッ? 『マリオブラザーズ』って対戦ゲームなの?」と思った人も少なくないことでしょう。ところが当時のインストカードには、なんと「協力し合うか、それとも…裏切るか…」と書かれているのです。事実、本作の「対戦プレイ」はとてもおもしろく、とりわけ100円玉の消費額を気にせずに遊べるファミコン版で、「対戦プレイ」の熱さに気付いたかたも少なくないことでしょう。

同じく、2人同時プレイができるファミコン用アクションゲームの『アイスクライマー』(任天堂/1984年)も、「2-PLAYER GAMEでは、仲良く協力しあってプレイする方法と、邪魔をしたり意地悪をしたりしてプレイする方法があります」と説明書に明記されているのです。

ともすればプレイヤー同士のケンカの原因にもなりかねない「対戦プレイ」を、これらのタイトルの開発スタッフが推奨していたとは、またも驚きですね!
  

以上、「対戦プレイ」に関連した演出やアイデアの数々をご紹介しましたが、どんなご感想をお持ちになったでしょうか? ほかにも、「対戦プレイ」を楽しくするアイデアはまだまだたくさんありますので、また機会があればぜひご紹介したいですね。

昨今は『フォートナイト』(Epic Games/2018年)などのように、100人以上で同時に「対戦プレイ」ができるサバイバル系のゲームが、とりわけ若いプレイヤー間で人気を集めているように思います。これらのタイトルは、eスポーツにもよく使用されている感がありますので、今後はさらなる競技性の向上、あるいはeスポーツの観戦者をも夢中にさせる、新たな「ゲームニクス理論」の確立が必要となるかもしれませんね。

なお、「ゲームニクス理論」における「対戦プレイ」に関するくわしい解説は、筆者とサイトウ・アキヒロ先生の共著「ビジネスを変える『ゲームニクス』」の「原則3-D-⑫:協力・対戦プレイの導入」などのページに書いてありますので、ご興味のあるかたはぜひ御覧ください。

それでは、また次回!

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